赤い狐3
●赤い狐3
表の用事は何事も無く終わった。少しばかり面倒な事もあるが、お互いに利のある話だから直ぐに纏まるのは当たり前だ。しかし、裏の用事は終わってはいない。
諸外国が、知ってか知らずか遣らかしたデファクトの贋金。こいつのせいで正貨である金の大量流出を招いた事は既に述べた。
為に真っ先に追い詰められたのが武士。武力を持った人々が経済的に追いつめられるとどうなるか?
解り易いスローガンに飛び付き、
現に今年(西暦1960年)の一月。エゲレス公使館の置かれたご府中は
元々八島の民であった伝吉殿が、外国の服を着て偉そうにしてるので恨みを買ったと言うのもある。
しかし未だ捕まっていない襲撃者の考えを推測するに、伝吉殿は帰化しても所詮は外様。生粋のエゲレス人を殺すよりは大事に為らぬであろうと言う計算も働いたのではないかと、わしは踏んで居る。
つまり、これでどの程度外国が反応するかを見定めるアドバルーンであったのだと。
果たして、諸外国は対してこの問題を大して問題にしなかった。ここに
軽微な犯罪に手を染めた者が味を占めると、どんどんエスカレートして行くのと同じに、いつかは単に外国人であると言うだけで襲撃に到るようになる。
なぜならば、苦しくなった
わしがここ、領事館として動き始めた
「
「どうかしましたか?」
同じ方法で返事をすると、
「わくわくして眠れないのじゃ。今夜は襲って来るじゃろうか?」
まるで正月か遠足のように心待ちにする生殿の声。
「早くあれを使いたいのじゃ」
心が急く生殿を、
「あれは使い方を誤ると、お味方を殺めかねませぬ。自らを殺す事もありましょう」
生殿のお歳の頃は、男女に関わらず兎角好奇心の強いもの。
深夜。突然、パラパラと雨戸を打つ音が起った。
忠臣蔵宜しく、脅す為の鏃を外した矢が当たる音だ。
「姫さん起きちゅーか? 来るぞ」
廊下で刀を抱き、障子を背に控えていた
ジャラジャラと鳴るのは、下に鎖を着込んでいる宣振が鎖手甲を填めた音だ。
「ええ。いつでも宜しいですよ」
柏布団を跳ね除けてわしは立ち上がる。抱いていた刀の鯉口を切り、取り出した拳銃の安全装置を外す。
そしていつもの兎の膠で張り合わせ甲側に砂鉄と
「いよいよこれが使えるのじゃな」
ぱっと目を開けた生殿は、暗がりの中で
そうしている内に騒がしくなる辺り。
一打ち二打ち三流れ。闇に響くは山鹿流の陣太鼓。
「それにしても。赤穂浪士気取りとは、おもろおすなぁ」
六連発の
「お春。拳銃は最後の武器ですよ」
わしは
「身を護る為にだけ使いなさい」
と釘を刺す。乱戦の中で援護射撃をされても困るからだ。
キン! キーン! と響く音。散る鉄火が一瞬、戦いの場を明らかにする。
見ると、燭台と馬の鞭を得物に応戦している男がいる。
「
わしはオールコック殿らと交流する為に付いて来た通詞に声を掛けた。
「エゲレス領事館の者を護る為、助太刀致すと伝えよ」
直ちにオランダ語で伝えられるわしの言葉。
そしてわしも、
「れスキュー! セイヴュー!(Rescue! Save you!)」
カムカム英語仕込みの英語を口にして宣振に命じた。
「マサノブ! ゴー!」
知らずとも。この場で命じるのは
宣振はわしが吹き鳴らす号笛三声と共に、
「れスキュー! セイヴュー!」
と、わしの口真似で叫びながら
敵中に飛び込んで果敢に戦うその様は、前世の曽孫と見た戦隊物を彷彿とさせる。
学校に上がる前の
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