第139話 最終決戦 獣王ヴィンメイ 5

森の入口に辿り着いた時、そこには多くの警備兵が森に顔を向けて警戒をしていた

その中に父さんはいないが、シグレさんがいる


何故かリゲルとクワイエットさんが彼から顔を逸らす

何かあったんだろうか


リゲル

『大勢だね。クローディアさん』


クローディア

『これでも足りないわよ。』


足りない

その言葉に冒険者達は息を飲む込んだ

シグレさんからの話だと森に異変はない、しかし可笑しいという矛盾な答えが出てくる

騒がしい様子はないけど、静かすぎるとシグレさんは言いながら森に目を向けた


ティア

『お兄ちゃん、ゲイルさんは?』


シグレ

『避難誘導さ、終わればここを守備することになってるからゲイルさんがくれば僕も魔物退治に参加するよ』


心強い

誰もが一度そう思ったのだろう

冒険者達の顔が少し和らぐ、しかしシグレさんは隣街から来た冒険者やグリンピアの冒険者を眺め、首を傾げた


『逃げたら殴り殺すよ?』


ゾッとした者、大勢だ


《冗談だろうが、そう思えねぇんだよなぁ》


ティア

『お兄ちゃん、冗談に見えないからやめて』


シグレ

『そうかそうか。冗談だよ』


ウェイザーからきた冒険者でさえ彼の存在感に何かを感じ、触れる事を止めた

真剣な目でシグレさんを見つめ、仲間と共に何か頷いている

その中で感情をおさえきれない者がいた


クロウラウズ

『貴様、強いな』


シグレ

『あんた目立つね。孤高の黒鳥って言われるウェイザーの冒険者がいると聞いたことがあるけど、一目見ただけでわかったよ』


クロウラウズ

『魔物が来る前に楽しめそうだ』


ふとクロウラウズの雰囲気が変わる

俺の体がチクチクしてきた

これは…不味いぞ


シグレさんはクロウラウズさんの気の変化に気づき、不気味な笑みを浮かべる

勝手な火蓋が切って落とされそうだ

外に出ると意外と存在感が薄いマキナさんが2人の間に割って入り、『終わってからにしろ若造』と言う


納得したのだろう2人は一息つき、森に体を向けた


クワイエット

『ねぇ、ティアちゃんのお兄さんって何者なの?すっごいわけわかんないんだけど』


ティア

『私のお兄ちゃんだけど…お兄ちゃんと何かあったんですか?』


クワイエット

『いや、ないんだけどさ…』


リゲル

『わけわかんねぇ兄貴だな』


ティア

『え?』


リリディが俺の耳元で『ぶつかりそうになったんじゃないですか?どこかで』と話してくる

多分そうかもしれないな

苦手意識か…


一先ずここで待機命令がクローディアさんから出ると、彼女は直ぐに俺達に歩み寄る

放たれた言葉は『森の様子を見に行きなさい、変化があれば赤の発煙弾を上げなさい』そう言われて彼女から小石サイズの赤くて丸い球を渡してきた

これは地面に叩きつけるだけでいい便利な信号弾


俺は受け取ると、仲間に顔を向けて頷く


リュウグウ

『無理はせず様子を見るだけだ、勘違いするなよ?』


アカツキ

『ああ、飽く迄これは調査だ』


何故俺達がその役目を担うのか

簡単な事だ、クローディアさんの口から『調査しに森に入った警部兵5名が指定した時間になっても戻ってきていない』とシグレさんから聞いたらしいのだ

森に異変がもう起きている


『ニャハハーン』


そういえばこいつも気配消すの美味い

いるってわかっていてもたまにいることを忘れる

どうやら他の冒険者達はギルハルドの存在に今気づいたようであり、驚愕を浮かべて武器を構えだした


『なんだこの魔物!』


『いつから!?』


リリディ

『僕のパートナーです、魔物だと思って襲うと痛い目見るのでやめたほうがいいです』


彼は苦笑いを浮かべながらギルハルドの前に立ち、簡単に警告する

魔物のパートナーと知るや、彼らはホッと胸を撫でおろしてから武器を降ろす


『知らない魔物をパートナーとは、なんの魔物だ』


『見たことない猫だ。ニャン太九郎ではないようだ』


クロウラウズ

『魔物ランクBのヒドゥンハルドか』


『Bっ!?』


驚く冒険者など気にせず、クロウラウズはギルハルドに近づく

リリディは『危ないですよ』と焦るが、面白い光景が目の前に広がる

なんとギルハルドはクロウラウズに近づき、2足歩行になると彼の足元を嗅いでから『ミャハン?』と鳴いた


あまり警戒していない

クロウラウズさんは鳥人族、男だ

男は主人であるリリディにしか近づくのを嫌がるのに何故だろう

ギルハルドはクロウラウズが近づくのを許した


クロウラウズ

『未知な猫種、俺もこの目で見たのは2度目…』


リリディ

『見たことがあるんですか』


クロウラウズ

『人間には姿を現すことはない、俺が鳥人族だから僅かに気を許しているかもな』


彼はしゃがみ込み、ギルハルドの透き通る目を見つめてとある言葉を言い放つ


『あの逸話が本当に起きるなら、やはり面白い人生に足を突っ込んでみたくなるな』


その意味を聞こうとすると、クローディアさんが急かす

俺達イディオットは森に向かって歩き出すと、誰かがついてくる

まぁわかってたよ


リゲル

『馬鹿か?俺は監視役』


クワイエット

『あはは・・ごめんねぇアカツキ君』


アカツキ

『いえ、気にしてないですけど…』


クワイエット

『後ろはこっちで見とくから』


敵だった彼らは今は微妙に味方

しかし、心強いのは確かだ


森の中に入ると、耳鳴りがしてきた

静かすぎて不気味だよ


いつの間にか皆の顔は真剣になるが俺も同じさ

ちょっとした音にも敏感になっている気がする


ティア

『気配なし、でも隠密スキル持ちがいた時の為にちゃんと周り見て探索しよっか』


アカツキ

『そうしよう。ティアマトは一発いつでもお見舞いできる準備頼む』


ティアマト

『うっし。任せとけ…取りこぼしたら頼むわ』


リリディ

『勿論』


リュウグウ

『当たり前だ』


アカツキ

『ティアは魔力消費は抑えてくれ。白魔法を温存してほしい』


ティア

『そだね、本番は頑張るからここは任せる』


《お前ら、集中しとけ?面倒な魔物だぞ》


俺はテラ・トーヴァの声を聞いたと同時に森全体に強く集中した

それが不幸中の幸いとなったのか、俺達の気配感知ではとらえきれない魔物が目にも止まらぬ速さで突っ込んできたのだ


『ニャ!』


『ニャン!』


魔物ランクCのニャン太九郎

キュウソネコカミ発動中ってか!

絶対にそうだ


だが今の俺達ならば見える

ニャン太九郎2匹は爪を前に突きだし、突き刺そうと突っ込んでくる


ティアマト

『間に合う』


リュウグウ

『私もだ』


ティアマトは片手斧を振り、リュウグウは槍を突いてニャン太九郎2匹とすれ違う

そこで勝敗は決した

断末魔など出す暇もなくニャン太九郎2匹は空中で血を流し、地面に転がった

この魔物はタフではない、撃たれ弱いんだよ


2匹はすでに絶命しており、その体から魔石が出てくるとギルハルドが近づき『ニャハーン?』と言いながら息絶えたニャン太九郎の頭を軽い猫パンチで叩いていた


リゲル

『お?今のに対応できるとは驚きだ』


クワイエット

『みんな良い感じだね』


そう言いながらクワイエットは横から飛び出してきたキュウソネコカミ発動中の別のニャン太九郎の爪のを避け、通過させずに尻尾を掴んだ


『ミギャァァァァ!』


悲鳴を上げるニャン太九郎、よく尻尾が千切れなかったな

クワイエットはそのまま地面に叩きつけようと勢いをつけたが、そこでギルハルドが初めて聞く鳴き声で鳴いた


『ニィィィィアァァァァァァァァン』


スロウテンポな鳴き声

クワイエットはその声に動きを止めてしまう


《本当にその特殊技使えんの!?!?》


アカツキ

『特殊技?』


リリディ

『どういう事ですかテラさん』


《まぁ見とけ、クワイエット…その猫を離せ、もう敵じゃない》


クワイエット

『え?あ…』


するとニャン太九郎は素早くクワイエットに掴まれていた尻尾を引き抜き、近くに着地するとギルハルドに近くにより、頭を垂れた

その光景に驚いていると、更にあり得ない事が起きる


森の中から猫の鳴き声、それはニャン太九郎だ

ぞろぞろと俺達の周りから姿を現す、それは13匹と多い


何が起きているのかわからず、俺達はどうしていいかもわからない

襲ってくるのかどうなのか…


『ニャハハーン』


『『『ミャーン』』』


ティア

『なんかギルハルドちゃんがボス猫になってる!』


全てのニャン太九郎がギルハルドに顔を向け、座ったまま鳴く

主従関係に近いとなんとなく勘付く


アカツキ

『説明しろテラ、この光景は慣れない…』


《ヒドゥンハルドにはとある特殊能力がある、猫友》


ティア

『ネコトモ?』


《自身より弱い力の同種を呼び、ボスになるから猫友》


よし、わからん

要するに仲間を呼んでるってことか

猫友って可愛い技名なのにボスとして従える感じにみえるけども

そこは深く考えるのはよそう


リゲル

『とんでもねぇ猫だなメガネ』


リリディ

『こっちも初めてですよ』


リゲル

『暴れない様にしとけ?流石にボス猫は面倒だ』


彼はそう言いながらその場でゴロゴロし始める多くのニャン太九郎を眺めた

凄い光景だ。でも本来の目的を忘れてはならない

ギルハルドはニャン太九郎を従え、俺達と共に歩き出す


あまり深く入らず、辺りを歩くだけでいい

他に魔物は見当たらない、気配すらもない


昼を過ぎたあたりか、そこでリュウグウが口を開く


『ヒドゥンハルドの次ってあるのか?テラ馬鹿野郎』


《お前本当に俺が嫌いだろ》


『当たり前だ、答えろ』


《あるが…そんなんになったら俺の目玉が飛び出すわ》


ティアマト

『何がいるんだよ、これ以上の規格外猫っつぅのは』


《猫神だ、俺は戦神…妻であるメイガスは女神、そういった様々な神がいる》


ティア

『ちょっと待って、テラちゃんそれって』


《水神、空神など時間の中に神がいる。その中で生物で神という称号を持つのが龍神、死神、虫神、そして猫神の4種しかいない》


クワイエット

『クロウラウズさんのさっきの逸話ってあれだよねテラさん。猫神の事だね』


《だろうな》


リゲル

『話が壮大なのは良いが森の雰囲気悪いぜ!』


話はここまでのようだ

俺は仲間たちを背中合わせで森に警戒を向けた


現れたのはブラック・クズリ

ランクCの魔物、それが4頭と多い


『グルァァァ』


アカツキ

『いくぞ!』


俺は森の中から襲いかかる魔物に走る

飛び込んできたブラック・クズリの真下を潜りながら腹部を切り裂き、振り返った


どうやら一撃で仕留めれたらしく、ブラック・クズリは大量の血を流しながら地面を転がる


リュウグウ

『遅い!』


彼女も素早く槍で突き、その後にリリディが頭部をぶっ叩いて倒す


『ニャ』


ギルハルドは鳴くと、全てのにゃん太九郎が一斉にブラック・クズリに襲いかかる

数に驚くブラック・クズリは驚きながら足を止めたが、その隙に体中を切り刻まれて転倒する


リゲル

『雑魚が』


『ギャン!』


立ち上がる寸前でリゲルに斬られ、絶命

残る1頭はティアマトが噛みつかれる寸前で首を掴み、耐えている隙にティアが横からサバイバルナイフを胸部に刺す


時間をかけずに倒す事が出来るようになったのは素直に嬉しい

魔石を回収し、一息つくとリゲルがティアに話しかけていた


『見た目に寄らず根性あるな』


『そう?』


『あれの妹だからか』


『お兄ちゃんと何あったの?』


『別に』


珍しいな

ティアとリゲルが会話なんて

貴重だと思いながらも周りを警戒し、そろそろ戻ろうかと考えているとリュウグウがティアを隠すようにしてリゲルに口を開く


『お前も変態か』


『妄想癖なんとかならんかお前』


『アカツキ同様にお前もティアのおっぱい狙いか』


俺かよぉ…


リゲルは溜め息を漏らす


『なんでだよ…』


『クリスハートさんのおっぱいでは足りなかったからティアに鞍替えだな?』


『勘違いしてるようだが、あいつ大きいぞ』


そんなはずはない

てか待て?なんでそんな話になった?


リュウグウ

『なに?だが胸の膨らみが…』


リゲル

『あいつブラだと胸が邪魔だから冒険者の格好の時はサラシ巻いてるんだよ。』


初めて聞いたぞ!

しかもかなりあるとかリゲルから似合わない情報だ

サラシを巻いてたのか、クリスハートさん


リリディ

『どうします?戻りますか?』


《おっぱいトークも気になるがブラック・クズリ4頭の時点で可笑しいのは明白だ》


アカツキ

『確かに気になるが今はテラのいう通りブラッククズリが4頭もいること自体可笑しいな』


リリディ

『確かに気になりますが可笑しいですね』


ティアマト

『隠れ巨乳か』


リュウグウ

『男は皆…』


リゲル

『俺を見るな妄想女』


ティア

『気配は1体、強いよっ、切り替えて』


彼女はずっと周りに意識を集中していたらしい

申し訳ない気持ち反面、俺達は素早くティアが指さす方向に体を向ける

風がないから幾分かマシではあるが、今日は特別寒い

朝は太陽が見えたためにある程度の雪が溶けて地面が僅かに顔を出している

まぁ今は曇っていて空を見上げると真っ白だ


そのほうが足を取られなくて良い


アカツキ

『強いな』


気配が強い

俺達は堂々と正面から姿を現す魔物を見て数歩、後ろに下がる

侍ゾンビだ。ランクCの魔物

太陽が見えないから普通に姿を見せれるのだろうな


1体だけ、そう思っていると『四方から気配』とティアが口を開く

これは流石に発煙弾を使い、目の前の敵を排除してから撤退するべきと俺は提案すると、全員がそれに同意する


『アアアア』


『カカカカ!』


ゾンビナイトやリッパーと低ランクのアンネット種の魔物であり、その中にCランクのコンペールもいた


アカツキ

『俺は侍ゾンビを倒す!みんなは周りのアンデットの対処を頼む!』


俺はそう叫び、光速斬で駆け抜けた

侍ゾンビ、Cのランクだとしても攻撃速度は速い


『ウゥ!』


『!?』


姿勢を低くした途端に素早い抜刀、突っ込んでくる俺をそのまま斬る気だな


《ガード!》


『わかってる!』


俺は刀を前にし、侍ゾンビの攻撃を防ぐ

ゾンビの癖に力は強いが今は俺の方が強い


『はっ!』


刀を弾き返し、回転しながら懐から発煙弾を取り出した

侍ゾンビはバランスを崩しながらも刀を発光させ、何かを企む

兜割り?居合突?


させん


『やるよ!』


手に持つ発煙弾を侍ゾンビの足元に投げて爆発させて起動する

奴は怯み、顔を隠す

その間に発煙弾は空に上がっていき、小さな爆発を起こすと赤い光を放ちながらゆっくり落下していく


空に意識を奪われた侍ゾンビに向かって俺は刀を振り、武器を持つ奴の右腕を斬り飛ばした

懐に潜り込むと侍ゾンビは左手で腰付近に装着していた小刀を抜き、それを突きだしてくる


『くっ!』


間一髪、顔を横にずらして避けてから体を斬ろうと刀を振る

だが侍ゾンビは軽く跳躍し、避けたのだ


『オオオオ!』


『チッ!』


蹴り、だな

ガードをせずに足を斬り飛ばし、侍ゾンビが驚いている隙に大きく体を斬り裂いた

空中でバランスを崩した隙にもう一度斬ってから僅かに距離を取り、地面に落下する侍ゾンビに視線を向ける


《上々、か》


『かもな』


侍ゾンビの体から魔石が出てくると、俺は回収した

仲間を見ると、既に全ての魔物を殲滅しており、魔石の回収をせっせとティアがしている


アカツキ

『戻ろう』


リリディ

『そういますか』


『ニャハハーン』


リリディ

『ギルハルド、その猫友はどうするんです?』


『ミャーン』


リリディ

『連れていく、だそうです』


クワイエット

『猫語…』


《まぁ残酷な言い方になるが球数には丁度良い》


こうして俺達は素早く森を出る事にした









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