われは犬か!
●われは犬か!
わしらを家に招いた
家は
下って三代目。五年前に身罷った現当主の父は、郷士は郷士でも御役目に就け出世も適う
因みに白札郷士とは功績を認められた郷士の家であり、なんでもかんでも兵隊の位に直した
伍長勤務上等兵は、兵としては最上位であり下士官と同じ事をしているが、決して下士官ではない。同様に白札郷士は、下士としては最上位であり上士と同じ事をしているが、決して上士では無いのだ。
さて。本丁に到り乙女殿の家の門に辿り着くや否や。
「なんですかこれは?」
わしの鼻に異臭が飛び込んで来た。乙女殿はそれを嗅ぐなり、
「あんべこんかあ!」
吼えるように怒鳴ると、血相を変えて中に入って行く。
「お嬢様おか……」
出迎えの奉公人に皆まで言わせず、
「
と目を剥いた。
「へい。稽古から帰って湯漬けを召しあがっちょります」
聞くや足早に進んで行くと、障子をカーンと音を立てて開け放った。
「お
龍馬と呼ばれた男が、きょとんとした顔で湯漬けを掻き込みながら返事をすると。
「われは犬か! 門に小便掛けるなと、
乙女殿は顔の横で固く拳を握ったかと思うと、拳骨でポカポカ頭を小突き始めた。
「お姉ぇ。待ってくれ。話したら判るき」
「判らんき、こうして性根に叩き込んじゅーのや」
いつの時代も、弟が姉に逆らえないのは変わらないようだ。
「
目配せするが、
「ありゃあ止められんぜよ。わしも
打つ手無しと宣振は返す。
「前は回りも、嫁に行けんなると諭したもがやけんど。ああ見えて、今はご典医・岡上殿の
「ご結婚なさっていらっしゃるのですか」
「ああ。後妻じゃが、
岡上家は隣の家やき、毎日実家に出入りしちゅーがよ」
乾いた声で宣振は言った。
結局、乙女殿の怒りが落ち着くまで、わしらはお地蔵様と為ったのだ。
「呆れたろう。こう言う家やき許いてくれ」
わしに向かってぺこぺこ頭を下げた宣振は、乙女殿に向き直り、
「大姉。客人の前であっぽろけじゃ。
今のは土州言葉がきつ過ぎて、意味が取れなかったが、乙女殿の振舞いに呆れて
「おや。こちらのお方は」
尋ねる男の顔に見覚えがある。写真でも銅像でも見知った顔だ。
「わしの
こう見えても、国持ち大名の子で上様の直臣だぞ」
宣振は自慢げに言う。
その自慢げな態度に、ふと悪戯心を催したわしは。乙女殿達が勘違いすることを見越した上で、事実をそのまま口にした。
「縁あって、宣振を家臣と致しました。
微禄なれども宣振は
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