第124話 帰り道の死闘編 3
『マグナ国初代国王、ゾンネ』
蛸頭の男はそう告げた
まさかここで現れるとは
可能性はあったが、低かったんだ
大勢いる場に現れる程、愚かではないと思ったからな
リゲルとクワイエットさんは険しい顔を浮かべたまま、ゆっくりと剣を抜いた
ゾンネはそれを目だけで見ると、直ぐに俺達に顔を向ける
体中がピリピリする
酷い緊張、汗が額から流れていた
僅かな静寂が、とても長い…
ルドラ
『馬鹿な事を言う魔物だが、貴様が同胞を襲った魔物と話と酷似しているな』
ゾンネ
『アカツキよ、どうやら私は家族がいたらしい』
ルドラの話を彼は無視した
どうやらゾンネは俺だけを見ているらしく、ルドラは無視されたと気づくとピクリと眉を動かした
アカツキ
『あんたの血は今もマグナ国の王としている、そりゃいるだろうよ』
ゾンネ
『そこまで思い出した、シカシ…顔が思い出せないノダ』
リゲル
『顔だと?』
ゾンネ
『そうだ』
彼はリゲルに顔を向けると、ゆっくりと俺に視線を向けて頭を両手で抱えたのだ
『私の残された光、それを忘れている…とても大事な思い出だったはず…だが思い出せナイ』
ゾンネは小刻みに体を震わせると、突然彼の体から微弱な衝撃波が放たれた
俺の体が強張る、何かしてくると思いきや、ゾンネはそのまま顔を持ちあげて両手をダラリと垂らす
『沢山の民を殺し、燃やし、その悲鳴を聞イタ。それがいつか終わると信じてダ』
アカツキ
『お前はマグナ国で歴史上最悪な暴君だ』
『違う!』
先ほどよりも強い衝撃波によって俺達はバランスを崩す
彼の顔は怒りに満ち溢れ、息が荒い
これ以上下手な言葉を口にして刺激するのは危険すぎる…
リリディはスタッフを両手で強く握り、いつでも戦えるように構える
しかし隙が無い…距離もあるから俺達じゃ不意打ちも無理だな
ルドラは関係なく構えている
このメンツならばこいつもよほどの事が無い限り襲ってはこないと信じたい
しかしゾンネはリゲルとクワイエットさんを入れても倒しきることが出来ないくらい強い
ゾンネ
『綺麗ごとで国は作れない、欲は殺さなければ1か所に集まらない』
ルドラ
『魔物の癖にポエムが好きだな』
ゾンネ
『…君は何かな?』
ルドラ
『五月蠅い魔物めが、この人数で逃げ切れると思うてか?』
ゾンネは両手を広げ、高笑いした
まるで馬鹿にしているようだ、そうとしか思えない
アカツキ
『…』
グラスカ
『ありゃなんだ?』
アカツキ
『めちゃくちゃ強いので絶対動かないでください、隙を見て逃げてほしい』
グラスカ
『マジか…』
グラスカさんは苦笑いしながら何故か構える
引退しても、元魔法騎士ということか
数で勝てるか?以前は勝てたけどもこいつは特殊だ
記憶が戻れば戻るほど強くなる
前よりも必ず強いのは火を見るよりも明らかだ
ゾンネ
『王は盾、あの時はそうだった…だからこそ小国時代の戦争が終わりを迎えた…私は国も守るために最大の決断を強いられた…守れば自国は消える、私だけが犠牲になるなら本望、シカシ』
彼は溜息を漏らすと、首をゴキゴキと鳴らしてから囁くように告げる
『負ければ民が虐殺され、女は敵国の玩具となる…そうなるくらいならば剣を持ち、この小国ばかりの戦争を終わらせるために鬼となって敵の蹂躙するしかない、それをするチャンスが俺に訪れた…お前の持つ力に出会ったからだ』
アカツキ
『どうしたんだ?』
『それを使っていくつの小国を滅ぼしただろうか…民も殺した、降参する敵も残らず…』
ティアマト
『ひでぇ王だな』
『だが結果を見てミろ?国は均等に整った』
リュウグウ
『私の時代にもお前のような暴君は歴史でいるぞ?』
『それと果たして同じか?いや、同じかもしれぬ』
ゾンネは頭を抱え、埋まり声を上げた
その隙にルドラが動く
素早く突っ込み、剣でゾンネの頭部を貫こうとしたのだ
『!?』
ルドラの剣はゾンネが掴んで止めた
普通に手で掴んだのだ、斬れないのか!?
そのまま彼が押し込もうとしてもゾンネの底知れに力の前に押すことが出来ない
『ただの欲に意味はない、ダガ私は未来を信じ…暴君を選んだのだよ?』
『ぐぬ!?』
目にも止まらぬ速さでゾンネはルドラの腹部を蹴って勢いよく吹き飛ばす
それは俺達の横を一瞬で通過し、遠くでゴロゴロと転がった
立ち上がろうとしているが難しそうだ
ルドラ
『くそ…刺身ごとき』
リゲルはクワイエットさんと共にルドラの前に移動すると、剣を構え始めた
きっと戦うことになる、それを感じた俺達は小さく深呼吸をし、ゾンネだけに意識を集中させる
逃げる気はないと悟ったのか、ゾンネは少し微笑みながらソードブレイカーを抜いてから口を開く
ゾンネ
『教えてくれ、そこにいるんだろう?私の光を教えてくれ…』
テラは口を開かなかった
俺は肩に力を入れると、ゾンネは悲しそうな顔を浮かべる
何故そんな顔をする?まだ記憶混濁で多少混乱しているみたいだが
全盛期の力を取り戻す前にこいつを倒したい
ティア
『家族を思い出せないの?』
彼女は質問をすると、ゾンネは答えた
『イタ。しかし…思い出せない…私が死ぬ前に家族を願った。』
ティア
『願った?』
『願った・・・それを知るためにアカツキを殺して聞かねばナラナイ。とても大事な…私が人であった記憶を知る者がそこにいる。私はなんの願いをし、そして死んだのか…そこに本当の私はいた。そこに暴君ではない私を知る者がイル』
アカツキ
『お前は俺を殺してどうする気だ』
『その力を手に入れ、答えを見つける…そのあとは…』
ゾンネはそう告げると、殺意を体中から吹き出しながらも
不気味な笑みを浮かべる
『夢を蘇らせる』
アカツキ
『死ぬ気で戦え!!!』
ゾンネが素早く突っ込んできた
ティアマトが怒号を上げて彼に襲い掛かる
しかし、自慢の馬鹿力を使った片手斧の攻撃はゾンネの剣の振りで弾かれてバランスを崩してしまう
ティアマトの腕力でさえ未完成のゾンネの力を超える事は出来ない
それほどまでにこいつは強い、だから今のうちに倒さないと駄目だ
『遅イ』
ゾンネは言い放つと、彼の体を大きく斬り裂いた
『がっ!』
血が噴き出し、致命傷を負うティアマトはそれでも諦めずに歯を食いしばり、ゾンネが剣を持つ腕を掴んだ
ゾンネ
『!?』
驚くその一瞬の隙にリュウグウとリリディが飛び込む
『賢者バスター!』
『ふん!』
ゾンネは掴むティアマトを見ないで蹴り、吹き飛ばすとリリディの振り下ろすスタッフをソードブレイカーで弾き、リュウグウの三連突を避けてから裏拳で殴って吹き飛ばしてから俺に突っ込んできた
『ヌ…』
ティアのラビットファイアーが彼を襲う
リュウグウとティアマトの背後から機会を伺っていたんだ
見事にそれは成功し、ゾンネは避けるのが無理と判断して腕を前に出してガードした
勿論その腕は激しく燃える
『それがどうした!』
『あっ!』
ゾンネはティアを叩こうとする
だがそれは俺が絶対させない
彼女の前に素早く向かい、刀でガードするとティアが果敢にも奴の懐に潜り込みサバイバルナイフを突きだす
狙いは顔、しかし察知したゾンネは顔を僅かに逸らして避けるが頬にかすり傷を残す
狼狽える様子はない、口元に笑みを浮かべている
殺気を感じ、鳥肌が立つ
俺の刀を弾き、直ぐにティアの蹴りを避けてから彼女の足を掴んで俺に向かって彼女を投げると、俺はティアと仲良く吹き飛ばされていった
リゲル
『おらぁぁぁ!』
クワイエット
『今度はっ!』
ゾンネが俺達に意識を向けている隙に2人が飛び込んだ
しかし、ゾンネはソードブレイカーを両手に握りなおすと2人の攻撃を弾いてから衝撃波で吹き飛ばす
それで攻撃が一度止んだかと思えばそうではない
ルドラがゾンネの死角から懐に潜り込んだのだ
ゾンネ
『ほう!?』
ルドラ
『本気出すぞ!受け取れ!』
ソードブレイカーをいちはやく体の前に出してガードしたゾンネはルドラの全力の剣を振りを受け、地面を滑るようにして吹き飛ぶ
土煙が舞う中、ルドラはゾンネを睨みながら剣を構えるが
ゾンネはそんな彼を見て小さく笑みを浮かべる
危機と感じていない、そんな表情だと思われる
しかし彼は一度自身の手を見つめると、その手が僅かに震えていることに気づく
ゾンネ
『いっぱしか』
今はルドラや聖騎士達に意識を向けているようだが
その意識も直ぐに俺に視線を向けて切り替えてくるから面倒だ
ゾンネ
『綺麗ごとで道は開けナイ、現実は非常で残酷ダ…誰かが悪魔にならないと世界は終わらない』
アカツキ
『ああそうかい!』
ティアマト
『その悪魔がまだ未練あるとは面白ぇな!』
ティアマトは吹き出す血など気にせずにゾンネに飛び込み、片手斧を振り下ろす
ゾンネは『未熟』と呟き、それを避けると彼の頭を掴んで地面に叩きつけた
『ガッ…』
死ぬなよ、ティアマト…
リリディ
『シュツルム』
リリディが黒い魔法陣を出現させ、そのから黒弾を放つとゾンネはそれを2つに斬り裂き、奴の後方で爆発する
完全に見切られているようだ
『くそ!』
『黒魔法か…我もタシカ…』
ゾンネは首を傾げながらリリディに手を伸ばす
まさか?と誰もがそう思っただろう
しかしそれは起きたんだ
『シュツルム』
リリディ
『なっ!?』
彼は全力で避けようとした
黒弾が彼の近くの地面に当たると、爆発が起きてリリディが吹き飛んでいく
主の危機と感じたギルハルドがキュウソネコカミでゾンネに襲い掛かるが
ゾンネは傷一つつかず、ギルハルドが体の側面から血を吹き出して転がっていく
『避けながら剣を立てた』
とんでもないなこいつ…
グラスカさんが真剣な顔でゾンネに襲い掛かるとリュウグウと俺そしてティアも奴に向かって走る
多数相手の攻撃を弾き、蹴って吹き飛ばし、避けている
以前とは全然強さが違う…、どこまでこいつは記憶を取り戻したんだ
《兄弟、こいつは誰よりも先に殺さないとやばい》
『何故だ!ぐっ!!!』
ゾンネの剣を刀で受け止めた
重すぎる。
直ぐにリュウグウが横から槍で襲い掛かると、ゾンネが飛び退く
俺はティアに手を伸ばされて立ち上がると、テラ・トーヴァがとんでもない事を俺に言ったんだ
《どの時代でも化け物はいる、こいつの強さを知るのは俺だけだ!全盛期の強さに戻ればこいつを止めれる奴は誰もいねぇ、イグニスでさえもな!》
アカツキ
『嘘…だろ!』
ティア
『そんな』
《小国だらけの乱世で前線に立って敵を自ら薙ぎ払った…。こいつを止めれる国はとこにもいなかったんだよ。だから記憶が全て戻る前に倒さないとどうなると思う?》
リリディ
『そ…それは、不味いですね』
リリディはふらつきながらやってきた
メガネが割れているが、それよりも頭から血を流している
脳震盪、きっとそうだろう
リュウグウが彼を支えると、ティアマトが痛そうな顔を浮かべて俺の前に立ってゾンネに武器を構える
ティアマト
『こいつの時代の最強は、こいつかぁ…』
彼も頭から血を流していた
アカツキ
『ティアマト、怪我は!?』
ティアマト
『俺はタフだ、心配すんな』
ティア
『駄目、タフでも少し回復しないと!』
ティアに気迫に押されたティアマトは大人しく彼女のケアである程度の回復をしてもらうため、俺の後ろに下がる
ゾンネ
『熊男、お前は少し使えル。今は未熟だが…時期に開花しそうだ』
ゾンネが微笑みながら彼を称賛する
ゾンネここで倒す?イメージできない
記憶を取り戻すと強くなる化け物、俺達はそれを阻止しないと駄目だ
だからこそ俺達は口にできない言葉がある
馬鹿でも授業はそれなりに聞いていたからな…
こいつの家族、俺は知っている
誰でも習う事さ…それを口にできない
『この化け物が!』
アカツキ
『よせルドラ!』
倒れていたルドラがある程度は動けるようになると、ゾンネに襲い掛かる
凄まじく早い剣の突きを何度もするが、その全てをソードブレイカーでガードされていた。
だがゾンネも遊び半分、というわけでもないようだ
ルドラの時だけソードブレイカーを両手で持っているからだ
リゲルとクワイエットさんが加勢するも、ゾンネに与える傷跡は軽い切傷が限界だ
ゾンネ
『弱い、私の時代の聖騎士の下っ端ぐらいか』
ルドラ
『なに?!』
驚愕を浮かべた隙に、ゾンネがルドラの剣を弾き返してから素早く顔面に鋭い蹴りが入る
ルドラ
『がっ!』
ゾンネ
『嘘ダ、君は強いゾ?』
苦痛を顔に浮かべてもルドラは目を閉じない
ギッとゾンネを睨んでから剣が振られるのを確認し、宙返りして剣を避けた
流石に聖騎士1番隊の隊長だとわからせられたよ、この人は強い
俺にあんな芸当は出来ない
ルドラ
『ごふ…』
リゲル
『ルドラさん大丈夫っすか』
ルドラ
『大丈夫だ…面倒な化け物め、お前らはまだこいつと戦うには速い。隙を見て逃げろ』
彼は鼻から大量に血を流しているが、それを左手で抑える
右手で剣を構えている状態
ゾンネはそんな彼を眺めていた
聖騎士がいても駄目か…彼らは撤退を考え始めているということは俺達はゾンネを倒す事よりも逃げることを考えなければならないかもしれない
でもまだいてほしい
もう少し時間を稼げれば活路が見えるからだ
ルドラ
『暴君ゾンネ、貴様は本物なら何故虐殺をした』
ゾンネ
『守るため。君はそんな存在はあるかね?』
ルドラ
『いちいちうるさい化け物だ、オイボレの説法みたいに言いやがって』
ゾンネ
『ならば死ぬか?力あるお前ならばこの場の判断は容易いだろう?』
ルドラ
『…』
そこで彼は冷静になったのだろう
気が付くとルドラの部下がほとんど立ち上がり、足がすくんでいる
これでは全滅だとわかったのか、『時間を稼ぐ!撤退せよ』と言って残る聖騎士を逃がし始める
非常に不味くなった…
俺は敵であるルドラに舌打ちをしたくなった
だがそれは間違いに近い
逃げるべき正しい判断だからだ
だがしかし…
ゾンネ
『おや…?』
彼は動かないリゲルとクワイエットさんを見ていた
何故こいつらは逃げない?目的はなんだ?
今の俺達はそれがわからん
《おい2人、歴史を習ったろ?思い出させると強くなるから言うなよ?》
リゲル
『ああそうかい。全盛期の強さのうんたらってのも聞いたが…』
クワイエット
『凄いね!そこまで強いんだ』
リゲル
『お前は能天気過ぎるぞ。』
クワイエット
『ごめん』
ルドラ
『お前らも早く逃げろ!命令だぞ!』
リゲル
『ルドラさん残していくのも心配でね、最後までお供しますよ』
クワイエット
『時間だけ稼げればアカツキ君達にとって都合がいいんですよ、それまで頑張りましょ』
何故それを知ってる?お前らが知る筈がないんだぞ?
ゾンネ
『逃げないのかな?賊サン』
ゾンネは彼らにそう言いながら、俺を見ないで剣を振ると真空斬がこっちに飛んでくる
やっぱり早い!俺の能力でもギリギリ
狙いは確実に俺だが避ける時間はない、ゾンネはリゲルたちに意識を向けてると思い、力を抜いていたんだ
『ぐっ!』
ティアマトが俺の前に出ると、片手斧でそれを粉砕しようと武器を振る
奴の技を消し飛ばしても彼は大きくバランスを崩すが、俺とティアで彼を支えた
アカツキ
『ティアマト!』
ティア
『まだ危ないよ!後ろさがって!回復します』
アカツキ
『頼む!』
俺とリリディそしてリュウグウとグラスカさんでゾンネの様子を伺う
もう油断はしないが今のは迂闊過ぎた
こいつが消えるまで集中を切らしたら死ぬってのを忘れていた
すまん、ティアマト…後ろで回復に専念してくれ
リゲル
『そいつには死んでほしくないんでね』
ゾンネ
『悪いがここで死ぬノダヨ?』
ゾンネはニコニコしながら彼に襲い掛かる
長い剣がリゲルの胸部を狙っているが、リゲルは最小限で避けると体を回転させながら剣を僅かに抜いた
ゾンネは攻撃してくると悟り、彼の剣に視線を向ける
しかしリゲルは剣を使わなかった
『ほら』
ゾンネ
『ぬっ!』
ただの頭突き
それがゾンネの顔面を直撃した
リゲルはそこから剣を抜きながら振って攻撃するがゾンネは足で彼の腕を止める
直ぐにクワイエットが横から剣を振り下ろすと、奴はソードブレイカーで受け止めて彼を弾き飛ばす
流れるような連携でルドラが飛び込むと、ゾンネは苦虫を噛み潰したような表情を初めて浮かべる
『一刀!』
ルドラは剣を振り、大きな斬撃を出現させた
攻撃範囲は狭いが、近くの対象に向けて大きな斬撃を飛ばす技スキルだ
ゾンネは舌打ちをしながらそれを受け止めたが、彼は軽く吹き飛ばされる
ゾンネは態勢を立て直すと、目を細めて聖騎士3人を見つめた
頭の裏側まで生えている蛸の触手がさらにひしめいて動いている
感情が高ぶるとそんな反応するのかもしれないな
リゲルは剣を担ぎ、首を回してから一息つくと、一度俺達を見てからゾンネを見る
リゲル
『ちょいとここは彼らに恩を売っとけばいい機会が生まれますよルドラさん』
ルドラ
『お前ら2人は色々とアカツキ達と接触していたらしいが、まぁそれを信じて動いてみようか』
ゾンネ
『どうやら貴様は上官のようだが、何故か貴様らのやり取りもみるとモヤモヤするな』
ルドラ
『それがどうした?喉が渇いて醤油でも飲んで頭をすっきりさせたらどうだ?』
ゾンネは僅かに首を傾げた
横目で俺達にも視線を向け、なにやら考えているようにも思える
これ以上の時間稼ぎはそろそろ危ない、聖騎士はよいとしてこっちはもう体力の限界だ
リゲル
『話してて大丈夫かい?まだ完全じゃないんだろ?』
ゾンネ
『ソウダナ』
言い放った途端、奴はこちらに振り向いて襲い掛かる
リゲルとクワイエットは驚きを浮かべ、こちらに走ってくる
まぁそうだよな、リゲルたちと戦うよりもこっちが優先だし
俺は素早く奴の剣の攻撃を両手で握る刀で受け止め、耐えた
『ぬがぁぁぁぁぁぁ!』
不細工な声、だが気にしない!
グラスカさんがゾンネの真横から手を伸ばし、レーザーを放つが、ゾンネは上体を大きく反って避ける
『くっ!』
ゾンネの蹴りが来た
ギリギリで避け、距離を取ると追従してくる
グラスカ
『させねぇ!!』
ゾンネ
『お?』
グラスカさんが飛び掛かり、ゾンネの剣による攻撃を受けてもなお止まらない
体の胸部から血を流しつつも奴の頬を殴ってバランスを崩すと、ゾンネは彼に手を伸ばす
『!?』
魔法だと思い、グラスカさんは避けようと飛び退く
しかしそれはフェイクであり、ゾンネは口元に笑みを浮かべながら俺に飛び込んできた
グラスカ
『マジッ!?』
無視されたグラスカさんは慌ててこちらに走る
『シャァァァ!』
ギルハルドが傷を負いながらも懸命にゾンネに突っ込んだ
それに続いてリュウグウ、そしてある程度回復したティアマト、俺とティア
ゾンネ
『邪魔だ!』
『ニャフ!』
キュウソネコカミ効果で光速のような速さのギルハルドの爪を避けながら左手で尻尾を掴んで地面に叩きつけた
リュウグウの槍花閃の光線を剣で受け止めながら脇を通って通り越し、ティアマトの片手斧を弾いてから俺とティアの前に現れた
《兄弟!!》
アカツキ
『俺は死ぬわけには!』
ゾンネ
『だが死ね!』
素早く刀を振り、それは容易く姿勢を低くされて避けられた
懐にはゾンネ、悪寒が瞬時に襲いかかる
奴の剣が振り上げられる
それをなんとかギリギリ避け、回転しながら刀を横になぎ払うように振ると、ゾンネは剣で弾いた
重い、こっちの腕が取れそうだ
歯を食い縛り、転倒してたまるかと思いながら仰け反った体を支えるために足を後ろに引いて耐えた
『ラビットファイアー』
ティアが俺の前にくると、ゾンネの目の前で魔法を使う
だが奴はそれすらも剣のひと振りで弾いた
『レーザー!』
グラスカさんが奴の背後から白い光線を放つ
俺はティアを抱え、しゃがみこんだ
『ウジ虫が』
ゾンネは振り返りながら愚痴をこぼし
左手でそれを受け止める
力業にグラスカさんは口を開けて驚いていた
ゾンネ
『ぬ!?』
リゲルとクワイエットが左右から飛び込む
リゲル
『無視すんな刺身野郎!』
クワイエット
『それ!』
たまらずゾンネは真上に飛んで回避すると、リリディが叫ぶ
『アンコク』
彼が手を上に伸ばすと、頭上高くで黒い刃が現れた
片手剣ほどの普通サイズ、その剣からは黒い煙が僅かに吹き出している
ゾンネ
『ほう?』
リリディ
『空中なら!』
リリディは掲げた腕を振り下ろすと、黒い刃がゾンネに落ちる
『避けれないなら砕くまで!』
奴は大声を出して飛んでくる黒い刃を剣で砕いた
新技も効かず、多勢の攻撃にも対応するとはな
ゾンネは着地するが、多勢に代わりはない
クワイエット
『やぁ』
ゾンネ
『!?』
クワイエットは飛び込み、剣を振り下ろすとガードしたゾンネを地面に叩きつけた
ルドラが追い討ちで倒れるゾンネに剣を突き出すが、奴は転がって避けると素早く立ち上がり、突っ込んできたリゲルの剣を自身の剣を振って弾く
リゲル
『ぐっ!』
ゾンネ
『相手が悪イ!死ね小僧!』
リゲルはバランスを崩され、なす術がない
ゾンネは回避不可能と知ってか、不気味な笑みを浮かべてリゲルを斬り裂こうと右手に握り締めたソードブレイカーを彼に振り落とす
だがしかし、ルドラが大声を上げて突っ込むと、ゾンネの攻撃を受け止めて弾き返したのだ
ゾンネ
『貴様!』
ルドラ
『部下に手を出すな!』
黙れ!と叫ぶゾンネは腕を前に出すと衝撃波を起こしてルドラとリゲルを吹き飛ばした。
一気に畳みかけるには今しかない、俺は考える事よりも体が既に動き出そうとしていた
アカツキ
『おぉぉぉぉ!』
ゾンネ
『くるか!アカツキ!』
俺は突っ込み、刀を全力で振った
だがゾンネはそれを笑みを浮かべて受け止めた
それは本命じゃない!
ゾンネ
『ぬっ!』
地面を蹴ってゾンネの顔に土をかけた
リゲルにやられたのを実践で初めて使ったが、成功した
『刀界!』
素早く刀を鞘に納め、正面に多数の斬擊が混じった衝撃波を飛ばす
ゾンネは唸り声を上げながら剣でガードするが、体の外側が斬擊によって切り刻まれていく
たまらず飛び退いたゾンネは突っ込んできたクワイエットの剣を弾いてから腕を掴んで地面に叩きつけ、こちらを睨みつけて口を開いた
『諦めが下手か!アカツキ!』
俺は肩で息をしながら答えた
『誰だって死にたくないだろ』
当たり前の事を言った
奴の背後にはリゲルとクワイエット、そしてルドラ
正面には俺達イディオットとグラスカさん
挟みうちでもゾンネは攻撃を簡単には受けない
ようやく俺の技が当たった
それがたまらなく安心を覚えた
だがじり貧になりそうだ、早くしないと
《兄弟!おっけー!》
その言葉はイディオットだけじゃない
リゲルやクワイエットにも聞こえていた
みんなボロボロでどこまで戦えるのか不安だったが
ようやく終わりがきたようだ
ゾンネ
『なにを笑っているアカツキ?』
アカツキ
『俺は笑ってるか?』
ゾンネ
『死を覚悟したものは皆そうなる』
リゲル
『違うなぁ』
リゲルはなぜ?そういった?
だがしかし、今はそんなことよりも
こいつに教えないといけないことがあるんだ
俺達で色々な問題を何とかしようとしても、どうにもならない時はある
そんなときは助けが必要さ
人はそうやって生きている
俺は手紙をグリンピアに毎日送っていた
ギルドと家。近況報告さ
何を最後に送ったか?簡単だ
家にもギルドにもこう送った
明日帰る、途中で待ち構えてる敵がいるから助けてほしい、と
誰がくるか?決まってる
ゾンネ
『!?』
ゾンネはそれに気付いた
リゲルとクワイエットは笑みを浮かべながらルドラの腕を掴み、森の中に姿を消そうと動いている
助けが来たから彼らがここにいる理由はまったくないのだ、完全な撤退さ
俺は助っ人の姿を見て、助かったと心の中で感じることが出来たよ
『貴様かぁ!!』
俺の父さんが鬼の形相で拳を強く握ってゾンネに飛びかかる
『俺の妹に何かしたかコラァァァァァ!』
ティア
『お兄ちゃん!』
ティアの兄のシグレさん
彼もまた、悪魔も恐れる顔で短い鉄鞭を両手に持ち、ゾンネに襲いかかる
だがあと一人いるんだよ
この人がグリンピアで一番強い
その女性は大きな鉄鞭を手に、ゾンネの懐に潜り込んだ
クローディア
『化け物め』
ゾンネ
『どこから沸いた!』
グリンピアだよ
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