第123話 ゾンネの過去

テスラ会長との会食がある俺達は一度解散し、現地である『ビーフテロ』というとんでもない名前の肉専門料理店になっている

リビングにいる父さんや母さんにそのことを話すと、凄い驚いている

ちなみに妹のシャルロットは寝てる。俺の部屋でな


『アカツキ、回復魔法師会との接点は凄いな』


『ティアのおかげじゃないか?』


『彼女も凄いな。エクシア…か』


『わかる?父さん』


『流石にわからないなぁ…』


苦笑いを浮かべ、ソファーにもたれ掛かる父さんの隣には母さんだ

あいかわらず小説読んでるけどもこっちにも耳を向けているようであり、口を開いた


『さっき近所の情報網を聞いたけどもウェイザーの街じゃティアちゃん信仰されてるんですって』


『なんとなく聞いたけどもどんな感じで聞いたの母さん』


『天使の声が本当に聞こえる称号を持つ女性って疫病から救われた患者が彼女を崇拝しているらしいわ』


父さんと顔を見合わせていると、テラ・トーヴァが溜息を漏らす


《俺って天使か》


まだ気にしているんだなこいつ

そこで幻界の森の話を父さんがしたのだが、入ったことがあると聞いた瞬間に俺は驚く

しかし直ぐに父さんは言い直したのだ


『10メートルほど入って直ぐに出たよ。あれは本当に同じ星にある森なのかわからなくなる』


『どういうこと?』


『今までの常識が一切通じないと直ぐにわかったんだ。怖くなって逃げたさ』


かなり酷い森みたいだな

なんで父さんが来る気になったか、聞けば俺は本当に馬鹿になってしまうだろう

気難しい顔を浮かべる父さんに話しかけるのが難しいなと思っていると、母さんは先ほどのティアの話を掘り返してきた


『そういえばあんたまだティアちゃんと仲良くなってないの?』


《ブフッ》


笑うな


『仲良いけど』


『そう言う意味じゃないわよ。キスはしたの?』


俺は焦った

この話、確かテラ・トーヴァは俺の父さんに話している

すると父さんの顔は一変し、不気味な笑みを浮かべたまま隣にいる母さんに顔を向けたんだ


『頬チューされたらしいぞ!』


『あらま!それは開戦の合図ね』


《兄弟の母親もたいがいだな》


言うな…わかってる

俺は逃げるようにして家を出る

そろそろ出ないと遅れそうだったからだ

いつも通り、冒険者の格好をしてドアを開けると、丁度目の前にティアがいたのだ


いきなり出てきた俺に少し驚き、後ろに下がる彼女に俺は声をかけてみた


『どうしたティア』


『一緒に行こうと思って』


《いいじゃねぇか兄弟、歩いてりゃ仲間とも合流できんだろ》


と、いう事で俺はティアと共に少し風の強い街中を歩く

呻き声橋という以前に問題になった場所を通って歩いていくと、前でリリディがティアマトの羽交い絞めにされて地面をタップしてるのが見えてきた


最近ここらに引っ越してきたリュウグウも一緒だ

彼女はしゃがみ込んでリリディを見ながら笑っているけど、きっと彼が何か余計な事を言ったんだろうとわかる


ギルハルドは主人がやられているのに、直ぐ横で地面でゴロゴロしているのが不思議だ

助けないのか…ご主人だぞ


『誰が目印熊だこらっ』


『ぎぶぶぶぶぶぶ!!!』


《どうしたんだ熊五郎》


ティアマトはテラ・トーヴァに言われ、リリディを解放してから立ち上がると『目立つからわかりやすかったです。熊は目印にもなる!』と言ってこうなったらしい


『今のはリリディのせいだな』


リュウグウは咳込むリリディに手を貸し、起き上がらせながら口を開く

まぁそれは彼が悪いな


『リリディ君、仲良いね』


『絆を深め合ってました』


ティアマトが『馬鹿いってねぇで行くぞ』とリリディの背中を叩く

こうして俺達はビーフテロという店の前に辿り着く

店の外には回復魔法師会の騎士が10名も警備しているのが凄い怖い

皆、前を通す人々を気にもせずに前だけを見ている光景に流石に近くを通る人たちは何事かと言わんばかりの顔を浮かべて歩いていく


グリンピアで一番高い料理店、安い奴でも金貨が軽く消える、1人前でだ

王牛の肉が世界で一番高級だが、前にみんなで食べた王牛のステーキは安い部位だった

ここは本物である


ティア

『いつかいくの夢だった』


《よかったな》


アカツキ

『…通してくれるのかこれ』


リリディ

『行けばわかりますよ』


行けば…か

俺は一呼吸置くと、入り口に向かって歩き出す

途端に一斉に回復魔法師会騎士の顔が俺に向けられる

怖くて足を止めてしまった


だがティアがいるとわかると彼らは何事もなかったかのように顔を戻し、再び前を向いて警備に戻る


ホッと胸を撫でおろし、仲間と共に中に入ると店内に他の客はいない

当たり前だろうな、きっと貸し切りなんだ

白いテーブルクロスが貼ってあるテーブルは高級感があり、床に敷き詰められた赤い絨毯は歩くだけでフカフカしていて凄すぎる


貴族とかそんなお金持ちしか来ないような店構え過ぎる

奥のテーブルに座っているのはテスラ会長とウェイザーの街で出会った同じく魔法師会のアンジェラさんに回復魔法師長のモーラさんだ


アンジェラさんの顔色が強張っているのが凄い目立つ

会長と魔法師長に挟まれて座るというある意味拷問みたいにも見える


『お待ちしておりました、皆さん座ってください』


テスラ会長が笑顔で口を開き、俺達を手招く

あそこのテーブルだけデカい。全員が余裕でテーブルを囲んで席に座れるな

俺は緊張した面持ちで仲間と共に席に座り、深呼吸をしていると《しゃきっとしな兄弟》とテラ・トーヴァに言われて肩の力を抜く


『猛獣の中に放り込まれた子犬みたいな顔するなアカツキ』


リュウグウはそう言って溜息を漏らしていると、ティアが『リュウグウちゃん、乙女は猛獣じゃないよ』と言ってリュウグウはアッとした顔をし、体を小さくする


テスラ会長はそんなやりとりを微笑ましく思ったのだろうか、ウンウンと頷くと『では一番高いお肉でも食べましょう。リリディ君の横にいる猫さんは生肉ですかね?』と気さくに話しかけてくる


『ミャンミャー!ニャハンミャー!ミミ!』


リリディの座る席の横で座り込んでいたギルハルドは立ち上がると万歳し、意思をテスラ会長に伝えようとする

俺にはわからない、がしかしだ


『僕たちと同じのが良い、らしいです』


わかるんかい!


店員を呼び、注文をした後に運ばれてくるサイダーを前に俺達はテスラ会長の機嫌がどことなくいつもよりいいと感じた

その理由は彼女の口からわかったよ


『ウェイザーの件は本当にお見事です。天使の声を聞いて発生源を特定し、ましてや疫病を直すための方法まで直ぐに見つけるなんて』


『でも…』


ティアは何かを言いたげだが、きっと言えない

天使の声じゃないですって言いたいんだろうけど


『ウェイザーでは貴方の話で盛り上がってますね。回復魔法師会と共に動いていたのでこの教団の金の卵としても期待は高いですよ』


《してやられたなぁティアお嬢ちゃん》


確かにな


ティアは苦笑いを浮かべると、『先日の魔物騒動の件はありがとうございました』と頭を下げてお礼を告げた

俺達も便乗し、お礼をしたよ


あの時、テスラ会長はケアヒューマンという治療施設内で重傷の冒険者を回復魔法で癒してくれていたのだ

だからそこ死亡者はゼロ、彼女のおかげだ


いなければ数人は死んでいたとギルドの冒険者は口々に言っていたよ


『その件は忘れましょう、目の前に危ない人が入れば治すのが我々回復魔法師会です。ティアさんやアカツキさん達がという理由ではなく、そうしたいと思って避難せずに残っていただけのこと』


この件を口実に何かしてもらいたい、とか言うつもりではないようだ

今回は本当に会食だけのようであり。ウェイザーの件の感謝をこの場で言いたかった様だ


『良い匂いしてきたぜ』


ティアマトが厨房の方に顔を向けている

早く食べたいのはみんな同じだ

だがこの中でいまだに緊張しているアンジェラさんを見かねた魔法師長モーラさんは彼女の肩を小突いた


『いい加減に慣れなさい』


『ででで…ですが』


緊張している

モーラさんの話だと、ティアの話が聞いていた予想よりも遥かに凄かったらしく、粗相したら路頭に迷うかもと可笑しな不安を持っていた、だと


『そんな馬鹿なことしませんよ』


テスラ会長はアンジェラさんにそう告げ、サイダーを飲む

そこでティアは彼女に聞きたいことがある、と言うと

テスラ会長はにこやかに『知っている事ならなんでも』と言ってくれた


ティア

『マグナ国の初代国王ゾンネです。彼は授業では戦乱時代が生んだ人間としてどの国でも強く語られています。暴君すら怖じ気る暴君、街の図書館や授業で彼の事を知ろうとしても数々の身の毛がよだつ過去しか知ることは出来ない、そしてそれ以上を知るには各機関…いわば協会のトップにでもなるか王都のマグナ城の中のお偉いさんじゃないとまず不可能』


彼女は真剣な顔を浮かべ、ゾンネの事を聞こうとしていた

俺も気になるが、テスラ会長にそれを聞いて何があるのかと思った

しかし意味はあった


テスラ会長

『あれは悪魔を越えた悪魔です。授業では敵は見境無く国民もろとも滅ぼして他国に恐怖を与えた最強の王族と習うはず。…それ以上を聞く勇気はあるのですか?』


彼女が初めて冷たい目を向けた

背筋が凍る思いを何故感じたのか俺にはわからない

まだ何も話していないのにだ

しかし、俺達は聞かないといけない


全員が静かに頷くと、テスラ会長は深呼吸をしたのち、話し出した









理想国家コスタリカのトップとして君臨していた当時の王、ゾンネ・マグナート・リュ・エンデバー

彼は準貴族という貴族と平民のどっちつかずでもない生まれの女性を妻にし、1人の男の子を授かった


ゾンネの国は戦乱時代の最中、自ら国を滅ぼすような真似はせずに領土の防衛線を堅く張り、自ら先陣を切って他国を退ける働きをしていた。

国内は彼を英雄視した。誰も勝てないからだ

勝てなければこの国が落ちる事は早々ないと誰でもわかる事である


ゾンネはその頃からあまりにも強く、武神ゾンネと言われ、他国に恐れられていたことから無暗に他国から襲われることはあまりなかったようだ

国民の未来を守るため、自ら戦場の戦場で国を守る為に先頭で鼓舞する彼を見ていた殆どの騎士や将校達も平民と同じく彼を慕っていた


そして愛妻家であり、妻と子に十分すぎる程の幸せを積み重ねていたそうだ

息子の名はシュナイダー。しかしゾンネの奥さんである王妃の名だけはコスタリカ記念図書館地下1階の記録でも記述は載っていなかったそうな


戦乱の時代が激しくなってきたとき、理想国家コスタリカに悲劇が起きた

北のオルテンワーク国の侵攻を止める為にゾンネは王都から即座に飛び出し、防衛線の準備をしていた頃、タイミングが悪い事に東のカーズベルトが理想国家コスタリカの防衛網を突破し、周辺の街や村を滅茶苦茶にしていったそうだ


カーズベルトは制圧することなく、撤退した

ゾンネは北の防衛を信頼する当時の大将軍グンサイに指揮を任せ、西に休まず馬を走らせて向かった

辿り着いた時に彼は言葉を失ったそうだ


愛する国民が山のように積み上げられ、焼死しており、若い女は慰み者にされて裸のまま死んでいたり、手足を両断されたまま至る所で転がっていたそうだ

子供の頭が首を斬られた裸の女の首に縫い合わされた酷い死体もあったのだろうだ

それほどまでにその時代は他国の民という人間は心無い権力者にとっては脅しにもなれば玩具にもなる


そんな時代に彼は生まれた

初めての防衛網の突破が西のカーズベルトによって引き起こされた最悪な事件だったゾンネは点々と山のように積み上げられた死体を見て深い悲しみを覚えた


その後、北のオルテンワークとカーズベルトが手を組んでいたことが忍ばせた密偵によってゾンネの耳に入る

しかし。彼はその時には感情が死んでいた


何故こうも人は私利私欲の為に容易く同じ人間を殺め、弄ぶ?同じ赤い血が流れているのに、と彼は口にしたと記録に残っているとテスラ会長は言う


ゾンネが口にした言葉は他にもあった


本当に戦乱時代が終われば人は笑えるのか?

本当にこの戦いの後に未来があるのか?

同じことが起きないと誓えるのか?

もしまた地獄のような戦乱が起きたら、また全ての民はこの無駄な争いの中で命を落とすのか

人は何を感じて強い意志を持つのか

どうしたら他国は足元を見るようになるのか

この戦乱はいつまで続くのか




最悪な事件から2か月後、彼はとんでもない事を始めた

初めての侵略を北のオルテンワークに仕掛けたのだ

ゾンネの家臣達は驚きながらも彼に従った。それはやられたという大義名分があり、仕方がない事だと思っていたからだ

以前からゾンネの家臣や騎士達は守るだけでは被害が増えるだけだと強く懇願し、やり返すしかないと思っていたのである


ついに最高司令官が本腰を入れたと思い、国中は彼に声援を送り、戦争に向かう者は怒りを胸に北に進軍する

そこで彼らは悪魔を見ることになった


ゾンネ国王は笑いながら敵兵を殺して進み、辿り着いた街や村の民を焼き殺した

敵の捕虜などお構いなしにその場で自ら処刑し、徐々に制圧していくこと半年で彼はオルテンワークを滅ぼした


即座にゾンネは東の国であるカーズベルトにオルテンワークの王族全ての首を送り付け『王族全ての首を差し出さねば国を滅ぼす』と脅した

普通ならば数年かかる1国との決着を彼は半年で滅ぼすという所業に全ての国は驚いた

それは彼がそれほどまでに強く、誰も止められないからだ


同時にゾンネは全ての国、全ての街に張り紙を張らせた


戦乱が俺を生んだ。民は女子供構わず焼き殺し、獣の餌とする。

次の時代も生きたくばお前らの国の王やその血筋の者の首を差し出せ。

さもなくば地獄に逃げたくなるほどの地獄を見せよう


その問題は全領土を震撼させた

ゾンネは直ぐに東のカーズベルトを攻め、オルテンワークの時のように目に映る全ての民を皆殺しにし、1年近くかけて国を消した


その間、他の国が何もしないわけもなくゾンネの国を攻めようとするが、腐った無残な死体の山で作った塹壕を前に誰もが足がすくんだという

獣に食べられ、鳥がついばむ滅ぼされた国の跡地を進んでいくと伏兵にやられ、とてもじゃないが理想国家コスタリカに辿り着く前に兵が疲弊すると感じ、どの国も撤退を余儀なくされる


全ての国が暴君と化したゾンネに目が行くと、彼は他国を滅ぼすために何度も密偵に他国の街に張り紙を張らせた


次はヤドラド、王族の首を差し出せ。さすれば民は生きながらえる

ヤドラドの王であったトルトロス国王も武人ではあったが。彼は自らの首を差し出すことはなかった

防衛線を作り、ゾンネ率いるコスタリカ軍の侵攻を止めようと必死になったが

彼は最前線に出てきたオルトロス国王を一瞬で斬り殺し、首を刎ねた


それによって最高司令官を失ったヤドラド国はオルトロス国王の息子であるインクリットを国王が君臨した

しかしインクリット国王はゾンネの所業に怯え、国を捨てて亡命した

王族が空になったヤドラドをゾンネは綺麗に制圧し、その国の民に言ったらしい


『王族は時代から消えた。お前らはこれから俺の新しい国の民として不自由なく生きるが良い』


ヤドラドの終わりが他の国にも伝わり始めたころ。ゾンネはあろうことか大事な家族である妻と子を地下牢に閉じ込めた

ゾンネの家臣や騎士そして大将軍グンサイも彼のする悪魔以上の所業を止めようとするが。彼は一切聞かなかったのだ


逆らう者はお前らの家族の首を斬って獣の餌にする

そう脅し、恐怖で国内だけじゃなく、大陸全土を恐怖のどん底に陥れた

いつ自分たちの国が狙われ、殺されるのかという近くの国の民の不安が高まっていく

ゾンネは西のハイデルン小国を狙った


しかし狙われたと知ったその国は突如として大規模な内乱が起き、王都は王を裏切った家臣や民の手によって陥落し、王族全ての首を刎ねてゾンネに送ったそうだ

するとゾンネは『我が国の一部となるならば寵愛を与える』という言葉を送ると、ハイデルン国民すべてが彼に跪いて頭を垂れた

それによってハイデルン王国の民は誰一人殺されることなく理想国家コスタリカの領土となる


ゾンネが暴君となってから5年が経過すると彼は1つの国を半年かけて滅ぼす

誰もがゾンネを恐れ、誰もが生きたいと強く願った


暴君としてゾンネが時代を駆けていた時、彼はとある言葉を大陸全土に浸透させた


『戦乱が生んだ暴君、恐怖の根幹である我は戦争が終わるまで戦いを止めぬ。正義など意味はない…お前らが生んだ俺に殺されるのを待つしかない。戦争とは楽しいものだ、俺がいなくともきっと別の者がそうなっていた、そうなるしかないのだ。戦争は楽しいだろう?これが戦争だ、私の思想など理解されたくもない』


彼は20年を費やし、このフューリー大陸に存在する国14か国を5か国にまで縮小させた

悪魔的な戦争をしている最中、他国も彼に対抗するために勢力を伸ばし、領土を広げていっていた


しかし、ゾンネはもう少しという所で歩みを止めた

ゾンネは侵略を止め、理想国家コスタリカという名を変えてマグナ国とした

理想国家コスタリカの歴史は長い。しかし彼はマグナ国と作り、初代国王と名乗ってから1年後



彼は急死した

その吉報は大陸全土に知れ渡り、生きる人間全てが解放された日『悪魔の道』の終わりだと喜ぶ

ゾンネの死後、継いだのはシュナイダー

彼は父とは違い、国の再建に全力を尽くした

他国とも終戦を取り決め、同じような地獄が起きないためにも戦争を失くすように他国と会談をし。流れるように大陸全土は回復していく


残った国は戦乱の地獄を見ており、戦争という過酷な状況下で人は悪魔にも慣れるという事に真の意味で気づき、その戦乱は約20年で終わりを告げた




アカツキ

『…優しい王が悪魔になれるのか』


テスラ会長

『エド国もドルトランダーもゾンネを授業で教わる時は暴君時代の事しか習う事はありません。それは不思議でならないですけどね』


ティア

『あまりにも非道過ぎるからですね』


テスラ会長

『そうです。今の私の説明でもどういった滅ぼし方か、そういう殺し方をしたかもかなり省いてます。王族を縄で縛り上げ、生きたまま食虫植物種の魔物に食わせたりもしたらしいですよ』


リュウグウ

『チンギスもびっくりだぞ…』


なんだそれ?チンギス?


アカツキ

『フューリー大陸全てじゃゾンネを教わる時は一緒、か』


テスラ会長

『そうです。しかし教師によって言葉を変える事もあります』


俺達は首を傾げた

教わる内容は同じなのに、何を変えるのかがわからない

リリディはそれに対して質問をすると、テスラ会長は答えたんだ


『彼がいたから100年は確実に続くと言われた戦乱が20年で終わった。だからこそその後に生まれた新しい命は新しい平和を歌う時代を生きれたという人もいれば。戦争をすれば人の心の奥に潜む悪しき者がこのような地獄を呼ぶ、最悪な国王だ』といった二極化されているのです



ゾンネの存在が未来を作ったという者とゾンネが最悪を作り上げた元凶だという授業で教える内容通りの感想を述べる教師がいるという事だろうな


でも気になるのはゾンネの妻の名前の記録が一切ない事だ

王族となれば墓もある筈なのに、王都コスタリカの王族墓地には彼女の墓はないらしい

完全に歴史から消されたという事に俺達はなんだか釈然としない


『シュナイダー国王は父であるゾンゲの影響を逆に受け、正義の為に動いたことにより英雄視されています。今までの償いをするために父の代わりに私が国の未来を創るという言葉を彼は残しております。』


ティア

『でもシュナイダー国王はお母さんと閉じ込められてたんだから仕方ないよ』


リュウグウ

『何故ゾンネは嫁と子を閉じ込めた?あいつの親はどうしたのだ』



その問いはテスラ会長の口を動かすには十分すぎた




『カーズベルトの侵攻により、近くの街にて講演を開いていたゾンネの父であるホルプと母であるイライザ皇太后は直ぐに防衛に向かいました。最後の最後まで民を逃がすために戦い続けて時間の稼ぎ、最後は首を刎ねられて死んでいます。ゾンネは親を失ったのです』


ゾンネのスイッチはいったいどこで入ったのか

俺達ならば考えずともわかる

どこでテラ・トーヴァと出会ったかがわかればな…

しかし彼は固く口を閉ざす


《教える気はねぇ。当時何が起きたかを話してもゾンネはそれを望まないからだ》


だろうと思ったよ

誰もが険しい顔を浮かべ、静まり返る

先ほどの話を初めて聞いたアンジェラさんは凄い剣幕をしたまま生唾を飲み込んだ


『それ、人なんですか?テスラ会長』


『人であった。そんな悪魔が生まれないように国同士は極力喧嘩をしないようにしております。誰があのような悪魔に変貌を遂げるかわからないですからね』


優しい心の中に悪魔が潜んでいたのか

武神ゾンネ、全盛期は今を生きる世界騎士イグニスにも勝る勢いの力を持つという馬鹿げた刺客に俺達は勝てるのかが怪しくなってきたぞ


『あの…』


ふと、声がかかる

近くで立派な服を着た店員がワゴンテーブルという、下にローターがついた料理を乗せて移動させるテーブルに王牛のステーキを乗せてやってきた

それが2台、勿論店員も2人だが


いつからいたのだろう…


『話は終わりです、では美味しいご飯をみんなで食べましょうね』


テスラ会長は急に笑顔になると一度手を叩き、店員さんに頷く

すると店員は素早く料理をテーブルの並べていき、綺麗に一礼すると奥に去っていった

良い匂い過ぎる料理にティアマトの口のよだれが決壊しそうだ…まだ耐えろ


それよりもリュウグウもヤバい

ステーキの匂いを近くで嗅いで目頭が熱くなっているようだ


『生きていてごめんなさい、今私は幸せだ』


リュウグウの囁くような言葉に疑問だが、まぁいいか

店員が再びやってくると、王牛のステーキの乗った皿を床でゴロゴロするギルハルドの前に置く

するとギルハルドは目を輝かせ、リリディの顔を見つめ始める


あれは俺でもわかる

きっとヨシの合図待ちだ


テスラ会長は『それでは皆さん、いただきましょう』と告げるとリリディはそこでギルハルドにヨシと言い放つ

ギルハルドも幸せのようだ。泣きながら食ってるよ…


『アカツキ君!凄い美味しいよ!食べてみて!』


ティアが横で急かしながら口をもぐもぐしている

王牛のステーキか…

分厚い肉厚だ、ミディアムで焼いてもらいましたとテスラ会長は言うけども、ミディアムってなぁに?


それをティアマトに聞くと『秒数で焼くんだろ?』とよくわからないことを答える

ティアが笑いながらも『焼き加減だよティアマト君、でも秒数はあながち間違いじゃないね』と言う


『うっしゃ!』


何故嬉しんだティアマト

ナイフとフォークを上手く使い、口に運んでみた

上手すぎて走馬灯が見せそうになり、我に返ると俺はひたすら肉を口に運んだ

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