舌戦
●舌戦
「卑怯者? そこの方。今、卑怯者と口にされましたね。どうしてですか?」
わしは、声を荒げた若い衆に目を配り、問い質す。すると、
「お、おおお、お上のご威光を嵩に、て、てて、手出しさせんのは、わしらに、おおお、怯えてるのも、おおお怯えてるのも、同じずら」
酷い
「なるほど。私はお上の直臣、討たば三尺高い柱の上か? 卑怯ではないかとお思いのお方。
案ずるには及びませぬ。
私を討った暁にお上から死を賜る事は有り得ぬと、上様のご威信に懸けてお約束致します。
されど、私を
私の腕には骨がございます。そちらが求めし
かのメリケン国には、僅か三つで熊退治をしたお話もございますれば」
三人力の強力とは、力自慢の祐天を指す。
丁寧ながら挑発的な物言いに、辺りはざわっと慄いた。
「そうかい」
ゆるりゆらりと大手を振って、わしの前に出て来た
決して早口では無くゆったりとした口ぶりが醸し出す貫禄は、彼の似姿の如く『痩せけれど腹に込めたり春の山』。
互いに柔和な眼差しだが、視線を交わすわしと祐天殿の間に繰り広げられる無数の一手。
ストラボアクションで描かれる幾つもの未来像に、高鳴るわしの胸。
良き敵と、思わず口元が緩んで行く。
「やるて言ったら?」
囲碁で言えば接近戦。果敢にツケの一手を打って来た祐天殿に、わしは吼える。
「祐天殿が、
流石にこの数と
囲碁と同じく、ここは打って来た一石を囲むぞと脅すハネの一手を打つと、
「わしらのような半端
とわしの行く手を、蛇の頭を押さえるように
双方
こうして小一時間。激しい鞘当てが繰り返された後。
「御親兵ご差配さま」
祐天殿が、威儀を正してわしを見た。
「
少し照れたような赤ら顔。
そうか。
九九で
同時にこれは、
「いやいや祐天殿。三七崩れなどとは仰いますな」
わしがそう言うと、
「判った! 委細承知した。喧嘩状、
雲の上のお人でありながら
時は三日後の六つ。場所は調布
祐天殿は喧嘩の日時を指定する。
上手く行った。上々の首尾だ。
これで次へ進めると、わしは思わず笑みを漏らさずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます