打ち砕かれし驕り
●打ち砕かれし驕り
敢えて無茶をやった甲斐が有った。
実は、幸筒は持続可能な射撃ならば一分間に四十発が限度である。普通は余裕を見て三十発に止めるのが望ましい。それを、瞬発的なら可能であるからと秒間二発もの無茶を遣ったのである。砲が冷えるまでかなり時間を置かねばならず、後で詳しく点検も必要だ。
しかしそれに勝る戦果は手にした。最早、我ら
「続いて、気球観測を用いた
わしの声を聞いて、顔色の悪い
ああ。見知った顔だと思ったが、彼らは
「山田殿ぉ~!」
手を振ると、ぎこちなくお辞儀をして、
「
わしらも一日も早う、追い付かんとならん」
と、神妙な顔をした。
「演習が終われば楽しい宴が待っております。
わしは、皆の励みになるようニンジンをぶら下げた積りであったが。
「いいえ」
山田殿は首を振り。
「只今より酒は止めた。外国がこがな恐ろしい武器を持っちょる以上。酔うちゅー暇などない。そがな暇が有ったら蛮書を学び、そがな金があるなら土州の武器を揃える為に献じる」
この決心。どこまで続くか判らぬが、山田殿に初見の如き傲慢さは無い。
それ故わしは、敢えて酒を
「山田殿。酒は百薬の長にして、酒を飲むのは良い事にございます。
されど酒は良薬なれば、匙加減を誤ってはいけませぬ。
その誤りが酒毒にて、
孔子様は、沢山お酒をお召しに為りましたが、生涯に一度たりとも乱れたことはございませぬ。それは良薬の匙を誤ることが無かったからにございます。
山田殿。酒飲みもご修行の内と思し召しませ」
ある意味、酒を断つより難儀な事かもしれないが、今の山田殿ならば
準備が終わり、案山子の軍勢が配置された。
わしは左手でVサインを作り、中に気球のゴンドラを入れる。そして鏡で発光信号を送る。
その様を、土州侯様・ご重役。そして案山子配置の役目を担った山田殿や破廉恥組が、珍しそうに眺めている。
「間もなく、
観測が終わって打ち出されるのが、本物の
ドーンと遠来の如く響く音。ややあって飛来した砲弾は、地面に潜り込んで白煙を噴き始めた。
やや置いて二発目。
気球を見つめるわしの目に、発光信号が飛び込んで来る。
「只今より、仁吉砲の火力演習を行います」
わしが宣言してから凡そ十秒。
ゴーン! 初弾は空中で炸裂して
次弾は土にめり込んでから一拍置いて爆ぜ、土煙を巻き上げた。
それから二十秒ほど間が開いて再開。到達時間の計算が終了し、一番適切な秒数に調整されたのだろう。その後の砲弾は全て、空中で爆発し標的の上から欠片をまき散らしたり、めり込むや否や爆発するようになった。
先ほどのショックに比べれば、この辺りはまだ想像の範疇であったのだろう。
「上手いものだ。さぞ名のある砲術家であろう。
登茂恵殿、後で褒美を遣わす故、指揮を執る者を呼んで欲しい」
土州侯様に、
だが。その余裕も今の内だ。とわしは心の中でほくそ笑んだ。
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