第133話 122 王とはなにか 1

リゲルとクリスハートが命からがらグリンピアの北の森から脱出し、2日経過した深夜

海抜の低い森の奥では生前は王として名を上げる者が集まっていた


幻界の森の近くにある滝

その近くには洞窟があり、冒険者にとって非常に足を踏み入れたくない場所でもある

魔物はCランクが大半を占め、生半可な実力を持つ者は半日も持たない


『グルルルルル』


凍てついた風、ちらつく小雪の中で2体の雷狼がとある存在に敵意を剥きだしにしている

ランクCの狼は全長2メートルに届きそうな勢いであり、普通の個体よりも大きい

唸り声を上げて剥きだす牙からは僅かな放電を見せ、正面で蔑んだ目を浮かべる見知らぬ者の周りをゆっくしと歩く


『私の時代にはイナカッタ魔物だ。こうまで変わるか…』


暴君ゾンネは右手にソードブレイカーを持ったまま一瞬で1頭の雷狼の側面を通過し、背後に現れると振り向いた雷狼の首から鮮血が飛ぶ


『グル!?』


『驚くことではあるまい?我の方が強いのダカラ』


ゾンネは不気味な笑みを浮かべ、残りの1頭に襲い掛かる

雷狼は吠えながらも突っ込んでくるゾンネに向かって爪で引き裂こうと上体を大きく上げて爪を振り落とす


体重を乗せた攻撃は人間の力では避けたほうが無難だと思えるほどの威力を発揮する

しかし、ゾンネは頭上から近づく爪の伸びた前足をソードブレイカーで突き刺して止めた


『ギャ!』


『終わりだ』


突き刺したまま武器を振ったゾンネは突き刺した腕を引き裂き、素早く回転しながら懐に潜り込むと喉元にソードブレイカーを深々と突き刺し、トドメを刺す

武器を抜き、左手で雷狼の頭部を掴んだゾンネは地面に強く叩きつけて頭部を潰した


見るに堪えない姿を化した魔物から直ぐに視線を逸らし、辺りを見回す

そこには雷狼だけじゃなく、別の魔物の息絶えた姿がある


エアウルフやゴブリンそしてトロールはリザードマン

ランクBではサーベルタイガーやイエティという白い体毛のゴリラの魔物も酷く斬り裂かれた状態で白い地面に倒れているのだ


『Aとお手合わせ願いたいが…マァいいか』


血の付いた武器を振って払うと、足元で倒れているリザードマンが弱弱しく顔を持ち上げた

まだ生きている。ゾンネはそう思いながらも足で踏みつけてから徐々に力を入れていき、踏み潰す


彼にとってはちょっとした運動、とある者に会う前の慣らしではあったが

その者にとっては迷惑であった


『貴様…俺が集めた兵を考え無しに斬りおって』


森の中から現れた3メートルを超えた巨体

それは獣王ヴィンメイだった

あからさまに機嫌が悪い彼は唸り声を上げ、仲間であるゾンネを激しく睨んだ


共にアカツキを狙うものではあるが、二人は仲間意識を持ったことはない

飽くまで同じ木曜日なだけ


ゼペットはそんな存在を手駒にした

何故彼らにした。何故彼らを選んだ


スキルを理解し、溺れた者は動かしやすいからだ

何も知らぬ者に甘い言葉をかけ、動かすよりも一度味わった快感を知る者の方が欲という原動力は強く、勝手に動くからだ


では何故ゼペットは彼らの前に現れない?

彼らを信用し、信頼していないからである


《やめよ》


一触即発と思われた場に空から声が響き渡る

それは紛れもなく、奪宝龍ゼペットの声だ

ゾンネは一息つくと近くの岩に腰を下ろし、口を開いた


『姿を現さないとは、我らの主は弱腰か』


《口はでかいな、いずれ見る事もあろう…。だが今は仲間割れをしてもらっては困る…従わないとなればイグニスからの情報を貴様らに流すのは取り止めるぞ?》


『おい、貴様はふざけてるのか!』


獣王ヴィンメイは怒りをあらわにし、空を見上げた

犬笛で少しずつ集めた部下を殺された身の彼は正当な理由があったのにもかかわらず、ゾンネと同等にいわれる筋合いはないと不満があるからだ


《小細工レベルの部下など足しにならぬ。揃える気があるなら何故お前は古代の森で集めない?》


『嫌みならばまず貴様から潰すぞ!』


《気性が荒い王だな。ゾンネは何故殺した?》


『暇潰し』


僅かに首を傾げ、ゾンネが答えると獣王ヴィンメイは鉄球のついた鉄鞭を彼の頭上から振り落とした。

ゾンネはその場から飛び退き、ヴィンメイの攻撃は地面を砕き、衝撃波で周りの雪が吹き荒れてしまう


(人間の分際で…)


《やめよ馬鹿めが》


すると空から閃光が落ちてくる

それはゾンネとヴィンメイの近くに落ちると、衝撃波を発生させて雪を舞い上がらせた


《スキルを手に入れる前に葬られたいか?》


舞い上がる雪がおさまると、おぞましい姿が口を開く

人間の成人男性ほどの身長の体は全身真っ黒であり、体中に血管によく似た模様が描かれている

目は白く、頭部両側面からは角が生えていた


『今はそれが母体、というコトか…ゼペット』


《さてな》


それはゼペットであった

黒龍の姿から死に、転生術にて蘇った際にこのような姿で生まれ変わった


ゾンネの言葉にゼペットは答えを言わず、腕を組んで2人を交互に見てから話し始める


《念術でしか今は話せぬが、ヴィンメイよ…軍を作っている暇はないぞ?アカツキの周りに面倒な存在が集まる前に、そして世界がスキルの存在を知る前に決着をつけぬと手の届かぬ存在となる》


『俺は俺のやり方をするだけだ。俺は誰よりも先に生前の力を手に入れた!もはや誰も止められん』


『孤島の王らしい滑稽な思想であルナ』


『お前から殺してもいいんだぞ?お前はまだ未完だろう?』


《いい加減にしろ》


冷たい声と共に、ゼペットの体から瘴気が衝撃波のように全体に飛ぶ

その気に驚く獣王ヴィンメイは口を閉ざし、小さく舌打ちをすると溜息を漏らしてから構えていた武器を降ろす


ゾンネはその間、ずっとゼペットの様子を伺っていた

何かをするつもりはなく、目を細めてただ見ているだけだ

ゼペットは気づいていたが反応するのも面倒だと感じ、彼らに指示を出す


《五傑は今は存在しておらぬが…貴様らでも油断すると痛い目を見るだろう。だがゾンネが王都に文書を送ったことによりグリンピアにはそれほどの脅威は残らない筈だ。ヴィンメイよ…》


『そうかいそうかい…。せっかくのBランクをバッタバッタと殺しやがって。』


ヴィンメイはゾンネを見てそう告げた

対するゾンネは首を軽く回し、横目でヴィンメイを見たまま口を開く


『小細工に執着せずともお前のごり押しで何とかなるだろう?大事なのは内容ではなく結果ダ』


『お前に一番言われたかねぇよ人間の王め』


『その人間に殺される時、お前はそんな顔を浮かべるのダオウナ』


『死なねぇよ。弱い体で生まれた人間とは違って獅子人族の俺は先頭型の民族だ。』


ヴィンメイはそう告げると、2人に背を向けて犬笛を吹く

森の中から様々な魔物が彼の近くに集まると、ヴィンメイは振り返ることなくその場を去っていく

人間を下等種としか見ていない彼の思想に、ゼペットは《下等種か…まぁ間違いではない》と答えた



しかし、ゾンネは違った


『お前も同じか』


彼は囁くように言い放つと、ソードブレイカーを肩に担いて歩き出す

獣王ヴィンメイと同じ、そのように言われたと当たり前に解釈したゼペットは《何が言いたい?独善者》と彼を小馬鹿にする言葉を口にする

ゾンネはピクンと体を反応させて足を止めるが、直ぐに歩きながら彼に言ったのだ


『神以外の生物は皆平等ダ。時間という流れは生涯ダからだ、生きとし生ける者全テに同じ時が進む…それを理解しないという事は今だけを生きる者だという証明だ』


暴君ゾンネという男をゼペットは従えた部下の中で一番情報が少ない者であり、歴史上の記録が所々欠けていた

人間の姿をした悪魔、スキルの力を使ってその時代を恐怖に陥れたという単純な情報しかないのだ

その時代にゼペットも生きていた。しかし人間の興じる戦争に興味がなく、出会うことはなかった


《ムゲンは失敗だったが。お前らはそうだろうな》


誰もいない森の中でゼペットの声が響き渡る

実際、ムゲンは運が悪いともいえるが…頭が悪いとも捉えることが出来る

彼は生物を食べれば食べる程強くなる、それは生前の力を手に入れるという事を意味している


殆ど未完の状態でグリモワールと遭遇し、瀕死の状態で逃げずにアカツキ達と戦って死んだ

逃げてから準備をしなかった彼は自身の強さに溺れていたのである


ムゲンは生前、それはそれは強くて誰も敵わないと言われるほどの豪傑だ

肉体に力がまだ戻っていなくとも、頭は当時を覚えていた

それが過信を生み出し、負けた原因になっている



今、スキル入手に一番近いのは獣王ヴィンメイ

ゼペットは単純な膂力ならば今まで見た人型の生物の中ではずば抜けて強いと確信しており、奴なら手に入れるだろうと予測している

しかし、ゾンネの先ほどの言葉が気にかかるゼペットは去っていった方向を見つめると、溜息を漏らしてから瘴気を体から出して消えていく




・・・・・・・・・




『黒龍は人間より高度な知性を持つと聞いていたが…』


ゾンネは森の中を歩きながら口を開く

落胆した雰囲気を見せる彼はそこで話を止め、背後から飛び出してくる魔物を倒す為に肩に担いだソードブレイカーを素早く降ろす


ここは幻界の森の近く、強力な魔物が多い

彼に飛び込んだ哀れな魔物はBランクのサーベルタイガー

Bの王とも言われることがある魔物はゾンネが振り向くと同時に縦に両断され、別れた肉体は彼をすり抜けるようにして地面に沈んでいく


『我は何故記憶がない?家族の顔も思い出せず…鮮明に思い出せるのは他国の罪のない民を燃やし、国を滅ぼして突き進んだ人生…だが意味があった。戦争を終わらせるためにはあれしかなかったが…独善的か…理解されたいとも思わなイ我には意味のない言葉ヨ。理解されれば意味がない』


最後にアカツキと出会ってから、彼はまだ次なる記憶が戻っていない

それでもサーベルタイガーを一撃で葬る力はある

ソードブレイカーを下に下げたまま、血が武器を通って地面に落ちていく

彼はその様子を眺めながら囁く


『本当は、やりたくなかっタ』


深夜の森を無鉄砲に突き進んだ彼は遭遇した赤猪を倒し、肉を斬り落とすと生のまま汚らしく頬張りながら歩く

すると彼の前に思いがけない者が現れる


『あ…』


冒険者だった。しかも1人

おぞましい姿のゾンネに驚愕を浮かべるその者の腹部からは血が流れ出ており、布を当てて左手でおさえていた

怪我をしてしまい。森から出る事が困難になった遭難者だ


知らぬ魔物、気配はなくてもただものじゃないと悟る冒険者は顔を真っ青にしたまま、右手に持つロングソードをゾンネに向ける


(人間だと…?)


ゾンネも驚くが、顔に出さずに目を細めて彼を静かに見つけた

マグナ国、独立機関である協会を全て作ったのはここにいるゾンネである

目の前にいる者を殺せばどうなるか予想がつく


冒険者ギルド運営委員会となれば救助隊として冒険者が派遣される筈

面倒ごとになるとわかっていたゾンネはソードブレイカーを向けず、彼から顔を逸らした


『お…お前は何者だ!』


怯えた声でゾンネに荒げた声を上げる冒険者はまだ若く、アカツキと同じ歳だ

当然アカツキも知る者である

彼の問いに答える利益すらないと感じたゾンネはまるて聞こえなかったかのように彼を無視し、彼の真横を通ろうと歩き出す


『ひっ!来るな!化け物め!』


(面倒な冒険者だ…まだ死ぬ覚悟を持たずして冒険者になるか…しかし)


まだ若い、日が浅いならば仕方がないのだろうと納得を心に浮かける


『邪魔ダ、どけ小僧』


『あっ…』


冒険者直ぐ横を通ろうとするゾンネから離れ、目を見開いたまま歩き去ろうとする背中を見る

ゾンネはどこに向かうのか。それは彼自身も決めていない

しかし、記憶を知るためには森の中で自然に思い出すよりも、記録を見たほうが早い


(王都のマグナ城…我の真実の記録は宝物殿にしかない筈だ、そしてその記録の書いた箱を開けるカギは)


ゾンネは懐から鍵を取り出し、不気味な笑みを浮かべた

元々は優しい王とは思えないほどの悪魔のような笑み、その顔は誰が見ても人間の事は思えないだろう


『ゼペットには陽動のためと言われていたが…行くしかあるまい』


ゾンネは党首の命令を無視し、王都に向かう事を決める

なるべく隠密を基本としていた彼は、それを止める事にした

今の姿で行けばどうなるか、ゾンネ自身もわかっている


覚悟の上だ




『助けてください』


ゾンネは振り返ると先ほどの冒険者が息を切らしながら彼を追いかけてきたのだ

何故?と彼は自分に何度も疑問を投げる

死ぬ間際、人はとんでもない事をすることをゾンネは思い出す


(行動爆発か?)


冒険者は前屈みのまま、ゾンネを見つめた

その顔には恐怖に染まっているが、それは目の前にいるゾンネの姿が原因だけとは思えない

今の状況に対して、その方がしっくりくる


『森を出たければあっちだ。我に近づくな』


『お願いします…街に帰りたいんです』


『我にすがる思いとは面白い人間だ。これは貴様の責任だ…冬の森ではいつもより浅い場所で大事の備えるのがベスト、お前はいつも通りか…それ以上に欲を出してここまで来た。1人となればなおさらだ』


『仲間とはぐれたんです…』


冒険者は震える声でゾンネに言い放つ

剣をしまい、ゾンネの首を垂れる


(傷は深くはないが…)


彼の腹部の傷を見て、彼は押し黙る

どうやら3人チームであり、ゾンネの目の前にいる冒険者は魔物との交戦中に勝てないと感じて撤退したが、逃げる途中で彼は転倒してしまってはぐれたとゾンネに勝手に説明をし始めた


聞いていない、とゾンネは心の中で口を開く

だが冒険者の必死な様子を見たゾンネは彼に対して殺意はまったくなかった

暴君の筈なのに、人を殺す事など生前に幾度となくしてきた彼はそんな感情が湧かない


(殺しても良い筈だが…何かがそれを止めている、なんだ?記憶にない何かだ…。)


ゾンネは悩んだ

頭の中で眠る何かが彼に対し、殺生を良しとしていなかった

その正体は彼には全く分からい


『…冒険者になってどのくらいだ?貴様』


『僕は…半年です』


今年からの新米冒険者

ここからグリンピアまでの距離を考えると、帰るなんて困難だとゾンネは確信する

街まで2時間はかかるであろう森の中、そして彼の腹部の傷

遭遇した魔物と対峙するなと到底不可能だ


半泣きの冒険者は彼に両膝をつき、頭を下げる

人外であるゾンネに何度も首を垂れ、森を出たいと願う


『生きる為に、抗う姿に人間の美徳はある』


ゾンネは無意識にそう言い放った

それが引き金となる


その言葉に驚いた冒険者は顔を持ち上げ、ゾンネにとある言葉を言い放ってしまったのだ


『なぜ英雄王シュナイダー様の言葉を』


『シュナイ…ダー?』


『それは暴君ゾンネの息子であり、マグナ国2代目の国王の言葉です』


ゾンネは生前にいつも口にしていた

『生きる為に、抗う姿に人間の美徳はある』

泥にまみれるような必死を見せた者だけが本当の未来を見ることが出来る

そう言う意味でゾンネは国民に対して言い放ち、自分の息子である愛するシュナイダーにも何度も聞かせていた


恰好ばかり気にしていたら地力はつかない

格好悪い者だけが最後に勝つのが世の中だ、彼は愛する息子にそう話したことが何度もある



ゾンネは思い出した

自身には家族がいる、その中の1人が息子である英雄王シュナイダー

彼は頭の中で息子との最後の会話を思い出した



《我の最悪をお前が消すのだ。母さんを頼むぞ!》


《父さん!母さんはどうするんだ!本当に生き返ると思ってるのか!》


《神なら出来る!お前は母さんと共に、我の犯した事が間違いだったと声明をだして国を再建しろ!平和を作るにはこれしかなかったんだ…我がこうなるしか…》


《父さんはどうするんだよ》


《忘れろ!母さんにこう伝えてくれ…お前を巻き込みたくなかった、愛していると伝えてくれ。そして息子よ。すまなかった…こんな父を持ちたくなかっただろう。あとはお前の時代だ…他国と協力し。我が達成できなかった未来を、これから生まれる子らに見せるのだぞ!》


《誰か!父さんを止めて!》







(シュナイダー!)


ゾンネの目がカッと開くと、彼を中心に光の柱が現れて包み込んだ

それは空まで昇り、星の見えない空を僅かに消し飛ばす


『ぬがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』


ソードブレイカーを落とし、両手で頭をおさえて叫ぶゾンネ

冒険者は何が起きているのかわからずに尻もちをついて体を震わせた

空まで伸びる光の柱、ゾンネに向かって何かが流れ込んでいくと一瞬でそれは消え去り、普通の森に戻る


数秒の静寂の中、ゾンネは乾いた笑みを浮かべた


(我は本当に、仕方なく人を殺したのか…。やりたくもなかった)


一部の記憶が戻ったゾンネは自身の両手を見た

その手は震えており、寒さではない

罪悪感という巨大な波が彼を襲う


『…シュナイダーが王となってどうなった?』


『より良い国になりました』


博打の質問をしたゾンネは冒険者の答えによって気が和らいだ

思いもよらないタイミングでの記憶に彼は他にも知っているのかと、当時の歴史を彼に聞こうとしてもゾンネが知る事しか知らず


母さんという者の名だけは学園でも誰も知らないと口にする

ゾンネの妻、その名と自身がテラ・トーヴァにした願いを知らないといけないゾンネは王都に行く決意がより固まった


『ゴロロロ』


喉を鳴らすような鳴き声、そして全長3メートル級の白い猛獣

両手の爪は長く、鋭い

白い熊とも思えるその巨躯は目をギラギラ光らせ、2人の前に現れた


魔物ランクB、ジャクラール

冬に現れる熊種の魔物である


普通に戦えばアカツキ達でも死闘は免れない

ゾンネは振り返り、顔色一つ変えずに襲い掛かるジャクラールの振り落とされた爪を素早く拾ったソードブレイカーで弾き、破壊する


自分より小さな生物に力負けしたと感じたジャクラールは驚愕を浮かべながらも仰け反ると、ゾンネが懐に潜り込んだ


腰の裏に装着していたソードブレイカーの鞘に武器を納めながら尻もちをつく冒険者に体を向けて囁く


『刀界』


ゾンネの背後から凄まじい衝撃波と共に無数の斬撃がジャクラールを襲う

魔物は大きな巨体を宙に浮かべ、体中を斬り刻まれながら吹き飛んでいく

断末魔すら上げる暇もなく、白い体毛を真っ赤に染めて地面に倒れる魔物をゾンネは見る事すらしない


『記憶が戻れば、技も戻る…あと少しだ』


『あ…あ…』


『感謝しよう。国の子よ…面倒だがある程度は送ってやろう』






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