第228話 7 北西都市グングニィル

クリジェスタ、そしてエーデルハイドは2週間を要してエルベルト山に一番近い街である北西都市グングニィルへと辿り着く

それまでの道中に問題は起きず、移動日ばかりであったが目的地近辺に近づいたことにより彼らはホッと胸を撫でおろす


しかし一番近いわけではない

ロイヤルフラッシュ聖騎士長の故郷である黒豹人族の集落跡地を抜けなければならないのだ

そこにはマグナ国総合騎士会が警備で蔓延っており、一般人は立ち入り禁止区域となっている

新たに防壁も立てられ、そこさえ超えれば彼らは山へと真っすぐ向かう事が出来るのだ


グングニィルに辿り着いた時には既に夜の19時

一同は宿に荷物を置いてから近くの定食屋にて食事を済ませる事にした

クワイエットの怪我はほぼ治りかけており、多少の運動も出来る

しかしリゲルはギブスが外れてもリハビリに専念し、無理をしない事にしていた


一般客が多い店であり、冒険者は彼らと2組程度しか見当たらない

大きな丸テーブルに座ると全員で注文をし、料理が来るまで待つこととなる


アネット

『グリンピアの倍以上ある大きさの街だね』


シエラ

『果物が有名な街、キウイジュース』


リゲル

『果物か…でも肉食いてぇ』


クリスハート

『リゲルさん、怪我は殆ど完治しているのでは?』


リゲル

『多分大丈夫だが…ちっとまた折れると面倒だ。筋肉落ちないクスリと併用して骨の治りが早くなる馬鹿高い薬を飲んでるから運動は出来るだろうけどよ』


クワイエット

『お金かけたねぇリゲル、僕は1週間分だけだよ』


リゲル

『俺は間に合わないと思ったから飲んでるんだ。少し複雑に折れてたんだ』


シエラ

『でも治る速度本当速い、薬って凄い』


そうした他愛のない話をしていると、彼らに料理が運び込まれた

リゲルだけは唐揚げ定食、他はこのグングニィル特性馬刺し定食という変わったメニューだ

食べ始めると誰もが会話を止め、食べる事に夢中になる


キウイジュースを美味しそうに飲むアネットは直ぐにお代わりを頼み、2杯目のキウイジュースを手に幸せそうだ


この雰囲気に慣れていたリゲルは微笑みながらも唐揚げを口に運ぶが、ここで思わぬ集団と出くわす


店に入ってきたのは銀色の鎧をした騎士、それは聖騎士であったのだ

人数は8人、丁度1小隊である


『飯を出せ…急げ』


堂々と威張り散らしながら現れる様子に周りは少しどよめき、店員はたどたどしくも聖騎士達から注文を聞いて奥に走っていく

丸テーブルに座り、仲間内で何かを話す様子をリゲルとクワイエットは目を細めて伺うが、声をかけう気は無い


アネット

『感じ悪、あれ何さ…本当に聖騎士?』


ルーミア

『なんだろ、リゲル君とクワイエット君って綺麗なんだなって感じる』


リゲル

『余計だ馬鹿』


クリスハート

『1番隊とは違いますね』


リゲル

『まぁ俺達には関係ねぇ、無視して食え』


そうして食事を楽しんでいたのだが、やはり揉め事は起きた

聖騎士の8人に料理が運ばれていくと、年長者であろう者が料理を見て立ち上がったのだ


『遅いぞ!我々が誰だかわかってるのか』


『すす…すいません』


定員の胸倉をつかむ聖騎士、なにやら今日は腹の虫の居所が悪いようだ

そういうのは見逃せないシエラは立ち上がると、聖騎士達の元に歩み寄る

身長は146センチ、その小さな姿に聖騎士は一瞬驚くと、彼女は目を細めて口を開いた


シエラ

『五月蠅い、迷惑』


聖騎士

『なんだ貴様、我々が聖騎士と見てわからぬか』


リゲル

『あのロリ女…クワイエット、準備』


クワイエット

『うん』


アネット

(あこれ聖騎士ボコられる感じだわ)


ルーミア

(確実にひと悶着起きるわこれ)


シエラが聖騎士に注意をすると、そこでカッとなった一番年長者である聖騎士が彼女を突き飛ばして床に倒す


『子供がでしゃばるな!斬られたいのか!』


それが非常に不味かった

仲間が倒されて立ち上がるエーデルハイド

しかし、仲間を助けるために向かうという概念はよりも1人の人間を止めないと非常に不味いという概念が勝る


クワイエット

『じゃあ斬るね』


聖騎士

『!?』


横から現れたクワイエットに聖騎士は驚愕を浮かべた

その時には既にシエラを押し倒してしまった男の右腕を深く斬り裂いた

鮮血が噴き出し、男は叫び声をあげながらその場に両膝をつくと、他の7人の聖騎士はクワイエットに剣を向ける


しかし、気迫はない

相手が誰だかわかっているからだ


慌ただしい店内、静寂の中で1人の男だけが腕を深く斬り裂かれ、悶え苦しむ

その様をクワイエットは見下ろし、シエラを抱き起してから後ろに移動させると剣を肩に担ぐ

普段見せない目を細めての静かな怒り、これにはエーデルハイドも迂闊に近付けなかった


クワイエット

『やぁ雑魚8番隊の隊長モンカーさん?僕の彼女に何してんのさ?』


モンカー

『貴様…何故ここに』


クワイエット

『元上官にその口の聞き方なってないね。ねぇリゲル』


リゲル

『屑だから言ってもわかんねぇよ、なぁモンカーさんよぉ?』


モンカー

『ひっ…お前ら』


聖騎士

『わ…私らでは止めれません!』


聖騎士

『元1番隊の精鋭中の精鋭ですよ…。』


クワイエット

『ロイヤルフラッシュ聖騎士長さんに報告しとくよ?一般市民に権力振りかざすのはあの人って大っ嫌いだからさ』


モンカー

『ぐぅ!貴様ら、この騒ぎで無事に寛げると思ってるのか…』


クワイエット

『次口の聞き方間違えたら首切り落とすよ?一応確認だけど、上にどう報告する気さ?』


怒りを顔に浮かべるモンカー

しかし騒ぎは良い形で静まる事となる


ジキット

『それまでです。モンカー』


現れたのは聖騎士1番隊のジキット

これにはエーデルハイドは驚いてしまう

モンカーは『あいつらがいきなり斬ってきた!増援を呼ぶべきだ!』と叫ぶが

ジキットはリゲルら2人を真剣な顔を数秒眺めてからモンカーに言い放つ


ジキット

『騒ぎを聞きつけてきたが。お前は再三にわたって街に迷惑をかけている話は俺の耳にも入っている、それにあの2人は相当な事を去れない限り手出ししてこない』


モンカー

『くっ!』


ジキット

『信用問題ってわかりますモンカー?貴方よりも彼らの方が優秀なんですよ。その気になれば上はこの一件に関して貴方の行動が起こした失態にする可能性は高いですよ?』


そこでモンカーは諦めたのか、項垂れた

他の8番隊はモンカーを連れてその場を立ち去ると、ジキットはクワイエットに声をかける


『すいませんクワイエットさん、その顔怖いんでやめてください。あいつをどうするかはこちらで決めますので』


クワイエット

『まぁいいさ。シエラちゃん大丈夫?』


シエラ

『うん、嬉しいけど…やり過ぎ』


クワイエット

『あはは…』


ジキット

『なるほど、大体は予想しましたが…何をしにここに来たかはあえて聞きません。幇助と見なされたくないので』


リゲル

『なら聞くな。ちなみに集落跡地の警備は何番隊だ』


ジキット

『1番隊と2番隊、そしてマグナ国総合騎士会の騎士100人』


席に戻るリゲルとクワイエット、しかし何故かジキットまでも空いている席に座ってしまう

これにはエーデルハイドも首を傾げた


ジキット

『エルベルト山の火口付近には確かに龍が今も住んでいると言われてます、そして神デミトリは確かに帝龍はエルベルト山にいるとも言いました』


リゲル

『のってきたなお前』


ジキット

『独り言です。1番見張りが少ない深夜の3時頃ならば防壁の外側から通れば木々が邪魔で防壁上にいる見張りの目を盗んで進めるでしょうね。』


ルーミア

『この人ちょっと好きになりそう』


僅かに顔を赤くし、咳払いをするジキットは店員から水をもらうとがぶ飲みする

遠回しに手助けのための情報だとわかった全員の口には自然と笑みがこぼれた


リゲル

『元気かよ?』


ジキット

『それなりにですよ。カイさんなんて森から生還してからは古くさい考えが多少抜け落ちて話しやすいです。』


クリスハート

『あの隊長さんですね』


ジキット

『リゲルさんとクワイエットさんの影響でしょうね。1番隊は街には私だけ、ちょっとした買い物で寄っただけなので直ぐに集落跡地に向かいますよ。絶対に深夜3時にいったら駄目ですよ?見張りが30分前後で極端に少なくなりますから』


リゲル

『あぁ行かねぇよ。』


クワイエット

『行かない、約束』


シエラ

『行かない!』


アネット

『さっきついたばかりだし今日は休んで明日行かないかな』


ジキットは店内の騒動は片付けておくと話すと、リゲル達を帰らせた。

そのまま宿の1階ロビーにある休憩スペースの椅子に座る

辿り着いたばかりであるため、今日の深夜決行は誰もが望まなかった


明日の深夜

それまで十分に体を休めながらも観光になる


ルーミア

『良いお友だちだこと』


クワイエット

『ジキットだからね』


アネット

『面白かったわぁ、案外話のわかる人もいるんだねぇ』


クリスハート

『一応時間帯の悩みはすんなり解消されましたが、今度は山登りですね』


大きな山脈のため、火口付近までいくのにはかなりの苦労を要する

今までの山とは違い、頂上付近に近づくにつれて風は冷たく酸素は薄い

人間がいるには辛い場所だ


リゲル

『帝龍か…どんな化け物だ』


ルーミア

『倒すためにいくんじゃないよね?』


リゲル

『倒すのは無理だ、確実にSランクだしよ』


クワイエット

『きっと予期せぬ事が起きるから油断しちゃだめだよ』


その通りだった

彼らが想像している事態には決してならない

相手は最強生物の龍種だからだ 



シエラ

『予想として1番高いのは何』


クワイエット

『試練だとか叫びながら襲ってくる』


リゲル

『人間風情が死に晒せと叫びながらブレス吐く』


シエラ

(どっちも希望ない)


アネット

(あ、死ぬわ)


ルーミア

(処女で死にたくないなぁ)


クリスハート

『その2つで1番の可能性は?』


彼女が問う

するとリゲルとクワイエットは直ぐに答える


『『試練』』


こうして自由時間となり

クワイエットはシエラと共に街を練り歩く

王族が抱える総合騎士会であろう騎士が数多く街を歩いており、冒険者は迂闊に問題を起こせない


だからこそ多少この街の治安は他よりも良く見られていた


クワイエット

『この街にもランクAの冒険者チームは1組いる。コルトパイソンっていう5人の双剣集団、でも一人は魔法使いだね』


シエラ

『詳しい、さすがクワイエット君』


クワイエット

『えへへ、魔法使いの名はマーリン。水魔法ならば彼女が国内で1番と言われている称号ウンディーネの持ち主、ケアより劣るけどアクアヒールっていう水魔法の回復魔法が使えるんだってさ。』


シエラ

『詳し過ぎ』


こうして生どら焼きなる変わった菓子を買うと、二人は宿に戻って休憩所スペースで食べ始めた

フロントに作業員がいるが、他の客の姿は見受けられない

クワイエットは勝手にデート気分を味わいながら生どら焼きを食べていると、ふと気になった事を口にする


『なんだかクリスハートちゃん、リゲル避けてる?』


『避けてると言うより、なんというか』


女性だからこそわかるシエラ

しかしクワイエットから見ると二人がいつもと違うと感じていた


避けている、彼がそう思うならばとシエラは嫌な予感を微かに感じたが、直ぐにその考えを頭から離した


『リゲルは普通だけど、彼が話しかけるとクリスハートちゃん少し下がるようになった感じが多くてさ』


『リゲル君、変に思ってなければ良いんだけど』


『どっちもこういうのは不馴れだからかも知れないけどね』


パゴラ村からクリスハートは確かにリゲルと話すときの雰囲気が変わってしまった

距離は取るものの、顔は少し赤い

女性陣から見ればそれは面白くなってきた話ではあるが、リゲルの反応が悪いのだ


(リゲル君、気づいてない)


彼にはその意味は伝わってないのだ

女性という生き物を知らずして生きていたから


その頃、リゲルは部屋で腕立て伏せをして体を鍛えていた

パンツだけで汗を流しながらも机の上の時計を気にしているのは風呂の時間が終わる前に入るためだ


(あと一時間いけるか)


その肉体は聖騎士1番隊に相応しい体をしており、幾多の戦いで傷付いたであろう古傷がある


彼はいつもより永く筋トレをした

やらずにはいられなかったからだ


(薬飲んでたから筋肉は殆んど落ちてないが、心配だな)


体中を汗で濡らし

立ち上がると急にドアが開く


入ってきたのはアネットだった

ノックしない常習犯として聞いていたが、それを彼女はリゲルにも躊躇い無く実行する


『あらま、何してたん?』


『筋トレだ。それよりどうした』


『宿の朝食が7時半から8時に変わったお知らせ』


『そうか』


リゲルは近くの椅子に座ると何かを考え込む

それをアネットは知らない振りをすると手をヒラヒラさせながら部屋を出ていく


リゲル

(アネットか…)


こうして部屋を出たアネットは自分の部屋に行かずにルーミアの部屋に向かった

椅子に座って焼き芋を美味しそうに食べるルーミアを傍らに、アネットはベッドに腰掛け、口を開く


『筋トレし過ぎて汗が滝みたいに出てたね。ありゃやり過ぎだわ』


『体の調子を取り戻すにしては過度だと思うけどねぇ』


『まぁリゲル君も答え出ないんでしょ、どっちも攻め手じゃないから放置したらなんだか気まずい状態悪化しそうだし』


『どうする?』


『一先ず様子見してみよっか』













リゲルは宿の風呂に向かう

脱衣場は狭く、頑張っても10人がやっとの広さ

そして風呂場もさほど広くはない


(一人か)


貸し切り状態みたいで気分が楽になる彼は汗を洗い流すと直ぐに湯船に浸かり、天井にある天窓を眺めた

ヒンヤリとした心地よい冷気にリゲルは眠くなるが、顔を叩いて眠気を冷ます


背伸びをしながらも考え事をしていると、誰かが風呂場に現れる

それは鼻唄を歌うクワイエットであり、腰を左右に揺らして現れたのだ


明らかに上機嫌な彼にリゲルは首を傾げると、クワイエットは立ったまま腕を組んで口を開いた


『今日はシエラちゃん、手を繋いでくれた』


『上機嫌はそれか』


『まぁね』


クワイエットも直ぐに体を洗い流すと、湯船に浸かって大きな欠伸を見せた

数秒の静寂、舞い上がる湯気は天窓から吹く風によって僅かに漂い、二人はそれをじっと見つめる


『どうなるかな、エルベルト』


『道中が鬼門だ、崖だらけでロッククライミングでもしねぇと到底無理だ』


『正規ルートは聖騎士じゃなく総合騎士会が見張ってる筈だしね。迂回するとなると崖ばかりだね』


『自然にできた洞窟がいくつかあるのは知ってるが、それがどこに続いているかはわからんのもな』


『それに魔物。ある程度強い』


リゲル

(くそ…なんとかならねぇか)


彼らは考えた

集落跡地を抜けるまではまだ良い

だが最大の壁は正規ルートの入り口にも見張り小屋があり、物見矢倉から警備する者は少なくともいる


そのルートを進まないと崖をよじ登ることになるのだ


『考えたぜ』


『リゲルの考えたは少し信用ないなぁ』


『いや、最高の策だ』


リゲルはクワイエットの耳元でそれを話す

大胆な作戦に流石のクワイエットも苦笑いが顔に浮かぶ


『どうだ?』


何故そこまで自信があるのか、クワイエットにはわからなかった

だがしかし、やるしかない

仕方なく彼はリゲルの案を飲むことにした


こうして次の日、時刻は深夜の1時

エーデルハイドとクリジェスタは静かすぎる黒いロープを羽織い街中を歩き、北西にある黒豹人族の集落跡地へと向かう

すれ違う人は警備兵だけであり、冒険者という事もあって怪しまれない


夜の森に向かう冒険者は珍しくないからだ

話し掛けられたとしても『マジックゾンビかな?』と今話題のアンデット種による魔法スキルをドロップするために向かうのだろうと勝手に勘違いしてくれるからだ


シエラ

『寝てる時間だから少し感覚が…』


リゲル

『沢山寝たろ。他は大丈夫か?』


アネット

『大丈夫さね』


クワイエット

『集落の跡地周りは森で囲まれてるから魔物狙いを装っていこう、跡地に近づいたらできるだけ刃物は抜かない、防壁上の明かりでこっちの武器が反射しちゃうとバレる』


ルーミア

『だからローブね』


クワイエット

『防具の鉄部分が反射するケースも珍しくないからね』


リゲル

『もうすぐ街の外だ』


こうして彼らは街を囲む防壁の近くに辿り着いた







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