黙さぬ木鶏
●
加わったのは四人。
「よう。
一人はトシ殿。
「おや、登茂恵様もが」
えーと。確か、
「
「ありがでえごどに、上様に
良かった。間違えて居なかった。
共に過ごした時間こそ短いが、茂重殿は同じ日に
そして、
「
先の大喧嘩で骨を折ってくれたトシ殿のお知り合い。同じ道場で師範代を務める
「島崎殿も武術始めに呼ばれたのでございますか?」
「左様。
ここで
わしの建白は、どうやら採用されたようだ。
無役無禄の待遇でも武士として認める代わりに、いざと言う時は武士として働いて貰う郷士の隊。そこに至る明確な一里塚が据えられたと見て良い。
郷士でも武士となれば農民・町人とは違う。最下位でも武士は武士。身分の壁で
最後の一人は見知らぬ男。軽く私語を交わすわしら四人から、一人孤立したように
彼は背が高く色白で、目に強い知性の光を宿していた。身の内より十分に学問を修めた者特有のインテリな雰囲気を漂わせ、しかもしゃんとした体幹に揺ぎ無い。当に文武の才に満ち溢れた人物と見た。
しかし。初対面にも拘らずわしの中で
やがて一刻程続いた
「間も無く上様がお出まし遊ばれます。
わしらを皮切りに、板張りの部屋には次々と武辺者が集まって来た。
そして最後に
「上様の、おなぁ~りぃ~~!」
自動ドアのように戸が開いて、大樹公様が現れた。
「新年の
代表して挨拶を奉る瀧殿に合わせ、皆が一斉に大樹公様に平伏した。
「めでとう。皆の者、面を上げて楽にせよ」
仕来り通りに大樹公様は挨拶を返す。
挨拶の終わった瀧殿はこちらを向いて直り、
「
ご上意である。武芸始めにあたり、武を
と
木鶏が号。名字が清川。本姓が藤原で諱を正明と言うこの人物。それがわしの見知らぬ彼であった。
「
この時代の
「良い。申せ
下郎なれば
さぁ。早う致せ」
まどろっこしさに、お前も客なんだから遠慮するな。身分が低いなら礼儀を知らないのも当たり前だから咎めない。と急かす大樹公様。
これを見て清川は、
「
そう言って、威儀を正し吐く息吸う息整えた。
――――
思えば、いと
神君
武を
長く太平の
ああ
あはれ元寇に勝る国難の
入れよ
(解説)
思えば、早いものです。
初代の大樹公様が天子様のお言葉を賜って、二百五十年余りが過ぎました。
戦乱を封じて輝かしい治世を重ねた大樹公家は十四代続き、その長い間、満ち溢れる(洋と言う漢字には満ち溢れると言う意味もある)平和を保ちました。
しかし光ある所に影があります。
わが国ではこれほども長き輝かしい平和な時代が続いている間に、外国の連中は戦乱の中、生き残りを懸けて互いに食い合い続けていました。
こうして大八島は外国に一段劣ってしまいました。
時代は、世界を乱す外国が多くなっています。
残忍でこれでもう十分だと感ずる事のない奴らが非常に多く、遂に大平の洋(大平洋と満ち溢れた平和を掛けている)を割り、大砲で昔からの法である鎖国をこじ開けてしまいました、
更にまた、狡賢くて油断のならない連中が、詐欺のようなやり方で八島の富を奪い続けています。
ああ元寇以上の国難の時期。奴らを黙らせられるのはいつになるのでしょう?
大樹公様の選定の中に志ある忠誠の者を入れて下さい。
私達の武を伸ばすような日を計らいましょう。
――――
彼は自分を推薦しているとも取れる建白書を提出した。
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