親分の仲裁3

●親分の仲裁3


 ある意味性根が据わっている。何しろ親分が目を光らせる中、図々しく利子を要求するのだから。

 親分は? と言うと、骨董屋が目利きをするような目でわしを見ていた。

 なるほど。こちらのお手並み拝見と言う訳か。ならば……。


「利分は十一といちにございますか。

 ならばあなた方はれっきとした金貸しなのでございますね?

 金貸しの株はお持ちでしょうか?」


「あ。いや。無くても……」


 確かに、二宮尊徳の五常講など利子を取らぬ融資もある。しかし、それとて冥加米みょうがまいを付けて返すのが常識だ。だが、


「お黙りなさい! 金貸しの株を持たずして金貸しの利分を得るはご法度にございます。

 十一は年に直して元の二倍半を超える利分。大名貸しでも年に百両につき十二両にございますよ」



「いやいや坊ちゃん。世間には烏金からすがねと言うもっと高利のものが……」


「本気で言っているのですか?

 小商いの者に仕入れの金を融通する烏金からすがねならば、元手を出した分け前にございますし、

 仲間内の頼母子講たのもしこうならば、娘に人並みの祝言を上げてやる親心であり、親に立派な葬儀を行う孝行の為にございます」


 駄目元で言ってみたのだろうか? それとも親分の手前堪えているのだろうか?

 酢を口に含んだようなくしゃくしゃの顔に為りながらも、手は出して来ないやくざ者。


「せやけど、払うて貰わなわしん男立たへんねん」

 漸く言葉を捻り出した。


「判りました。払いましょう」


「ほな……」


 皆まで言わせずわしは捲し立てる。


「十一などと言う高利は、おかみが目が見えぬ者の方便たづきの為に特に許されたことにございます。その利で払いますから、あなたがお上のお咎めを受けぬよう、その目を代わりに頂いて参りますが、如何に?」


 あ。親分が笑いを堪えている。


 頃合いとわしは決めつける。


「いい加減になさいませ。

 大事に使えば一生物の、親から貰った大事な目玉を、たかが一両で差し出さねば立たぬほど、あなたの男は安っぽい物なんですか?」


「こほん。あんたらの負けや」


 親分の大笑いで決着した。



 四半刻後。

 これで双方遺恨無しと手打ちをまとめた親分が、わし達とやくざ者を小料理屋に招いて膳を供した。

 その席でわしは言った。


「本来私が払う筋の無い金を渡しました。なので一つ注文を付けさせて頂きます。


 今後、賭場でお春の父御を見かけたら、尻でも蹴って追い出して下さいませ。

 怪我が残らぬ程度に、痛めつけても構いません。


 また、お春は十両の借財を返すまで、私の所で奉公して頂きます。

 日雇い奉公人の時でさえ、お春にくみして護ったのでございます。どなたでも、年季明けも定まらぬお春に手出しを致さば。今一度私の腕に骨が有る事を知らしめて見せましょう」


 酒を飲みながら頷くやくざ者達。

 しかしそのうちの一人が、ぼそりと言った。


「わしらが悪い。たしかにそうや。

 せやけど、そのお歳で女を囲うとは思いもよりまへんな」


「せやな」


「わしらは、なんかお手付きの名分作りに使われた気して、もやもやや」


「そうやそうや」


 あれ? と思ったわしが訊いた。


「あのう? なんでそう思うのです?」


 するとやくざ者達は、


「お供の奉公人言えば、男付くもんや。

 あちゃ言うようなおばちゃんちゃう。しかもお坊ちゃんは、姉やが要るとも思えへんお歳や」


 などとおかしなことを口にする。


「ですから、女のお供は当たり前なのでは?」


 どうも話が噛み合わない。首を捻っていると親分が言った。


「お坊ちゃん。わしも武家奉公をしてる身やけど、出掛けのお供には、男には男、女には女付くと相場決まってる。なんぼお坊ちゃんが子供やさかい言うて、姉やや乳母めのと付くお歳には見えまへんぜ」


 うーむ。今更だが、根本的な所で間違っているのに気が付いた。


「私は、女にございますが……」


 一瞬の静まりを経て、


「「「「えー!」」」」


 室内挙って声を上げた。

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