第85話 激闘 リザードマン編 3 お呼びでない客
『開闢!』
俺は叫び、納刀する
鞘から瘴気がどっと吹き出し、その中から仮面の騎士が現れた
『任せろ』
テラ・トーヴァが口を開くと、そのまま膝をついていたリザードマンに向かって襲い掛かる
『ゴロロロオオオオ!!』
それでも抵抗を見せたリザードマンは剣を離し、落ちていた盾でガードしようと目論んだ
『無駄だ、雑魚が』
テラ・トーヴァが囁くと、熱で赤く染まった刀を薙ぎ払うように振って盾もろとも両断し、リザードマンの体が激しく燃えだした
殺傷能力が高すぎる攻撃だ、これなら最初の段階で隙を見せた時に発動しても倒せただろう
しかし、だからといって無暗に使えない
確実に倒せるときに使いたいからだ
ティアマト
『へへっ…勘弁だぜリザードマンはよ』
ティアマトは濡れた地面に転がり、そう呟く
俺だってそうさ、真似をして地面に転がると口を開いた
『今日はもう無理だ、技を出せないし動けない』
するとリザードマンの体から発光した魔石が出てきたのだ
俺はティアマトに視線を向け、頷くと彼は体を引きずりながら魔石に近づいた
彼は魔石に手を伸ばし、不気味な笑みを浮かべ『ありがとな』と俺に言ってからその魔石の光を吸収し始める
これでいい
俺は大の字で空を眺めた
小雨が熱を帯びた体に心地よく冷やしてくれる
帰ったら風呂に入りたい、泥だらけだ
『てかテラの情報と違うスキルだぞ?』
マジ?そこで俺は気づいた
まだテラ・トーヴァは消えてない
彼は首を傾げ口を開いた
『あ、ごめ…記憶曖昧かも』
ティアマト
『おい』
『だが、おめでとうだ』
ティアマトは『はっ?』と言うと、テラ・トーヴァは煙となって消える
おめでとうという意味、それはティアマトが光ったことにより俺は納得と同時に驚いた
それは称号スキル獲得という現象が起きたのだ
『ティアマト!俺より先にか!?』
『かっはっはー!!悪いなアカツキィ!』
くそ!くそっ!お前!称号スキル獲得かよ
悔しさが俺の体をジタバタさせる。
俺も欲しいよ……なんで…
ティアマトの光が消えると、彼はゆっくりと立ち上がってから俺の近くまで来てステータスを見せびらかしてきた
・・・・・・・・・・
ティアマト・ウロボリス
☆アビリティースキル
斬撃強化 【Le3】up↑
気配感知 【Le2】
毒耐性 【Le4】
耐久力強化【Le2】
動体視力強化【Le2】
スピード強化【Le2】
☆技スキル
連続斬り 【Le3】
真空斬 【Le2】up↑
大地噴出断【Le1】New
鬼無双 【Le2】
☆魔法スキル
☆称号
バトラー
称号スキル
体術強化【Le1】
耐久力強化【Le1】
特殊技『ギロチン』
・・・・・・・・
ティアマトは魔石を懐にしまうと、ずっと俺をニヤニヤしながら見つめてくる
『何がいいたいティアマト』
『そう怒るなよ、ほら』
俺は彼に起こされ、肩を借りた
まったく体が動かない、動けるが…酷い倦怠感を感じて動かす気になれないんだ
『戻るぜ』
『だな…ティア達が…』
俺はその先の言葉を最後まで言えなかった
《兄弟!逃げろ!》
『なんだテラ?!』
《奴がいる!早く逃げ……》
『ウモォォォォォォ』
大きな咆哮で地響きが起きる
この声に俺たちは覚えがあり、ゆっくりと森の中に視線を向けた
あり得ない、まさかこんなところにいるなんてな
気配がわかると、それは森の中から木を薙ぎ倒しながら現れた
魔物ランクBのミノタウロス
奴は太い木の棒を手に持っており、その個体は俺達と戦って逃亡した魔物だと直ぐにわかった
『このタイミングかよ…』
『不味すぎる!ティアマト逃げろ!』
『くっそがぁ!』
彼は俺を担ぎ上げて走り出す
ミノタウロスも逃がすまいと地面を数回踏みつけ、怒りを浮かべてから追いかけてくる
来た道を戻るように走るティアマトは必死だ
俺は追いかけてくるミノタウロスの形相にどうしようもない焦りを浮かべるだけしかできん
『もっと早く走れ!』
『無茶言うな!これが限界だ!』
『追い付かれるぞ!』
『だから無理だっつぅのぉぉぉ!』
『ウモォォォォォォ!』
徐々に距離が縮まる
今の俺達じゃ絶対無理
俺は戦力外だし、ティアマトだって疲れている
『ティアマト!森に逃げろ!』
『あいよぉ!』
彼に指示を出し、森の中に走る
獣道を通り、距離を稼ぐ作戦だが…
流石はミノタウロスだ、それでも周りの小さな木々をなぎ倒して俺達を追ってくる
『おいおいおいおいなんだよこいつ!超おこだぜ!?』
『きっと俺達を恨んでる』
『みりゃわかるよ!!!』
《兄弟!右に移動しろ!》
『ティアマト!右に走れ!』
『道にまた出るぞ!!??』
『いけ!!』
『飯奢れよくそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』
一度道から外れたというのに、俺達は再び歩きやすい道に向かうように走る
ミノタウロスは走りながら地面に落ちていた大きめの石を掴み、投げてくる
ティアマトは驚愕を顔に浮かべながら避ける
ここまで怒る魔物とは…
2度も俺達と戦って恨みが高まったのか
ふと目の前にゴブリンやハイゴブリンは現れるが、奴らも俺達の様子に驚いて逃げ出す
後ろから大きな魔物が追ってきてるからだ。巻き込まれたくはないだろうな
すると後方から距離を縮めるミノタウロスは足場を滑らせて転倒する
運よく距離をとることが出来た俺達は僅かな安堵を感じ、道に辿り着いた
『『!?!?』』
そこには驚きの光景が視線の先にある
リリディ、ティア、リュウグウ、赤騎馬ブルドン、ニャン太九郎のギルハルドがいたのだ
しかもリザードマン2体を倒し、棘巻トカゲも周りで倒れている
倒したのか!?いやしかしテラ・トーヴァが言ったことを思い出すと納得がいく
ティア
『アカツキ君!?』
アカツキ
『ミノタウロスだ!!リリディ!!頼む!!!』
俺の荒げた言葉、そして同時に森の中から近づく咆哮でリリディだけじゃなく、その場にいた俺の仲間は何が起きていたか直ぐに理解を示した
『ウモオオオオオオオオオ!』
ミノタウロスは森の中から姿を現す
リリディは腕を伸ばして黒い魔法陣を発生させるとシュツルムを撃ち放つ
突然の攻撃にミノタウロスはギョッとした顔を浮かべ、手に持っていた太い木の棒を盾代わりにする
リリディの黒魔法はミノタウロスの持った木の棒に命中し、奴は吹き飛んで後ろの木に背中をぶつける
爆発で木の棒が砕け、丸裸となったミノタウロスに仲間たちが追い打ちをかけた
リリディ
『シュツルム!!』
リュウグウ
『槍花閃!』
ティア
『ラビットファイアー』
そのすべての攻撃、ミノタウロスは叫び声をあげながら腕を前に出して受け止める
黒い爆発の中にリュウグウの槍の突きで発生した桜花弁が舞う光線、そしてティアの5つの熱光線が爆風の中のミノタウロスに飛ぶ
『ウモオオオオオアアアアア!』
ティアマト
『ブルドン!背負え!』
『ヒヒン!』
ティアマトはその間、俺をブルドンに乗せた
それと同時に黒煙の中からミノタウロスは目を赤く染め、怒りをあらわにして姿を現す
体中から血を流し、肩で息をする魔物に仲間たちは武器を構える
ティアマト
『お前らリザードマン倒したのかよ』
リリディ
『シュツルムで意外と呆気なく』
リュウグウ
『1体は私だぞ!ティアと共に頑張ったぞ!危なかったがな!』
ティア
『それよりもこいつだね!しつこい男は嫌い!』
ティア!覚えておくよ!
《よし!兄弟!このメンツなら勝て…》
テラ・トーヴァが口を開いている最中、ミノタウロスの様子が可笑しくなる
何故か奴は後方を気にし始めた
怒りを浮かべていた顔が険しくなっていくのが見てわかる
するとミノタウロスはビクンと体を震わせ、その場からそそくさと逃げていく
確かに戦わずに済んだことは助かる
しかし何で逃げた?俺達は素直に安心できない
全員で顔を見合わせてから森に警戒を向けても、ティアの気配感知では何も感じないというのだ
《なんだ?何故逃げた?》
『お前でもわからないのか?』
《何も感じねぇ…魔物なら直ぐにわかるんだが、だがギルハルドが酷く威嚇してるのが恐ろしいぜ》
テラ・トーヴァが言う通り、ギルハルドが毛を逆立てて森に向かって威嚇しているのだ
猫には何かを感じるのか?
リュウグウ
『いやな予感がするぞ』
リリディ
『先ずは撤退しましょう。ところでそちらは大丈夫でしたか?』
ティアマト
『おうよ!一先ずここを出ようぜ!アカツキがこのざまだ。馬鹿みたいに無理しやがって』
ティア
『アカツキ君…』
ティアが凄い心配してくれている、嬉しいけど今はそれを十分に感じる暇はない
『ヒヒン!』
アカツキ
『みんな、こっちは上手くいった。撤退だ』
ティアマト
『ケッ!ならさっさととんずらしようぜ!』
俺はブルドンの乗り、皆と共にその場を離れる
雨はまだ降っている
ミノタウロスの逃げ方が異様過ぎたのか、俺達の急ぐ足取りもいつもより早い
しかし走り続けることは出来ない
開けた場所に辿り着くと、全員が息を切らしながらその場に座る
地面が濡れていてもお構いなしだ
俺はブルドンの背中でぐったりだ、体中が痛い
リリディなんて大の字で地面に寝そべっている、体力は無いほうだしな
リリディ
『死ぬ』
リュウグウ
『男のくせに』
リリディ
『一番頑張った功労賞ですよ?』
リュウグウ
『もっと動け』
リリディ
『そんな…』
2人の会話を聞いていると、ティアが俺に近づき、ケアをかけてくれる
それによって体の具合もかなり楽になるが、完全ではない
相当ダメージを受けていたからだな…一撃一撃が凄く重かったのは受けた俺が一番わかる
ティアが懐からハンカチを出すと、俺の顔の血を拭いてくれる
鼻血なんだけど…ね
アカツキ
『すまん、ティア』
ティア
『頑張ったんだね、アカツキ君』
ティアマト
『リーダー格の野郎強すぎだぜ、Cランクに思えねぇ強さだったぞ』
ティア
『そりゃそうだよ、リーダーが強いんだもん…それ考えてなかったの?』
ティアマト
『全然』
アカツキ
『まったく』
ティア
『も~』
呆れている、無理もない
俺達はそこまで考えてなかったよ
《気配がないのに何がいるってんだ?そんな魔物俺は知らないな》
『お前でもわからないのがいるのか?』
《全ての魔物は知っている筈だが…完全隠密の魔物がここらにいるとは思えねぇよ兄弟》
『そうか』
俺はブルドンの背中のバッグから水筒をだし、がぶ飲みする
凄い美味い、ありとあらゆる高級食材なんて目じゃないくらいに美味しく感じるよ
ティアマト達も水分を補給し、再びここをでようと立ち上がると、戻るべき道の向こうから予想外な人物が現れた
リゲル
『な…』
クワイエット
『よく会うね、アカツキ君』
呑気な奴だ…クワイエットさん
互いに武器を構えるが、クワイエットさんだけはそうぜずにのんびりしている
リゲル
『おい!クワイエット!』
クワイエット
『なんで構えるのさリゲル、今回は資金調達のための魔物退治でしょ?アカツキ君捕縛の指示はなんもないし』
リゲル
『…くそっ!』
するとリゲルは剣を納め、しかめっ面でこちらを睨んでくる
俺も仲間に武器をおろさせた
そうだよね、こいつら金落としたから資金を調達しないと駄目なんだよな
魔物退治か、彼らにとって無難で容易だと思われる
リゲルは俺の様子を見てか、鼻で笑う
それに対してティアは嫌そうな顔を浮かべるが、彼女は何も言わない
リリディ
『ここを離れたほうが良いですよ、何かがいます』
リゲル
『あぁん?何がいるってんだメガネ?露出魔でもいるのか』
リリディは溜息を漏らして俺に顔を向けるが、そんな顔されても困る
するとそこでリュウグウが話した
『魔物ランクBのミノタウロスと交戦中、奴は森の中にいる何かに気づいて逃げたんだ、姿は見てない…だから私たちも嫌な予感がして走って逃げてきたのよ』
リゲル
『お前らがミノタウロスと交戦?』
まるで信用していない感じの雰囲気だ
ちょっとイラッとするが…まぁいい
クワイエット
『Bが逃げるのかぁ、僕らで辛いねリゲル』
リゲル
『チッ、今は見逃す…』
ティアマト
『見逃すも何も今お前ら動けねぇだろ』
リゲル
『うるさいな熊』
ティアマトは俺に顔を向け、バツの悪い顔を見せる
リリディの次はお前か、勘弁してくれよ…ったく
まぁ我慢してくれているだけそれでいいさ
ティアのケアで俺の怪我の具合もそれなりに回復し、動けるようになると思いきやそうではない
魔力が底をつきそうで体がダル過ぎる
今日は戦えないだろうな
『シャー!』
リリディ
『ギルハルド、やめなさい』
リゲル
『ニャン太九郎か、そういえば魔法騎士会の例の副魔法騎士長さんも似た魔物を連れていた記録があったのを聞いたことがある』
リリディ
『なんですと?』
リゲル
『まぁ聞いた話だが、それしか知らん…その猫が今どこにいるかも知らん』
ティアマト
『ハイムヴェルトの爺さんがか』
リゲル
『だろうな…一番仲が良かった元英雄五傑道化傀儡グリモワルド・グレゴール、奴なら知っているだろうよ』
リリディ
『…』
リゲル
『お前、あの人の孫なんだってな?』
リリディ
『僕のお爺さんです』
リゲル
『そうか、同じ道を通るというわけか』
リリディ
『そうですが、何か不満でも?』
リゲル
『いや、何でもない…』
クワイエットさんはその会話を聞きながら、リゲルに向けて悲しそうな顔を向ける
真意はわからないがな
リゲルとクワイエットさんは一息つくと、敵意を完全に消失させてその場から去ろうとした
だがしかし、そこで思わぬ事が起きたんだ
リゲルが俺達から顔を逸らした瞬間、素早くこちらに顔を向けてから剣を抜いた
その身のこなしは素早く、流石は精鋭と思えるほどに早い
見ているのは俺達?
違う、俺達の後方だった
森の中から飛んできた飛ぶ斬撃が俺達の間を抜けてリゲルに飛んでいくと、彼はそれを剣で弾き飛ばす
『ぐぉぉぉ!!』
『リゲル!』
弾き飛ばしたというのに、リゲルは吹き飛ばされた
慌ただしく声をかけるクワイエットさんだが、俺の仲間は素早く後ろの森に振り向き武器を構える
何かがいる
『シャアアァァァァァァァァ!!!』
ギルハルドは再び毛を逆立てて威嚇をする
俺はブルドンの上から体を強張らせ、森の中からガサガサと茂みをかき分ける音を聞きながらその存在が現れるのを待った
リリディ
『まさか…』
ティア
『まさかのまさか?』
アカツキ
『この状況でか…』
『スキル保持者はダレだ?』
その声を口にして現れた者に誰もが驚いた
吹き飛ばされて立ち上がるリゲルですら、口を大きく開いて驚き、動きを止める程にだ
人型、しかし人間じゃないのは確かだ
非常に立派な服を着ているが、頭部は邪悪な蛸のような頭をし、両肩からは触手が数本伸びている
手は白い手袋をしており、その右手に握るはソードブレイカーという普通の刃と櫛状の峰をもつ片手剣だ。
敵の剣を峰の凹凸にかませて折ったり、叩き落としたりするのに使う便利な武器だが…
首に巻いた黒いマントには龍の刺繍がされている
釣り目は左右に2つずつあり、邪悪な目つきをしていた
クワイエット
『あわわわわわ!!リゲル!あいつ!』
リゲル
『仲間の証言にそっくりだぜ!蛸頭野郎!』
ティアマト
『こいつが…聖騎士殺し』
リリディ
『そして、スキルを狙う者ですか』
ティア
『アカツキ君…』
アカツキ
『ティア、大丈夫だ』
俺はブルドンから降りると、残る力を振り絞って刀を構えた
《こいつぁ…不味いぜ》
アカツキ
『何者だこいつ』
《こいつ…いやまさかそんな筈はない!お前は死んだはずだ!確実に死んだ!未来の為に自らの人生を犠牲にして死んだはずだぞ!》
テラ・トーヴァが声を荒げ、興奮している
いったい何がどうなっているのか俺にはまったくわからない
ティアマト
『てめぇ何者だ蛸助が!』
???
『シンガイな名前ですね、名乗る名など死にゆく者に教えても意味はないでしょう?』
ティアマト
『面白れぇ!やってみろや魔物風情が!』
???
『魔物?ちょっと違いますね』
奴は小さく笑いながらソードブレイカーを肩に担ぎ、首を回す
ゼペットの手下、相当強いのだろうな
ミノタウロスはこいつに気づいて逃げたんだ、あいつよりも強い!
リリディ
『魔物じゃないですと?』
???
『イキナリの登場に困惑してますね?それはどうでもいい、そこにいるのがアカツキですね、ゼペットの命により…貴様の開闢スキルを奪いに来た!そのスキルは人を不幸にする。俺はそんな時代を生きた…悪いが死ね』
奴はそれを口にし、俺達に襲い掛かってきた
激闘 リザードマン編 おわり
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