第91話 遭難者探索
2人きりで森か
デート、とは言えまい
それにしても森の中は暗い、入り口を警備していた人たちに事情を話し、
森に入ったまでは良い
左手に持つランタンの灯りがないとまともに視界を確保できない
現れる魔物は日中に飯を食いそびれた奴ら
『ギャギャギャ!』
『そっち頼むぞティア』
『まかせて!』
5体のゴブリン、慌てる数じゃない
彼女と共に突っ込み、俺は右手に持つ刀で2体同時に斬り裂いて倒す
すると隣でティアがゴブリンの頭部に回し蹴りを当てて吹き飛ばし、近くのゴブリンが振り回す短剣の攻撃を避けてからサバイバルナイフで首を斬り裂き、飛び退いた
もう1体に素早くショックを放ち、雷弾を命中させてから俺がそいつのトドメで刀で斬る
なかなかに良いコンビだなぁと勝手に俺は感じるには丁度いい
倒し終えると、俺は魔石を回収する
その時にティアは周りを警戒しながら話しかけてきた
『3人チームかぁ…』
『何故帰らないかは2つ理由がある、そのうちの1つは最悪だがな』
『だよね…』
1つは既に魔物にやられて死亡している
残る1つは帰れない状況にいるという事、それはチームが怪我をして動けない状態だ
後者を祈るしかない
ランタンの灯りは魔物を引き寄せる
出来るだけ無駄な戦闘をせずに森の中を進むしかない
冒険者となると遭難した際、こういう話を聞くことがある
森の中で遭難した場合、声を上げずに隠れる事
帰らぬ冒険者がいるとわかった際、救援に向かう
ランタンの灯りを頼りにそこで声を出せ
迂闊に声を出したら夜の魔物に気取られるからだ
静かにしとくべきなのである
しかし、この世界には遭難者を騙す魔物が存在する
助けが来たと勘違いし、姿を晒せば確実に死ぬと言われているらしいが
みんな作り話だとか言う
そんな話、死んだら出来るはずないからな
まぁ強い冒険者がそいつと戦って生き残ったという説もあるが、聞いたことが無い
『アカツキ君』
俺はティアの声が少し真剣な声に気づき、ランタンの灯りを弱めた
魔物の気配だろう
しゃがみ、茂みに隠れる
奥の方で何かがガサガサと音を立てて通り過ぎる
なんの魔物かはわからない、ティアは『あまり強くはない』と告げるが
《兄弟、探知したぜ》
『テラ、なんの気配だ』
《お前らの探している冒険者さ、運が良い…死んでない》
『ティア、冒険者3人は死んでないってさ』
彼女はホッとした
テラ・トーヴァの話だと、気配は弱く、それは怪我をしている証拠だとか
良かった…怪我で動けない状態だったか
その場所を聞くと、ここから3キロ先の滝周辺
俺は茂みから立ち上がり、ティアに話しかける
『行こう、滝の付近だ』
『テラちゃんさっすが!』
こうして真っすぐ滝のあるほうに向かうように歩き出す
するとカタカタと不気味な音が森の中に響き渡る
どこからかわからない、しかし気配も感じない…ティアもだ
まだ遠いんだろうが、多いな
『多分アンデット系の魔物だよね』
『だな…ランタンの灯りは小さくして進むぞ』
『わかった…っ!何か近づいてる、気づかれてる』
『了解』
ティアが指さす方向に意識を向けながら進むべき場所に歩く
すると堂々と茂みから姿を現したのはグール1体、単独で行動していたのか?
『カカカカ』
『口痛そう』
おもむろにティアが囁く
グールの口は大きく裂けているので痛そうに見えたらしい
その口から血が出ている、小動物でも食べていたのだろう
『カカッ!』
グールは口を大きく開けて飛び込んでくる
ティアはすかさずショックを放ち、雷弾をグールに当てて麻痺させると、奴はそのまま地面に倒れた
俺が刀で頭部を刺して終わりだ
『便利だな、ショック』
『F以下は命中すると確定で麻痺だから楽だよね、Dも殆ど1発麻痺だけど耐性が高いとちょっと…ね』
『だな、油断だけはしないでくれよ?』
『はいっ!』
俺はグールの魔石を回収し、歩き出そうとするとテラ・トーヴァが口を開いた
《ちっと隠れろや》
『ティア、隠れるぞ』
『えぇ?うん!』
再び茂みに身を隠す
念のため、ランタンの灯りは消したんだけども真っ暗というわけじゃない
月の光でそれなりに見える、開けた場所だからな
息を潜めていると面白い光景が俺たちの前に現れたよ
『カカカカ』
『アー』
アンデットの大行進だ
ゾンビナイト、ランサーやグールそしてリッパーやゴーストなど様々な魔物が列をなして歩いていたんだ
どんな現象だと思いながらも驚きを顔に浮かべると、テラ・トーヴァが説明してくれた
《夜だと珍しくないさ、アンデットは無意識に同じ種と共に集まって生きる生物、すなわち普通の動物や魔物を倒して肉を食らい、魔力を奪う》
『なるほどな…』
《こいつらにはバレるなよ?コンペールも1体いる》
言われたと同時にコンペールを確認できた
あれは厄介だ、毛のない灰色の大型犬に見えるが至る所が腐食している
両肩部には人間のような腕が生えている
腐敗してなければグランドパンサーにかなり酷似してるな…
コンペールは仲間を呼んだりもするので見つかりたくはないアンデット種ともいえよう
『アカツキ君、数凄いね…30ちょっといるよ』
『あぁそうだな、あれにはバレないで探そう』
『ティアマト君たちがいれば問題なかったんだけどね』
『掃討する専門はリリディが必要だ、俺の刀界でも行けそうだが…ちとまだ心配だ』
ようやく夜の森の中を徘徊するアンデットの大行進が奥に消えていくと、俺は再び着火石でオイルランタンの灯りをつけてから弱めにして進みだす
俺が先頭、ティアは直ぐ後ろさ
手に持ったランタンを上げ、周りを照らして足場を確認しながら前に進む、これが一苦労だ
『ガウッ!』
背後から飛び込んでくるのは魔物ランクDのグランドパンサー
灰色の毛のない大型犬と言えばわかりやすいかな
Dランクの代表的な魔物であり、こいつを倒せないとCランクというランクに行くのは苦労する
ティアは俺の持つランタンを奪い取ると、ショックを放ち、空中のグランドパンサーに命中させる
跳んでりゃ避けることはスピードがあるグランドパンサーでも不可能だ
彼女は俺からランタンを奪ったということは倒して来いって意味だ
それに答えるかのように、俺は麻痺したグランドパンサーに向かって突っ込んむと刀で斬り裂いて倒す
動き回らないならば容易に倒せる、そこまで俺達は来た
『おっ!ティア!』
『魔石光ってるね!グランドパンサーだしもしかして』
彼女と共にグランドパンサーの体から出てきた発光する魔石に手を伸ばす
ご名答、動体視力強化スキルだった
『ティア、君だ』
『アカツキ君、いいの?』
『今2人だ、最悪の場合…自分の身は自分で守る状況になるかもしれない』
『わかった!』
彼女は魔石を掴み、光を体に吸収する
動体視力強化1のティアが2になればもっと敵の攻撃を目で追えるようになる
近くの木では枝木に止まるフクロウがこちらを見つめながらホーホーと鳴いている
結構デブったフクロウだな
『あれ魔物だよ』
『え?でも気配が…』
『ブー太って名前のフクロウ』
『名前可哀そうじゃない?』
『え?可愛いよ?あと人は襲わないから大丈夫だよ?』
《兄弟、魔物の本をちゃんと熟読してるか?普通に書いてるだろう…》
『マジか・・・?』
《ランクDの鳥類だぞ?まぁ癒し系だからそっとしとけ》
うむ…
ティアと水分補給し、歩き始めると足元をネズミが通り過ぎる
俺は大丈夫だけどもティアはネズミは大嫌い、声は出さなくとも…凄い顔を浮かべたまま俺に隠れるようにして盛大に抱き着いてくる
2つのお山の感触が背中にあたる・・・至福の時、俺は目的を一瞬忘れてしまう
『ティア、ネズミもういないよ』
『本当にあれは生き物として存在しちゃダメ、可愛くないもん』
『可愛くない・・・か』
俺は呟きながら彼女を引きはがしてから共に歩く
夜になれば面倒な魔物も浅い場所まで来るときはある、それに遭遇するのが心配だ
それに…ゼペットの手下もいるかもしれない
今思えばこのまま2人で来たのは間違いだったかもしれないと思ってしまう
こうして、俺達2人は滝の近くまで来た
10メートル程度しかない高さの滝だけどもここの周辺にいるというのだろうか
俺はランタンの灯りを強くし、辺りを照らす
滝つぼ付近を見ると、岸部に魔物が絶命しているのが見える
『あれ、グランドパンサーだね』
1体だけじゃない、陸地にもグランドパンサーが2頭倒れている
誰かが倒したと考えるのが正解だ。
それは多分、俺たちが探している冒険者
『滝の音がデカいな、どこだテラ』
《滝の中だ》
『は?』
《滝の中に横穴があるんだよ、多分魔物の住処だったんだろうな》
滝の中、というよりは裏側か
確かに横から行ける足場はある
ティアに説明し、幅5メートルほどの川を岩場を利用して飛んで向こう岸に移動してから滝の裏側に行くように歩くと、魔物の気配が滝の上から彼女は感じた
『弱めて、ちょっと強い』
俺はランタンの灯りをあえて消した
彼女はアッとした表情を浮かべたのを月の灯りで見えたが、直ぐにクスッと笑みを浮かべてきた
姿勢を低くし、岩場に体を隠していると滝の上で下を見下ろす魔物が見える
初めて見る魔物だ
狼種、魔物ランクCの雷狼だ
白い毛並み、たてがみが青く、先が黄色い
全長は2メートルとグランドパンサーよりも気持ち大きい狼、いや…グランドパンサーは犬種だな
滝の上で鼻を利かせているけども何をしているのだろうか
風はない、そして少しばかり奴は怪我を負っている
すると気配が1つ増えた、さらに雷狼が今見ている雷狼の横に現れたんだ
流石にあれは避けるしかないな、こっちのほうが大きい
《兄弟、しゃべんなよ?ちょっとの物音でも雷狼は聞こえる》
俺は頷き、ティアの口に手をあてて頷くと、彼女は理解してくれた
『グルル…フンッ』
雷狼2頭は奥に歩いて消えていった
だからと言って声を出すわけにはいかない、俺はランタンを右手に、左手でティアの手を掴んで彼女を立ち上がらせてから滝の裏に静かに移動する
まだ気配は上に感じるからなぁ…滝の上が奴らの縄張りなのだろうか
滝の裏は幻想的だ、水の壁、反対側は岩の壁と思いきや…テラ・トーヴァが話した通りに人が通れる幅2メートルほどの小さな洞窟がある
そこでようやくランタンに灯りをつけ、中を照らす
深くない洞窟のようだ、7メートル先で座って身を寄せている冒険者が3人、こちらを見てギョッと驚いていたんだ
俺は直ぐに自身の口元に人差し指をあて、静かに、と伝えると彼らは深い溜息を漏らしながら小さくガッツポーズをしていた
男3人のチーム、20代半ばぐらいだな…
2人は剣士、立派な武器や防具をしている
残りの1人は双剣だ、珍しい…
双剣と剣士の2人は怪我して動けないようだ
『トーマさんは誰ですか?』
俺は目の前まで近づき、小さな声で言い放つと
剣士の男が手を上げた
『奥さんのフラスカさんが心配して頼み込んできたんです、律儀に帰ってくる夫が帰ってこないって』
『あはは…本当に申し訳ない、これじゃ帰れなくて』
剣士のトーマさんの足は折れていた
魔物との戦いで怪我をしたらしく、双剣の人も肩が引き裂かれていて深い傷だ
仲間が彼の肩に布を任せて凌いでいたらしいな
苦痛を顔に浮かべている…辛かっただろう
『ティア』
『わかった』
彼女は双剣の男に肩に両手を伸ばすと、ケアを使用した
緑色の魔力が彼の怪我した肩部に流れると、ゆっくりだが徐々に怪我が回復していったんだ
それには3人とも声を出さないで口を開けて驚いている
『彼女は・・・まさか』
『トーマさん、彼女はパナ・プレイヤーでケア持ちです』
驚いている、初めて見たんだろうな
ベイク
『俺は双剣使いのベイクだ。お嬢ちゃん助かるよ』
ティア
『まずは怪我を治します。外に雷狼が2頭いるので大きな声は出さないようにお願いしますね』
トーマ
『まだいるのかよ…エルダーは怪我は大丈夫か?』
エルダー
『俺は大丈夫だ、かすり傷程度だ』
アカツキ
『雷狼にやられたんですか』
トーマ
『ああそうさ。1体だけならよかった…しかし2頭目が来た時に戦況が変わってこのざまだ』
エルダー
『煙幕玉もってて良かったな、なかったら逃げれなかったぞ』
ベイク
『無駄な買い物だと馬鹿にしただろお前ら、役に立ったな』
ベイクは苦笑いしながら言うと、他の2人も苦笑いした
嗅覚や聴覚に優れる狼種から逃げるのは難しい、それを可能にしたのは煙幕玉だったか
あれは辺り一面を煙幕で包むし、臭い!!!
匂いのおかげだな
俺は腰の水筒を渡し、3人に飲ませると生き返った顔をみんなしたのだ
どうやら水が無くて困っていたようだな
ベイク
『傷が治った…治癒魔法使いって凄いな』
ティア
『次はトーマさんにしたいですが…骨折はまだ私には治せないんです』
トーマ
『いや気にしない、助けに来てくれただけでも君たちが神様に見えるよ』
ベイク
『俺がトーマに肩を貸す、エルダーは救助にきた彼らと共に帰り道の協力を頼む』
エルダー
『わかったぜ』
冒険者『風の刃』ランクD
トーマ 剣士
ベイク 剣士
エルダー 双剣
骨折したトーマさんを肩を貸して起こすベイクさん
エルダーさんは双剣を腰から抜き、一息つくと小声で話しかけてきた
『雷狼にバレないで出れるか不安だな』
『唯一俺が失敗したのは仲間を連れてこなかったことですね』
『どういうことだい?』
『急を要すると思ってその場にいた俺達2人だけで来たんですが…判断が間違ったかもしれません、仲間たちを呼びにいくにも時間がかかると思って…』
『いいさ、気にしてないぜ?』
『それならよかったです、雷狼にバレたら時間は稼ぎますのでその時はお願いしますね』
『あ・・・あぁ』
俺はティアと彼らを連れて洞窟から静かに顔を出す
まぁ見えるのは滝の壁だ、そのまま横に移動して滝の中から出ると気配が上から感じないことに気づき、今のうちにその場から離れたんだ
いつの間にか風は吹いている、灯りはランタンだし消えることはない
『いやぁ…当分休みだな』
トーマさんがそう告げる
骨折となるとそうするしかない
滝を過ぎて森の中に入ると、再びアンデットの大行進だとわかる足音が森の中に響き渡っていた
ティアの気配感知で咆哮はわかる
俺たちは遠回りしながら奴らに気づかれないように茂みを利用して歩くと、予期せぬ魔物に遭遇する
《兄弟!上だ!》
『!?』
俺は素早く見上げる
魔物ランクEのグリーンマンティスだ、カマキリだな
1メートル半と少し大きなカマキリ、少しどころではないか…
木の上にいたであろうグリーンマンティスは落下しながら俺たちに襲ってきたんだ
反射的に光速斬で真上に飛び込み、すれ違いざまに首を跳ね飛ばして倒してから着地するとティアは魔物の体から出てきた魔石を回収して話しかけてきた
『起きてるんだね、カマキリ』
『らしいな』
流石に不安になり、木々を見上げる
魔物の姿は見えない、俺はトーマさん達に上の警戒を任せることにしたよ
気配を消せるマンティス系が起きているというのはちょっと面倒だからな
エルデ
『虫は寝てると思ったんだがな』
トーマ
『そうでもないらしいな』
アカツキ
『急いで森を出ましょう』
道中、アンデットの大行進とは無関係なゾンビナイトやゾンビランス、そしてリッパーなどが現れる
それは双剣のエルデさんとティアが倒すので俺は完全に灯りの係となっていた
開けた場所に辿り着くと、そこで小休憩にしたんだ
遭難していた3人がぐったりとしたまま地面に座って休む
無事だったとしても体は酷く披露している筈さ、無理もない
『アカツキ君、はい水』
俺の水は遭難者3人に渡したから無い
ティアが自身の水筒を俺に渡してきたんだけども…関節キッスか
あぁ至福だ
ちょっと狼狽えながら受け取ると、彼女は察したのか少し照れくさそうにした
それを見ると余計に恥ずかしい、しかし飲む
うん、いつもより美味しい気がする
少しだけ飲んだ、ティアの分だし飲み過ぎは良くない
トーマ
『悪いな、君の水筒』
アカツキ
『気にしないでください』
エルデ
『出来た彼氏じゃないか、なぁお嬢ちゃん』
ティア
『いや・・・その』
トーマ
『…エルデ、どうやらまだまだらしい』
何が、まだなんだ
俺は笑って誤魔化していると、テラ・トーヴァが溜息を漏らしてから言い放つ
《チキン癖を治してればあんときパックンチョできたかもしれないのにな》
やめてくれ…それは俺の心に刺さる
ふと、呆れていたテラ・トーヴァが直ぐに別の事を口にした
《お…悪いが避けれないようだぜ兄弟》
『どういうことだ』
《ランタンをトーマに渡して灯りを強くしとけ、お前も動かないと全滅だ》
ティア
『アカツキ君、凄い量の数…』
ティアが周りを見ていた
一か所ではない、森の中全体だ
どこから敵がと考えなくてもいい、四方から来ていることぐらいわかる
エルデさんは舌打ちをし、立ちあがると双剣を構えた
俺はトーマさんにランタンを任せ、彼とベイクさんを守るように囲んで布陣するとそれは不気味な音を響かせて姿を現した
ゾンビナイトやゾンビランサー、リッパーやグールもいる
どうやら途中で俺達の存在に気づいたらしいな
数が多い、先ほど見た時よりも数が増している…50は軽くいるぞ
ランクE以下だけならばと思ったが、数が圧倒的過ぎるな
しかも
『グルルルル』
トーマ
『コンペール!!』
アカツキ
『面倒な奴だ…ティア!俺はあいつをやる!エルデと2人で持ちこたえてくれ!』
ティア
『わかった!』
四方のアンデット
戦える者は3人のみ
約50体のアンデットと比べると絶望的だが
はたしていけるか?
俺はゆっくりと向かってくるアンデットを光速斬で加速して間を掻い潜り、そのまま奥のコンペールに飛び込んだ
『グルァァァァ!』
あっちも襲い掛かってくる
拳を握り締めて殴り飛ばす気だがこっちのほうが速い
奴は攻撃する前に大声を上げて奴の右腕を斬り飛ばした
こいつは頑丈じゃない、俺の刀でも今なら十分斬り飛ばせる
『グルァ!?』
コンペールは驚きながら振り返り、何かを口から連続で吐いてきた
黒い毒液か、俺はそれを避け続けた
地面に触れた毒液で僅かに溶けているのが見える…触れたら不味いな
《っ!?兄弟!避けに徹しろ!》
『なっ!?』
途端にコンペールが驚くべき技を出してきた
何度も見たことがある
リリディのチェーンデストラクションだ
左肩部付近に黒い魔法陣、そこから鎖が俺に伸びてくる
飛び退いて避けると、それは俺を追尾してくるのでどうしたもんかと焦りを覚えた
『アアアア!』
『邪魔だ!』
周りのゾンビナイトを刀で斬り倒してから伸びてくる鎖をギリギリ避け、冷や汗をかく
このままじゃ埒が明かないな
俺はテラ・トーヴァに『攻撃する』と伝えてから光速斬で鎖を避けつつも奴の懐に飛び込んで刀を振る
だがしかし、奴はランクCの魔物だ
避けられたが僅かに届いたらしく、血が噴き出していた
奴は魔法を解除し、鎖を消すと咆哮を上げる
俺は心の中で舌打ちをしてしまったよ
周りの地面から手が現れ、ゾンビナイトとゾンビランサーが姿を現したのだ
ティア
『ラビットファイアー!』
ティアは懸命に5つの熱光線をバラバラに撃ち放ち、周りの敵を燃やしていく
エルダーさんも双剣を使って周りの魔物を倒しているが、彼は早めに疲れが見え始めた
続くわけがないのだ
彼らは既に疲弊した状態だ、ベストコンディションとは言えないからな
『刀界!』
俺は納刀し、金属音を響かせて魔物たちに向かって斬撃が交じる衝撃波を放つ
ランクE以下ならばこれで十分かと思ったのだが、範囲を広くしたのが不味かった
10体以上巻き込めたが、半数が生きている…立ち上がるか…くそ!
『グルァァァ!』
《馬鹿!》
『やばっ!』
真横からコンペールが体当たりを仕掛けてくる
顔を向けると既に目の前、避けれないと悟った俺は身を削る覚悟で奴の顔面に刀を突き刺した
だがコンペールはそれも勢いは止まらず、体当たりしてきた。
俺は吹き飛ばされて地面を転がった
痛いけどまだ大丈夫、動ける
すぐに立ち上がると、頭上高くから飛び込んでくるコンペールが口を大きく開いて噛みつこうとしたので、横にそれて攻撃を避けた
奴の右目は先ほどの突きで潰れている、片目だだしダメージを大きい筈なのにまだ動きが鈍らないのは面倒だ
着地して直ぐにこちらに襲い掛かるコンペール、左手が伸びてくるのを避け、横を通過しながら側面を斬って振り向くと、奴がバランスを崩した
今が好機と思い、俺は技を繰り出そうとした瞬間に状況が変わった
『ぐはっ!』
『エルデさん!』
ティアが叫ぶ
エルデさんはグールの噛みつきを剣でガードしたまま倒れ込んでしまったのだ
あれでは立ち上がれない、しかもティアとは距離が僅かにあるし、魔物が邪魔して加勢に行けない
どうする…俺が行くか?
無理だ、俺も周りがアンデットだらけ
ティアが助けに行けばトーマさんとベイクさんを守る壁がなくなる
あと30体…半分も減ってない
しかもだ…
『ウオォォォォォォォン!』
『この糞犬め!』
汚い言葉が俺の口から出てきた
再びアンデットを地面から呼んだんだよ
なんて魔物だ…初めて見た時よりも厄介過ぎる、呼び過ぎだ
4体増えたぞ!?これじゃキリがない
『グルルルル』
コンペールはまるで『どうした?』と言わんばかりに不気味にこちらを見ているように思える
たまらなく苛立ちを覚えるよ。焦りなど忘れるくらいにな
エルダ
『ぬおぉぉぉぉぉ!』
『カカー!』
双剣をグールの口に咥えさせてなんとか倒れた状態で抵抗を見せるエルダさんも限界が近い
だが彼にも意地はある
エルデさんはグールの腹部を膝で蹴って押しのけ、立ちあがる
エルデ
『くそ・・・もう体が』
トーマ
『ベイク!俺は無視してあいつを助けに行け!』
ベイク
『お前はどうすんだ!?餌だぞそれ!』
トーマ
『剣ぐらい触れる!』
ベイク
『あぁくそったれ!わかったよ!』
トーマさんはランタン片手に剣を腰から抜いた
状況が悪い、あと2人…あと2人だ
増援が欲しいと思い始めた
すると俺の願いは届いたのか、テラ・トーヴァがクスクスと笑いだす
『どうした!テラ!』
俺はコンペールと交戦しながら彼に話しかけると、奴は答えたんだ
《望まない援軍なら来たらしいぞ?まぁ偶然か…あいつら気になって森にきたのかねぇ》
『それどういう…』
『真空斬』
森の中から聞き覚えのある声と同時に斬撃が飛んできたのだ
それはティアマトの真空斬よりも大きく、アンデットを何体も巻き込んで斬り裂いたんだ
凄い威力に俺は驚き、動きを止める
コンペールも予期せぬ来客の声のするほうに顔を向けているようだが…まさか
ティア
『え!?』
トーマ
『救援か?』
エルデ
『誰だ!?まぁ助かったが…』
姿を現したのは、俺達の敵だった
リゲル
『2人だけだとお前ら無力だろ。』
クワイエット
『ねぇリゲル、そんなこと言わないで…』
リゲル
『あん?本当の事言っただけだろ?勝手にアンデット如きで死んでもらったら困るんだよ…ちゃんと上層部の指示が来るまで生きて貰ってないと俺達にとってここにいる意味がなくなるからな』
アカツキ
『な…お前ら』
リゲルは呆れた顔を俺に向けていた
剣を肩に担いだまま歩き、口を開く
『お前は黙ってろ、まぁこの数だと運動になるな…クワイエット!半分頼むぞ!』
『了解!まぁ数が多くても結局はアンデットだしねぇ』
『その通りだ。俺達精鋭の力を見せるか』
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