第130話 リゲル 3

次の日、リゲルはクワイエット共に姿が変わった北の森の中に聖騎士1番隊と共に来ていた

緑色の森は雪で一面が白く染まっており、ちらつく雪の中を顔を僅かに伏せて前に進む


トーマスとジキットは20キロのある大きく膨らんだバックを背負っている

それはキャンプ用のキットが詰まっており、彼らのテントが入っていた

交代はリゲルとバッハと決まっており、1時間交代である


『魔物すら感じないな』


シューベルンがそう告げながら辺りを見回す

魔物の気配など微塵も感じず、木の上の枝のリスを眺めなている


バッハ

『冬など魔物も別種が出てくるんですよね?』


リゲル

『まぁな。冬にここに来るのは初めてだが…』


ルドラは先頭から後ろの声を聞き、答えた


『虫種はほぼ冬眠しているからいない。冬は主にモフモフなイエティにホワイトウルフそしてサーベルタイガーという面倒などこの森でも多く現れるから気をつけろ』


ランクCのイエティは真っ白いパンダのような姿をしており、全長は2メートル

両手から伸びる爪は鋭く、人など軽く引き裂く


同ランクのホワイトタイガーは冬の獣として有名であり、ブラッククズリと双璧を成す

ブラッククズリは冬は出ない代わりにこのホワイトタイガーがCランクの面倒な魔物として君臨する


しかしそれよりも面倒なのがサーベルタイガーというBランクの猛獣だ

頭部から背中まで鋭利な棘が生えており、全長は2メートル以上を上回る巨体だ


勿論他のランクの魔物も冬にしか現れない魔物もいる


『お腹空いたなぁ』


クワイエットは剣を肩に担ぎ、空を眺めながら囁いた


太陽は見えず、空は真っ白い

だからこそとある魔物も生き生きと姿を現す


『アアア…』


気配と共に聞こえる呻き声に聖騎士は顔を側面に向けた

現れたのはゾンビナイト2体、しかもただのゾンビナイトではなかった

毛皮の上着を着たその姿にリゲルは笑う


『ゾンビも寒いんだな』


『アアア!』


リゲルの馬鹿にするような言葉に反応したのか、ゾンビナイト2体は彼に襲い掛かる

だが相手が悪い


『ほれ』


リゲルは剣を使い、ゾンビナイトの攻撃を弾き返すと素早く斬り返して首を刎ねた

魔石を回収して列に戻る彼にカイが口を開く


『安い魔石など拾っても意味はないぞ?』


『安くても価値がある。あんたにゃわからないだろうな』


先輩の言葉に棘をつけて返すリゲルは苛立ちを見せるカイを無視し、クワイエットの近くを歩く

海抜の低い森まで問題なく進む聖騎士は川の近くで一度小休憩を取ることにしたが、獣王ヴィンメイのてがかりは何一つない


クワイエットは懐から干し肉を取り出し、美味しそうに食べる


『何個食うんだよ』


『リゲルも食べる?』


『いらねぇよ』


そんなやり取りにルドラが小さく笑う

辺りを捜索しても大きな魔物が近くを通った形跡はない

ジキットやトーマスも入念に辺りを捜索するが、普通の獣の形跡しかない


大きな木で爪とぎをした後

ヴィンメイではない


シューベルン

『本当にいるんのか。化け物みたいな大きな獣が』


ルドラ1番隊隊長

『10数年前からいる事は一部は知っている。2足歩行で歩く獅子の獣を数名の聖騎士が見たという話があるからな』


ジキット

『それがまた現れたんですか』


ルドラ1番隊隊長

『昔、獣部隊を作る為にとある村の近くで聖騎士が活動していたが…その近くで遭遇したらしい』


リゲル

『その獣が魔物を操ったんだ』


彼がそう告げると、ルドラは驚愕を浮かべた


『どういうことだ!リゲル』


『驚き過ぎですよ…ロイヤルフラッシュさんから聞いてないんですか?』


『聞いておらぬ…どういうことだそれは』


非常に興奮しているルドラにリゲルは少し驚きつつも、彼に話した


『奴は犬笛を吹く、それで俺の村の近くで訓練をしていた獣部隊の魔物が暴れたんだ…俺の母さんを殺したのはヴィンメイだ』


リゲルは腕を強く握りしめ、怒りを浮かべた

それに対し、シューベルンとカイは驚きを顔を浮かべながら口を開く


『パゴラという西側にある小さな村で起きた事件か。本当にあったとはな。』


『獣部隊は解散したと聞いて事があるが、過去の記録は抹消されていて空想かと思っていたぞ』


ルドラ

『黙れ』


ルドラは静かに口を開き、彼らの無駄口を止める

ギョッとしたシューベルンとカイは顔を逸らし、辺りの捜索に戻った


『ルドラさん?』


『…何でもない』


凍てついた顔を浮かべるルドラが珍しいと感じたリゲルは彼に声をかけるが

ルドラはうつむいて反応を見せる


(ん?)


はて?と首を傾げらリゲルは気にすることを止め、小休憩後にそのまま海抜の低い森の中を更に進む

いけども現れるのは普通の魔物、ゴブリンやモフモフとなったエアウルフが沢山出てくる

進みながらも辺りを気にし、痕跡を探すが一向に見つかることはない


『本当に獣王ヴィンメイという化け物はここにいるのでしょうか?』


トーマスが口を開きながら来た道に顔を向ける

大きなバッグはリゲルとバッハが背負っていた

彼らはトーマスの言葉を耳にし、同じ考えを浮かべた


ルドラ1番隊隊長

『3メートル級の巨体か…姿を隠すならば深い森であると考えていたが、住処があると考えられる』


クワイエット

『あいつはやたらと犬笛で獣を動かしたがるから生息地域に入ればわかりやすいと思うんだけど』


ルドラ1番隊隊長

『なるほどな…。だが犬笛となると1つ予想がある』


1番隊副隊長の予想に誰もが耳を傾けた

犬笛とは付近の魔物を従属させる特殊な獣が使う特殊なスキル

近くにいなければ使えない


彼は考えたのだ

強い魔物を集める為に、点々と移動しているのではないかと

ある程度の魔物を集めてまたグリンピアに押し寄せる為に軍を作っているとしたら?彼がそれを告げると誰もが息を飲みこむ


ジキット

『軍とか…』


バッハ

『あり得ぬ…もし本当なら我らだけではとても』


クワイエット

『ルドラさんの予想は良い線ですね』


リゲル

『俺もルドラさんの考えは良い線だと思います』


ルドラ1番隊隊長

『ありがとう、もしそうならば不味い』


リゲル

『まだ未完の軍だとしても、この数じゃとても無理です…』


ルドラ1番隊隊長

『ロイヤルフラッシュ聖騎士長は判断を俺に任せている。1つでも痕跡を見つけたら帰るぞ』


彼はそう話し、部下を動かそうとした

だがルドラの話に対しで答える者が現れたのだ


『残念ダ』


森の奥から聞こえる声に聞き覚えを感じたのはルドラ、クワイエット、リゲル

聖騎士全てが声のする方に剣を構え、現れる者に誰もが驚愕を浮かべた


リゲル

『暴君ゾンネさんかよ』


蛸頭の化け物、首元から生える蛸の触手は器用にもマフラーのように首に巻き付いており、高貴な服の厚着を羽織っている

ソードブレイカーという特殊な武器を右手に持ち、僅かに首を傾げながら聖騎士を見つめた


ジキット

『蛸頭!こいつ…』


カイ

『話で聞く聖騎士襲撃の1人だぞ!』


ルドラ1番隊隊長

『侮るな!こいつは相当強いぞ!』



何故、今ここに現れた?

リゲルとクワイエットはそう思いながらも優雅に森の中から姿を見せるゾンネを睨み付けた


『アカツキはいないのは残念ダ』


ゾンネは肩を落とす

誰もが隙を見せた瞬間に飛び込もうと思っても、そんな隙を見せるような奴じゃないと悟る


クワイエット

『獣王ヴィンメイはどこ?』


リゲル

『おい!』


暢気に聞くクワイエットにリゲルが反応を見せた

だが予想外にもゾンネは何を考えているのか、何かを閃いた様子を見せてから答えたのだ


獣王ヴィンメイは古代の森の入口付近の洞窟で身を隠している、と


(古代の森?)


リゲルはそんな森を知らない

他の聖騎士も初めて聞く森の名に目を細めた


ルドラ1番隊隊長

『古代の森…。どこだ?』


ゾンネ

『この森の奥地にある奇っ怪な森の事ダ。今は名前が違うのカナ?』


幻界の森だとリゲルはわかった

確かに昔は名前が違ったと聞いたことがあった事を彼は今、思い出した


あそこはここより更に奥であり、この戦略では心苦しい

そこまで行く予定ではなかったルドラは予想外な情報をくれるゾンネに僅かな疑問を浮かべる


(こやつ…もしや)


『撤退!撤退だ!』


聖騎士は思わぬ指示に驚きながらも、ゾンネに構えたまま後ろに下がり始める

逃がしてくれぬだろうと思っていたリゲルとクワイエットだが、ゾンネは襲ってくる様子はない

不気味に笑みを浮かべているだけだ


ルドラは部下がある程度まで下がった事を確認すると、ゾンネに視線を向けて口を開く


『奴はまた来るのか』


『奴は自信の力に酔っている。近々にそうなるダロウナ』


『貴様は何を企んでる』


『記憶を知るタメ。邪魔になりそうだから殺そうと思っタガ…今は生かそう』


『……』


『まだ我の幕ではないようだ、やるべき事があるから一度ここを離れるサ』


ゾンネはそう告げると、ソードブレイカーで目の前の地面を大きくきって雪を舞い上がらせた

白い雪の煙幕が辺りを漂い、それが止むとゾンネは姿を消していた


ルドラはホッと胸を撫で下ろし、すぐに森から離れる事にした

仲間の元に戻るルドラは街に戻ることを告げる


カイ

『聖騎士殺しの犯人ですぞ?何故逃がしたのですか?』


ジキット

『この面子なら戦えそうでしたが…』


ルドラ

『馬鹿者が。無理だ…、街に戻って報告するぞ』


(確かに無理だな…)


リゲルは1番隊を順番に見た

頼りない先輩聖騎士を見て彼は無理だろうと感じ、溜め息を漏らす


クワイエット

『痕跡は掴んだし帰りましょうルドラさん』


バッハ

『ですがクワイエット副隊長、嘘かもしれませんよ?』


ルドラ

『奴は嘘を言っていない、なぁリゲル』


ルドラはリゲルに顔を向けて言い放つ


リゲル

『…きっと嘘じゃない、仲間みたいでそうじゃない…』


ルドラ

『だと感じた。つべこべ言わずに戻るぞ』


クワイエット

『野宿中止、やったね!』


彼はニコニコしながら颯爽と歩き出す

リゲルはルドラと共に後ろを歩き、ゾンネが追ってきていないか気にしながら進む


2日の調査が半日とちょっとで終わり、内心は納得が出来ていない


ルドラ

『暴君ゾンネか』


リゲル

『あれは教えましたよね?』


ルドラ

『聞いている。ヴィンメイと仲間だろう?』


リゲル

『肩書きの仲間ですがね』


ルドラ

『堂々と仲間を売ったくらいだからな、意味はあるからあの場で俺達に襲いかかって来なかった』


クワイエット

『まだ知性的な分、ゾンネが厄介ですね』


ルドラ

『だろうな。イグニスとゾンネそしてヴィンメイの中ではゾンネが1番面倒に感じる…何故かはわからんがそう感じれた』


リゲル

『あのまま戦ってたら不味かったっすねルドラさん』


ルドラ

『だな…。このままグリンピアに戻るぞ』


聖騎士は休みながらグリンピアに戻った

辿り着いた時には時刻は18時、全員は宿に戻って待機状態となる


予想とは違った事態に半ばリゲルは拍子抜けしたまま。ルドラ1番隊隊長がロイヤルフラッシュ聖騎士長と連絡を取り合っている間、クワイエットと共に付近を歩いて回ることにした


雪は足首が隠れるくらいまで積もっており。馬車も進むのに苦労している


『なんだか予定と狂うと気が抜けるな』


リゲルは囁くようにして口を開くと、クワイエットは苦笑いを浮かべる


『予定は2日間だったからね、予想外過ぎるよ本当に』


『ゾンネがいたことにびっくりだが、仕方ない…あのバカに教えるか』


リゲルはクワイエットを連れて一度ギルドに足を運ぶことにした

誰に何を教えるか。決まっている

宿の待機であっても21時の集合に間に合えばいいと彼らはアカツキに会うため、他の冒険者に聞くが、どうやら先ほど帰ったと言われたリゲルは溜息を漏らす


クワイエットとリゲルは軽く何かを口にして帰ろうとロビー内の丸テーブルの椅子に座り、親子丼を注文する

そうしているとここには似合わない容姿の者が受付カウンターでアンナと話している光景をリゲルは目にした


貴族のような格好の男であり、爽やかな顔をした者

歳は20代半ばといったところである


『クワイエット、あれって…』


『ん?見たことないけど貴族だよねあれ』


『だろうな…』


普通、貴族はこんなところに来たがらない

階級は不明でも貴族会と冒険者ギルド運営委員会は昔から仲は良くない

価値観の近いがあり過ぎて触れ合う事などないのだ

そもそも貴族会は冒険者ギルド運営委員会を蔑んだ感情を持っている以上、犬猿の仲とも言える


『なんだかアンナちゃん、困ってるね』


クワイエットは干し肉を頬張りながら受付に顔を向けて口を開く

貴族風の男が色々と彼女に何かを聞いているようだと感じたリゲルは気になったが、面倒臭さが勝って立ち上がることをやめる


(貴族は嫌いだ)


リゲルはそう考えながらも受付に顔を向け、その様子を眺めた

するとアンナの後ろからギルド職員まで現れ、何かを拒んでいる

とうとう気になり過ぎたリゲルは首を傾げつつも席を立ちあがった


『面倒そうだよ?リゲル』


『飯が来るまでの暇つぶしだよ』


クワイエットのはそう答え、リゲルは受付の近くに歩み寄る

すると声が彼の耳にも聞こえてきた

どうやら貴族風の男は貴族で間違いない


受付嬢アンナに、とある人物の情報に関して尋ねているらしいが冒険者ギルド運営委員会は情報の提示は出来ない

するとなるとギルドマスターの認証が必要であり、肝心のクローディアは今日は休暇であった


貴族風の男

『1人の女性の情報の提示くらいわけないだろう?』


ギルド職員

『困ります。先ほどもおっしゃった通り貴方が探している名の者はここにはいません』


貴族風の男

『そんな筈はない。ここにいると情報を掴んで来たのだぞ』


ギルド職員

『こちらからの協力は出来ません。』


そんな話をしている隙に、リゲルは横から男の顔を覗き込んだ


(マジか…)


カルテット家のアルスター子爵の長男であるオコーネルだ

予想外な者の登場にリゲルは驚き、顔を逸らした

オコーネルは大の女好きであり。とっかえひっかえな話はリゲルも調査済み


クリスハートの嫁ぐ先の家系だが。彼女が飛び出してもオコーネルは諦めるだろうとリゲルは予測していたのだ

彼の周りには沢山の女性が集まっており、1人がいなくなっただけでは動揺しないだろうと考えたのだ


だがオコーネルはクリスハートを探しに来たようであり、リゲルは苦笑いを浮かべる


(なんで来た?)


確かにクリスハートは魅力的な容姿だとは思う、とリゲルは僅かに考えた

彼は見た目の美しさに鈍感であり。人が美しいと言えばそうなのだだろうといった解釈で誤魔化している


そんな彼でも彼女は美しいのだろうと聞かずともわかる

でも何故オコーネルは来たのかが疑問だ


『また来るぞ』


オコーネルはそう告げて苛立った様子を見せたままギルドを出ていくと、リゲルは先ほどから感じていた視線に顔を向ける

吹き抜けの2階、そこには何度も見た顔が女性と共に見え隠れしていたのだ

エーデルハイドの4人である


リゲル

『面白い事になったな』


彼は笑いながら2階から顔を覗かせるクリスハートに口を開く

彼女は疲れたような顔を浮かべ、仲間と共に階段を降りてくるとリゲルの近くに歩いてくる


『まさかくるとは思いませんでした…しかし何故』


『あいつは面食いで女好きなのは知ってるよな?』


『当然です!目移り癖がある人となんて…そもそも好きでもない男性と婚姻などどどど!』


『落ち着け』


シエラやアネットそしてルーミアは小さく笑って反応を見せていた

来ると思わなかったクリスハートは内心、どうしようと焦っているのだろうと悟ったリゲルは頭を掻きながら口を開く


『今度、飯でも奢ってくれたら調べてやってもいいぜ?』


リゲルは情報収集の能力を彼女に売ろうとした

クリスハートは即答で『頼みます!』と顔色を変え、ニコニコしながらリゲルの腕を掴んでブンブンと振る


『あの貴族、顔は良いんだけどな』


『ですが女癖は一人前ですよ。24日に何人の女性と添い遂げるのか…』


『まぁ多勢と関わるのは疲れるだけだ、俺でも女性に囲まれたら疲れる』


『ですよね!』


変にテンションの高いクリスハートに少し面倒な気持ちが出てきたリゲルはクワイエットの元に戻ろうと彼に顔を向けた

丁度良く注文した親子丼が来たからだ、しかもサイドメニューで餃子がある


(あいつ、追加注文したな)


クリスハート

『そういえば、今日は森の調査では…』


リゲル

『丁度良い、飯を食いながらで悪いがアカツキの馬鹿に教えてくれ』


彼はそう話し、エーデルハイドを席に招いた

そこで今日起きたことを全て話し、アカツキに伝言で伝えるように彼女らに頼んだのだ


獣王ヴィンメイが力をつけている事態は早急に対処しなくてはならない

どんな魔物を従えてくるかもわからないからだ

Bランクの大群となれはグリンピアなどひとたまりもない


クワイエット

『でも北も森にいる魔物から強い魔物を引き連れても限界はある。幻界の森ならまだしも』


シエラ

『あそこの魔物、わからない』


クワイエット

『シエラちゃん、きっとヴィンメイは従えれないさ…』


シエラ

『なんで?』


リゲル

『あそこの魔物だけは外部の干渉で操られるような奴らじゃねぇんだよ。それに…』


アネットやシエラは首を傾げた

幻界の森から生き延びていた2人は森の全てを知っているわけではないが、それでも獣王ヴィンメイにはあの森にいる魔物を従えるなんて到底不可能だと感じたのだ


クリスハート

『何がいるんです…あの森には』


リゲル

『バケモンだらけだよ。脳筋じゃ生き残れねぇ』


アネット

『ヴィンメイじゃ無理ってくらいヤッバイのいるんだね』


クワイエット

『そういう事っ、だから幻界の森の中に入らず、入り口でひっそりと身を隠しているんだね』


シエラ

『いつくるのか、心配』


クワイエット

『今はこっちも力をつけたほうがいいかもね、無理して倒しに今向かっても無理だと思うよ』


彼女らもランクBの冒険者チームとなれば戦力にはなる

そうじゃなくても今の状態でもかなりの戦力だが、先ずはBになって気を引き締めるのが賢明だろうとクワイエットが話す


アネット

『クワイエット君って見た目はおおらかな感じなのに副隊長なんだね』


クワイエット

『ん?僕が強いんじゃなくて他が弱いんだよ』


ズバッと言い切る彼に彼女らは引き攣った笑みを浮かべた

笑みを浮かべるクワイエットは『リゲルは強いよ?』と後付けで答えた


クリスハート

『クワイエットさんは何故聖騎士に?』


クワイエット

『リゲルの付き添い!僕も彼と同じ村出身なんだ。まぁ僕は孤児院育ちだったけど、リゲルと自然と仲良くなってね』


リゲル

『懐かしいな』


クワイエット

『そだね!リゲルが聖騎士になって真実を確かめるって言うから僕は孤児院を出て彼と共に彼の家で数年暮らしたんだ』


リゲルは母が死んでからも、謎の仕送りが毎月来ていた

クワイエットを孤児院から誘い出し、聖騎士になる為に無茶な生活を毎日してきたとリゲルは話した


家を出る際、現金書留を届ける鳥人族に『差出人にはもう送らなくてもいいと伝えてほしい、聖騎士会に入る為に家を出る』と告げたのだ

8歳の時に母を亡くし、16歳まで力をつけてから聖騎士会の本部があるコスタリカに旅立ったのだという


クリスハート

『家族なんですね、クワイエットさんは』


クワイエット

『だね』


リゲル

『勝手に話を進めんな…』


シエラ

『クワイエットさん、好きな女性は?』


クワイエット

『いないよ?』


シエラの唐突な質問に狼狽えることなく笑顔で答えた

アネットやルーミアがニヤニヤしながらリゲルとクワイエットを見ている

彼女達は女性だ、こういったトークが好きなのだ


クリスハート

『シエラ、いきなり変な質問したら失礼ですよ』


シエラ

『いいじゃん、クリスハートちゃん、リゲル君いる』


クリスハート

『そそそそ馬鹿な事をなにをををを!』


リゲル

『俺を見て狼狽えんなっ、俺はどう反応すりゃいいんだよ』


深い溜息を漏らすリゲルは変に顔を赤くするクリスハートを見て口を開いた

彼にそんな感情は存在していない

どういう気持ちなのかもわからない


アネット

『でもクリスハートちゃんのお胸の感触どうだった?』


アネットが不気味な笑みを浮かべ、リゲルに問う


『まぁ悪くはなぁべふっ!』


言い終わる前に、リゲルはクリスハートに空のコップを投げられて顔面にヒットする

顔をおさえながら痛がる彼は顔を赤く染めるクリスハートを見て口を開く


『揉みたくて揉んだんじゃねぇよ』


『破廉恥なっ…。』


『んだよ…お前も根に持つなぁ』


リゲルは親子丼を食べ終わり、腕を組んで答えた


アネット

『揉んだんだから責任取らないとねぇ』


リゲル

『ピュア過ぎるだろ…』


アネット

『ピュアは嫌いかな?』


リゲル

『まぁ…悪くはないけどな』


クリスハート

『ままままさか!』


リゲル

『お前、次は地獄の訓練にしてやろうか?』


そこまで彼らが楽しく話していると、珍しい人物が姿を現す

ルドラ1番隊隊長である

彼は辺りを見渡し、リゲル達を見つけたが


近づこうとはしない

苦笑いを浮かべながらリゲルとクワイエットを手招く素振りをするだけだ

若いゾーンに入れないのだろうと察した2人は一度席を立ち、彼の元に向かう


ルドラ1番隊隊長

『合コンか』


リゲル

『その言葉、古いっすよ』


ルドラ1番隊隊長

『そ…そうか。変な事を言ったりしてないか?』


リゲル

『何をいきなり言うんすか…』


ルドラ1番隊隊長

『そうだな。一応1時間後に会議だが先に言っておく、俺達は撤退だ…ロイヤルフラッシュ聖騎士長からとんでもない知らせが来た』


クワイエット

『どうしたんですか?』


ルドラ1番隊隊長

『お前らはグリンピアで待機、他は王都コスタリカに向かって王族の警備に備える。怪文書が届いたらしい…12の終わり頃、王に会いに行くという文書が殺された門兵の手に握られていたらしい』


4日前に起きた事件であり、聖騎士1番隊の隊長であるルドラは先ほど聞いたという

大事の備え、グリンピアに来た聖騎士は明日には早急にコスタリカに戻るというのだ


ルドラだけじゃなく、リゲルとクワイエットは誰の仕業かなんとなく勘付く

ゾンネかイグニスだろうと


森で遭遇したゾンネの言葉を思い起こせば、彼かもしれない線は高い


ルドラ1番隊隊長

『グリンピアで何か起こったら指示を待たずにお前らの判断で動け、俺が許す』


リゲル

『珍しく真剣ですね』


ルドラ1番隊隊長

『いつも真剣だ。共に会議に向かおうと思ってここに来たが…お前らは参加しなくて大丈夫だ。他の1番隊に先ほどの事を話し、明日に早朝にはコスタリカに向かう。宿は自分たちで探せよ?』


リゲル

『わかりましたよ…』


ルドラ1番隊隊長

『頼んだぞ。というかオコーネル君と出会ったが…』


リゲル

『見たんですか?どうやら探しに来たらしいですよ。本人は隠れてましたが』


ルドラ1番隊隊長

『やはりオコーネルは嫌なのだろうな。お前はあの女性をどう思っている?』


リゲル

『いきなりなんすか…別に何でもないですよ。あいつは嫌らしいけど』


ルドラ1番隊隊長

『そうか…』


リゲルはクリスハートに横目を向けながら答えた。

ルドラはリゲルの目を見て何かを感じたのか、僅かに微笑むと、懐から彼に金貨5枚を渡しながら口を開く


『好きに使え、あとリクゼン家とカルテット家の嫁ぎ問題はこっちで聞いておく』


ルドラはクリスハート達に顔を向けると軽く会釈をしてからギルドを出ていった

お金を貰えたことに驚く2人だが、一時金にようなものだろうと彼らは解釈する


クワイエット

『お金あるねぇ、ルドラさん』


リゲル

『どんくらい貯めこんでるんだ…。てかクリ坊の問題に頭を突っ込む気か?』


嫌な予感がするリゲルだが、そのままエーデルハイドのいる席に戻る

女性であるため、何を話していたのかという質問攻めを受けるリゲルだが、『身内の話だよ』と言って誤魔化す


クワイエット

『みんな家に帰らないの?そろそろ時間じゃない?』


シエラ

『クワイエット君、送って』


クワイエット

『いきなり何を…』


アネット

『私もクワイエット君がいい!』


ルーミア

『わ…わわわたしも!』


クワイエット

『ちょっと…え?まっ!』


彼は何故かエーデルハイドの一部に回り込まれると、腕を掴まれて出ていってしまう

取り残されたリゲルはクリスハートとキョトンとした目で連行されるクワイエットを目で追う


ギルド内にも冒険者は少なくなり、夢旅団が酒を飲んでワイワイしているのが彼の目に映る


バーグ

『今日はおつかいない!飲める!』


ドラゴン

『わははは!よかったなぁ!』


そうした団欒の声を聞くリゲルは僅かに羨ましがった

彼らのような休める時間が素直に欲しいと心の片隅にしまっていた重いが顔を出す


リゲル

『お前は嫁ぎとか解放されたらどうすんだ?』


クリスハート

『私は我儘娘みたいなもんです。敷かれた道なんてきっと楽しいと私は思わない、わからない道を進んで人生を楽しみたいですね』


リゲル

『…親は嫌いか?』


クリスハート

『好きですよ』


リゲル

『大事にしとけ。1人になれば人は無力だ』


彼はそう言って立ち上がる

どことなく悲しい顔を浮かべるリゲルに、クリスハートは首を傾げた

真っすぐギルドを出たリゲルは後ろから彼女がついてきていることに気づき、顔を向けた途端に別の者から声をかけられる


それはギルド職員であり、『現在、北の森にてサーベルタイガーが入り口近くを徘徊しているので向かえる冒険者は直ぐに討伐に向かってください』とリゲルとクリスハートに告げる


(くそ、クワイエットは連れてかれたしよぉ)


(こんな時にシエラちゃん達は…もう!)


リゲル

『仕方ねぇ、1頭だけならギリギリいけるか』


クリスハート

『同行します』


リゲル

『おいおい無茶すんな?』


今更去った仲間を探す時間はない

リゲルは苦渋の決断をする。2人で森に向かうしかないと


彼は深呼吸すると、目つきを変えてクリスハートに言い放つ


『覚悟決めろ、強ぇぞ奴は』


『わかりました』


リゲルは仕方なく、彼女を連れて森に走った

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