第171話 幻界編 11

記録用の魔石は連絡するための魔石だと知った俺はエーデルハイドの皆さんと驚く

俺は絶句しながらも魔石から聞こえる物音を聞いていると、急に静かになる

どうしたのかと魔石に少し顔を近づけてみると、そこで声が聞こえてきたんだ


『そこは過去の王が住まう神殿デス、森の奥に進むと廃墟と化した建物が点々と見れるデショウ』


アカツキ

『本当にここは安全なんですか』


『その階層は安全です。地下に行くと人工的な池に食用として育てられていた魚とかまだ生きているのデスガ、行かないほうがイイデスよ?化け物が住んでます』


アネット

『ねぇアカツキ君、これ誰?』


アカツキ

『ジェスタードさんです』


『誰がいるんデス?』


俺は遠征で来た者を伝え、今は数人しかこの場にいないと告げる

するとジェスタードさんは唸り声を上げて何かを考えているようだが

それでもやはり『地下は絶対にやめた方が良いです、お腹が空くとは思いますが出るまでは我慢してください。』との事だ


何がいるのかと聞けば、知らないほうが良いってさ

そこでクリスハートさんが幻界の森に入る際に起きた不可思議な出来事をジェスタードさんに話す

クロコディルとの戦闘から急な撤退、それは幻界の森の主の意向の可能性が高く、アヴァロンが言っていたこの森の主が変わったという出来事をだ


そこでジェスタードさんが溜息を大きく漏らしているのが聞こえた

良い意味ではない事だけはわかる

しかし、情報が無い事に対してこちらは不安を持っているのも確かだ


知っていることはないかと聞いてみると、彼は気難しそうな雰囲気で話す


『この幻界の森の本当の名はゴリアテという先頭民族が遥か昔に住んでいた森、今の君たちにはそれしか情報を開示できマセン』


クリスハート

『何故ですか』


『余計な情報デショウ?明日にはその森を出るのに何故森の正体を教えなければナラナイ?ここは人間が立ち入ってはならない唯一の自然の森、ここだけが人間の手から離れ、魔物が独特な進化を遂げている』


アカツキ

『明日に俺達は出ます。でも帰るために何をすればいいかだけ教えてください』


『早朝になったら一直線に逃げなサイ、中枢ま…で…と』


アカツキ

『ジェスタードさん?』


『…イッテ…ケ…セン』


何なら音が聞き取り難い

バリバリと変な音が魔石から聞けるが、魔石の寿命なのだろうか

アネットさんは『そういう時はこう!』といいながら壁にはめ込まれた魔石を軽く殴る

すると一瞬だけ魔石の調子が治ったのだ


『鬼には会ってはナラナイ』


その言葉を最後に、魔石は割れてしまった

アネットさんは目を泳がせ、口笛を吹いて誤魔化しながら顔を逸らす

俺は溜息を漏らすと、丁度良く廊下の先から歩いてくるロイヤルフラッシュ聖騎士長を見つけて報告したのだ


彼の傍にはカイ、バッハがいる

彼らは半信半疑で聞いていたがロイヤルフラッシュ聖騎士長だけは真剣に俺の話を聞く


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『他の階層の様子を見ようという議題があったが、その話が本当なら無暗に歩き回るのは得策ではない…。ここだけでも安全ならば欲をかく必要もない』


カイ

『信じるのですか?聞いた話が本当かの保証もないのですぞ?』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長

『この森に保証などないのだぞ?そんなものどこにも落ちておらぬ』


何もかもが新鮮、この森では何が正しいかなど何もない

ロイヤルフラッシュ聖騎士長は無駄に行動することを中止にし、この階層で大人しく休むことを選ぶ

地下に食用となる魚があるという話を聞いた聖騎士のカイは『勿体ないのでは…』と言うが


ロイヤルフラッシュ聖騎士長は『1日ぐらい我慢しろ、昔は3日間飲まず食わずなどいくらでもあった』と言ってその場を後にする

カイという聖騎士は何故か俺を睨みつけたままロイヤルフラッシュ聖騎士長のあとを追いかけていくと、バッハは苦笑いを浮かべたまま俺に『悪いな』と告げて去っていく


そこでティア、リュウグウ、クローディアさんが来たので先ほどの出来事の説明をしてから全員で壊れた魔石に視線を向けた

しかし、アネットさんは顔を逸らす


クローディア

『この廊下の一番奥が階段があったのを見たけど、下は暗くで踊り場しか見えなかったし調べに行かなかったわ』


アカツキ

『一応監視しますか?』


クローディア

『できればお願いするわ、聖騎士は2人態勢で廊下を見張るって聞いてる』


ティア

『あれ?ティアマト君達って…』


寝たと告げると、ティアは苦笑いだ

仕方がないので俺はティアとリュウグウの3人で奥を見張る事にした

廊下の先にいた父さんには見張りをすることを告げると、その場で横になって寝ようと試み始めた


どこでも寝れるのかと関心を浮かべていると、それもそうだよなと思い出す

家で酒を飲みながらたまに聞く昔話、その内容には『帰るのが面倒で野宿したことも何度かある』と聞いたことがある


エーデルハイドさん達は寝る為に空いている部屋に戻り、俺達は階段近くに辿り着く

廊下の灯りが階段下に見える踊り場を薄暗く照らしているが、先がどうなっているかは手すりから顔を覗かせても見えない


真っ暗だ


『アカツキ君、危ないよ?』


《そうだぜ兄弟》


『あ…』


気づけば階段を数段降りていた

直ぐに登ってから3人でその場に腰を下ろす

かなり静かであり、僅かな音でも耳に大きく聞こえる

その音とは階段下から聞こえる【何かを物色しているような音】だ


ティアやリュウグウも気づいているだろうが、それに関して口を開こうとはしない

小声で他愛のない会話をしていても階段下から物音が聞こえると会話は止まる

本当に不気味だ


『我慢できん、何がいるかはわからんが調べに行くのは無謀だな』


リュウグウが小声で話す

確かに階段を降りるのは自殺行為に等しい、知らない振りをするべきだ

ティアは無意識に俺の腕を掴んでいるが結構強い

痛くは無いがかなり気になる


『ドグマか、どのくらい強いのだろう』


『多分個体としてはCレベル、それが大勢で迫るんだからそれ以上だよね』


《俺もティアお嬢ちゃんの考えは近いと思うな》


『テラは知らない魔物か』


《基本的にここの魔物は知らねぇ、都だった時代なら知ってるがな》


『どういうことだ?』


《かなり栄えていた都だ、それが今じゃこんな姿になってるが何故こうなったかはわからん》


リュウグウ

『お前が知らないうちに色々変わっていたということか』


《そういうこった》


ティア

『今まで見た中で一番強いのはなんだ』


《神蛇ツェンバー、Aランクだぞ》


アカツキ

『ひぇ…』


ティア

『きっとAレベルがこの森の奥に沢山いるんだろうね、ジェスタードさんが最後言いかけた鬼だけど…』


《鬼は最低ランクC、強い者はAもいるさ…最近の時代の人間は遭遇したことなんてねぇだろうがよ》


リュウグウ

『伝説上の魔物と聞くが…』


《ここには伝説級が普通に蔓延ってるってこった、命が欲しければ明日の朝にそそくさ逃げるべきさ》


アカツキ

『できればそうしたいな』


そこまで話し込んでいると、聖騎士のアメリーがやってくる

この女性だがシグレさんと同じ歳に見えるし可愛い

でもなんとなく顔色が悪い、強張っているといえばいいかもしれん


『あの…』


弱弱しい声にティアは直ぐに悟り、『どうぞどうぞ、声はなるべく小さくしてくれれば』と告げる

彼女の笑顔で安心したのかアメリーはホッと胸を撫でおろし、ティアの近くに座った

どうやら女性という事もあって空いている部屋で1人でいるのが心細く、そして寝付けなかったらしい


ロイヤルフラッシュ聖騎士長の指示では『無暗に探索を禁ずる、見張りは2人の交代』ということで廊下にはドミニクとバルエルがいる

次の交代はジキットとアメリー。俺は少しでも寝たほうがいいんじゃないかと告げると、彼女は『眠くなれば寝ます』と苦笑いを顔に浮かべて答えた


リュウグウ

『男ばかりの聖騎士に女がいてようやく花だな』


ティア

『女性で1番隊って凄いですよね』


アメリー

『でも私は補填された身なので…』


実力で昇り詰めたわけじゃないからこそ少し不安があるのだろう

ルドラ、リゲル、クワイエットさんの実力ある3人が開いた一番隊の空席を埋める形で彼女やバルエルそしてドミニクが2番隊から1番隊に無理やり昇格したようなもんだ


あの3人の穴埋めは不可能だとアメリーは小さく口を開いて告げる

1番隊は難しい任務を公爵から受け、動く独立機関

その指示の半分は王族からが多いというが、その場合は必ずルドラとリゲルそしてクワイエットさんは参加していたと彼女は話す


精鋭と言われても、人間

失敗することもある

それでも彼女が述べた3人だけは異質であり、殆ど失敗をした事もない

護衛、潜入、制圧、調査、その他全ての重要な依頼は彼らが必ず請け負う

そしてそれ以外は他の1番隊が処理をするのが流れだったらしいとアメリは話す


『最初は4番隊だったんですが、リゲルさんが暇な時に稽古してくれていたのでここまで辿り着けたんです』


ティア

『意外とあの人って面倒見良いんですね』


『勿論ですよ。結構言葉は厳しい人ですけどね』


リュウグウ

『わかる』


『そんな人が唐突に1番隊を抜けるとなった時は聖騎士会が少し動揺が走りましたね。情報量が多すぎて…』


ティア

『リゲルのお父さんの事とか?』


『ロイヤルフラッシュ聖騎士長自ら話してくれました、3人は戻らない…と。ルドラさんに関しては殉職のため、その件に関して一切触れるな…今後口に出すようものなら処罰もあると厳しく話しました』


リュウグウ

『そっちも色々だが、リゲルも大変だったぞ』


『どうなったのですか、私はルドラさんがリゲルさんの父だったこと隠して育てていて、大事な任務中に殉職したとしか』


ティア

『アカツキ君』


ティアの視線は何を訴えているか俺にはわかる

話してもいいんじゃないだろうかという意味だろう

俺は頷くと、ティアがあの時の出来事を細かく話したのだ

それをアメリは真剣に聞き、話が終盤に差し掛かっていくにつれてうつむき出す


彼女は『残酷過ぎる』と小さく囁いた


リュウグウ

『何故お前は聖騎士に入ったんだ』


アメリ

『強くなりたくてですかね、私もクワイエットさんと同じ孤児だったんです』


ティア

『でも聖騎士まで昇り詰めたのって凄いよね。何かしたいとかあるの?』


アメリ

『私は…その、本当は冒険者になりたかったなぁとか思ってて』


その前に基礎をつける為に聖騎士で鍛えようと頑張ったらしい

2番隊に実力で昇り詰めたならば十分過ぎる能力はある筈だ


アカツキ

『地元はどこなんだ』


アメリ

『ウェイザーです』


アカツキ

『隣街じゃないか…』


アメリー

『はい。あのでティアさんの話はかなり知っています』


リュウグウ

『天使の声が聞こえるからな』


《よしてくれ…》


まだテラが起きている

この声はアメリーには聞こえないが、俺達が笑うと首を傾げた

ふと俺は何か違和感を感じて階段に顔を向ける


リュウグウは『怖がらせる気か?』と囁くが俺はそれに対して反応を見せない

真剣な顔を浮かべ、静かに立ち上がり刀を構える

耳に意識を集中し、目を閉じていると何かを静かに引きずる音が聞こえてきたのだ


俺はギョッとするとティア達が素早く立ち上がる

どうやらおふざけじゃないのがわかったようだ


アメリー

『階段下は危ない、と聞いてます』


アカツキ

『だがここにいれば大丈夫の筈だ』


アメリーは聖騎士だというのに面白い武器を持っている

右腕の手甲に細長い盾を装着し、先端から刃が1メートル程伸びている変わった武器だ

女性だから筋肉はあまりないのかなと思っていたけども、そもそもそんなひ弱な女性が聖騎士の1番隊になれるはずがない


意を決して手すりから顔を出し、踊り場下の様子を伺う

薄暗く、廊下と思わしき床のタイルは僅かしか見えない

すると視線の先に何かが通り過ぎたのだ


その瞬間に俺は体を強張らせた

見たのは僅かだけどもあれは明らかに爬虫類のような感じの体の一部

大きな蜥蜴でもいるのかと思うと、やはり下に降りたくはない


アカツキ

『下に蜥蜴っぽい生き物がいる』


ティア

『きっとここには来ないよ』


リュウグウ

『なんでそう思えるのだティア』


ティア

『ここだけが安全だってジェスタードさん言ったでしょ?ここだけにしかないのは照明、反対側の廊下の先にある上に上がる階段の先は真っ暗、ここの階段も真っ暗。この階層だけにしか灯りが無いってことは神殿内の魔物は灯りが苦手なんだよ』


アメリー

『確かにここには天井に点々と設置された灯りがありますね』


ティア

『だからといって下手に刺激したら駄目だから見なかったことにしよっか。』


アカツキ

『そうしよう』


俺は覗くのを止め、仲間に顔を向けた

そこで少し驚いたのだ


リゲルがティアの後ろにいたからな

俺が気づくとみんなも気づいて振り返り、ちょっと驚く


リゲル

『んだぁ?悪いかよ』


ティア

『少し声小さく』


リゲル

『あぁ気づいてるよ、下に不気味な感じするからな』


リュウグウ

『流石だな』


リゲル

『聖騎士だぞ?アメリーはわかるよな』


アメリー

『あの…えっと』


たどたどしい、というかモジモジしている

どうしたというのだ?先ほどまでちょっと凛々しい女性だったというのにリゲルが現れると乙女だ

まさか…さまか!?


リゲルは溜息を漏らすと彼女の肩を軽く叩く

静寂にアメリーの纏う鎧の金属音が僅かにこだますると、リゲルは彼女に告げた


『意識を知りたい場所に向けて心を落ち着かせりゃいい、それでも出来ないならば目を閉じて魔力を感じようとすればわかる』


『…無理です』


ティア

『だろうねぇ』


アカツキ

『コツはあるのか?』


リゲル

『心を落ち着かせるのが基本だ。知りたい場所に意識を向けて景色の色じゃなく気を探ろうとすればいい…お前の親父さんもきっと出来る』


アカツキ

『俺の父さんが?』


リゲル

『アンノウンに襲われたとき、お前の親父は敵が現れる前にその場所を見て身構えてた…あれはどこにいるかって感覚で悟れてるって事だ。本能というか…獣というか鋭い男だと思うぞ』


ちょっと嬉しい

だが直ぐには会得出来ないらしく、生きても逸れたらヒーヒー鳴かせながら教えてやるとか俺に言ってきた


それでも俺は覚えたい、生きて戻れたらだがな


リゲル

『結構寝た、あとは俺とクワイエットがここを見張る』


ティア

『あれ?クワイエットさんは?』


アカツキ

『リリディとティアマトと一緒に寝てる』


リゲル

『…起こしてくれ』


アメリー

『あの…私…』


リゲル

『無理にでも寝とけ、じゃないと明日は死ぬぞ』


アメリーは強く頷くと誰よりも先に去っていく

俺も戻るかと時間を見て驚いたよ、いつの間に23時になっていたんだよ

それにはティアとリュウグウも驚く


予想以上に時間がたっていたようだ

俺は部屋に戻り、クワイエットさんを5分かけて起こすと地面に横になって休み始めた

父さんは以前として俺達の部屋の前の廊下で座ったまま寝ている


一番落ち着いているのはもしかしたら俺の父さんかもしれない

寝れいる間に何事もなければいいと思いつつ、背伸びをしてから寝ようとするとティアマトが寝ながらおならをしたので尻を叩いた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る