ようたんぼ
●ようたんぼ
宿を取らずに家に逗留しなさいとの厚意に甘え早、
一両日中には、呼び寄せた女ばかりの
それが終われば、
片田舎の郷士が
「以蔵さん。田舎大名の
当主の弟・
めでたいめでたいと祝っているが、彼は実にあっさりとしたものだ。
問題は他の者達。例えば、
「お
若さ故に己が酒量を計りかねて、すっかり出来上がっている。
「おい
われは十八じゃき、以蔵さん弟の
龍馬殿が宣振の弟と変わらぬ歳の癖に馴れ馴れし過ぎると窘めた。
しかし声は聞こえども届いては居らず、
「わしは嬉しいがよ。どれだけ頑張っても、わしらは
そりゃ庄屋や足軽より上だが、所詮は
ここの先代様は土州随一の槍の大家。それが一合たりとも禄を増やせず、郷士のままで終わったやないか」
おいおいと泣き出す始末。
「泣きゆーのか、われ」
感極まって号泣し始めた喜久馬殿に、龍馬殿は手を
宣振の話によると、土州に於いて士分の最下位は庄屋である。
その上に
そのさらに上に
だから決して低い身分ではない。しかし下士の家に生まれた個人が、器量を見込まれて上士の婿や養子に為る事は有っても、下士の家が上士の家に成り上がる事は不可能に近い。土州に於ける唯一の例外が、下士である郷士に上士待遇を与える白札郷士の制度なのであり、これには一代の功績だけで足りぬ事の方が多い。
これが前世の薩摩や長州ならば、上の引き立てで重要な仕事を任される事も多かった。
例えば囲碁など共通の趣味。そんなことでも足掛かりとなり選定の
例えば高名な師。入門を認めて貰いさえすれば、こいつなら出来るだろうと、門人同士の繋がりで仕事を任されることも多かった。
これらの中には、軽輩にして遂には主君から外交や政治を任される者すら現れたのだ。
しかし今世のこの土州では、鋭い先で突き破ろうにも嚢中に入れて貰えるための資格が、一定以上の身分なのである。
「なんとかなりませぬか? あれは流石に自重を求めます。正直、私が受け付けませぬ」
喜久馬殿達の、酔いで潤む目がこのわしにも向けられる。何と言うか、大の男がまるで少女まんがの恋する乙女のように見えて、
しかし宣振は、そんなわしの気持ちを
「わしは姫さんのお陰で、土州の外で
神君の
ああ。それがそもそもの起りであったな。
わしは少し空気を変えてみる事にした。
「間も無く、私の配下が到着致します。
するとこれに反応してわしに絡む者が有った。
「
「よせ
目が据わっている彼を止めたのは宣振の父であった。
「許いとーせ。
彼は寅之進殿の首根っこを掴んで力づくで頭を下げさせ、自分も一緒に頭を下げた。
子供と
「構いませぬ。こう言う時、普段立場の無いものほど威張りたがるものにございます」
鷹揚にわしが赦したが、すっかり出来上がっている寅之進殿は、
「女が男に敵う訳が無いろう」
などと口走り、女の癖にと連呼する。座が白けて来たその時。
「やめぇや! こん
甲高い声が屋敷に響き、次の瞬間、寅之進殿の身体が宙を舞った。
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