モテる男とモテぬ者
●モテる男とモテぬ者
襲い来る刃。躱すには一拍足りない。
回避行動を取りながら、なんとか躾刀を間に割り込ませて初太刀を逸らした。
危ない危ない。これが薩摩の者ならば、今のでばっさりやられていた。
身を土に転がし、数回転して距離を取る。
覆面をした着流しの賊が追い打ちを掛けようとした時。横から何者かが割って入った。
「何をしておられるのでありますか?」
薩摩忍びの
「あ~あ。また例の如く、想像の斜め上を行かれるでありますな。
捕り物に加わっちょると聞いて、急ぎ戻って来たのでありますが。
こんな往来で襲われるとは、いったい何をしよるでありますか?」
「どうやら逆恨みを買った模様です」
心当たりとこの太刀筋。夕べの狼藉侍と見た。
「お下がり下さい。何も心配はしておりませんが、これも僕のお役目であります」
随分な事を言う春風殿。
「供も付けずに出歩くほうも何でありますが。
朝っぱらから刃を抜いて女子供を襲うとは、真面な料簡の
すっと一見無防備に刀を下に垂らしたまま、春風殿が身を寄せると覆面の賊は跳び退る。
「ほう。柳生をご存知か。
僕は
君は何者でありますか?」
すると賊はいきり立ち。
「
「放蕩息子? 心外でありますな。あれは女が放してくれないだけであります。
確かに僕は
ああこ奴。前世でわしの孫が言っていた『リア充爆発しろ!』と言う奴だ。
はたして、
「そんな事があるかぁ!」
賊は不如帰が啼く声のように叫び声をあげた。
「ほーう、そこで喰い付くとは。
差し詰め色街でこっ酷く女に振られたと言う
「うぐっ」
おいおい。舌先で痛恨の一撃とは情けない。
「図星か」
春風殿はわしと賊を代わる代わる見てわしに、
「お遊びは程々に為されませ。
こう言う真面目だけが取り柄で女に意気地無き者は、お相手召さぬのが肝心であります。
真に真に、女に不自由しまくっているこのような手合いは、蛇のようにしつこいものであります。
普段は君子然としていても、一旦サカリが付いたら最後。
こう言ってにやにやと可笑しそうに笑い始めた。
「なっなっなっ、なんじゃ! わしに稚児趣味は無い! 誰がこねーなガキとなんかと」
露骨に取り乱す賊。
ああ、やはりあいつか。正体を知ったわしは嵩に懸かって、言った。
「夕べは楽しく遊ばせて頂きました。
私の肘鉄砲で、どれだけ神代殿が痛手を負ったのか。少しは考えて差し上げるべきでしたね」
「ほう~。こんな奴相手に……。遊ぶにしても良い趣味とは思えんでありますな」
空々しい目で乾いた声を上げる春風殿。
「なっなっ……」
酸欠の金魚の如く口をぱくぱく。
「君も純情でありますな。色街の恋は一夜限りのもの。真面目も良いが、少しはこちらの修行もされると良いのであります」
忽ち賊の殺気は雲消霧散。その身に油断は無いものの、春風殿が警戒を解くと。
「お、覚えちょれ!」
逃げる隙を見出した賊が、背を見せて走り出す。
「なんじゃあいつは」
敢えて春風殿は見逃した。
「
「先程言った通りです。酒の酔いに任せて私に飛び掛かった所、手も無く転がされ、再び迫って参った所で私の肘鉄砲を喰らいました」
訝しむ顔の春風殿。
いや、全く嘘は言っておらんのだがな。
「で。
尋ねると、
「その事でありますが、宿に戻ってからお話するであります」
そう春風殿は言葉を濁した。
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