第111話 賢者録 6

リリディの出番

とある客席では、ハイムヴェルトを知る男二人がリリディを見つめて口を開いた


『貴方がいつも自慢気に話す孫ですが。見させていただきますか』


『父さん、そんなに強いの彼?』


『本当に継いでるならな』












ミミリー

『参加者だったんだ!』


ランダー

『黒魔法使いリリディ…』


カイン

『凄い人なのかな』


ミミリー

『きっとシエラさんの次に凄いのよ!』


カイン

『どんな魔法使いなんだろ、黒かぁ』











《やばいな兄弟!扉の奥に凄いのいるぞ》


アカツキ

『何がいるんだ…』


ティア

『わぁ…感じたことある』


リュウグウ

『ティアどうした?』


ティア

『アカツキ君、いつでも助けに行けるようにしとこう』


リゲル

『まぁメガネならいけるっしょ、他の魔法使いにゃ到底倒すのは無理があるが』


クワイエット

『楽しみー!』


アカツキ

『いったい何がいるんだ…』




そうした会話が繰り広げられる最中、開き始めた扉の中から現れた魔物にリリディは驚愕を浮かべる


『ウモァァァァァァァ!』


(ミノタウロス!!)


魔物ランクB

彼らイディオットが苦戦して倒した人型の猛獣である

両手には斧が握られており、身長は3メートルと大きい

これを単機で倒す冒険者はグリンピアにはまだいない


言い方を変えれば、どの街を探しても、ほぼいないのだ

だからこそ即座の中止もギルド職員は考えた

しかし、クローディアはあわてふためくギルド職員が中止をしようと動き出した時、彼女は『止めたら駄目』と悪魔のような言葉を部下に告げた


ロキ

『正気ですか!?』


クローディア

『正気だからよ』


リリディは隔離場の扉から実技場に姿を現すミノタウロスを見て苦笑いを浮かべる


(これは運が悪いのか良いのか)


ミノタウロスだけじゃない

グランドパンサーが3頭も取り巻きとして現れたのだ

奥の扉が閉まると、リリディは欠伸をしてしまう

退屈とかからではなく、落ち着いているからだ


ミーシャ、シエラ、ロズウェルなど試験参加者は現れる強力な魔物に驚愕を浮かべ、椅子から立ち上がる

しかしドラゴンは不敵な笑みを浮かべて実技場の中を見つめた


ドラゴン

『あいつなら大丈夫さ』


シエラ

『でも、魔法耐久が高い魔物』


ミーシャ

『ある程度効くといっても相手はBランクよ!?』


ドラゴン

『あんたら、あいつは馬鹿だぞ?だから大丈夫だ…強引に倒すさ。黒魔法はそれが出来る』


ミノタウロスは魔法耐久力が高い。その中でも黒魔法の耐性は特に高い

それでもリリディは臆せず、スタッフを地面に引きずって歩き出す


『おいおい!あいつ無謀だぞ!2チーム以上組んで倒す魔物だぞ!』


客席からそんな声がリリディの耳に入る

しかし、彼は助けなど今いらない


『ウモァァァァァァァァ!』


大きな咆哮を上げたミノタウロスはグランドパンサー3頭が正面から歩いてきたリリディに狙いを定めた

誰もが無謀だと思える光景、しかしリリディはそれをチャンスだと確信し、動き出す


『相手にとって不足はない、邪魔はしないでください』


彼はそう告げると、『チェーンデストラクション』と囁く

彼の背後から4つの黒い魔法陣が現れ、その中から大きな鎖が姿を現すと、蛇のように蠢いて彼の周りを動き回る

そんな不気味な光景に誰もがミノタウロスよりも彼に視線を奪われた


誰も見たことがない魔法、彼の仲間や知り合いなどならば見たであろうチェーンデストラクション

しかし、見たことがある者が客席の中にいたのだ


『父さん!あれなんなんだ!』


『黙ってみてろ!』




リリディは吠えながら襲い掛かるグランドパンサーに向かって走り

飛び掛かる攻撃を避けながら鎖で1頭ずつ巻き付けると3頭を地面に強く叩きつけ、気絶させるとそのまま自身の体を回転させた勢いでミノタウロスにグランドパンサーを投げ飛ばす

鎖から離れ、飛んでくるグランドパンサーはミノタウロスの両手に握る大斧の一振りで容易く両断され、奴の前の地面に落ちた


『ウモモモモ!』


『次は貴方です!』


リリディは叫ぶと、4つの鎖をミノタウロスに飛ばす

鎖が不規則な動きをしながら正面から走ってくるミノタウロスに襲い掛かるが、奴は鎖を斬り裂こうと両手に握る大斧を振るが、蛇のようにうねる鎖を捉えることは出来ない

4つの鎖は全てミノタウロスの両腕に巻き付くと、リリディはそれを全力で引っ張り、自分をミノタウロスに突っ込ませた


『モッ!?』


驚くミノタウロスに向かって一直線に突っ込むリリディはスタッフを両手に握り締め、顔面まで迫ると鎖を消してからタイミングよく自身の武器を全力で振った


『爆打!』


彼のスタッフがミノタウロスの顔面に命中すると、小規模な爆発が起きた


『ウモッ…』


宙を静かに落下していくリリディは前屈みになって苦痛を浮かべるミノタウロスを見て素早くグェンガーという回避技を使い、自分の体を黒い煙にして素早くミノタウロスの頭上に移動して実体化すると右腕を空に掲げ、『アンコク』と囁き、黒い魔法陣の中から黒い刃を出現させた


『ぬん!』


彼は腕を振って黒い刃をミノタウロスに落とした

それは奴が振り返ると同時に右肩を貫き、痛みで暴れ始めると大斧が迫る

リリディはグェンガーでミノタウロスの正面に移動し、実体化するとミノタウロスの胴体に右腕を伸ばし、口を開く


『シュツルム』


黒い魔法陣から黒弾が飛び出すと、それはミノタウロスの胸部に命中し、爆発に飲まれていく

多少リリディも爆風で顔を右腕で覆い隠すが、その目が爆炎の中にいるであろうミノタウロスを捉えていた


『ウモァァァァ!』


爆炎の中からミノタウロスの叫び声、同時に大斧がリリディに飛んできた

彼はそれを真横に跳んで避けると、爆炎の中からミノタウロスが怒りを顔に浮かべて姿を現した

奴は瞬時にリリディの目の前に立ちはだかると、右手に握る大斧を彼に振り下ろす

魔法使いにとって逃げるしかない対象である魔物


だが飽く迄、それは今までの魔法使いにとってだ

彼はそれとは違う道を歩んでいる


『見えますよ』


グェンガーで煙と化し、ミノタウロスの攻撃は黒煙となるリリディを透き通る

その黒煙は不規則な動きを見せながらミノタウロスの背後にまわり、実体化するとリリディはスタッフを両手で握り締め、振り返るミノタウロスの顔面に向かってフルスイングする


『ドレインタッチ!』


バコン!と大きな音と共にそれはミノタウロスの顔面に直撃し、リリディは体力を奪う


『モォォォォガァァァァァ!』


『ぬっ!?』


その場で暴れだすミノタウロスの腕に当たりそうになり、リリディはスタッフを盾にし、腕に当たると吹き飛んでしまう

しかし、受け身を取って地面に着地すると距離を取れたことに気づき、こちらに振り向くと同時に彼は囁くように口にする


『ペイン』


ミノタウロスの頭上高く大きな黒い魔法陣が現れ、そこから黒い雨が降り始めた

それに触れたミノタウロスは激しい激痛に襲われ、その場でのたうち回る

ペインとは対象の痛覚神経を刺激し、痛みを与える黒魔法


いかにBランクの魔物であろうとも痛みには抵抗は出来ないのだ

魔法の効果が終わると鬼の形相で上体を上げ、リリディを睨みつけるミノタウロスだが

見える景色に黒弾が目の前に迫っていた


『モッ!?』


シュツルムがミノタウロスの顔面を直撃し、大きな巨体が地面を転がる

リリディは走りながらもアンコクを使い、起き上がるミノタウロスの腹部に黒い刃を貫かせる

一瞬苦痛に動きを止めるミノタウロスだが、大斧を振って真空斬で斬撃を飛ばしてリリディを狙う


彼はそれを跳躍して避けると、ミノタウロスも彼に合わせて飛び上がる


(結構直撃したのにまだ動きますか!)


リリディは不気味な笑みを浮かべながら大斧を振ってくるミノタウロスの攻撃をグェンガーで黒煙化してすり抜け、奴の頭上に現れると同時に頭部にスタッフを叩きつけた


『ドレインタッチ!』


『モッ!』


頭の後頭部をスタッフで叩かれたミノタウロスは体力を吸収され、地面に勢いよく落下した


『シュツルム!』


リリディは空中から黒弾を撃ち、ミノタウロスに追い打ちする

しかし、ミノタウロスは地面を転がってそれを避けた

大きな爆炎と爆風は非常に強力で、客席にいる者も驚かせるほどだ


グェンガーを使い、黒煙化した状態で地面に移動して実体化したリリディは奥で大斧を構えるミノタウロスに視線を向けながら肩にスタッフを担ぐ


(…アンコクで右肩を貫いたからか、武器を拾おうとしない)


運よく腕に力が入らないのだろう

右手がダラリと垂れさがっていた

ミノタウロスは左手に大斧を持つだけであり、近くに落ちている大斧を拾おうとはしない


『ウモモモモ…』


『なんだかんだ、先ほどよりも武器を持つ手が下がってますね』


2回もドレインタッチを受け、体力を奪っていることと無駄に動き回ったことがミノタウロスの体力を削っていた

それも僅かだ、魔物の体力とはランクが上がれば上がるほど高い


(まだ…か)


『ウモァァァァァ!』


ミノタウロスが走ってくると、リリディはグェンガーを使い、黒煙化してから素早く奴の足元に移動した

その手に握るスタッフでミノタウロスのすねにぶつけ、膝をつかせてから素早く顎に向かってスタッフで叩く


『マスターウィザードが最強とは僕は思いません』


彼はそう言い放ちながら大斧を避け、股下を素早く潜ってから悪く跳躍し、振り返るミノタウロスの顔面にフルスイングでスタッフを振りぬき、ふらつかせた


『魔法使いとは何か、それを完成させたのはお爺さんだと思ってます』


リリディは着地と同時に駆け抜け、『ドレインタッチ』と言いながらミノタウロスの腹部をスタッフで叩き、体力を奪う


『ウモッ!』


(っ!)


蹴り上げだ

彼はスタッフを前に出し、吹き飛ばされるがグェンガーで地面に移動して実体化する

頭部から額を通り、血が流れていても彼はそれを気にすることなくスタッフを担いだままミノタウロスに歩み寄る


『魔法が効かないなら、叩けばいい、あまり効かないならそれ以上の威力の魔法を使えばいい、それが通用する』


真剣な顔を浮かべたまま、彼はミノタウロスに歩く

それに対し、魔物であるミノタウロスは言葉を口にしなくとも、リリディの行動に不気味さを覚えた


他の冒険者とは何か違う、しかしそれが何なのかわからない


『ウモモァ!』


ミノタウロスはリリディに駆け出す


『シュツルム!』


素早く彼は腕を伸ばし、黒い魔法陣から黒弾を撃つ

だがミノタウロスは避けずに直撃する、リリディはそれでも驚きはしない

肉を切らせて骨を断つ、それは以前にも見た光景を覚えているからだ


(同じか…)


そう思いながらも爆炎の中から咆哮を上げて姿を見せ、大斧を振り下ろすミノタウロスの攻撃を懐に飛び込んで間一髪避けた

攻撃が来ると悟ったミノタウロスは顔を逸らして抵抗を見せるが、リリディは胸部を蹴って宙返りしながら距離を取ると空中で右腕を空に掲げて『アンコク』と口にする


黒い刃がリリディの頭上に現れ、彼は腕を振り下ろすと刃はミノタウロスに向かって飛んでいく


『ウモォォォォ!』


飛んでくる黒い刃を弾き返そうとするミノタウロスだが、それは判断ミスだった

アンコクは武器を確実に破壊する黒魔法、頑丈な物質に対してより硬くなる性質を持つ


『モッ!?』


大斧の刃が黒い刃にぶつけた瞬間、砕け散った

アンコクの刃がミノタウロスの胸部を貫くと同時に大斧の砕けた破片が僅かに体に突き刺さり、転倒した


大きな音と共にミノタウロスは転倒する

魔物でも学習能力はあり、立たないとやられるという考えが頭を何度もよぎっていた

だがしかし、苦痛を浮かべながらも上体を上げた瞬間、リリディのスタッフが顔面を叩いた


『ドレインタッチ!』


『ボフッ!』


ミノタウロスはとうとう左手の大斧を離し、左手で顔を覆い隠した

グェンガーで空高く黒煙化で舞い上がり、50メートルの高さで実体化するとミノタウロスが立ち上がる光景が真下に見えた


彼は落下しながら腕をミノタウロスに向け、シュツルムを放って命中させてからグェンガーで距離をとった場所に着地した


実体化したリリディは爆炎の中に感じる気配に身構えながらゆっくりと姿を現すミノタウロスを見て口元に笑みを浮かべる

ミノタウロスは体中から血を流し、息も絶え絶えだったからだ


『普通ならば倒れても可笑しくない量のダメージですが、足りないようですね』


『ウモモモ・・・』


だがどうみてもミノタウロスは肩で息をしている

体力はあまりないとわかったリリディは一息つくと、スタッフを杖代わりに立てて首を回す

そんな様子を誰も騒ぎ立てようとはしない、誰も見たことがない光景が目の前で起きているからだ


魔法使い1人がミノタウロス相手に善戦している

ありえないことなのだ。


《メガネ、もう決めろ》


『…』


テラ・トーヴァの声が聞こえ、彼は頷くと『チェーンデストラクション』と囁き、彼の体の周りには黒魔法陣から伸びる鎖が4つ、蛇のように蠢く

鎖からは僅かに黒煙が漂い、不気味な光景に見える


『黒魔法が災いなんてオカルト思想は嫌いです。昔、人は弱かったからこそそういった理由で正当化してきたのでしょう。それがなければ僕のお爺さんは歴史を変えていた。間違った思想は新しい時代の邪魔でしかない』


『ウモモァァァァ!』


ミノタウロスは咆哮を上げ、大斧を掲げてリリディに駆け出した

あと少し、そう思ったリリディはそこで深呼吸をし、襲い掛かる敵を見つめた


(お爺さん…)


彼は左手に握るスタッフを地面で引きずり、ゆっくりと歩き出す

黒魔法が認められない世の中、それは過去から脱却できない国のせいだとリリディは思った

火を使って暴動が起きたら火属性は悪なのか?いや違う

黒魔法は理由がつけやすいからだろうと彼は感じた


ただの属性、悪魔が使うわけではない


『黒魔法、見たいですか』


彼は囁き、瞬時に黒煙化すると大斧を薙ぎ払うミノタウロスの攻撃をすり抜けながら背後の奥に実体化し、背中を見せたまま囁いた


『今、僕が持つ最高の黒魔法ですが…』


彼はミノタウロスが振り返ると同時に、ゆっくり振り返ると、右手を開き、手の甲を見せたまま、続けて言い放った。


『全ての耐久系スキル無効の最悪な黒魔法で終わりにします。』


その瞬間、彼の背後から10つの黒い魔法陣が現れた

ミノタウロスはそれには狼狽え、身構えるがそれすら意味のない攻撃であることはわからないだろう



『ウモモモ!』


ミノタウロスは足が動かない理由がわからないでいる

動き出せば死ぬ、そう獣の勘が働くが、立ち止まっていても死ぬ

本能が奴の頭で答えの出ない問いを駆け巡らせている


黒い魔法陣はバチバチと放電し、黒弾が姿を現し、浮遊する

リリディはメガネを触り、ミノタウロスに言葉を贈った


『クラスター』


リリディの背後にあるすべての黒弾は一瞬にしてミノタウロスの周りを取り囲み

光を放った瞬間に僅かな時間差で連続して爆発が起こり、ミノタウロスは爆炎の中に消えていった

その爆風は客席を守る強化ガラスを大きく揺らし、客を大きく驚かせた


砂煙が舞う実技場の中、リリディは真剣な顔を浮かべたまま魔法スキルの突風で砂煙を上空に舞い上がらせた

そこには倒れるミノタウロスが大の字で倒れており、僅かに息があることに気づく


『ウ…ウモ』


『タフですね』


彼はそう言いながら飛び上がると、ミノタウロスの顔面に向かってスタッフを振り下ろす


『爆打』


ドン、と小規模な爆発と共にミノタウロスの顔面は煙を上げる

リリディは後ろに下がり、スタッフを肩に担いで様子を見ているとミノタウロスの体から魔石が顔を出した


(倒せた)


不思議と歓喜はない、安心という言葉が彼には合うだろう

僅かに彼はふらつき、頭から血を流していたことを思い出す

一撃をスタッフで防いでいても、ダメージはあるのだ

もし直撃していれば彼は動けなかっただろう


普通に立っていても、彼はガードて防いだ攻撃によって大きなダメージを受けていた

彼なりのやせ我慢だ


『何故、黒魔法は駄目なんですかね』


リリディはミノタウロスの魔石を拾いながらも静かなこの実技場で口を開く

溜息を漏らし、納得できない流れに彼は訴えた


『強い力は、時には悪さに使われるのは黒魔法に限ったことではない…黒魔法はどの魔法よりも可能性があると僕は思いますけどね。お爺さんはそれを証明したく、その力を使って人を助けても煙たがられてしまった。それは非常に可笑しい事ですよ…僕は認めません。古い思想は僕は大嫌いです』


彼は語るように話し、実技場の階段から試験参加者の席に戻る

一息ついて、ふと周りの参加者が自分を見ていることに気づく

凄い形相で見ている、と感じたリリディは困惑し、頭を掻くと無理に笑みを浮かべて言い放った


『黒魔法、どうです?』


ドラゴン

『本性現しやがってこいつめっ』


ドラゴンは笑顔を浮かべたままリリディに近づくと、彼の肩を叩いた


ロキは拡声魔石を手にしていても、驚きのあまりに進行を忘れてしまう

クローディアがそれを見て呆れた顔を浮かべる

我に返ったロキはあたふたしながらも拡声魔石に向かって進行を始めた


『あ…リリディさんの試験が終了しました!』


途端にドッと沸く歓声にリリディは恥ずかしくなり、顔を下に向けた

魔物ランクBを単独撃破、それも魔法使いが公衆の面前でやって見せたことに驚かない者は誰もいない


アカツキですら、口を開けて引き攣った笑みを浮かべる


ティア

『そんな動けたんだ…』


リュウグウ

『グェンガーがなければできなかっただろうな、しかし…』


ティアマト

『本当に魔法使いか?』


リゲル

『面倒な移動魔法持ってんなあいつ、まぁそんくらいしてもらわねぇと俺達の功績も嘘になるからな』



彼らの声と共に、客席にいた学生や冒険者そしてリリディの家族である者が口をそろえて驚きを声にする


冒険者A

『なんだあれ!どう考えてもハプニングだったろ』


冒険者B

『ミノタウロスだぞ…魔法使いが単独で倒せるのか?どこの街に行っても探すのは難しいぞ』


学生

『すっげー!黒魔法ってあんな戦い方出来るんだ!』


カイン

『えぇ…』


ミミリー

『そんな凄い人だったんだ…』


ランダー

『あんなに魔法使いって動く戦闘職なんだね…』



リズ・リスタルト

『あれ本当にお兄ちゃん?お父さん』


クリス

『確かに息子だ、そうだろリース』


リース

『なんでお父さんが私に聞くんですか…私たちの息子ですよ?それにしても』


クリス

『本当に俺の父さんの夢を叶えるつもりか…リリディ』

















『父さん、あんな動き出来る魔法騎士っている?』


『ハイムヴェルトさんさんだけさ。それにしてもだ…1番隊で取り囲んでも彼を倒すのは厳しいぞ?』


『楽しそうだね父さん』


『あぁ、瓜二つだ…未完にしても時間の問題だろう。何故ロットスターはそれを認めぬ…そんなに地位が大事か』


『どうする?帰ってどう報告するの?』


魔法騎士の2人は席を立つと、その場を去りながら男が口を開く


『真実を伝える、さすればリリディの前に仇が現れる…今の魔法騎士会を変えるにはそれが良い』




その後、全ての試験が終わると実技場にてロキが合格者1名を口にする

リリディではなく、シエラだったのだ

そのことに誰もが不満を口にするが、それはクローディアさんは予想しており、ロキの拡声魔石を奪い取ると自ら説明をしたのだ


『黒魔法は威力が高すぎて実技で見せる場合に危険を伴います。冒険者ギルド運営委員会は強さよりも別に、確実な基本を備えた魔法を教える為の魔法使いを重要視して審査を行なってます。黒魔法はその域を凌駕し、教育の範疇を超えると判断しこの結果にしました』


リリディはその説明に対し、不満がることはなかった

飽く迄この場は実技講師になるつもりではなかったのだ


合格したら彼はそれを取り下げてもらう予定であったため、都合が良かった

控室に戻ったリリディは、参加者に詰め寄られた


ミーシャ

『どこで手に入れたのかしら?』


ロズウェル

『金貨10枚でどうだ!?シュツルムって凄いな!ドラゴンさんも使ってたけども』


ロトム

『岩が!強い!』


サンドラ

『黒魔法の簡単なでもいい!教えてくれ!』


ドラゴン

『はいはい俺を通していってもらわないと!』


ロトム

『岩!』


(ド…ドラゴンさん)


リリディは引き攣った笑みを浮かべたまま長椅子から立ち上がる

黙る気は毛頭ない、誰でもなれる

彼は専売特許にする気はなかったのだ


ハイムヴェルトの夢を叶えるには、伝えるのが一番だからである


『はっきりしている情報をこの場に人に教えます。それをどうか広めてほしい』


彼はそう告げ、特定していない魔物以外を教えた

全てを聞き終わった後、サンドラは頭を抱えて口を開く


サンドラ

『うっわぁ、天候が激ヤバの時に現れる天鮫は来年だ…もうこの時期台風なんて…』


ミーシャ

『シュツルムは当分お預けなのね、でも鎖の黒魔法は夜頑張って森を巡回すれば…』


ロズウェル

『にしてもだ、鬼ヒヨケに閻魔蠍か、凄い壁だ…くそぅ』


ロズウェルのいう通り、閻魔蠍と鬼ヒヨケが大きな壁だ

あれを倒す冒険者はごく僅かであり、死闘になることは明白

黒魔法獲得を意識してならなおさら危険なのだ


(1歩じゃなくても、半歩でもいい…その方が歩きやすい、僕みたいな馬鹿には)


リリディはそう思いながら控室を出ると、正門で待つ仲間の元に向かう

その道中、彼は沢山の壁に塞がれたのだ、学生の波に飲みこまれて思うように進まない

サインを初めて数回書いて彼はその場をグェンガーで黒煙化し、波を避けて走って逃げた


正門に向かうと見慣れた仲間が彼を待っていた

それを見るだけでリリディは安心を覚える


アカツキ

『冷や冷やしたぞリリディ』


ティア

『応急処理してもらったと思うけど、ケアできるよ!』


リュウグウ

『メガネめ、変に目立ちおって』


ティアマト

『面白いもん見せてもらったぜ?』


『ミャンミャー』


みんな、彼を見て微笑んだ

リリディは微笑むと、飛び込んできたギルハルドを抱きかかえてから口を開いた


『さて、森にでも行きますか』




賢者禄  終わり

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