養母の供応
●養母の供応
護衛に
軍次殿もお伊能殿も
護衛の軍次殿を途中に置いて、招かれたわしとお伊能殿が奥へと通された。
「母上様、兄上様。ご健勝、祝着至極に存じます」
「
他の者も招きたいとは思いましたが、お伊能殿の他はお旗本のご息女やら他家の家老の
よって、
奥方様が言い終わるのが早いか。
わしの前にこう置かれた。
[前]
――――――――
平 膾
香の物 ――――
飯 汁 菓子
―――――――― ――――
略式ながら一汁三菜。酒を飲まぬわしらの為に、焼き物に代えて菓子を配した心尽くし。
「前代未聞の御前出入りに賊撃退。はたと思えば今度は町方相手の大立ち回り。
聞く所によると、赤鬼
奥方様は愉快そうに、
「なんでも水府黄門漫遊記と二本立て。連日大入りであるとか。
それにしても。黄門様の芝居で水府一刀流の凄まじさを見せつけた話の後で、御親兵の羽林救援の芝居を当てるとは愉快である。引き立て役にされる水府一刀流こそ良い面の皮じゃ」
ご世子様はいかにも痛快な顔をして、
「幸の仕込みであると言う話も聞くぞ」
とわしの目を見る。
予定通り、水府黄門漫遊記は水府
御親兵の活躍は記憶に新しく、ご府中の人口に膾炙する所。如何に水府が厭おうとも、彦根中将様を襲ったのは前日まで水府ご家中であった者達なのである。
それぞれの芝居は水府が目くじら立てれぬ内容。されど二つの組合せは、明らかに水府を散々に扱き下ろして居た。
「さぁ。何の事でございましょう」
今世のわしは数えの十一。尋常科で言えば今度四年生に上がる歳である。されど中味は百歳の
新しき水府老公のお話は、俳人に代えて剣豪・柔名人・男女の忍び・滑稽な
娯楽の少ないこの時代。これだけでも大当たりを取るのは当たり前だが。これに御親兵の話が加わってさあ大変。子供が芝居を真似て遊ぶほどの大流行。
「お労しや。水府としては、複雑なお気持ちでございましょうね」
言いつつも、奥方様は全く気の毒がっては居られぬ様子。
「お幸。今の時勢を何と見る?」
ご世子様がわしに問うた。
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