説くは大攘夷3

●説くは大攘夷だいじょうい


「まて、そら……」

 構わずわしはくし立てる。



異朝いちょうの話なれども、八島・百済くだら高句麗こうくり重囲じゅういを受け、国家安危のときを凌いだ新羅しらぎの王武烈ぶれつためしがございます。

 彼は国の習わしを唐の如くあらためて国力を増し、白村江はくすきのえにおいて八島のつわものを破り、余勢を駆って百済と高句麗を平らげました。

 彼が引き入れた唐も、その武威をって国土から追い出し、遂に唐の属国にも為らなかったのでございます」


 ここでわしは、お隣の国の話をする。

 外国の話ではあるが、昔、我が国と百済と高句麗が連合を組んで新羅と言う国を幾重にも包囲した時に、新羅の武烈王がやった先例がある。

 彼は国の習わしを中国の様に変えて国力を増し、白村江の戦いで我が国を破って、その余勢を駆って他の二国を滅ぼした。

 さらに彼が援軍として引き込んだ唐の軍隊も追い出して、遂に中国の属国にも為らなかったのであると。



「なおこの時の変革の様は恐るべきもので、この救国の英雄王にして第二の太祖たいそたる武烈をして、後世の人衆が獣と罵る程に習わし全てを変えてしまったのでございます」

 そう結ぶわしの説明に、具視卿は、

「登茂恵殿。異朝のことは詳しない。何でそうなったねん?」

 と首を傾げた。


「武烈以来、彼の国はいとこ同士の婚姻を獣の如き忌むべき物としています」

「ああ。確かにそう聞いとる。八島ではいとこの祝言などめずらしゅうもあらしまへんが」

しかるに当時、新羅の王に成るのは聖骨ゾングル真骨ジングルと申し、父母の少なくとも一方が王の血を引く者でなくては為りません。

 そして武烈の父の父は二十五代の新羅王たる真智王しんちおうであり、母の父は二十六代・真平王しんぺいおうにございました。故に武烈の生まれを、後の世の者は獣のようだと賤しむのでございます」


 因みにこれは、前世の娘や孫娘が夢中になってみていた韓流かんりゅうと申すあちらの歴史ドラマ知識の又聞きである。


「八島も、遠い昔は同腹であらへんかったら、妹背となったねん。今を物差しに昔をどないこない言うのんは烏滸おこの沙汰や。

 まして国を救った英雄を、ようそこまでくたせるんやろうか?」

 具視卿は乾いた笑い。



「侍従様。武烈の例を引きましたが、この八島で断じて変わっては為らぬのはただ一つ。

 天照あまてる神の言寄ことよさす者、即ちあま日嗣ひつぎたる万世一系ばんせいっけい大君おおきみを、光と永久とわに戴くことにございます。その皇統みすまるを守れるのならば、他は全て変えてしまっても構わない。そう登茂恵は愚考致す次第にございます」


 わしは具視卿に畳み込む。

 新羅の武烈王の例を挙げたが、わが国で絶対に変わっては為らないのは唯一つ。

 天照大御神あまてらすおおみかみが我が国を治めよとご委任なされた、今に続く天皇陛下を崇め戴いて行くことしかない。

 そのお血筋を守れるのならば、その他は全て変えても構わないとわしは思う。そう言い切った。



皇祖すめみおやが積みしみめぐみは、重ね給いしみひかりは、肇国はつくににして八島の八紘あめのしたを一ついえと致しました。これこそが八島の国の大基おおもとい

 大樹公家の天下も、その大御稜威おおみいつがこの八島に高領たかしらすが故に、一代にして治まったのでございます」


 天照大御神より天孫降臨を経て建国までに天皇家が積んだ数々の偉業が、我が国を一つの家にした。

 これこそが我が国の土台である。

 初代大樹公の権現様も、天皇陛下の御威光が有ったが故に、一代で治まったのだ。



「登茂恵は敢えて申しましょう。

 一天万乗いってんばんじょうみかど無くして、国の栄えはいずくんぞ有らんや。と。

 皇統さえ守らば、他は全て夷狄が如くなっても構いませぬ」


 わしは敢えて言う。

 天皇陛下無くして、我が国の栄えはどこにあるのだろうか。と。

 皇室さえ守れるのならば、他は全て外国のように成っても構わない。と



 過激極まりないわしの発言に、具視卿は目をみはった。

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