長今の秘宝2
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本人曰く、娘の頃に戻った。
奥方様は
確かに化粧次第では娘時代の如く成ってもおかしくはない。
「お
奥方様のお許しに、
「なんともまぁ。奥方様が若々し過ぎて、ご
お世辞ではなく心からの言葉を、お伊能殿は発露した。
確かに。ご世子様は天保十年九月のお生まれ。奥方様の七つ年下の筈なのに、二人並ぶと長幼が入れ替わったかに見えてしまう。
「ほっほっほっ。若返り過ぎるのも考えものですね。確かにこれでは、母の威厳が有りませぬ」
嬉しそうに笑う奥方様。
「母上様。もし父上との間に和子をお授かりしその時は、養子に迎え家督をお返し致します」
ご世子様は
「いいえ」
奥方様は首を振り、
「
と叱った。なぜならばこの時代、女が三十を過ぎればその目は先ず無いのが常識であったためである。
「母上様。腹違いと言え養子に出た兄・
比して、実父の隠居後に生まれたわしは十男なれど。このまま本家を継がば、わしは兄を家臣と致します。
このような次第となったのは、
ならば次代がわしの子であるかどうかも人の成すものではございませぬ」
ご世子様は、若いのに達観していらっしゃる。
「つい私も取り乱して仕舞いましたが、
これを供する幸やお伊能殿は、女人の神も同然となりましょう」
そう奥方様は言う。
「して、幾らで売りに出す予定にございます?」
下問にありのままを答えると、
「いけません。決してそんな
良き品には相応の値付けが必要と成ります。さもなくば、従来の職人・
と釘を刺された。
「世には危険な
安価な鉛白よりも廉くしなければ、結局は使い続けてしまうだろう。
どうにもわしが退かぬと見て、奥方様は言葉を変えた。
「ならば、鉛白に代えて使える品を出しなさい。出来ますか?」
「創る事は叶います」
「では。そちらは作り方もお
おっとりしていていながらこうした気配りが出来るのは、多分生来のお人柄なのだろう。
そんな奥方様を物狂おしくさせる
未だ売り出しても居ない段階なのに、当初に想定していた滝本の名は跡形も無く消え失せてしまった。
今や長今の秘宝の名が、クッション・ファンデーションを柱とした新しき
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