烈々の血
●烈々の血
「
「すな! べこんかあをこたやかす」
邪魔をするな。馬鹿者を懲らしめる。と睨む
「
そんなに怒らなくてもと気の抜けた声が止めた。
「いいか龍馬。男のすることで女に出来んものは何もないき。今に男女ともに同じ仕事をする時代が来る」
怒りの迸る声だが、諭すように話す乙女殿。そんな彼女にニコニコしながら龍馬は言った。
「やったら、女の方が偉いのじゃのぉ。男には出来ん仕事があるんじゃき」
「どいて、そう思うたのやか」
どうしてそう思たのかと聞かれて龍馬殿は、
「当たり前や。男に子供は産めん。
天子様も大樹公様もお城のお殿様も、孔子様も孟子様も、
偉い人は皆、女が産んだ。だから女が偉いと言う龍馬殿の答えに、乙女殿はほっかりと笑みを浮かべた。
そこへすかさず宣振がおべんちゃらを言う。
「おおそうじゃ。考えて見たら、一番偉い神様は天照様や。
わしはふと、前世の子供の頃に聞いた
「元始女性は太陽であった……」
「そうや!」
不意にパーンと背を張られた。
「女は本来太陽なのや。今は男がお日さんで女は月けんど、昔は女がお日さんやったのや」
犯人は乙女殿。今さっき、酔っ払いと罵りながら寅之進殿を吹っ飛ばした乙女殿であったが、こちらもかなりお酒を召していた。
どうやらわしは、乙女殿に気に入られたらしい。
「登茂恵様。乙女様の言う通りになるとしてそれはいつになるか」
聞いたのは
「お珍しい。忠次郎殿のお歳ならば、女には殊更威張り散らすものと聞き及んでおりますが」
やはり年若い程、頭が柔かい。
「なんぼ
「まぁ……」
わしは今更ながらに口を手で隠して笑う。
まあ、さっきの人が飛んで行く場面を目の当たりにしては。全ての女はか弱いなどと口が裂けても言えぬだろうがな。
「姫さん。今更言うたちいかんちゃ」
猫の毛皮を十枚ばかり被って見せたわしを、
気付かぬふりをして、
「そう遠い
と話を繋ぐ。
「これからは機械の世の中にございます。
機械の力と比べれば、男と女の力の違いや大人と子供の違いなど五十歩百歩。
牛は大きく鼠は小さいと申しても、これを山と
例えば、当世の鉄砲は鎮西為朝公の放つ矢よりも強く、当たれば三つ子が熊を退治できまする。
例えば、蒸気船は男達が漕ぐ
かつて
しかし機械の力、蒸気の
矢玉・
話は変わりますが、
ところが如何にも惜しい事に、牛で牽くのでは余りにも遅く戦の役に立ちませぬ。のろのろと牛の歩みで進んで行けば、鉄砲の弾は弾いても火砲に狙い撃ちされて仕舞いにございます。
されどこれを機械の力で動かし、鉄砲の弾は疎か
このような機械仕掛けの安神車を用いて戦う時、何も兵は男だけには限りますまい」
そうだ。もしも内燃機関のように小型で強力な動力を得て発展して行けば、安神車は日本の戦車の源流となって行くかも知れないのだ。
「
だがら自分は戦車兵に志願した。自分も水戸の烈々の血受げ継いでいるのだ」
と誇らしげに、前世でモミジの表紙を携えて少年戦車兵に志願して来た者の顔を思い出す。
その眉秀でたる面影が、目の前の忠次郎殿と重なった。
彼も声変わり前で、このような幼顔であったな。と。
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