定礼
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素人が出くわす山の天気の様に、予測も付かない事態の流れ。
いつ始まってもおかしくない
使いは目の下に黒々と
下と書かれた紙を突き出し、広げ掲げて隊士達に
「そなたらの言い分
来月より
但し、今より一切の金策を禁ず。不服とあらば召し放つ故、ご府中に戻るが良い」
お仕着せの単衣は洗い替え。銀六十匁は、相場によって変動するが凡そ四貫(四千)文。つまり小判にして一両の手当てである。
「
勿論、費用一切を用立てたのはわしである。現時点において、来月以降の予算は無い。
「それは今日解決する予定にございます」
わしは悪い顔をして口元を緩めた。
夕刻。万と言う名の料亭に、
質素ながら一汁三菜の持て成しを、苦い顔をして口にする商人達。
酒食を奨めて居たわしは、会食の半ば辺りで話を切り出した。
「皆様。お忙しき中お集まり下さり、
さて。勤皇の賊が跋扈を始めてより、都も随分と物騒になって参りました。
それでお上が浪士を募り、これに当らせることになりました。
されど、彼らを束ねる会津少将家は、京都守護代職就任に当たり
今も京屋敷の者が、うどん一杯
為に、浪士達に渡す手当も乏しく、浪士達は洗い替えすらございませぬ。
到底これでは真面な御奉公が叶いませぬ。
それで
皆様のご身代と比ぶれば、
商家にとって始末の算段が付きかねるのは、
そこで、
浪士達に月々、
わしが口にするのは、毎月定まった定額献金の要請である。勤皇の賊を抑えるために警邏させるのであるから、その受益者に費用を求めるのは、道理に背く話では無い。
それに無秩序に
これは西洋に於いてアルブレヒト・フォン・ヴァレンシュタインが行った、軍税を翻案したものである。
最終的に取られるものが同じならば、無秩序かつ暴力的な徴収を免れる分お得であると言う理屈だ。
「どこぞの御用金の様に、返せぬ金を貸せなどとは申しませぬ。これは皆様にとって十分に見返りのある費用であると
浪士達のお役目は、京の街を二六時中護る事にありまする。言わば、皆様のお
それが例えば、洗濯したので乾くまで裸であるとか、内職の納期の為専念せねばならぬのでは困りもの。いざ賊がお店を襲っても、それらを片付けるまで動けぬと言うのではお話になりませぬ。
皆様が、銭は出せぬと仰るのならば是非もございませぬ。いつ出来るか判らぬ内職仕事にやきもきして頂くか、あるいは賊に、洗濯や内職の障りに成らぬ時だけに押し込んで頂く他はございませぬな」
わしが申すのは、予算が無ければ責任は取れない。との脅しである。
集めたのは、
「確かに、内職とは言え銭を払う以上蔑ろにされても困る。言うても、それ理由に賊押し込んでも納期を守る為に動けへんでは本末転倒。
仕方あらしまへんなぁ」
この場に居る商人の中で、真っ先に定期定額献金に賛意を示したのは
無秩序に無心され捲るよりはましであると、考える者が現れた機を計って。わしは決断を促す言葉を放つ。
――――
跖を
狗は
――――
当然ながらそう言う学のある者は、わしの言葉を正しく理解した。
犬は
つまり自分達に牙を剥かせない為には、お手前達が
こうして、わしが定期定額の予算を取り付けて間も無く。
「登茂恵様! 一大事だ」
壬生・鳥居家より急を報せる使いが遣って来た。
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