第四部
梃子に合わん事
●
「こがな、そばえゆうがは誰じゃ。わしは
今、乗り込む船を目前に嘆いているのは
そんな彼に、悪ふざけしているのは誰かと聞かれたら、こう答えるしかない。
「
宣振とて嫌と言う程判り切っている事実をわしは突き付けると。
「ああ~! 上様はしょうえずい
堪忍袋の緒が切れて、大樹公様をとても酷い悪戯をしてくれたと罵り始めた宣振は、
「同じ
誰憚ることなく、大樹公様は手に負えないとてもとても困った人だ。そう思いの
初代
しかしその時、土州には一両具足と呼ばれる者達がおり、主家は取り潰されたものの一度は四国を平定した恐るべき戦力が残っていたのである。
初代土州侯は上方にて多数の御家来を募り、土州へと赴かれたのだ。
この為、本来土着の者を取り込むための禄が既に無く、一両具足の者達は家禄も御役目も殆どない郷士身分に落とされたのだ。
郷士の扱いは侍とは言い難く、宣振が侍扱いしていないと口にしたのはその事を指す。
「要らぬ一波乱がありそうですね」
わしが言うと、
「姫さん。お手柔らかにな」
と、諦めたかのように宣振は言った。
これには大樹公様やご重役のご意向もあり、先に土州を詣でる事となる。他人様の家臣を引き抜く以上、筋を通さねば為らぬのは道理であるからだ。
この為、大樹公様から土州侯への親書をお預かりした
。
問題はそう。宣振に悪ふざけとまで言わしめた大樹公様の
「
と仰せになり、宣振指名で封印した文箱に入れ渡されたのだ。当然の事であるが、文箱には大樹公家の御紋が大きく描かれている。
これだけでも宣振にとっては荷が勝ち過ぎるが、問題は聞かされている文箱の内容だ。
先ず大樹公様が、宣振を実家の岡田家の家禄に幾分上乗せした禄でお取立てになり、それからわしが乞うて家臣に貰い受ける体裁を取る。
つまり。土州侯が文箱を開いた時点では、宣振は大樹公様に所望される形になっている訳だ。
「恐らく
きっと
「心配で堪らないと、今から気に病んでも仕方ありません。為る様に成ります」
「姫さん……」
愚痴る宣振をさらりと躱し、わしは命令書を書き上げる。
残る軍次殿や
いずれにせよ。土州は身分の厳しい土地。とある公共放送のテレビマンガでは、右も左も判らない幼児の無礼を咎めた若様が、家来に子供達を撫で斬りさせるシーンが放送された程である。
そんな土地へ。差別されている郷士の横にわしのような余所者。
しかもその余所者が、一応は殿様とも対等口を利く事が出来る身分の者であり。郷士も大樹公様の文箱を託されし者とあっては、確実に波乱の元である。
「一応。直参お目見え以上の私に無礼が有れば、私あるいは私の家来が、無礼者を斬り捨てても鉄砲で撃ち殺しても良い。とのお許しが出ております」
「ああ! やき心配なんちや。姫さん、土州山之内家と戦をするお積りなのか?」
だから心配なんだと宣振は諌めるが、
「こちらからは何も致しませぬ。
されど上様のご威光を蔑ろにする、身の程知らずの
つらっとしてわしは言う。
何も知らぬ宣振は頭を抱えてはいるが、わしはお許しどころかご重役立ち合いの元で大樹公様から直に命じられている。
なぜならば。わしが波乱を巻き起こすこと自体、大樹公様とご重役が土州侯に踏ませる踏み絵なのだから。
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