才と誠
●
「
最後まで聞いた
「そなたは古学を修め塾頭に推されたが、辞して研鑽を続ける為、
その後も、武はお玉が池の玄武館で北辰一刀流の免許皆伝。文は艮斎の縁で
後に九段の斎藤に先駆けて文武を教える私塾を開くも、学びの道を尋ねての廻国修行」
「どうしてそれを……」
自分の経歴を並べられ、目を丸くする清川殿。
「なあに。先代の近侍であった
「小栗豊後守様がそのように」
「兄弟子が弟弟子を推して、何の
当節は、若くして師匠と呼ばれたいのであろう。未熟者にして私塾道場を開かんといる者が多いと聞く。
師匠と呼ばれて
「御意」
大樹公様のお言葉に平伏する清川殿。
「そなたは郷士の出。頭の固い連中が多い故、相応に報いて遣るのは難しい。
されど艮斎も
そなたにも期待して良いか?」
「お召しとあらば、我が非才を以て」
うんうんと頷く大樹公様。
続いて
「
と呼ばわった。
静かに頭を下げる島崎殿は、
「
これのみを口にした。
「
一瞬、清川殿の肩が、カンニングをしている生徒の如く不自然に揺れた。
大樹公様もお人が悪い。雄弁な清川殿の号を
あるいは、遠慮がちな島崎殿の背を押すためかも知れない。
木鶏とは木の
前世のわしは、昭和の大横綱・
「ワレイマダモッケイタリエズ(我、未だ木鶏たりえず)」と電報を打ったと言う逸話を聞いた時、これぞ明治の気骨だと頭を下げずにいられなかった。
何せわしなんぞ、前世で
――――
――――
詰まり、今は空威張りして気力に頼っておる
大樹公様の言葉に島崎殿は、さればと
――――
果たして英雄の心の上の事を識らば、
英雄ならざる
――――
牆東(垣根の東)とは、後漢書の逸民伝・逢萌にある
つまり詩の意味を解説すると、こうなる。
――――
英雄とは、ひたすら世の中を避け姿を隠して、人知られず隠棲するべきである。
どうしてベラベラと得意げに
ついに俺は理解したのだ、英雄の心の内と言うものを。
いかにも英雄らしくないことこそが、真の英雄なのだ。
――――
「島崎殿!」
血を吐く様に清川殿が声を上げた。
右に置かれた刀に手を伸ばして。
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