第246話 11 ホンノウジ地下大迷宮

49階層、そこは暗闇だ

俺はオイルランタンを手に持ち、辺りを照らしながら前を進む

隣にはティアマトが長斧を肩に担いで歩いているが、無駄に頼もしい


リュウグウ

『気配は多いか』


ティア

『挟み撃ちされてるね』


どうやら囲まれたらしい

カタカタという聞きなれた音が洞窟内に鳴り響くと、それは徐々に近づいてくる

ゾンビナイト、姿がまだ見えなくとも間違いない


《数だな…》


アカツキ

『俺は灯りに徹する、離れ過ぎずに後方はティアとリュウグウ、前はリリディとティアマト、ギルハルドは自由』


リュウグウ

『私は動き足りない、多めに貰うぞティア』


ティア

『わかった』


リリディ

『殴り足りません、多めに貰いますよティアマトさん』


ティアマト

『賢者が目指す人間が言うセリフじゃねぇぞ』


リュウグウ

『あっはっはっはっは!』


彼女は腹を抱えて笑ってる

以前は珍しいなと思っていたが、今となってはよく笑うようになった

それは俺達にとって良い兆しと思っても問題ない


リリディ

『面白かったならば安心ですね』


リュウグウ

『笑わせてくれるメガネだな。倒し切れなかったら承知しないぞ?』


リリディ

『まさか』


皆が身構えると、それは灯りの中に現れる

ゾンビナイトやゾンビランサーがうじゃうじゃいたのだ

それに交じってグールという灰色で人型の魔物、爪はあまり鋭く無いが噛みつかれたら痛い

ランクは全て低いが、数が多い


30体は軽くいるだろうな


アカツキ

『お…俺も戦った方が…』


ティアマト

『灯り、頼むぜ?』


駄目か…なんともむずがゆいというかなんというか

何故いつも俺は照明係になるのだろうか、不思議だがのちほど議題として話そう

俺も戦いたい


『アァァァァ!』


『カカカカ!』


アンデットが緩く襲い掛かる

すかさず仲間が駆け出し、バッタバッタと敵を倒していく

ティアは鉄鎌を振り回し、すれに触れた魔物は容易く両断されたり破壊されて地面に倒れていく


ティアマト

『おらよ!』


右ストレート、新しい武器があるが彼は素手が好きなのは変わらない

ゾンビランスの持つ槍の突きを避け、槍を掴んで引き寄せると強烈な頭突きで吹き飛ばす

リリディは『天誅』と囁きながら目の前のリッパーの噛みつきを木製スタッフで受け止めると、そのリッパーの首元をギルハルドが一瞬で通過し、爪で首を刎ね飛ばす


『ニャッハハーン!』


猫が一番楽しそうだ

仲間もそれに続いてどんどん敵を倒していくが、緩やかにアンデット種の魔物が増え始める


『ヒョォォォ』


ゴーストだ

黒い煙に釣り目のアンデット種

リリディが突風でその団体様を一瞬で吹き飛ばすと、その場には魔石しか残らない

魔法スキルしか効かない魔物だがどんな魔法スキルでも一撃である


ティアマト

『そっちは大丈夫かよぉ?多いぜ?』


リュウグウ

『問題ない、そっちも多いぞ』


《埒があかねぇな、どうするよ兄弟》


アカツキ

『ティアマト、リリディ!道を切り開いてくれ、そのまま後方から追ってくる魔物を倒しつつ進もう』


ティア

『はい』


リリディ

『では行きましょうかね!シュツルム!』


彼は黒弾を正面から襲い掛かるアンデット種たちの足元に飛ばすと、爆発で奴らを一気に吹き飛ばす

その隙に俺達は一気に切り抜け、ある程度の距離を取るとゆっくりと前を歩き出す

後ろからは呻き声ばかり聞こえるが気にしてられない


前から飛び込んできたジャックという爪の鋭い筋肉質の人型の魔物をティアマトが長斧で頭部を割って倒すと、見えてきた道を『右いこうぜ!』と勘で言い放つ

どこが正解かはわからないが、一先ずいくか


《ここさえ抜ければお目当ての魔物だ。だが本当に道が多いな》


その通りだ

オイルランタンを上に掲げて歩いてみると、壁には沢山穴がある

そこに行くのは困難だが、複雑過ぎる迷路にしか見えない


アカツキ

『くっ、また分かれ道か』


リュウグウ

『来るぞ!早く決めておけ』


彼女は近づいてくるゾンビナイトなどのアンデット種をティアと共に各個撃破していく

悩んでいる時間はない、道は4つ

どこが正解なのか悩んでいると、その答えが声となって帰ってくる


『ギャァァオオォォォォォォ!』


あの声だ

この地下大迷宮の主の声である

ありがとう、今は礼を言っておくよ


アカツキ

『一番道だ!真っすぐ走れ!』


『ニャハンハー!』


ティアマト

『おら行くぜぇ!』


リリディ

『シュツルム!』


彼は後方に黒弾を放って爆発で敵を吹き飛ばす

こういう使い方もできて本当にこいつのシュツルムは便利過ぎる


声が響いてきた道に走るが、まだ体が強張っている

相当強い、想像がつかないほどにだ


ランタンの光を頼りに仲間は前をひたすらに進み、道は徐々に広くなる

すると不気味な音が聞こえてきたのだ、気配感知には反応が無い

だが確実に何かが近くにいるんだ


リリディ

『きっと気配感知ではわからないタイプです!ご用心を!』


リュウグウ

『周りから聞こえるぞ!複数か!?』


アカツキ

『いや…違う…』


俺はオイルランタンの灯りに照らされるそれを見た

高い天井を僅かに照らした灯りには黒光りした長い胴体、多すぎる足

明らかに虫だがデカすぎる…あれは


《マジかよ》


アカツキ

『ムカデだ!!複数じゃない!俺達を取り囲めるほどのデカさだ!』


全長は不明過ぎる、天井は僅かしか照らす事が出来ない

そして道幅は広すぎて無理だ

かなり長い、だからこそ周りから聞こえるんだ


ティア

『ショッカン!ムカデの王だよ!ランクA!』


それは何百年前かにマグナ国にある街の地下から突如として姿を現した化け物

全長100メートル、その黒光りした鋼ともいえる外皮はいかなる物理攻撃をも跳ね返し、魔法の耐久性も高い


街を破壊し、マグナ国総合騎士5千と冒険者1千が到着したときには既にその魔物は地下に消え、朽ち果てた光景だけが残されたという歴史がある


街喰らいショッカンという異名を持つ化け物の中の化け物

それが今、俺達の前に現れたんだ


『シャハハー!』


ギルハルドが威嚇しながら俺の横に顔を向ける

こういう時はかなり頼りになる猫だな…仲間もそれに気づいているからこそギルハルドが向く方向に素早く体を向けた


暗闇の中から現れたのは巨大な頭部、悪魔のような恐ろしい顔をしたムカデの顔は口元の鋏を大きく開き、地面スレスレで俺達に向かって突っ込んできた


リリディがシュツルムを直ぐに放ち、ティアマトが影を伸ばしてディザスターハンドを起動だ

黒弾がショッカンの顔面に命中すると大きな爆発を起こすが、砂煙の中から直ぐに甲高い声を上げるショッカンが顔を現す

全然聞いていないのかと驚くが、頑丈な外皮に僅かな亀裂が見える

無駄じゃない


『おらぁぁぁ!』


影から大きな悪なのような腕が現れると、そのままショッカンを殴る

だがしかし、ティアマトの技スキルは撃ち負けて四散してしまう

直ぐに全員が飛び退き、直撃を免れるがショッカンが通過した後に起きる僅かな風圧でバランスを崩す


リュウグウ

『!?』


攻撃を仕掛けるのは頭部だけじゃない

リュウグウの背後から姿を現す尾、それはとても鞭のようにしなりながらも彼女に襲い掛かる

反応が早かった彼女は間一髪でそれを避けるが、ショッカンの尾が地面に叩きつけられた際に八去られた炸裂音と同時に彼女は吹き飛び地面を転がる


ティア

『リュウグウちゃん!』


リュウグウ

『構うな!』


尾が再び暗闇に消えていく

頭部のぶちかましと尾による叩きつけの2段が何度も押し寄せ、その度に仲間が避けながらも僅かに攻撃を当てていく


しかし、これだと完全な消耗戦であり勝てるイメージがまったく沸かない


ギルハルドが見る場所から頭部が襲ってくる

それだけが唯一俺達が救われた情報だ


アカツキ

『なっ!?』


今度は俺に尾が横から薙ぎ払うかのように襲い掛かる

オイルランタンを持っているから狙ったのだろうか…

すかさず跳躍して避けると、今度は頭部が暗闇から姿を現して俺に一直線に突っ込んできたのだ

どうみても丸のみしますよと言わんばかりに口を開いてる

避けなきゃ即死だろうな


《兄弟!》


俺はオイルランタンをティアマトに投げ渡しながら刀を引き抜き、魔力を流し込んだ

攻撃してくるときにしか攻撃のチャンスはないというのは既に見ている

幻界の森にいたトヨウケでな!


綺麗に倒すなんて考えてないよ、A相手にそれは我儘といえるからだ


『破壊太刀!』


刀の剣先を超え魔力が伸びると硬質化し、リーチを伸ばす

俺は叫びながら刀を全力で振り上げると同時に迫りくるショッカンの顔面を斬り裂いた


『ギャピ!』


奴は仰け反り、赤い血を顔から吹き出す


直ぐに援護でギルハルドが懐から手裏剣5発を顔に投げ込み、食い込ませるとリリディのシュツルムそしてティアのラビットファイアーが追加で顔に命中する

良い感じだ


地面に着地した俺は振り下ろされる尾を飛び退いて避けたが、炸裂音が響き渡ると同時に発生した衝撃波で吹き飛んだ

明かりの無い場所まで飛んでも可笑しくはない勢い、しかしティアマトがさせまいと俺を受け止めてくれたのだ


『無茶しやがって』


『助か…』


途端に俺達の横から現れたショッカン、顔を血だらけにしながらも怯む様子はない

このタイミングでは避けるのは無理だ、すでに目の前


不味い、死ぬと心が未来を先読みしてしまうと人は無意識に体を強張らせる

だが俺達はそうならない


ティア

『駄目!』


彼女は俺達の背後から金色の翼を羽ばたかせ、カブリエール戦闘形態で現れたのだ

幾つものシールドを纏い、彼女はショッカンに突っ込む


俺は彼女の名を叫ぶと、ショッカンとティアは激突する

なんと互いにぶつかり合ったまま力比べになったのだ

あまりの光景に俺は空いた口が塞がらない


《兄弟!》


アカツキ

『くっ!』


俺はティアマトと共に走る

彼女が押さえ込んでいる頭が好機である


刀に魔力を流し込み、飛び上がると『破壊太刀』と叫んだ

剣先から伸びた魔力は硬質化し、長い刃と化したまま奴の頭部を切り裂く


そしてティアマトはマグナムで音速を越えた左ストレートパンチ

ショッカンが仰け反ると同時に血が更に吹き出し、断末魔を上げた


畳み掛けれるチャンスは今しかないかもしれない

だからこそ今全力を見せるときだ


リュウグウ

『百花乱舞!』


彼女はショッカンの顔側面に目にも止まらぬスピードで槍を何度も突き刺す

秒間30発という恐ろしい量の攻撃でショッカンはその場でのたうち回り、地面が揺れた


『ギュァァァ!』


リリディ

『クラスター!』


次に起きるは大きな爆発だ

ショッカンの頭部の周りに現れた黒い魔法陣から黒弾が現れ、それが眩しい光を放つと爆発がショッカンを包み込む


俺達はしゃがみこみ、吹き飛ばされずに済んだが砂煙で辺りは見えない

リリディが手に持つオイルランタンの明かりだけが砂煙の中からでも僅かにわかる

俺は彼からランタンを受け取り、身構えながらも様子を伺う


かなりのダメージの筈

これで動けたら凄い、本当に化け物だろうな


リリディ

『やりましたか?』


『ギュリァァァア!』


ティアマト

『化け物が!』


まだだった

ショッカンは砂煙を吹き飛ばしながら俺達の前に姿を表す

だが頭部の損傷は酷く、血まみれだ

怒りを顔に浮かべたショッカンは地面を抉るようにして俺達に迫る


これ以上の迫力はそうそうお目にかかれない

確実にダメージは入っている、ならば勝てない敵じゃない筈だ


『ホーリー』


俺の後方にいたティアが巨大な魔法陣を展開し、光り輝く

白い光線がそこから飛び出すと、それはショッカンに命中したのだ

聖魔法スキル最上位と言われる巨大な聖なる光線をまともに受け止めてしまったショッカンは絶えることなく彼女の放った光線に押し込まれ、悲鳴を上げて明かりの見えない奥まで消えていく


安心はできない

直ぐに光の届かない場所から姿を現すショッカンの尾

それは近くの地面を叩いて炸裂音を響かせると俺達を吹き飛ばす


『ぐっ!』


ランタンの灯りはまだ生きている

消えなくて良かったよ、だって高い代物だからな


気づけば先ほどまで聞こえていたカサカサという不気味な音は聞こえなくなり、静かだ


《ホーリーをまともに食らったんだ、それにショッカンの強さは巨体から繰り出される攻撃。頑丈は外皮を砕かれちゃーな》


リュウグウ

『死んだのか…』


アカツキ

『油断するな』


その瞬間、暗闇の奥から断末魔をあげながら現れるショッカン

頭部は酷く破損しており、何故動けるかわからない

うねりながら現れた奴に向かって俺達は避けきれずに全員が吹き飛ばされてしまった

避けた際での接触でまともにぶつかることはなかったが、掠るだけで体中に激痛が走る


ランタンは破壊され、俺の視界から光が消える

あるのはティアの戦闘形態による金色の魔力の光

それだけでも十分なのだが…


ティアの展開しているシールドも先ほどの激突でかなり破損している

彼女はケアでシールドを回復してから俺達に浮遊しながら近づいてくる


『みんな!』


ティアマト

『いってぇ…すげぇパワーだ』


リュウグウ

『ヤバいぞ‥これは』


アカツキ

『っ!』


またショッカンが現れる

怒りを顔に浮かべ、先ほどのように俺達に向かって突っ込んできたのだ

まだ立ち上がったばかり、大きなダメージを受けて血を流す俺達に避ける暇はない

一撃でこれほどのダメージ、流石はAだとしか言えないな…


だがティアが体を纏う球体に張り付くシールドを輝かせると、ショッカンに体当たりを仕掛けた

翼を羽ばたかせ、低空飛行したまま奴にぶつかるとダメージを受けている触感を仰け反らせる

彼女は直ぐに距離を取ると、俺は叫んだ


アカツキ

『リリディ!』


リリディ

『クラスター!』


ショッカンの頭部の周りには黒い魔法陣

そこから姿を現す黒弾は眩い光を放つと、大爆発を引き起こした

ティアが俺達の前に移動して守ってくれたおかげて爆風から身を守ることが出来た


直ぐに襲い掛かる背後からの尾

ティアマトが咆哮を上げながら左腕に魔力を流し込むと、振り下ろされる尾に向かって跳び上がり拳をぶつける


『マグナム!』


相殺だ

尾は外皮にヒビを残して弾かれ、ティアマトは地面に強く叩きつけられる

ギルハルドが懐から赤い手裏剣を尾に投げて食い込ませると、それは小規模な爆発を起こす

珍妙な小道具を使うとはますます不思議な魔物だ


《お前ら!大丈夫か!?》


リリディ

『戦い難いですね!全容さえわかれば』


ティア

『見えればいいんだね』


彼女はそう告げると、カサカサと響き始めた見えない闇を眺め始めた

何をする気なのか、彼女を見ていると金色の光がさらに輝きだしたのだ

ティアが持つスキルで最高の威力を誇るのは確かにホーリー

だがそれは魔法スキルならばという事である


彼女には物理での切り札がある

今それを見せる時が来たんだろう


ティアの周りを漂う金色の魔力が周りに素早く広がったのだ

それによって広いこの大きすぎる空間全てを照らした

超巨大なムカデの魔物ショッカン、やはり全長は500mはあるだろう


長すぎる胴体が俺達を囲んでいたのだ

そして奥の天井付近で様子を伺う致命傷を負うショッカンの頭部が俺達を睨みつけている


彼女の光は次第に何かの形に変化していく

それは金色の剣、その数は数えるのが馬鹿馬鹿しく思えるほどの量だ

天井付近で光を放つ光の剣は全てをショッカンの頭部に向き始める


《ティアお嬢ちゃん!》


『千剣!』


彼女の声が響き渡ると、剣の雨がショッカンに降り注ぐ

それらは全て頭部を狙っており、それに気づくショッカンはその場から逃げようと目論む

しかし、顔を動かした瞬間にリュウグウの放つラフレイルの多数の光線によって動きを止められてしまう


『キュゥゥゥゥゥゥ!』


ティア

『終わりッ!』


剣の連射、それはショッカンの顔や首元をいとも容易く貫いていく

これほどまでの光景、簡単に見れるものではない

シキブさんの早撃ちや数の暴力などこの技1つで薄れてしまう程


足を止めてはいけないのに、俺は金色の剣で貫かれて悶え苦しむショッカンをただ見ている事しかできなかった


しかも貫いた剣は魔力に戻り、ティアの周りに纏わる

半分ほどの数が撃ち放たれると、ティアはその攻撃を止める

広く照らす大きな空間、ショッカンは体を震わせながら俺達に顔を向け、徐々に顔を下げていった


『…っ!』


虫にも最後の抵抗がある

ショッカンは無言で一気に俺達に突っ込んでくる

リュウグウの放つ槍花閃を受けても仰け反ることなく、痛みを堪えながら襲い掛かる

しかし、もう終わりだと俺はわかった


ティアマトが駆け出し、影を大きく伸ばすとそこから巨大な悪魔のような拳を影から出現させたのだ


『ディザスターハンド!』


今度は撃ち負けない

彼の呼び出した腕は盛大にショッカンの顎を打ち砕き、高い天井にまで押し込むとそのまま叩きつけたのだ


盛大に血が飛び出し、俺達を囲むショッカンの胴体の動きはピタリと止まる

ティアマトは膝を抱えながらも息を切らし、消えゆくディザスターハンドを眺めた


アカツキ

『やった…か』


リリディ

『もう動かないでほしいですね』


ティア

『大丈夫、もう動かない筈』


天井に頭部を埋め込まれたショッカンは瓦礫を落下させながら地面に落ちてくる

目には活力は感じない、生きている様子が無いのだ


『ニャッハン!』


リリディ

『ギルハルドも頑張りましたが、ティアさんも凄いですね』


アカツキ

『みんな、怪我はどうだ』


ティアマト

『大丈夫だ。体痛ェけど…よ』


リュウグウ

『それよりも敵だ。まだ魔石が出ないぞ…』


《いや、終わりだ…よく頑張った》


ティア

『街喰らいのショッカン、マグナ国の個体じゃないね』


リリディ

『化け物でしたが…なんとかいけましたね』


そして力なく倒れるショッカン、その頭部から魔石が落ちてくる

小石程度の魔石が普通だが、倍以上の大きさだ

予備のランタンを持ってきていた俺はそれに火を灯して灯りを確保していると、先頭形態を解いたティアが僅かにふらつく


すかさず近寄って肩を支えると彼女はニコリと笑う


『疲れちゃった、あはは』


『すまない、助かったよティア』


《すげぇ称号だろ兄弟?使い方覚えりゃもっと強くなるぜ》


凄まじい強さを誇る称号だな

俺は魔石を毛の中に収納するギルハルドを眺め、仲間と共に集まる

みんなかなりのダメージを負っている為、俺は『ここで休む』と思い切った事を言ったんだ


リリディ

『ここでですか!?』


リュウグウ

『ふむ、言ってみろアカツキ』


アカツキ

『本当は戻って湖でみんなを休ませたいがアンデットの群れを超えて無理をするよりはここを縄張りとしていたであろうショッカンの近くで休んだ方が賭けとしては成立する。アンデットすら近寄らないんだからな』


リュウグウ

『納得は出来る。どういった理由での休憩と見ている』


アカツキ

『万全など今は求めれない。怪我や痛みは我慢…今は体力と魔力の回復、みんな魔力回復薬を飲んで体を休めろ』


国で作っている魔力回復薬、液体だ

魔力水より効果は薄いが、それでも回復するにはこれしかない

ティアは回復魔法師協会のテスラ会長からこれを貰っていたのだ


ギルハルドが自分の体をまさぐると、中からポンポンと魔力回復薬の入った小瓶が出てくるのが面白い


『ミャッハー』


リリディ

『便利ですね。帰ったら最高級の肉を御馳走しますよギルハルド』


『ミャンミャー!』


嬉しそうだ

荷物持ちとしてギルハルドは凄い有能だ、しかも戦える


《兄弟にしちゃ思い切った案だな》


アカツキ

『だがこれが賢明だと俺は思う。』


《へっ!悪くないぜ…》


リュウグウ

『お前にしてはまともだ。熱でもあるか?』


俺は首を傾げると、彼女はクスリと笑う


リュウグウ

『冗談だ。休もう』


ティアマト

『この魔力回復薬、不味い』


ティア

『幻界の水に慣れると味が…ねっ』


あれは甘かった

対するこの飲み薬は苦い

そこは我慢するか…


周りに光粉を振りまき、視界を確保して皆はその場に腰を下ろす

ティアマトは堂々と大の字に寝転がるが、仮眠してもいいんだぞと告げると彼は首を横に振る


アカツキ

『予想を口にするんだが』


リリディ

『どうしましたか』


アカツキ

『この先、きっと1本道だ』


ティアマト

『どうしてだ?』


アカツキ

『俺達を誘導するかのようなジャバウォックの鳴き声がしない。もう必要ないところまで来たとしたらどうだ?あくまで俺の勝手な推測だ』


ティア

『アカツキ君、だんだん慣れてきたね!そういわれると確かに納得しやすい理由だね』


リュウグウ

『ふむ、憶測としては良い所まで来ている。褒めてやる』


アカツキ

『きっとゴールは近い。ただどの程度ここで休むかはみんなで自身の調子を見ながら決めよう…まぁ今俺は倒した後の帰りを考えていないけどさ』


リュウグウ

『くふふ、そういう抜けた所は変わらぬか…まぁこの先にいる虫を倒してから決めてもいいと思うわ』


ティア

『倒した後はその時で決めよ。』


ティアマト

『倒したら帰る、これっきゃねぇ』


ティア

『それ当たり前ティアマト君。どう帰るかだよ』


《十分に休んでおけ。敵は誰かわかってんだろ?》



悪食の椅子



・・・・・・・


悪食の椅子


等活席   オイハギ  死亡

黒縄席   メデューラ 死亡

衆合席   ヴィドッグ

叫喚席   ???

大叫喚席  ??? 

焦熱席   ジャバウォック 

大焦熱席  ゾディアック

阿鼻地獄席 イグニス 


・・・・・・


完全に上位の悪魔です

きっと恐ろしい強さを誇っているに違いない


ティアマト

『にしてもこっからだな』


リリディ

『そうですが、ティアマトさん体大丈夫です?かなり強く叩きつけられましたよね』


ティアマト

『気にすんな、体はタフだ』


アカツキ

『リリディは魔力の状況は』


リリディ

『半分、ですね』


アカツキ

『ティアはかなり使ったな』


ティア

『あはは…半日休まないと半分も回復しないかも』


リュウグウ

『私は十分に余している。勝手に温存したがな』


アカツキ

『それで良い。次は頼むぞ』


リュウグウ

『任せろ』


彼女は笑みを浮かべ、胸を叩いている

となるとここで眺めの休憩が必要だ

それには全員が同意、んで俺は一応仲間が休んでいる間は周りの様子を見る事にした


オイルランタンだけの光だけど、ショッカンの頭部が絶秒に映るのでちょっと怖い


《来た道に魔物が数体だが、兄弟の読み通りだ》


アカツキ

『ここには来ない』


俺の気配感知の高い方だ

暗闇で見えない方角に体を向け、身構えるが決して敵は来ない

ここは魔物特有の縄張りであり安心して休める事が出来る


ティア

『凄い状況で戦ったね』


アカツキ

『だが助かったよティア』


ティア

『帰ったらご飯奢ってね!』


まぁいいだろう


こうして俺達は長い間、体を休めた

万全ではないが時間をかけすぎても駄目だ

仲間達は立ち上がると一息つく


俺はオイルランタンを前にかざし、先頭で歩き出す

時刻は18時、しかしこの先にいる奴を倒さないともう休めない

相手がどの程度強いかなんてわからないが、鳴き声だけである程度予想は出来る


天井からしたたり落ちる水滴の音、そして俺達の静かな足音だけがこの空間に響き渡る

壁の中から音が聞こえてくるが、何かが流れている音のようだ


《ここらで壁は破壊したら不味いぜ?地下水脈が近くを流れてる》


ティアマト

『面倒だぜ』


『ニャーン』


リリディ

『奥、発光石の灯りです』


助かった…

ここからは灯りがあるだけでも俺達の心配は消える

道幅は狭くなっていき、3メートルくらい

天井までの高さは2メートルだと推測する


最後尾はリュウグウ、彼女は後ろ歩きで後ろを最大限気にしつつも俺達から離れないようにしている


アカツキ

『リュウグウ、ステルスみたいな魔物には気をつけろ』


リュウグウ

『わかっている…だがしかし』


アカツキ

『どうした?』


リュウグウ

『私達は強くなれたんだな』


それにはティアマトが口元に笑みを浮かべた

俺達は強くなったよ

入ったら二度と戻ってこれないと言われている森から奇跡的に生還したんだからな

死んでたまるか、ここだって制覇してやる気だ


テラのいう通り、ここは幻界の森よりも幾分かマシだな


ティア

『なんだかソワソワする』


《それは天使の感知だな、スキルで記載はねぇが直感は本物の称号さ…この先にいる奴をティアお嬢ちゃんが捉えたんだな》


リリディ

『天使の声が聞こえる称号…ですか』


リュウグウ

『その言葉が生まれた理由はまだわからん。』


リリディ

『でしょうね』



歩くこと数分、俺達は狭い道を通り抜けることが出来た

広大なドーム状の空間、壁際は崖となっており落ちれば激流に飲まれて見えない場所まで流されるだろう

地面には穴が開いている場所があるが、そこからは時間差で水が噴き出す

辺りを見回しても魔物の姿はない、発光石で全体が見渡せるのだがな


アカツキ

『気配感知が意味ない魔物…か』


ティア

『カサカサ聞こえるよ、気を付けて』


『シャハー!!』


50階層、俺達はようやくここまで来た

崖下を流れる地下水の音に紛れて聞こえてくる何かがひしめく音

それは奥の崖から姿を現したのだ


初めて見る魔物、いや悪魔といわれる存在に俺達は開いた口が塞がらない

胴体はスズメバチに酷似した姿だが色は黒に緑色の血管が体から浮き出ている

足は蜘蛛のようになっており、各節の間から緑色の光が僅かに見えた

背中には4つの羽、それを動かして不気味な音を響かせているが…あれは威嚇なのだろうな


顔はハチじゃない、蜘蛛だ

口から長い舌を蛇のようにチョロチョロと出し入れしながら沢山の目で俺達を強く睨む

その眼光を見るだけで体が強張る

全長は20mはあるだろうその巨体は足で地面を強く踏みつけると、首を傾げながら小さな鳴き声を上げた


『ギュルルルルルル』


アカツキ

『見ているだけで鳥肌だ。お前ら準備は良いか!』


ティアマト

『やるしかねぇだろ!?準備も糞もばっちしだ!』


リリディ

『全てをここで!』


ティア

『頑張らないとね!』


リュウグウ

『面白い人生だ、悪魔と会えるとはな!』


『シャハハーン!』


《相手は上位悪魔!お前ら死ぬ気で行かねぇと返り討ちにされっぞ!》


そして大きな咆哮を上げた悪魔ジャバウォックは突如として襲い掛かる

俺はリュウグウと駆け出し、武器に魔力を流し込んだ

こいつを倒せば、あとは帰るだけ


そしたらリリディも変われる。

仲間が強くなれるならば、それでいい

生き残るために俺達は強くならなければならない人生とは面白いな


さぁ始めるか


『俺達馬鹿は!』


『『『《剣より強い!》』』』


『ニャ』

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