第59話 沼地の主、ベロヌェルカ編 2

次の日、俺は仲間を連れてムロマチの次の街に向かう為、朝食後に直ぐに移動を開始した

俺は変わらず、ティアと馬のブルドンに騎乗し、ティアマト達が乗る馬車の横を歩かせてムロマチの大通りを歩く


1日くらいここで資金稼ぎとして滞在も考えていた。だがしかしだ

リリディが目に見えて強くなれるとわかってるならば時間が許す限り、優先したほうがいいと思ったのだ

全員の意見は一致した



俺は空を見上げ、夏なのに冷たい風を感じて心地よくなっている

今日は雨、それは夕方頃なのでそれまでにはカマクラには辿り着く予定だ


しかも明日も雨だからリリディの願い通りに沼地に雨の日にいけそうだ

馬車を引くのは馬ではない、トリケランという大人しい恐竜種だ

1日に何百㎞を軽く大移動するほどの凄まじい体力を持った力持ちの魔物である


『キュー』


鳴き声が可愛らしい、2頭のトリケランは馭者から餌である牧草をムシャムシャと口に含んで食べながら進んでいるのを、ティアは面白そうに見ている


ちなみに魔物ランクはCだ。怒ると怖いらしい

馬車には窓が後ろしかないので中にいる仲間は見えないのは残念だな、まぁいいか


ティア

『テラちゃん、五傑っていつ私達あったの?』


《結構前にな》


アカツキ

『結構前だってさ』


ティア

『あっ!?』


ティアが何か閃いた様な顔を見せる

すると彼女は俺の顔を見て、ニヤニヤし始める


まさかとは思うが、わかったのか?

それを彼女に聞いても『わかんな~い』と言いながら、俺の背中に頭をコンコンと軽く当ててくる

教えてくれても…と少し俺は不満を覚える


アカツキ

『追手はどうだ、テラ』


《いねぇ、というか次くるとなると新手だから直ぐに気づけないと思うぞ》


アカツキ

『顔ぶれを変えてくるか…』


《馬鹿じゃないならそうして来る筈さ》


なるほどな、ルドラ小隊長、クワイエット、リゲルの3人は来ないか

ならば次は?


雲色は昼前から怪しく、昼を超えてもその雲の暗さは変わらない

街を抜けるのは予想より早かった

このムロマチはそこまで大きくは無いからである


ティアと話し込みながら進んでいると、森の中だ

俺は彼女に感知を任せ、馬を進ませていると、奥の方で何かが起きていた


アカツキ

『あれは・・・?』


馭者

『はて、年老いて遠くが見えんですたい』


道の向こう側で何やら砂煙が多少待っていたのだ

馬車は念のため、停止させると中からリリディがドアを開けて姿を現す


《魔物に襲われているぜ兄弟》


アカツキ

『魔物?』


《冒険者4人、新米だなぁ。魔物は…こりゃ大変だ…棘巻トカゲが4体だぜ》


俺はそれを聞くと、ブルトンを奥に走らせる

テラ・トーヴァは追加で話すが、2人怪我をしており、危ない状況だとか

行くしかないだろう、馬鹿でも人のために動く事は出来る


アカツキ

『ティア!棘巻が4体だ!』


ティア

『後ろからティアマト君達も走ってきてるよ!』


アカツキ

『時間を稼ぐ!行くぞ!』


彼女は元気よく返事をした

数秒後、直ぐにその場に辿り着くと俺はティアと共に馬を素早く降りる


棘巻トカゲは魔物ランクD、首周りの襟が棘になっている蜥蜴だ

しかも各個体が少し大きい、全長1m半はあるだろう

2体の棘巻トカゲが倒れているが、一応2体は倒したんだとわかる


合計6体の魔物と戦っていたか…よく頑張ったな


怪我人だが…

冒険者である男女が棘を体に受け、地面に横たわっており、その正面に男2人が片手剣を構えながら棘巻トカゲに抵抗を見せていた


???

『助けか!?』


アカツキ

『仲間を連れて下がれ!俺の仲間が直ぐに来る!』


???

『すまねぇ!助かる!』


『シャー!!!』


無事な2人が仲間に肩を貸して下がろうとした瞬間に4体同時に襲い掛かってくる

すかざすティアがラビットファイアーで牽制し、奴らは後ろに飛び退く


アカツキ

『居合突!』


刀を前に突き出し、真空の突きを放つ

それは飛び退いた1体の胴体に命中すると赤い血を噴き出してその場に倒れていく

魔物は驚くことなく、3体同時に首を大きく振って襟の棘を飛ばしてくると俺とティアはスピードを活かして横に飛んで避けた


ティア

『ショック!』


彼女の雷弾が一直線に棘巻トカゲに当たると、奴はピリッと体を震わせて痺れ始めた

どうやら1発で麻痺した様で助かる


リュウグウ

『シャベリン!』


ティアマト

『真空斬!』


流石、俺の仲間だ

俺とティアの後ろからリュウグウに槍が横を通過し、棘巻トカゲの脳天に突き刺さった

そしてティアマトの飛ぶ斬撃は胴体を深く斬り裂く


『シャ・・・』


『ゲゲ…』


力無く倒れる2体の棘巻トカゲ

俺は身構えながら後ろを見ると、リリディが冒険者達を守るようにして前で身構えていた

それでいい


ティアマトとリュウグウが俺達の横に並ぶが、リュウグウは槍が無い


リュウグウ

『残り1体だぞ、熊いけ』


ティアマト

『てんめぇ…』


リュウグウ

『いらないなら私が倒すぞ?』


ティアマト

『わぁったよ!待ってろ』


熊、いや違う

ティアマトは片手斧を手首を使って回しながら走り出すと、棘巻トカゲは軽く後ろに飛び退いてから直ぐに首を強く振り、彼に棘を数本飛ばす


ティアマト

『あっぶね!!』


彼は頭を下げて避け、顔の前に来た棘を片手斧で弾き壊す

地面を強く蹴り、一気に棘巻トカゲの前に辿り着くと、尻尾の薙ぎ払いがティアマトを襲う

あの魔物は棘を飛ばすだけじゃない、尻尾も面倒なんだよ

小さい棘がついた尻尾に当たれば皮膚が裂かれそうだ


『シャー!』


ティアマト

『おやすみトカゲ野郎!』


彼は片手斧で尻尾をガードし、左拳を強く握ると、顔面にストレート一発お見舞いして横転させた

棘巻トカゲが起き上がる時には既にティアマトが片手斧を振り下ろしており、これで終わりだろうと俺は思った


しかし


『ギャッ!』


ティアマト

『!?』


棘巻トカゲの正面に白い盾が出現し、ティアマトの攻撃を防いだのである

あれは魔法スキル、シールドだ

甲高い音が響き渡ると、そのシールドは砕け散る


棘巻トカゲはその隙に逃げようとティアマトに背中を向けるが、そうさせない者がいる

ティアのラビットファイアーが棘巻トカゲの背中に全て命中し、奴は燃え始めるとその場でジタバタと暫く暴れ、そして力無く倒れていった


全ての棘巻トカゲは息絶えた、魔石が体から出てきているからだ

そして最後に倒した棘巻トカゲからも魔石が出てくると、ティアマトは一息ついてから片手斧を担ぐ


ティアマト

『終わったぜ』


アカツキ

『運動になったか?』


ティアマト

『まぁな、ティアちゃんに取られちまったぜ』


彼は笑いながら口を開くと、ティアはエッヘンと胸を張った

俺は胸を見ていた


そしてリュウグウは俺の視線の先を直ぐに理解した


リュウグウ

『変態が…』


アカツキ

『…』


何も言えねぇ…


リリディ

『片付きましたね』


???

『すいません、助かりました』


危なかった冒険者が頭を凄い下げてお礼を言ってくる

奥で倒れている彼の仲間の怪我の具合を見ると、棘が肩や足に刺さって動けなくなっていたようだ

棘は既に抜かれており、ティアが急いでケアをするために怪我人に歩み寄り、魔法を発動すると、彼ら全員が凄い驚いた


そりゃそうだよね、どこの国でも回復魔法持ちってほぼいないからだ


ちなみに4人の詳細だが

グリット  片手剣の男 

ヤルバ   槍師の男  

シェルミー 魔法使いの女性  

レスナ   鉄鞭の女性


ハイランナーという冒険者チームであり、まだ1か月前に始まったばかりの冒険者達だ

リーダーはグリット、けが人はレスナとグリットだ


アカツキ

『怪我は心配しなくていい、ティアが治す』


グリット

『ありがとうございます』


レスナ

『はぁ…本当に死ぬかと…』


ティアマト

『まだ死ぬときじゃねぇってことだ』


ティアマトが口を開くと、誰もがちょっと驚いている

彼等はカマクラに帰る最中に襲われたんだってよ

棘巻トカゲの数的に彼らにはかなり絶望的な相手だから本当に運が良い


俺達が来なければ死んでいただろう

助かった彼らは2重に運が良い、ティアのケアで入念に回復させて傷を回復させることが出来たからな。

流石パナ・プレイヤーだ



馬車は空きがある為、中途半端な場所ではあるがハイランナーたちはここから乗車することとなる




俺とティアは馬のブルドンに乗っているから馬車内は見えない

空を見上げると先ほどよりも暗く、ティアも心配そうに俺に顔を向けてくる


ティア

『降る?』


アカツキ

『だろうな』


馭者

『時間的にいつ降っても可笑しくは無いですねぇ』


アカツキ

『そういえばカマクラってどんな街ですか?』


馭者

『エドと変わりはないですね、ですが美味しい料理が沢山あるのでぜひ外食をしてみてください』


そうしよう


こうして夕方頃にはカマクラに辿り着く事が出来た

俺は直ぐに馬車乗り場から歩いて宿を探そうとすると、俺達の後ろからハイランナーたちが歩み寄ってくる


ここは彼らが育った街、俺達はお礼はいらないと言ったがせめて宿くらいはコスパ良い所を紹介しますと言われると頼むしかないだろう

できれば馬のブルドンが寝れる馬小屋から近い場所が良いと告げると、グリットは仲間内で何かを話してから俺達に告げる


グリット

『ヤルバが案内します、俺とレスナは怪我をギルドで見てもらってから合流しますので』


アカツキ

『一応塞がったがそれが一番だ、危なかったな』


グリット

『本当に助かりました、冒険者稼業初めて半年足らずで死ぬとこでしたし』


彼は苦笑いを顔に浮かべ、頭を掻く

これから強くなっていくときに死ぬのは誰もが嫌だろうしな


シェルミー

『パナプレイヤーもいて凄いチームですね、冒険者ランクCだと棘巻トカゲをあんな簡単に倒せるんですね』


ティアマト

『こっちも結構マジだったぜ?数が数だしよ』


シェルミー

『へぇ…そう見えなかったけど、まぁいいわ』


少々納得いっていない様子だが、こっちもまぁいいか

ヤルバはニコニコしながら俺達に歩み寄ると、頭を下げてから話し始める


ヤルバ

『うっす!俺が丁度良い宿に案内します!ギルドからも徒歩20分とまずまずの距離ですからきっと気に入ります』


アカツキ

『頼む』


俺は彼に連れられ、早歩きでカマクラの大通りを進んだ

何故急ぐかというと、今にも雨が降りそうだからである

ヤルバもなにやら上を見てソワソワしてるのが後ろから見てもわかる


ヤルバ

『ここは治安が良い街っす、ギルドも活気あって良いんですが…』


アカツキ

『浮かない顔だな』


ヤルバ

『あはは…沼地が多い森なので強い魔物ばっかり、そうなると新米の俺達冒険者は少し辛いんです』


結構この街から近い森は強めの魔物が多いらしい、まぁ理由は沼地だな

森林地帯もあるらしい、そこは比較的心配することなく稼げると彼は断言する

しかし徒歩だと遠いのが難点だってさ


歩きながら彼と話していると、ふとリリディが暑そうにして歩いているのに気付いた

こいつは熱いのはあまり得意じゃないのかもしれない、


リリディ

『今日は特別に暑いですね』


ティア

『でも多少、風があるから楽じゃない?』


リリディ

『僕は素直な暑さに敏感ですよ』


ティアマト

『はぁ?』


風があっても意味がないと言いたいのだろう

そうこうしているうちに、雨がポツラポツラと振ってくる

ヤルバは急ぎ足で俺達を案内し、運よく辿り着いた瞬間に大雨となった


宿の入り口の屋根で空を見上げ、俺達は雨の中を番傘をさして歩く人々を眺めている

馬小屋は近くというより、隣だ

俺はティアと共に隣の馬小屋に足を運び、ブルドンを預けようと馬小屋の中に入ると、中年の男性が沢山の馬に餌を与えている最中だった


全てが黒い馬、そういえば赤い馬は本当に見ない


???

『おや!?赤騎馬種じゃないか…珍しい』


ティア

『やっぱりそうですか?』


男は物珍しそうにしながらも、餌箱に牧草を詰め込んで馬に与えてからこちらに興味を示す

知らない人間にはそっぽ向くブルドンだが、今回は大丈夫そうだ


『ふむ…立派だ。力強さを感じる』


『ヒヒン!』


『ははは!赤騎馬は頭が良いから意味を理解したかな』


彼は笑いながらブルドンの首をさすった

普通に触れている事に俺達は驚くと、彼は笑顔のまま自己紹介をしたのだ


レナード

『馬小屋を管理するレナードさ、ここは隣が警備兵の詰め所だから国で一番安全な馬小屋だよ』


彼は話しながら握手を求めてくる、自然と彼の手を握り、俺達も握手をすると彼は話し始めた


レナード

『見た所遠征者だね?1日だけの預かりじゃなさそうだ』


アカツキ

『わかるんですね』


レナード

『まぁね、1日銀貨3枚を2枚にしてあげよう』


ティア

『え?何でですか?』


レナード

『馬の預かりは大変なのはわかるよねお嬢ちゃん』


ティア

『そうですけど…』


レナード

『他の馬より利口な赤騎馬は飼育が楽なんだ、まぁ乗ろうとすれば怒るんだけどね』


どうやら比較的おとなしくしてくれるから楽なんだってさ

だが機嫌を損ねると他の馬よりも質が悪いのも有名なのは俺達2人は聞いたことがある

でも見るからにブルドンはレナードさんを認めている様な感じだな


彼が触っても嫌がる素振りをしないからである


ティアはそれを驚いた顔を浮かべたまま見ていた


レナード

『まだ若いのによく赤騎馬を手懐けたもんだ・・・いやぁ凄い』


俺達は盗人してゲットしただけだから何とも言えない

逃げるために借りた馬、一段と目立つブルドンをチョイスしたのだ

まぁ認めてもらえたから乗せてもらえているってことさ


アカツキ

『とりあえず2日分支払います、銀貨4枚でいいですか?』


レナード

『大丈夫さ、ただあれだ…他の馬は赤騎馬種に少し警戒したりしてもらうと困るから奥のスペースに入れとくよ。馬の事に困ったら何でも聞いてくれ』


よほど馬が好きなんだろう、ブルドンがレナードさんの頭を口で甘噛みしている


こうして俺はティアと共に宿屋に戻ると、フロントで仲間達がヤルバと共に待ってくれていた

シングルは安く、部屋は最低限の設備があるから住み心地は良いらしい


2階の部屋に向かい、荷物を置いてからフロント近くの休憩所に集まる

そこから見える窓から見える景色は雨だ


ヤルバ

『明日はどうする予定ですか』


俺達よりも椅子で寛ぐ彼はそう告げる

予定としては決まっている、みんなで顔を合わせて頷くと、俺は口を開く


アカツキ

『ベロヌェルカの討伐だ』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る