僕は許さない
●僕は許さない
刑死より三日。
南千住は
だが……。
突然潮が退いて露わになる海の底。
雲無き美空が一転、
そんな情景が浮かび上がる程の気が辺りを覆い尽くした。
その中心。春風殿の顔が能面となり、
大きな桶に無造作に投げ込まれていた血のこびりついた遺骸。髪は乱れ身体は、あろうことか下帯すらない丸裸。
「もし! もうし!
「なんじゃ!」
苛ついた声で声を掛けた
「
死罪とならば
然るに、かほど綺麗な
此度は弔いも埋葬も許されましてございます。これらは
「あん」
春風殿は低い声。
余波を喰らっただけでピクンと身体が反応してしまう怒気が、雷霆の如く打ち付けられた。
それを顔色を変えるだけで凌いだ春輔殿も中々の肝であろう。
「されど、罪人の着物は御様御用役殿の拝領に非ず。身分の低い警吏の役得でございまして……」
「だからどうした!」
晴れた美空に
「僕は大樹公家を許さない。
断じて許すものか! 断じて許すものか! 断じて、断じて、断じて!」
山を抜かんばかりの力を込めて、春風殿は心の伽藍に誓う。
普段はチャラチャラとした春風殿とも思えない雄叫びに、辺りの鳥が一斉に飛び立つ。
否、一部は羽ばたきも叶わず枝から地面にポトリと落ちた。
「
姫様は今、大樹公の
もしも将来、姫様が僕の前に立ち塞がられた場合。武士の一分に掛けて手向かい致しまする事を」
「委細承知致します。その時は、私も武士の一分に掛けてお相手致しましょう」
およそ主家の娘と父の家臣とは思えぬ会話に、引き渡しの役人も威儀を正す。
望んだが結局、首と身体を縫い合わせることが許されなかった。
しかしその代わり、身体を洗い清め。皆が少しずつ着物を脱いで先生に着せ、運んで来た
義卿先生死す。
報せは程無く
「赤鬼
「羽林討つべし」
一人が言うと、
「異議なし!」「異議なし!」「異議なし!」
木霊のように皆が拳を突き上げる。
物狂おしい熱がその場を支配していた。
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