第45話 虫虫虫編 4 その者は
《気をつけな兄弟!!そいつらは速ぇ!!》
テラ・トーヴァの声が荒げている、相当な魔物だと直ぐにわかる
当然、迫りくる剣蜂2匹は素早い速度でこちらに突っ込んでくる
『なっ!』
『避けましょう!!』
ティアマトとリリディが驚きながら叫ぶ
剣蜂は飛び込んでくると、2人の首を刎ね飛ばさんと腹の先の刃を前に突き付けながら迫る
それを間一髪で避ける事が出来た、しかし奴らはUターンすると間髪入れずにこちらに突っ込んできたのだ
『ラビットファイアー!』
ティアの火弾5つが撃ち放たれる
しかしその魔法は全て容易く避けられてしまう、あまりの速さ、あまりの反応速度だ
『くっ!!』
俺は腹の刃を避けると同時に刀を振るが、その時には既に通過している
当たらないのだ、一撃でも命中すれば活路は見えるのに速度によって俺達は避けるので精一杯なのだ
『突風!』
突っ込んでくる剣蜂に向かって強風を飛ばすと僅かに減速をする
しかし止まる事は無い、臆せず突っ込んでくる剣蜂に驚きながら俺とティアマトは慌ただしく避けた
『ギー!!!』
相当ご立腹のご様子の剣蜂は止まる事を知らない
虫の体力とは底が知れないな
『このままじゃこっちの体力が無い!リリディ!突風の準備をしろ!』
『わかってます!』
『ティアマト、リリディが撃ったと同時に行け!』
『おうよ!!』
『ティアは俺ともう1匹の注意を逸らす!』
『はい!』
これでいい、リリディとティアマトならば連携して倒してくれるはずだ
スピードを奪えばいいんだ、一撃さえ与えれれば形勢は帰られるだろう
俺は1匹に居合突を放ち、避けさせるとそいつは俺に標的を絞り、突っ込んでくる
《兄弟!お前でもギリギリまで近づかせて光速斬でカウンターいけるぜ!》
『いけるか?』
《そのスピード強化は飾りか!?光速斬に恩恵あるに決まってんだろ!威力が低い技だが蜂には関係ねぇ!お前ならいける!》
それならばやるしかない
1匹がこちらに飛んでくるが、やはり凄い速い…
鬼の形相で迫りくる剣蜂を冷静に視界に捉えながらも俺は呼吸を整えた
後ろではティアがスタンバっているから取りこぼしても問題ない
光速斬、確かに素早い速度で走り抜けて対象を斬る技スキル
その弱点は威力が低いことだ
だが当たらなければ威力のある技スキルでも意味はない、当てなければな
『くるよアカツキ君!』
『取りこぼし頼むぞティア!』
『うん!任せて!』
よし、俺は剣蜂が迫るまでずっと身構えた
あっちも避けることなど考えていない、自身の速度に自信を持っているのだろう
それもその筈さ、速いよこいつ
しかし
《速さだけならお前が上だ!兄弟!!》
俺はその声と同時に体に力を入れ、叫ぶ
『光速斬!』
俺は素早く剣蜂に加速を見せ、刀を振って通過した
それでも剣蜂は僅かに回避をおこなったせいで傷つけれたのは羽の一部、奴はバランスを崩してよろめいただけだったのだが
それでいいんだ
『ラビットファイアー!』
ティアがすぐさま火弾を5つ
剣蜂はその魔法に気付き、避けようとするが羽が僅かに斬れているのが不幸となり、2つ命中して燃え始める
『ギーーー!』
甲高い鳴き声を上げて落下する剣蜂、しかしまだ生きている
俺はトドメを刺した瞬間、ティアマトが叫ぶ
『アカツキィ!斬れ!』
俺は振り向いた
やっぱりこの2人は流石だよ、彼らが相手していた剣蜂の腹の先の刃が折れているのだ
しかもティアマトが首を掴んでこちらに投げようとしている
よく見るとティアマトの肩が斬られて血が出ているが、相当深いな
『開闢!』
『おおよ!』
俺の技の発動と共にティアマトは掴んだ剣蜂をこちらに投げてくる
鞘から瘴気が噴き出すとそこから仮面騎士が現れ、燃える刀で投げ込まれる剣蜂を真っ二つに両断してのけた
仮面騎士は剣蜂から光る魔石が出るのを見届けると俺達に体を向け、口を開いたのだ
『熊五郎、俺はテラ・トーヴァだ、開闢マンはよしてくれや…』
『マジで喋った!』
ティアマトが驚いている、そうして直ぐに仮面騎士は消えていく
『驚きましたね、ティアさんに聞いた通り渋みある声ですね』
『でしょリリディ君!あ・・・スキル何なのかみよ!』
俺はみんなと共に光る魔石に近付き、手を伸ばす
どう見てもこれはティアマト、俺ではない
『ティアマト、頼む』
『助かるぜ、斬撃系の技スキルはさっき見たから嬉しいぜ』
どうやら彼は剣蜂の技を受けて傷を負ったらしいが直撃ではなかったようだ
彼は光を体に吸収し、立ち上がるとステータスを開いたのである
・・・・・
ティアマト・ウロボリス
☆アビリティースキル
斬撃強化 【Le2】
気配感知 【Le2】
毒耐性 【Le4】
スピード強化【Le1】
☆技スキル
連続斬り【Le3】
真空斬 【Le1】New
鬼無双 【Le2】
☆魔法スキル
称号
・・・・・
『ティアマト君、良いスキルじゃん』
『斬撃を飛ばすスキルは嬉しいぜ、アカツキの突きを斬撃で飛ばす技だな』
その場で武器を振って斬撃を飛ばす技スキルだ
本当に良いスキルだ、これでティアマトも立ち回りが良くなる
ティアマトは自分の体を見回す、何をしているかわからないがリリディが何かを勘づき、苦笑いしながら彼に話しかけた
リリディ
『称号を期待しましたね?ティアマトさん』
ティアマト
『まぁな…そんな簡単じゃねぇか』
ティア
『でもティアマト君、それ珍しい技だよ』
ティアマト
『そうなのかティアちゃん』
ティア
『剣蜂は人前に出るってなると産卵期しかない筈、1年に数週間しか出てこないし数も少ないから中々スキル落とさないって聞くよ!』
ティアマト
『ちょっと嬉しい事聞いたぜ』
ティア
『他に真空斬持ちは多分Bランクだと思う!、この段階で取得できたのは大きいよ!』
ティアマト
『うっしゃ!』
アカツキ
『お前ら、後で嬉しがるぞ…』
俺はそう告げると皆で辺りを警戒し始める
しかしキラービーが出てくる様子はない、気配も無い
その間にティアがケアでティアマトの傷を治している、緑色の光がティアマトの肩の傷口に触れると数十秒で彼の傷は消えたのだ、凄いマジ
そういえばだが、気づけば空にオレンジの煙が漂っている、剣蜂2匹と戦っていて気づかなかったがあれは女帝蜂の討伐が完了した時に上がる煙の色だな
依頼成功という事だ
数分後、俺達は集合場所に集まるとソード・ガーデンや戦闘旅団の皆さま、そしてエーデルハイドの女性たちがいたのだ、俺達は最後の様だ
『遅いぞ』
ゼルディムが不貞腐れた顔を浮かべてそう告げる
まぁ遅い事は仕方がない
バーグさんが笑顔で俺達に近寄るけども足を引きずっている
どうしたのだろうか
しかも彼の仲間達がクスクスと笑っているんだよなぁ
アカツキ
『バーグさんどうしたんですか』
バーグ
『ここに来る途中で転んだんだ…』
その瞬間に戦闘旅団の皆さんが噴き出して笑った
どうやら木の根に足をひっかけて変に挫いたらしいけど、うっかりさんである
『そっちは大丈夫かいアカツキ君』
『大丈夫です、そっちは剣蜂とか現れました?』
『出なかったけど、え?出たの?アカツキ君』
『2匹ですけど…』
俺は剣蜂の魔石を見える、まぁ魔石を見せるだけでわかるんだ
魔石の中には剣蜂がうつっている、魔石の中には倒した魔物がうつるんだ
偽造は出来ない
バーグさん、フルデさん、ドラゴンさん、プラオさんはオー!と声を上げてくれたけどもどうやらこいつらは面倒な魔物らしい、まぁその面倒臭さは俺達も身をもって感じたよ
ゼルディム達がバツの悪い顔をしているが魔法使いの女が余計な事を言う
『どうせ卑怯な手使ったんじゃない?』
どうやって卑怯な手を使うんだよ、誰もがそう思っている顔をしている
『どうやって…』
フルデさんが苦笑い、しかしそれ以上は誰も何も言わない
言ったのはゼルディムだった
『まぁそのくらいしてもらわないとな』
らしい
アカツキ
『クリスハートさん達は大丈夫でした?』
クリスハート
『アカツキさん達が頑張ってくれたおかげで倒せました、ありがとう』
彼女は微笑みながら女帝蜂の魔石を見せてくれたけども、今の俺達ではまだ無理だな
そんなやり取りをゼルディム達が苦虫を噛み潰したような表情で見ている
『めんど』
ソード・ガーデンの女魔法使いが囁くが
一番面倒なのは誰なのか考えてほしい
こうしてみるとティアが女神に見える不思議現象だな、まともな女性ってこんなに輝いてるっけ?
『さぁて皆さん帰らない?夕方になるよー』
アネットさんが笑顔で俺の肩をポンと叩き、口を開く
それを合図に俺達は森を出る事にしたが、お腹が空いたよ
昼食を食べずに来たからな、というかまだ時間は2時だし夕方まで時間があり過ぎる
『じゃあ帰ろうかみんな、僕が先導するからついてきてくれ』
バーグさんがそう告げるとみんなが歩き出した
俺達も戦闘旅団を前にに森を出る事にしたんだが気疲れがする
先ほどよりも風が冷たくて心地よい、多分夜は雨が降る感じかな
『ん…』
バーグさんが何故か立ち止まる
俺達もふと首を傾げながらその場に止まってみると正面には騎士がいた
なぜこんなところに騎士がいるのだ?誰もがそう思っている筈だ
エーデルハイドの皆さんの顔色が険しい
『あっ…』
ティアが何かに気付いた様だ、その先を見てみると騎士の腰のマントには刺繍がされていたんだ
光り輝く模様がな
これは回復魔法師会の騎士だ
彼らがここに居る理由がわからない
『協会の騎士がなんでここにいるんだ』
ゼルディムが強気で口を開く、こういう時は無駄に心強い
彼の父は確か貴族騎士会のお偉い方だったよな、だから強気にでれるのかもしれない
しかしこのタイミングで回復魔法師会か…
嫌な予感だ
彼らの顔を見ればわかる、険しい顔をしており、数は15人と多い
ティアが何故か俺の後ろに隠れるけども、それを見た騎士がようやく口を開いた
『何故テスラ会長の頼みを断った?権力者の言葉だぞ、不敬だと思わんのか女』
バーグさん達はさっぱりな様子を見せている
相当ご立腹のご様子、口を開く騎士はテスラ会長と共にいた騎士だと顔を見てわかる
『この事テスラ会長知ってるんですか?勝手な行動となれば騎士でもそれなりに対処されると思いますが』
リリディが眼鏡を触りながら話すと騎士はそれを鼻で笑った
『勝手に動いて何が悪い、お前に興味はないメガネ小僧』
リリディは目を細めた
どうやら勝手な行動らしい
面倒だ
ゼルディム
『おい騎士、目障りだ…消えろ』
『小僧が、偉い口を叩き追って』
いいぞゼルディム、多分なんで彼らが来たかは薄々気づいたのだろう
しかし彼の強気もここでは通用しない、この騎士はそこまで頭がよくないらしいのだ
『テスラ会長の苦労を踏みにじるとは不敬だぞ女、俺達は結果の届け出を総合協会本部に不敬を働いた不届き者と報告する事が出来るぞ?そうするとどうなると思う?』
『私が何をしたって言うんですか?』
『そんな事どうでもいい、力ある者は力ある場所で力を見せるのがこの国の決まりだ、パナプレイヤーとなったお前には今までの自由ではなく、協会での自由に従うべきだ』
『脅しですよねそれ』
『何度でも言うがいい、騎士はお前等よりも権力がある事は知っておるだろう』
すると騎士は腰から剣を抜いた
そこまでするか?狂ってる
俺は背中から顔を出すティアを背中に隠し、刀を抜いた
俺だけじゃない、エーデルハイドやソード・ガーデンのゼルディムもだ
理由が狂い過ぎている、これが国の騎士だというのか…
権力があるから勝手に自分たちの都合で動かしていいとは思えない
目の雨の騎士達はそれを行使しようとしている
明らかに納得いく筈ないだろうが
『騎士に立てつくか?回復魔法師会の騎士に』
『変な理由で脅して人の自由を奪う人を私は騎士なんて思いません』
『私も思わない、勝手』
騎士が口を開くと、クリスハートさんとシエラさんが答える
それに続いてバーグさん、フルデさん、そしてティアマトやリリディもだ
『わけわかんないな、勝手すぎるぞあんた達!若い子の自由を勝手に動かそうなんて可笑しいぜ』
『これが俺達の国の騎士か、情けない…協会同士の争いがこうさせたんだね』
『胸糞悪い騎士だ、本当に騎士かわかんねぇぜ』
『いけすかないですね、間違っていますよ』
『小癪な冒険者めが、こちらは聖騎士の奴らとは違っても回復魔法師会の精鋭騎士、15人相手に勝てると思ってるのか?反逆罪で斬る事が出来る事を忘れている様だが』
『結局権力頼みじゃないか、そんな奴らにティアを渡さない』
俺はそう告げる
ちょっとティアが強く俺を背中から掴んでいるけど少し気が散る、冷静になれ俺
全員が武器を構える、ソード・ガーデンのゼルディムさえしかめっ面だ
『腐った騎士めが、お前らみたいなのがいるから国は内部から腐るのだ糞が』
ゼルディムがまともな事を言っている、俺は驚くけどそれよりもティアマトとリリディも驚いている
まぁ騎士達も頭に来たのか、とうとう構え出した
人相手に斬る事になるとは
俺は間違っているのだろうか
この状況を穏便に済ませるとしたら奴らの言う事を聞く事だけ
それはティアを明け渡す事、俺は嫌だ
『ティア、あんな協会行きたいか?』
俺は口を開くと彼女は再び怒る騎士達を見て答えた
『あんな勝手な協会に入りたくない!』
『ならばここで逝け!愚民共が!!!』
勝手な騎士の荒げた声、それと同時に口を開いていた騎士は他の騎士に合図をした
すると彼らは武器をかざして襲い掛かってくる
俺達も負けじと彼らに走り出した
何故俺達にこんな事を騎士がする?お前らにそんな権限を誰が与えた?
間違っている。
騎士にそんな権限を無くすべきだ、しかし俺達にはそれが出来ない
勝てるかどうかなんてわからない、きっと誰かが死ぬ
それでも俺は守るために走り出した
しかし、終わりは最悪な形を迎えたのだ
《兄弟!やべぇのがきた!逃げろ!!》
『!?』
テラ・トーヴァの声に俺は空を見上げた
俺達と騎士が衝突する寸前で空から光線の様な物が落ち、爆発が起きると俺達は吹き飛ばされた
勿論騎士達もいきなりの出来事で吹き飛んでいく
ゴロゴロと地面を転がり、直ぐに立ち上がると辺りは砂煙が充満して何も見えない
だが声だけが聞こえるのだ
『なんだこいつぁぁぁぁぁぁ!』
『ぐぇ!』
『敵だ!こいつも斬れ!』
『駄目です!まるで太刀打ちできま…がはっ!』
俺は近くで起き上がるティアに近付くと、彼女を抱き寄せて数歩後ろに退いた
何が起きている?煙で何も見えない
だが不思議と鳥肌が止まらない、足も震えている…何故だ!!
『突風!!』
リリディが叫ぶと目の前の煙が空に舞い上がり、その場の悲惨な光景を映し出す
『な…』
『馬鹿な…』
『なんだぁこりゃ!!!』
ゼルディム、クリスハートさん、ティアマトは驚きのあまりに声を出す
この光景に冷静でいれる奴なんで絶対に居ない、ありえないからだ
俺は息すらも吸う事を忘れてしまう
海抜の低い森の中にいた不気味な黒い騎士、
全身が赤と黒で交わった鎧に包まれており、右手には大きな剣が握られているが人とは思えない
顔は鳥の口の様なフルフェイスでわからない、腰からは地面につきそうなくらい長い赤いマントをしているんだ
彼の目の雨には数十人の騎士が無残にも惨殺され、至る所で倒れていた
先ほど腐った言葉を口にしていた騎士はその不気味な黒騎士の足元で上半身と下半身を切断されて息絶え、頭部を踏まれていた
まだ3人ほど騎士が剣を構えてるが手が震えている
鳥の仮面の黒い騎士は残る騎士3人にゆっくりと近付くと騎士達は声を荒げて口を開く
『くるな!くるなぁぁぁ!』
『こいつは!?聖騎士の小隊一つを全滅にした奴では無いのか!?』
『だったら勝てる筈ない!撤退だ!』
騎士達は逃げ出そうと黒騎士に背を向けた瞬間、その騎士は静かに低い声で口を開いた
『国は死んだ、本当の騎士と共に』
その場で彼は剣を振った、俺達はその剣筋が全く見えなかった
金属音が聞こえたと思った時には剣を振り終えているのだからな
奴は遠くから逃げ出す騎士3人を一気に斬り裂いた
距離があるのに…どうやって剣撃が届いたんだ…わからない
真空斬のように斬撃を飛ばした形跡もない
その場が静まり返る、不気味な騎士は真っ赤に染まる剣を振り、血を飛ばすとこちらに顔を向けて来た
それには流石に俺達も身構える
敵か味方か、わからない
奴は体から異常な量の瘴気を噴き出しながら鳥の仮面の目の部分を赤く発光させて俺達に話しかけて来た
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