第7話 ようこそイディオットへ

朝になると俺はティアマトとリリディに起こされた、時間は7時だが早過ぎる


『ったくお前ぇは1人で感情に身を任せて行きやがって』


『落ち着いてくださいティアマトさん、だってティアさんですよ』


眼鏡を触るリリディはそう告げるとティアマトは何故か納得を浮かべる


『そりゃ仕方ねぇ、だが話は聞いたけどよぉ・・・あの野郎やっぱ殴っておいた方が良かったじゃねぇか』


『かもな』


止める筈の俺は同意してしまう

俺の返事を聞いてリリディはフッと笑いを堪える、彼を見ると顔を反らされた。

心配してくれて来てくれたのは凄い嬉しいが彼らには今日は安静にしないといけないと話すとそれは当たり前だと答えてくる

一応俺達も上に上がる為のそれなりの支度は出来た、あとは慎重に作戦を立てて依頼に挑むだけ


そこでティアマトが案を出す


『やっぱ上に上がるには3人じゃ足りねぇか』


かもしれない、いやそうだろう

今後を考えると3人じゃ辛すぎる、先に行くには俺達だけじゃ限界は近い


理由としては戦う時に対応力がこの人数だと少ないからだが、それはスキルを強化したり増やせば道は広がる。

それでも1人増えるだけでも動きやすさは断然違う


他の同業者にもよく言われるよ

魔物は1体では都合良く現れないぞ?と

わかっているが相性が良い仲間はいない


それは今後の課題だとリリディは一先ず先延ばしにし、俺は朝食を食べるために刀を持ってギルドのロビーに向かうとこの時間に冒険者達は受付カウンター横に依頼板に群がって依頼書の争奪戦が始まっている


『それ俺のだ!』


『よっしゃゲットだ!』


『押すなって!潰れちゃうよ!』


『あぁぁぁぁ!』


1人の冒険者が冒険者の波に埋もれている。


安売りする商店街の奥様方の集団の様な状態がそこにはある。

たまに力負けした冒険者が沈んでいくのは見ていて苦笑いが浮かぶ。


俺達は巻き込まれないように遠回りして階段を登り、2階のテラスに向かうと今日もそこにはトンプソンさんが快晴の空を見上げながら屋台の中でのんびりしていた、それにしてもこの時間から屋台を始めている事に俺は初めて知った


『あらま昨夜の英雄アカツキ君じゃないかい、想い人を助けるために頑張ったそうじゃな!』


『なんで想い人なんですか!!』


『まぁ硬い事言うなよ』


ニコニコしながらトンプソンさんが俺達に向けてお握りを3っつ投げて来た

おちゃらけた言葉からのオニギリか…


『英雄賞のプレゼントじゃ、ワシ直伝焼きおにぎりぞい』


少し大きめだな焼きおにぎり、皆でトンプソンさんにお礼を言うと追加で昆布おにぎりを3つ購入して近くのテーブルで空を眺めながら朝食を食べ始める。


そこで彼らにも昨夜の出来事を俺の口から細かく伝えていると、ふと声をかけられた


『おいおいアカツキ怪我したのかー?』


街の冒険者数名がテラスに入ってくる

今の俺の姿は上半身裸でミイラのように包帯まみれだし驚いたのだろう


『昨日無理してしまって』


『若いねぇ、でも無理すんだよ?逃げるときゃ逃げる!俺達もそうだ、死んだら強くなれないっ!うむ!』


『あはは…ありがとうございます』


彼は話し合えると満足したのか、トンプソンさんの屋台でオニギリを沢山買い始める。

量の多さからだと昨日は稼いだのがわかる


俺と色んな種類のお握りを仲間と共に買うと近くのテーブルで食べ始めた。

ここを利用するのは俺達だけじゃない、色んな冒険者がくる


テーブルは5つほどしかないが埋まる時もたまにあるが見た事は無い


オニギリを食べながらだが

リリディの話では今日、D以上の魔物の討伐依頼は無いようだ。C以上も1週間に1体ぐらいしか俺達の街の近くの森には現れない

ある意味平和だ、田舎街で生まれてよかったよ


というか俺の街グリンピアには有名な冒険者チームは1組しかいない、Cランクの『エーデル・ハイド』という女性で構成された4人のチームだ


1週間に1度しかここに現れないが、いつみても綺麗な女性で高嶺の花のような人たち、そのオーラに話しかける冒険者も少ない


『おっ?お前の女だぜ』


『ティアマト何を馬鹿なこと・・を』


ティアマトがテラスの入り口に視線を向けているので顔を向けるとそこには少し寝癖をつけたティアがこちらにトコトコ歩いて来た。


何故かリリディは俺の隣を開けて椅子を用意すると自然と彼女がそこに座る


『ご飯食ったかティア』


その言葉を言うと同時に彼女のお腹が鳴る、グットタイミング

勿論ティアは恥ずかしそうに顔を赤くするので俺は立ち上がるとトンプソンさんの屋台で鮭お握りを1つ買ってから席に戻り、彼女に渡した


鮭はこいつが好きなのは知っている


『食いな』


『あ・・ありがとう』


パクパクと無言で食べるティア


『ヒュー…チッ』


リリディーが棒読みで煽る最後に舌打ちしやがったぞ?

横目で睨むと彼は咳払いをして目を逸らす。


ティアの話じゃ、寝付けなかった様だ、それがその寝癖か…


別に俺は今日、夕方まで退院できないから焦らなくても消えないし近所でも会える


『怪我大丈夫?アカツキ君』


『全然平気だよ、ティアは問題ないのか』


『私は平気、お兄ちゃんがあの後こっそりゼルディム君の家に笑顔で向かったのが怖いけど』


するとその言葉にティアマトが息を飲む


『あの人怒らせたら怖ぇだろ・・・』


あの人、俺達の学園の卒業生だし超ヤンキーだった番長だ、だからティアマトもシグレさんと会うと凄い体を強張らせてしまうようだ


今シグレさんはそんな雰囲気は無いが妹が危険になれば何でもする無鉄砲な人だ。


妹が上級生に執拗に言い寄られていると血相変えてボコボコにして停学とかあるらしいが俺は見た事が無いので実感がない。

ティア思いの良い兄貴にしか見えないけどなぁ


おにぎりを皆で食べ終わるとトンプソンさんが屋台内から頬杖をついておもむろに俺達に話しかけてくる


『シグレ君はヤンチャじゃけども今は丸くなったじゃろ、見た目だけは』


『見た目…』


今は昔と違うから大丈夫だろう

しかしこのタイミングで俺達は会いたくもない者達と対面する事となる


『…ティア、無事だったか、その…探したぞ』


テラスに入る入口からの嫌な声に一気に俺達3人の顔が変わる、ソード・ガーデンのご一行、声の正体はゼルディムだ。

いつもの堂々しさはない。それが救いか


一瞬で空気が変わったことが、ティアマトとリリディの顔色を見るだけで伝わるが


それを一番表に出しているのは俺だった


肝心の彼女はビクンと体を震わせて驚くとその声の方向へ顔を向けた。


『ゼルディム君…』


彼は少し気まずい顔を彼女に向けていたが僅かに足が震えている

もしや昨夜はシグレさんに…何されたの?


『昨日はすまなかった、皆が全滅しないように逃げたつもりが気づけば君がいなかったんだ』


彼に顔を向ける、憎たらしい顔だが珍しく反省しているような面持ちに俺は少しだけ怒りが緩和されるがまだ足りない


『なんで黙ってた?』


俺は疑問が口に出た、ゼルディムは少し口をごもらせると小さい声で答えたのだがそれは俺が求めた答えじゃなかったんだ


『それは・・・あの後助け『保身だろうが』』


俺は立ち上がって鞘を右手で握る

口が詰まるゼルディムだがこいつは嘘をついた、ティアが帰ってきたことにしてその後の出来事のように言っていたのはルーファスさんから聞いている、知らないとこいつは言っていたんだ

知っていたのにさ


解決しようとしていない行動にしか思えない、どうにかしようと思うならばすぐにでも冒険者ギルドに駆け込んで事情を説明してクローディアさんと共に森に向かう筈


だが予想としてはきっとティアはやられているだろうと思い込んで知らない振りを貫こうとしたんだ。

自分の責任になるのが嫌だからだ。


飽くまで予想だとしても、俺の気が晴れない




『だけども俺達は逃げるので精一杯だったんだぜ?』


ゼルディムではない彼の仲間がそう告げるとティアマトが鼻で笑ってから腕を組んで言い返す


『俺達のリーダーはお前等より弱くても1人で助けに行ったぜ?結果はいい方向に転んでくれたがそれよりも動くか動かないかの差は俺ぁ大きいと思うぜ?リーダーとしてよ』


『ぐ・・・』


ゼルディムの仲間達は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる


何故かトンプソンさんはニコニコしながら茶を飲んで傍観しているがピリピリした状況でもこの人はブレないな


ティアはこの空気に少しアワアワとしている様だが仕方がないんだ、こいつら反省していない

険しい顔をするゼルディムだが次の一言で俺は少し感情的になってしまった


『だが生きていたんだし問題ないじゃないか』


気づけば俺は刀を素早く抜いて彼に襲い掛かっていた

多分俺は酷い顔をしていたのだろう、結果さえよければどうでもいい


それがたまらなく憎かった、無事だったからこそ言える言葉に俺は憤怒した


『!?』


ゼルディムは顔を真っ青にして固まっているが俺がこんな行動をとるとは思っていなかったからだろうな

他の者も驚いており、テーブルに座る冒険者も俺を止めようと立ち上がるがもう遅い


『アカツキィ!!!』


『アカツキさん!!!』


ティアマトとリリディも焦った顔で動いてはいるがもう遅い

俺はゼルディムの向けて剣を振り落とす、無鉄砲な行動だった

俺は感情的な行動で我を忘れていた、きっと後悔する事になるがそうならなかった。



『やめなさい』


『!?』


両手で頭を守ろうとするゼルディムに刀が触れる瞬間、横からトンプソンさんが俺の腕を掴んで止めていたのである

屋台からここまであの一瞬で来たと言うのか?俺は我に返って今自分が何をしようとしていたかを理解し、トンプソンさんが手を離すと俺は刀を地面に落とす

彼の顔は今までに見た事もない真剣な顔、俺は手が震えている事に気付くとトンプソンさんが口を開く


『過去になる前にやめるのじゃ、過去になれば後悔してももう遅いのじゃぞ』


『すいません』


俺は静かに謝る

トンプソン爺さんは小さく頷くとゼルディムにその真剣な顔を向けた


『ゼルディム坊や』


『ひっ!』


ゼルディムは少し後ろに退いて覚えた顔を見せる

するとトンプソンさんは溜息を漏らして話し始めた


『お主はまだ背負い方を知らぬようじゃな、ランクCになるとそれが必要じゃ・・・無い者は仲間を死なす事になるぞい?もう一度意識を見直して出直しなさい』


トンプソンさんとゼルディムが話している最中、俺はティアマトに頭を叩かれてかなり怒られた


『馬鹿してんじゃねぇ!!終わりにしたいのかよ!!』


『気持ちはわかりますがやり過ぎですよアカツキさん』


『すまん』


『アカツキ君、駄目だよ』


『すまないなティア、落ち着いたよ』


俺は深く息を吸い込んで吐き出すとようやく冷静になれたとわかり、ゼルディムに口を開いた


『さっきは俺のやり過ぎだった、すまないゼルディム…しかしティアはお前らのチームには入れれない』


『ど・・どうするつもりだお前』


『俺のチームに入れる』


『くっ…勝手にしてくれ、ああわかったさ、俺のせいさ…わ…悪かったよ』


煮え切らない、しかし今のあいつには十分すぎると納得するしかない

彼らはそそくさとテラスを後にした


少し体が痛い事に気付いて体を見ると包帯から血が滲んでいる、傷口が開いた


『アカツキ、お前やり過ぎると冒険者資格剥奪の上に犯罪者になるから気をつけろ!気持ちはわかるがやり方を間違えんな…』


『すいませんでした、気をつけます』


『はぁ…お前の友達想いが沸点越えたか、お前らしいがな…』


テーブルに座る冒険者が心配して声をかけて来てくれたんだ、有難い

誰もが安堵を浮かべているが俺のせいでこうなったんだ、皆に謝ると最後にトンプソンさんにも謝ろうとするが彼は既に屋台の中に暢気にお茶を飲んでいた

何者なんだろうか、ただの爺さんじゃないのは体つきを見ればわかるけど…


一度座り直すとティアはなにやらモジモジし始めている

そしてリリディとティアマトも苦笑いしながら俺に話しかけて来た


『久しぶりにバカツキさんを見れましたね』


『懐かしいぜ、今回は流石に焦ったががむしゃらなお前も嫌いじゃねぇぞ』


『すまん2人共』


『それはそうとして新メンバーの紹介をしてくださいよアカツキさん』


リリディは口元に笑みを浮かべ、そう告げると視線だけをそのままティアに移した


『んだぜぇ?4人目なんだろ?』


ティアマトも否定すらしない、彼らは受け入れてくれるというのだろう


『あ・・・・』


俺達はティアに顔を向けると彼女は目を見開いて狼狽える

しかし直ぐに口元に笑みを浮かべるとようやく手に持ったお握りを素早く食べ終わって話してくれたんだ


『ティア・ヴァレンタインです、魔法使いの補助専門ですがお願いします』


『移籍祝いにワシの屋台特製のウニお握りどうじゃ!金貨1枚を今なら銀貨5枚!』


『いりません』『いりませんね』『いらねぇ』


『そっか・・・』


トンプソンさんがキョトン顔をするとティアが笑うので一応俺達も笑うが苦笑いに近い

直ぐに俺は皆に連れられて治療室に運ばれると医者にベットに寝かされた

凄い怒られたよ



医師が部屋を出ていくと俺達4人だけとなる


『補助魔法か、面白ぇ役割だな』


ティアマトがそう言いながらティアを見るが彼女は蛇に睨まれたカエルのような様子を見せる

一応彼女のステータスを見せてもらったが



・・・・・・・・・


ティア・ヴァレンタイン


☆アビリティースキル

気配感知【Le1】


☆技スキル


☆魔法スキル

雷・ショック【Le2】

木・スリープ【Le1】


称号


・・・・・・・・・


『凄いな』


『凄いですね』


『凄ぇなこいつぁ』


『そ・・そうですか、えへへ』


ティアは嬉しそうだ

ショックは小石サイズの雷弾を飛ばして数秒麻痺させる魔法

スリープは白い煙を前方に噴出して眠らせる魔法

どちらも100%受ける訳じゃないがあるだけで戦いやすくなる

花系の魔物から偶然ドロップしたらしくてそれを彼女が保有しているんだが俺達にとっては都合が良すぎる。


サポートできる人間がいるのはそれだけ俺達も無理をしなくていいからだ


同時に俺達のスキルを見せたが予想通り彼女は俺のステータスを見て何度も目をこすって見てしまう

見た事も聞いた事もないスキルだし仕方ないが彼女に事情を説明すると、口を半開きにして固まってしまったが無理もない


『まぁトドメ刺せば確定ドロップっつぅわけだ』


『あはは・・・凄い』


『僕が賢者になるためには彼のスキルが必要ですね』


『リリディ君まだ賢者目指してたんだね』


『夢を変えてはそれは偽物でしょうティアさん、僕は本気ですよ』


眼鏡を触りながら話すリリディにティアは笑みを浮かべる

そして医者の話だともう1日入院が長引いた、先ほど無理をしたせいだから怒られたよ


ティアマトは家の手伝いをして気長に待つと言い、リリディは瞑想して賢者のイメージをすると面白い事を告げてこの場を後にするとティアは途中で来た兄のシグレさんと共に今日は家で安静にすると話してくれた


『なんだか修羅場だったって?いいぞもっとやれ、なんで斬らなかったのかが不満だけどねアカツキ君』


『…』


警備兵の服装のシグレさん、どうやら仕事中に様子を見にいてくれたらしい


『あいつはちゃんと謝ったか?』と彼が聞いてくるが、なるほどなと考えながら俺は頷いた。


昨夜はゼルディムの家に何をしに行ってたのか聞くとボコボコにするためとか笑いながら話すが途中で上官に掴まって何故か彼が留置所で夜を過ごす羽目になったんだとか

だからゼルディムは無事だったのか、納得だが奴が怯えていたところを見るといくらか暴れたんだろうな


『まぁアカツキ君のチームならば俺は大賛成さ、妹を頼むよ』


『はい』


シグレさんはティアを連れて医務室を出ようとすると彼女は振り向き、口を開く


『じゃあねアカツキ君』


『またなティア』


ティアとシグレさんは治療室を出ていく

本当に危ない修羅場だったな、反省するのはゼルディムだけじゃなく俺もだ

気持ちを切り替えていかんと駄目だな俺も


傷口が開かないように俺は今日安静にしようとするがギルド内から出なければいいだけなのでギルドのロビーに足を運び。2階の吹き抜けから下を見下ろす

殆どの冒険者は各自森に行ってしまったのでロビー内の丸テーブルには冒険者は少ない

いる者は今日は休みなのだろう、仲間達と飲み物を手に楽しく話をしている様子を見ながら暫くしてロビーに降りると受付嬢のアンナさんが俺を見つけてニヤニヤしながら手招いているので歩み寄ると彼女は口を開いた


『昨夜は大変だったそうですね~』


『クローディアさんから聞いたんですか?』


『そうですよー?今日は奥の事務所で書類整理しててピリピリしてるから他の職員も気にしながら仕事してるわ』


『あはは』


奥に目を向けると一際大きな机に座って書類に目を通してしかめっ面を浮かべ、強めに判子を押している彼女の姿だが判子を押す力が強い

ドン!と音がなる度に近くの職員がビクンと反応しているのがシュールだ


『あの人種類整理嫌いなんですよ』


『でしょうね』


話しているとアンナさんが俺の背後に目を向けて会釈をしている

振り返ると俺の父さんが仕事の服装で来た、それによって周りの冒険者は少し驚いているが俺の父さんはこの街の警備兵長だ


仕事中だし警備兵の服装だが上官らしい服だ、この姿の父さんは恰好良いな


『さっきすれ違ったティアマト君から聞いたぞ?』


『ん?』


俺は笑顔の父さんにそう言われると次の瞬間、ゲンコツが頭に降り注いできて俺は激痛にしゃがんでしまう


『馬鹿者!思う気持ちは理解できるが動く気持ちは間違いだぞ、無駄にするな』


『いってて・・・ごめん父さん』


『まぁ我慢強いお前のことだ、プッツン来ることでも言われたのだろうがそれでもやり方を間違えるなよ?』


『わかったよ』


『うむ、まぁそれはいいとして元気そうだな・・・母さんとシャルロットが心配してるからまた傷口開くような真似はよして安静にしなさい、着替えはティアマト君に頼んでおいたよ』


『ありがとう』


父は直ぐに冒険者ギルドを出ていく

本当にゲンコツ痛い、俺は頭を抑えて立ち上がると受付嬢のアンナさんが笑いながら口を開いた


『流石ゲンコツのゲイルさん、まったく見えなかったわぁ』


父さんのあだ名だ、ゲンコツだけで街を支配できそうな人だよ

こうして夕方にはティアマトが着替えを持ってきてくれたので治療室で包帯を取って汗をタオルで拭いてから医者に再び包帯を変えてもらう

風呂場はこのギルドには無い


一応後ろの建物に銭湯はあるが駄目だと言われたのでタオルで拭くしかない

夜はティアとルーファスさんが顔を出してくれたが少し顔を出すと満足して帰っていく


どうやらルーファスさんはティアをゼルディムのチームから抜けさせる気満々だったようだが俺のチームに入ったことによって落ち着いてくれたらしい

俺ならば安心できるって何を根拠に言っているのだろうか、過剰評価だ


今日俺は大人しく一日を過ごし、次の日は夕方にようやく退院する事が出来たので真っすぐと家に戻った


家に帰ると退院祝いで今日の夜食は唐揚げだと台所の母さんが張り切っているしシャルロットもよだれを口から流して万歳しているので俺は口を拭いてあげた、お前はそこまで幼くないだろうシャルロットよ


夜食が出来上がる頃に父さんが丁度よく帰宅したので俺は久しぶりに家族でご飯を食べる事が出来た。

リビングのテーブルにて皆で囲むご飯は美味しい


『アカ兄ぃはティナちゃんゲットしたんだね』


『言い方止めないか?シャルロット』


『え~でも~』


『シャルロットやめときなさい、チキンなのよ』


『母さんっ!唐揚げのこと!?俺の事!?』


父さんは爆笑してる


『明日からまた森に行くだろうが最初は軽めにしとけよ』


ビールを飲む父さんは顔が既に赤い


『そうするよ』


『しかし男臭いお前のチームにやっと花が出来たな』


『そうだね』


確かに俺とリリディそしてティアマトのお馬鹿3人コンビだけだと上に上がるために辛いものがある

最近なんだか良い感じに物事が進んでいるのは俺でもわかる、波に乗れればいいが

食べ終わると俺は軽い運動をする為に家を出て外を歩くが今日は少し寒いかもしれない、というか半袖で出た俺が馬鹿だったようだ


住宅街の道には均等にランタン柱が均等に道に設置されている

夜でもここは明るいんだ


『っくしゅん!』


『薄着過ぎじゃないアカツキ氏』


『ババドさん』


頭上からバサバサと飛んで俺の目の前に着地する者は鳥人族のババドさん

胸の羽の中に腕があるが基本的に鳥人族の人は羽毛の中で腕を組んでいる

この街には鳥人族もいれば兎人族だって蜥蜴人族もいる、しかし獅子人族は中心都市に行かないといないって父さんが言っていた

獣族も普通に人間の街に暮らしているけども獣の国も勿論あるさ


んでこの鳥人族のババドさんは直ぐ近くに住む近所の人、いや鳥だ

職業は配達員で主に手紙関係を空を飛んで移動して運ぶので仕事場ではエースバードと呼ばれているらしい

飛んで目的の場所に手紙を運ぶだけの仕事で彼はとても楽だと聞いた事がある


『怪我したって聞いたけども大丈夫?』


『ようやく動けるようになりました』


『無理したら心配する人いるからね?僕の木彫りフィギィアコレクションもそろそろクローディアたんを作ろうか考えてるんだけどもアカツキ氏はどう思う?』


流石に苦笑い、しかしリリディには高値で売れるんじゃないかと言うと売る気は無いと拒む

飽く迄それは彼の趣味であり、誰かに差し出す物ではないのだ


『完成したら見に行きますよ』


『なら頑張ろうかな!風邪ひく前に帰るんだぞっ』


『はい、ありがとうございます』


歩いて1分の距離に家があるのに彼は飛んでいってしまうが歩くのにあまり慣れていないからだ。

他の鳥人族は歩くのだけども彼は面倒臭がりである、理由は少し肥満だから

確かに薄着で外に出てしまったので俺はそのまま家に戻り、部屋に入ってゆっくりする事にしたよ

時間はまだ起きてても良いが明日に支障をきたさない為に俺は誰よりも早く寝る事にした


またしても新しい冒険者としての生活が明日から始まるのだ

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