鏡の中のわし
●鏡の中のわし
「何の用とはえらいなお話やな。賢い
「さぁ。登茂恵にはとんと。
いっそ、
時計が有ればチクタクと、さぞや
敵陣で圧迫面接に応じて碌なことはない。当然わしは撥ねつける。なんとなれば、拝謁は
真剣を突き付け合うような氷の空気が満ちる中。互いに笑顔の睨み合いは小一時間続いた。
「登茂恵はんは、荒ぶるお馬でおますなぁ」
折れたのは
「登茂恵を含め、
「そやな。
わしはそんなことなど知らぬ気付かずの顔をして、飯の話に
「
気付いての辞令か、気づかずの応対か。計りかねている具視卿。
「
今までも、やれ
それが夕べまで一人の死人も出なかったのは、
されど。京の治安を請け負う者として。流石に
わしは殊更、公家基準の無教養を武器に具視卿に
初代
典型的な例を挙げれば、権威は禁裏と公家が持ち、権力は武士が握って、財力は商人に。
だから公家と言うものは、
こんな狂歌がある。
――――
我が膳は
(意味)
私のお膳は侘しくないのだろうか。塩味の汁物に実の一つさえ無いのが悲しい。
(体面があるから)庶民の服を纏い髪を隠して変装して野の草を摘み、
趣味と称して魚釣りをしよう。
――――
清華家でも斯くの如き有様と聞き及ぶ。まして半家やその下は……。
公家には高い位しか無いのである。だから殊更その位を誇る。そして平安の昔から学問と文化の担い手であった故の、高い教養がある。
無学な武士など、公家から見れば幼稚園で女児が男児を眺めるような感じであろう。
「くすっ……」
ふと、前世で鉱山開発を遣っていた戦友の、孫の話を思い出し、思わず笑いが漏れた。
彼の孫娘は、当時二年保育であった為、平成で言う年中さんで幼稚園に入った。
入園当初の話題は、前年度のヒーローが五人で倒せなかった悪の女王から、たった三人で地球を守れるのか? と言う事だったそうだ。園児らは戦隊物を現実だと思っており、地球は悪の女王に狙われていると信じておったのだ。
にも拘らず、ヒーローごっこに血道を上げ、必殺技の練習をする男子を女子達は、
「あれはヒーローだから出来るんであって、あんた達が出来る筈ないでしょ?」
と、実に醒めた目で見ておったと言う。
因みに彼ら男子らの入れ込みようは甚だしく。後年男子達の中には、小学校の卒業文集の将来の夢に「〇〇シャーク」と書き、成人式後のクラス会で酒を飲みながら「俺は〇〇シャークになりたかったんだよなぁ」と思い出を語る者が居た程であったそうだ。
中には長じてスーツアクターとなり、三つ子の夢を果たした者もいたとやら。
わしの漏らした笑い声に、具視卿ははぁっと大きな溜息を吐き、
「腰の低すぎるお武家は敵いませんなぁ。無学な鄙者を武器にされたら、手も足も出ませんわ。
ほんでも、ほんま山出しやったらまだしも。登茂恵はん、あんたそこそこ学もございますやろう。
鄙者言うのを真に受けて、半端な手出ししたら痛い目ぇ見るに決まっとる。
あんたほんまえげつないわ」
おっと。どうやら具視卿は、独り相撲で土俵を割ったらしい。尤も。これも彼の腹芸なのかも知れないが。
ともあれ。たった今、あちらの手の内が変わったのは見て取れた。
人は自らを物差しとして人を見ると言う。
具視卿の目には、わしと言う鏡の中に具視卿自身の姿が映ったのであろうか?
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