嚢中の錐
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前世で聞いた話だ。
日本で洋式軍隊を創ろうとした時。家柄がどうだ。先祖の手柄がどうだ。長幼がどうだ。
と頭の痛くなる話があったそうだ。
一番困ったのが軍帽で、
仕方なしに泣く泣く切った所、親兄弟親戚一同から勘当の憂き目に遭う者が出た。
長らく身分によって髷の形が定められていたから、それを切るなどとんでもないと言う理由からだ。
馬に乗るため上士の兵科だと思われていた騎兵や、算術達者な英才でなければ務まらぬと思われていた砲兵でさえこの騒ぎ。
まして鉄砲担ぎの足軽と思われていた歩兵なんぞは、志願者を集めるのも難渋したと言う。
「この為。騎兵・砲兵はまだしも。恐らく歩兵に志願する旗本は居ないのではないかと思われます」
推論の形を取った、前世の経験に基づくわしの説明に唸る面々。
純粋に感心する
「困ったものだ。下手をすると無宿者や博奕打ちや火消連中から掻き集めた兵に、国の安危を委ねねばならないと言う事か」
「はい。恐らくはそうなろうかと。
無頼の
世が世であれば槍一筋で天下を切り従えた剛の者も、太平の世では己が力を持て余し、世を拗ねて無頼のドブに身を沈めておる者もおることでしょう。
権現様が、太平の為長子に継がすべしと定められて後。ただ次男三男に生れ落ちたそれだけが為、
この
「うむ」
と頷く大樹公様。彦根中将様は顔を顰めて何やら思案しているように見えた。
――――
――――
わしは漢籍の一節。
「私はご府中まで供した者より耳にしました。
『なども悔しや。
と、嘆いておられたと。
私には、羽林なる御方がどなたであるのかまでは存じませぬ。
されども義卿殿が仰るならば、きっと王佐の才に恵まれた御方なのでございましょう」
実際、わしは道中で聞かされた。義卿殿が常々、
「どうしても残念無念である。
黒船が来た時、羽林殿が大樹公様の嚢中におわしなさったのならよかったのになぁ」
と溢していたことを。
その赤鬼羽林なる者が義卿殿を、国事犯として連行を命じて来たと言うのにも関わらず。
「ふぅ~」
拝謁の広間から、方々が大きく息を吐く音が聞こえる。
「私事に非ず。今となっては是非も無しか」
静まり返った広間に、わしの耳が捉えた彦根中将様のつぶやきの声。
「では、登茂恵。そちは如何致すべきと心得る」
大樹公様が具体案を聞いて来た。わしはここぞとばかりに、前世の明治政府が行ったことを、なるべく聞き入れやすい形で提示する。
「お
黒船の使いと互角に渡り合える程の大丈夫、
ですから私は。新たに取り立てる
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