第三章 健軍の建白
八島の護り如何ならん
●
「
大樹公様が発言を許すと、丸に橘の紋の男は威儀を正し、
「お
と、家臣を代表して言った。しかし当の大樹公様は即座に良いと断じ、
「猫の仔か虎の
こ奴の
そう前振りして、
「先ず入り鉄砲だが、剣付鉄砲は弾を込めねば変わった槍に過ぎぬではないか。
但し隠す事は相成らん。堂々と持たせよ。
次に出女であるが、登茂恵は大名の子ながら市井生まれの市井育ちと聞く。
既に江権中将には世子がおり、
いや寧ろ、登茂恵が予に臣従を望むのであればご恩を施し奉公を求める方が
と彦根中将様を諭した。
そしてわしに、
「登茂恵に尋ねる。八島の護りはどうあるべきか?」
と下問された。
「そもそも
故に兵法にて
何を言っても咎めぬ故、有体に申せ」
「上様には、私に兵を預ける事もあり得る。とのお考えにございまするか?」
「時の流れはとどめられぬ。
権現様の頃は、南蛮人・
されど八島に入る蛮書には、我らが太平の夢にある内も、
世の博士は
大樹公たる者、天下を癒す上医たれとの権現様のご遺名を拝すも。
故に譜代・抱え者を問わず、表裏無き直言を求めておるのじゃ。
登茂恵よ。そちは
累代の家臣も一代限りに召し抱えた者も関係なく智慧を求めている。
そして大樹公様より、桃李すなわち自分が取り立てた者を蔑ろにする積りはない。との言質を貰った。
「ならばご
わしは居並ぶ重臣達に向けて、これは大樹公様の命令であると言い放つ。
――――
♪
薫りは今も 語り草
書いたる文字は天下一♪
(新井白石 著作権消滅
詞:石原和三郎/曲:田村虎蔵)
――――
前世の尋常科で習った歌をひとくさり歌う。
「聞き慣れぬが、漢詩の如き起承転結の節とは面白い」
確かに唱歌には、朧月夜・春の小川・村の鍛冶屋・富士山・村祭りなど歌詞も曲も起承転結の物が多い。
「メリケンの歌の様でもありますな」
勿論、邦楽ではなく西洋音楽だ。
わしの
「かの
面白い事に、メリケン国にも似たような話が御座います」
ここで一旦間を置き、視線だけで辺りを伺う。何を語るのかという顔をしているお歴々。
掴みは悪くない。
「メリケンには、僅か三つで熊退治。そう歌われるデービー・クロケットと申す武人がおりました。
お伽噺の金太郎ではあるまいに。上様にはそう思われるかもしれませぬ。
しかしこれは物語ではなく真の話にて、彼が寡兵を以て一国相手の戦で討ち死を遂げたのは僅か二十年余り前の事にございます。
僅か三つで熊退治。これを成し得たのは、
乳を飲み、
お察しの通り。三歳の童子に出来る事は、農民町民にも出来る事。弾に当たれば万夫不当の豪傑とて簡単に死にまする。
最後の
戦国の世に織田の
また、鉄砲や火砲を買い揃えば敵うと思えばさにあらず。
敵は
大将一人
戦いの組織その物を改める必要をわしは説いた。
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