第206話 日常編 1

幻界の森から帰ってみんなが気づいたことは凄い筋肉痛だったこと

だからこそ2日間は誰もが動きが取れなかったらしい

風呂に入るのも一苦労だったし


あの地獄の様な日々が嘘だったんじゃないかと思う

家で食べる料理は久しぶり過ぎて美味しくて涙が出そうだった

ちゃんとしたベットで寝る夜は最高だ、シャルロットが潜り込んでくるが…


父さんは疲れからか、3日間休暇を再び取ったんだ

今はリビングでチビチビと酒を飲んでいる

帰って来てから2日目、筋肉痛が酷い俺はリビングのソファーで父さんと共に体を休める


母さんは『久しぶりに沢山飲むわね』と父さんに話しかけながら次のお酒を持ってくる


『今日は飲みたい気分なんだ、かなり大変だったからな』


『でも引き返してきたんでしょ?』


『そういうことにしておいてくれ、あり得ない事が立て続けに起きたからな』


『ふぅん、深くは聞かないわ』


『助かる』


俺は体を休めなければいけないけど、暇だ

でもあれだけ大変な思いをした後は体をちゃんと休めるべきだ

でも…でも…



やはり居ても立っても居られない俺はギルドに来てしまう

筋肉痛で激痛な体をふらつかせ、鞘を杖のように使って辿り着いたよ

いつも通りの賑やかなギルド内、俺はそれに安心しながらも空いている丸テーブル席に座る


バーグさんらはいない、多分休みだな

すると、俺と同じように黙ってられない奴が近づいてきた

ティアマトだ


『やっぱな、だろうと思ったぜぇ?』


『やっぱりか』


彼はニヤニヤしながら俺の前に座ると、『バナナジュース2つ、俺の奢り』と近くの店員に声をかけた

奢りとは太っ腹だな


どうやらティアマトは筋肉痛ではないらしく、平気そうだ

昨日は1日ずっと寝ていて今日はバリバリ暇だと愚痴をこぼすように話しかけてくる


『森にいくか?』


『勘弁してくれ…全然体が動かないよ』


『だろうな、くふふ』


そしてこのギルド内を家にしているクワイエットさんが2階から降りてくると、何も言わずにニコニコしたまま俺達の近くに座る

彼の手には干し肉が沢山あるけど、どうやら昼飯みたいだな


『いやぁ面白い旅だったね。ティアマト君やアカツキ君は元気だね』


『あんたは疲れてないのかい?』


『昨日沢山寝たからね。それとリゲルもちょっと目標が出来たんだよ』


エルベルト山、その帝龍に会いたいと昨夜言ったらしい

でもそれは簡単ではない、あの山はガンテア共和国との境界線上にある大きな龍の山

警備は堅く、一般に人間は通れない筈だ


クワイエット

『マグナ国の騎士の警備なんて抜けていくのは軽い軽い、大丈夫だよ』


アカツキ

『長旅ですね』


クワイエット

『だろうね、まぁ頑張るよ』


ティアマト

『あの山か…強い魔物ばっからしいっすね』


クワイエット

『幻界の森と比べちゃうと、あれだけど強い事に変わりはないね』


確かにな


ふと、冒険者達の会話が耳に入る

今日は緊急クエストがあり、グランドパンサー3頭の討伐があったのと内容だ

行ったのはリゲルだけと…


あいつも元気だな…

しかもそのあとに話を聞き付けたエーデルハイド四人が森に向かったんだとさ

彼女らも大人しく出来なかったようだ


悪いけど俺は休ませてもらおう









………………



グリンビアにある北の森

一時間歩いた場所にある開けた場所にてランクCのグランドパンサーが3頭山積みになっていた

既に息絶えており、その上には怠そうな顔を浮かべるリゲルが座っていた


『まだ筋肉痛が残ってやがる』


3つの魔石を手に持ち、彼はそれを懐にいれる

遠くから感じる視線に気づくと、溜め息を漏らしながら顔を向けた


何故彼がここに来たのか

それは単なる暇潰しであり、深い理由はない


(ゴブリンか、幻界と違って平和な森だわ)


茂みに隠れている気配に向けて彼は睨みを利かせると、ゴブリンは瞬く間に去っていった


『……』


早く帰ってゆっくり休もう

彼はそれを決めると剣を鞘に納めて歩き出そうとする

そこで彼は森の中から聞きなれた声を耳にした


『リゲルくーん、どこですかー?』


(アネットかよ)


彼は頭を抱える

他にも彼女の呼び声を止めさせようとする声もあった

普通ならば無視して帰るはずだが、リゲルは声の方向に歩き出した


獣道を掻き分けると、川辺

エーデルハイドはそこで休憩していたんだ


(何しに来たんだこいつら)


シエラ

『ほら、いた』


アネット

『発見っ』


リゲル

『暇人かよ』


クリスハート

『あはは…』


呆れた顔を浮かべたリゲル

しかし、それでも彼の気が緩むことはない

とある方向に視線を向けていると、エーデルハイドは同じ方向に体を向けた


言わなくてもそれは魔物であるとわかっている

ハイゴブリン2体、それはクリスハートとルーミアが一瞬にして倒す

それを見ていたリゲルは、何かを口にしようとしたがやめてしまう


クリスハートがそれに気づき、どうしたのか聞いても彼は顔を逸らすだけ

少し機嫌を損ねた彼女はムスッとしたまま彼の顔の前に移動をする


『なんだよ』


『途中で止めると気になります』


『忘れた』


『絶対嘘ですよね』


リゲルはグリンピアに戻ろうと歩き出すとエーデルハイドは彼の後ろをついていく

偶然なのか、魔物は現れずに彼らはスムーズに森の中を歩けた

クリスハートは移動中、とある事を思い出すとリゲルに聞こうか迷った


悩ましい顔に気づいたルーミアはどうしたのかと聞くが、それを合図にクリスハートは前を歩くリゲルに聞く事にしたのだ


単純な質問ではなく、少し口で言うのは恥じらいを覚えたクリスハート

しかし幻界の森から帰還してからようやく冷静な今になって気になったのだ


『ゾンネに見せたノヴァツァエラは実際は撃てなかったんですか?』


『撃てたよ』


『…ゾンネは魔力切れだろうと言ってましたけど』


『撃てた…まぁギリギリの魔力だったけどな』


『撃たなかったのは何故です』


『お前も仲間失うの嫌だろ』


『?』


変わった答えに彼女は目を見開いた

他にも本当は聞きたいことがある、しかしあまり聞こうとしても機嫌を悪くしてしまうんじゃないかという思いが勝り、彼女は口を閉じた


でも彼女は女性という感情がこの時答えを欲していた

なんで私は彼に選ばれたのだろうと

ノヴァツァエラはリゲルの近く1m以内にいなければ即死に近い

クリスハートだけはリゲルに抱き寄せられたことをずっと考えていた


(本当に、破廉恥な人ですね)


笑みを浮かべ、リゲルの背中を見てそう思った

心の中で思うその言葉はいつもよりも力は無かった


『なぁルシエラ』


『なんですか?』


『いついくかはまだわかんねぇけど一緒にエルベルト山いかねぇ?』


彼女は仲間たちと目を合わせ、互いに微笑むと直ぐに答える


『しょうがないですね、付き合いますよ』


『おっけ』


リゲルは振り向き、彼女に笑みを向けた


・・・・・・・・


その頃、聖騎士はまだグリンピアにいた

コスタリカに帰還できない理由は4名の体調不良


カイ、アメリー、ドミニク、ジキットが帰ってきて早々と高熱にうなされたのだ

グリンピア冒険者ギルド近くの医療施設にて重度の疲労と診断され、3日間の入院を余儀なくされると、他の聖騎士は彼らの容態が治るまで街にいることにしたのだ


ロイヤルフラッシュ聖騎士長、そしてトーマは外に出ると建物を見上げる


『帰ってきて疲労が一気に爆発したんですね』


『そうだ。全員生還できたのは奇跡だ…お前も生きていてよかった』


『首刎ね飛ばされたまで記憶があるのは思い出すと吐き気が出ますけどね…』


『もう良い…思い出すな。』


『了解です。それにしても神ですか』


『あぁ…他言無用だ。俺達は森に入ってさ迷い歩き…奇跡的に帰還した。忘れるな』


『わかりました』


ロイヤルフラッシュ聖騎士長は溜息を漏らし、トーマに休むように言ってから施設に戻る

入院している病棟内、アメリーは他の一般患者の女性と同じ部屋だが、他の3人は一室を貸し切っており、今はぐっすりと眠っている


眠り部下の姿を見ながら彼は心の中で部下を労った


(そういば、ハイムヴェルトの孫も熱出していたな)


何故か彼はリリディの事をふと思い出す

しかし直ぐに彼は切り替えて、アメリーの様子を見に行くためにカイ達が休んでいる部屋を出た



……


ティアの家

彼女は筋肉痛で何故か父のルーファスに車椅子で移動を強いられる羽目となっていた

リビング内でルーファスはまるで昔を思い出したかのように微笑ましい表情で恥ずかしがるティアの乗る車椅子を押す光景に、母のローズはソファーで首を傾げた


『ティア、楽しいな』


『楽しくない』


ムスッとする娘に理解できぬ喜びを感じる父

そうした時間に客が訪れたのだ

ルーファスは車椅子を押したまま玄関に行き、ドアを開けるとそこには護衛騎士5人を引き連れてやってきた回復魔法師会のテスラ会長がニコニコした表情で立っていたのだ


(あ…)


ティアは引き攣った顔を浮かべ、どことなく直ぐに笑顔になる


『今日は良い話を持ってきました』


回復魔法師長ではなく、協会のトップ自ら足を運んだことに父のルーファスや母のローズは驚く

ティアからテスラ会長の話をある程度聞いてはいるものの、いざ本物を見ると緊張が走る


『何をご用意できませんが…入りますか?』


『大丈夫です、何もいりません…ティアちゃん以外』


そこ決まりセリフにティアは苦笑いを浮かべた


テスラ会長はリビングにて、護衛騎士達と共にティアのステータスをもう一度眺める

若く、そして歩けば女性が振り向きそうな顔をした若手騎士ですら目の前の年下の女性のステータスを目の当たりにし、表情が固まる


『なんですか…これ』


『以前はエクシアでしたよねテスラ様』


『本当に凄いわ…まさか私が生きている時にこれが見れるなんて未練なく逝けるわ』


ティア

『まだ逝かないでください』


『そうね』


ルーファス

『あの、テスラさん…カブリエールとは』


『人間がこれに到達したのは1人だけ…初代マグナ国の国王であるゾンネの妻だけ』


これにはティアも驚愕を浮かべる

どんな称号なのか聞かずともステータスである程度は彼女もわかっていた


リリディのギール・クルーガーと双璧を成す称号

攻撃特化の黒魔法、防御特化の聖属性戦士

テスラはうっとりしながらティアのステータスを眺めた


・・・・・・・・


ティア・ヴァレンタイン


☆アビリティースキル

安眠    【Le4】

魔法強化  【Le4】

気配感知  【Le5】MAX

麻痺耐性  【Le5】MAX

動体視力強化【Le5】MAX

スピード強化【Le4】

運     【Le5】MAX


☆技スキル


☆魔法スキル

火・ラビットファイアー【Le4】

火・フレア【Le2】

雷・ショック【Le5】MAX

風・キュア 【Le4】

風・ケア  【Le4】

風・シールド【Le3】

白・ホーリーランペイジ【Le3】


称号

カブリエール


☆称号スキル

スピード強化【Le3】

デバフ強化 【Le5】

自然治癒  【Le4】

動体視力強化【Le4】

運     【Le4】


固定スキル 『天使』

固有スキル 『戦闘形態』

特殊技   『天剣』

特殊魔法  『ガード・フィールド』

特殊魔法  『ノア・フィールド』

特殊魔法  『デルタ・バルカン』

特殊魔法  『ホーリー』


・・・・・


騎士A

『テスラ様、私らもある程度の武に心得はありますが…』


テスラ

『5人が束になってかかっても無理よ…インチキ戦闘されたら勝てないのよ』


ティア

『詳しいのですか?』


テスラ

『セラフの生活って本を初代国王の妻は出版していたんだけども名前は本当に知らないわ。本にも記載がないのよ…でも貴方の称号に飛びぬけた性能は書いている、本部で私が保管しているのだけども今度持ってきてあげる』


ティア

『ありがとうございます』


騎士B

『この称号の特徴とは…』


テスラ

『ガードフィールドで身の周りに聖なる盾を沢山展開するの、話では物理や魔法をふせぐ盾なんだけど…。破壊するまで本体に攻撃できないの』


ティア

『お詳しい…』


テスラ

『しかも盾に纏われた状態から魔法を放つと盾の外で発動するからガードしたままの攻撃可能。ノア・フィールドは一定時間指定した対象を回復し続ける…それは纏った盾に対しても有効』


騎士A

『どう攻撃するんですか』


テスラ

『回復量を上回る攻撃をどんどんあてて削る。戦闘形態になってしまうとそんな戦いを強いられるのよ』


ティア

『でも継続戦闘は短いです』


テスラ

『そんなの気にせず戦えるわ、相手が単騎ならば負ける事なんてない』


騎士達は言葉を失い、ティアに視線を向ける

こんな若い娘がそのような称号を持っているとにわかに信じ難いからだ


ティア

『そういえばテスラさんは何を伝えに来たんですか?』


テスラ

『グリンピアに第二支部を作ったら来てくれるかしら!?』


(ああ…前にみんなで話してたなぁ…)


ティアを丸めこむためには容易くするだろうという話はしていた

それが今現実となる

彼女がテスラの話を断り続けていたのは地元をあまり離れたくないからという理由が大きい

だからテスラはその意思を組んでそういう案を口にしたのだ


そうしてでもティアを回復魔法師会に所属させる意味は人生で一番あるのだ

何百年ぶりかの最高天使の称号となると国は大騒ぎとなる、そうなる前にテスラ会長は彼女の保護という名目を以てしてティアを聖騎士に招きたいのだ


『何を私はするのでしょう?』


『グリンピア近辺にある高貴な者の依頼遂行ってだけよ。難病や大怪我を治すだけ!変に言い寄られても大丈夫よ?こっちで対応します』


『ウェイザーとかそのあたりの街の貴族達ですかね』


『そうね、たまに侯爵級が訪れるかも知れないけども回復魔法師会は個人の人権は保障しているから変に扱われたりはしないわ…というかカブリエールというと貴族も迂闊に手出しできないのよ』


『何故です?』


『ゾンネは死ぬ前に作った法律がまだ残っているのよ。カブリエールの称号を持つ者は国内のいかなる法を無効にすることが出来るの』


『なんですそれ』


『法が適用されない存在だから王でも触れたくないのよ』


(ゾンネ…)


何故そのような法律があるのか

ティアは頭を悩ませた

しかし今後の付き合いとして、グリンピアに支部を作るとなるとこれ以上断れないと悟る


グリンピアに支部が出来るのでしたら、と彼女が答えるとテスラ解消は強くガッツポーズをする

ルーファスやローズは会長のあられもない姿に驚愕を浮かべるが、それほどまでに貴重な存在なのだ


『最近聖騎士となんだか交流深めたらしいけど、その甲斐あってかロイヤルフラッシュ聖騎士長も回復魔法師会に貴方がいるならばある程度の協力は惜しまないっていってたわ』


『ロイヤルフラッシュ聖騎士長…』


『大きな建物でも建てようかしら』


『いえ、適した大きさでお願いします…』


テスラ会長はルンルン気分で帰っていった

自身の称号が世に出るのもきっと時間の問題、ティアは悟る


・・・・・・・


彼らは3日間、次なる目標に向けて動き出そうとしていた


※今後、エルベルト編とエド国地下大迷宮編で別れます





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