一触即発
●一触即発
直接は、壬生鳥居家に了解を求めつつ。以前の伝手を頼って、伏見・長健寺の
会津ならば十日。万事おっとりとした公家衆でも自分達の安全が懸かる話ならば一月も在れば済むであろう。
これから行おうとすることを考えると、一方の当事者である会津松平家が何も知らぬでは障りがあるし、公家や禁裏にもそれとなく話を流しておく必要があるからである。
正式に話を持ち込まないのは、会津に責任を負わせぬ為であり、禁裏に正式に話を持ち込むには、無位無官と言うわしの立場では許されぬからである。
因みに、維英殿から話を通す相手は
新家と
実家の家中に
数日の内に届いた、壬生の委任状と二条新地の親分から届いた会津は黙認の手紙。
残る禁裏の内諾を待つ事半月余り。
「姫さん。戦ぜよ」
「はぁ?」
「近う、壬生の浪士と
戦が始まるとは只事ではない。それにしても、
「土八とは何者でございます?」
初めて報告に上がる名だ。
宣振の説明に依ると、土八なる
土八と言う男は、四股名を
衆目の中で三人を殺したにも関わらず、刀三人を相手に終始素手にて戦って居たため
今やそれなりの子分を抱えるだけあって懐く者には面倒見良く、気風も金離れも宜しく弱い者いじめを好む男では無い。
ここで彼の気質が、気は優しくて力持ちであったのならば良かったのだが、生憎土八は漁師の息子とかで気が荒い。喧嘩っ早く手向かう奴には容赦がない男なのだそうだ。
宣振に説明させていると、使いから帰ったお春や気晴らしに出かけていた
「姫様。なんでも、二条新知の親分と繋がりのある壬生浪士が、我物顔をしてることで絡んで来たそうどす。
幸い
「いつ刃傷沙汰になるか判らないのじゃ。どの子も、巻き添えに為らぬ様、あまり遠くに出歩くなと言われているのじゃ。
市井の子供にまで流れている所を見ると、既に両者の衝突は秒読み段階と言う事か。
不安げな眼差しのお春が、
「姫様。件のお話、どうなされたのでっしゃろか?」
聞いて来た。
「維英殿からは、未だ……」
「
「幸い。未だ死人は出て居りませぬ故、軽くお考えに為られて居るのでしょう」
お公家様達には、不遇を
さらには、勤皇の賊が今の所逆らわねば人を殺める事は差し控えているのも大きいと思う。
それだけに、予め対応できるよう、先の見える者が整えておく必要があるのである。
「稼業人はヤクザな商売で、舐められて成り立つものではございませぬ。
片や武士にも、
どちらも面目一つに首が懸かります故、このままでは収まりが付かぬ事は明白」
「今回は、お役目故に為らへん堪忍をなされたけど……」
憂うお春の言葉を継いで宣振が吐き捨てた。
「ああ言う輩は、堪忍して譲ったらそれを弱みと
げに、
小人物はしょうもない。とは随分であるが、腕っぷしでのし上がって来た者には良く見られる傾向である。
「確かに早晩、血を見ますね。
生殿、お春、宣振。耳を貸しなさい」
わしは三人に内緒の指示を出した。
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