第二章 多摩川の大喧嘩
登茂恵の喧嘩状
●
多摩は日野。
平成の頃には、宅地開発され
その顔役の家に逗留する博徒の一家の下に、
「親分親分!
どたどたどたと
若い衆と言っても一端の博徒、普通こんな狼狽は見せぬもの。だから回りは訝しむ。
注目を集めた若い衆は、呂律も回らず、
「こっこっ、ここここ……」
直訴状のように捧げだされたその手には、一枚の折り畳まれた紙。
兄貴分を介して親分に届けられたそれを検めると。
「持って来た奴はどこだ! 叩き切って仕舞え!」
と大きく吼えた。
遅れて遣って来た子分の一人が、
「だが親分」
と普通なら有り得ぬ異議を申し立てた。
親が白と言えばカラスも白くなるのが博徒の掟。敢えてこれを冒すのは、言わねばならぬからである。
だから親分は、
「なんだ!」
と聞いた。
「
思いもよらぬ報告に、はぁと力が抜ける一同。
「餓鬼の使いじゃしょうがねえ。芋でもくれてやって帰せ。
まったく、餓鬼の
どうした?
先ず
「それが親分。鉄砲担いで、
と言う話ならば是非も無い。
俺が行かねば埒が明かぬと出て見れば、年の頃十かそこらの小娘が立っていた。
出で立ちは、小倉の袴に、腰の物を落とし差し。こんもりとした布の手甲にの拳に革紐を巻き、背には剣付鉄砲を担いでいる。
娘は乙女の黒髪を紅い絹布で後ろに縛り、馬の尾の如く垂らしていた。
「呼んだか嬢ちゃん」
祐天が呼び掛けると娘は、
「武田五名臣が一人・
と尋ねた。
「
確認した娘は名乗る。
「私は
祐天も、二足の草鞋で十手捕り縄を預かる男。博徒同士ならばお上の側に立つ身だが、相手はお上の直臣だと言う。
「バカな」
祐天が呟き、半ば無意識にカチャリと鯉口を切り、長脇差に手を掛けた時。
逗留する家の
「待ちなせぇ」
と柄を押え、言った。
「上様の直臣だ間違いねぇ」
「隼人殿。本当け?」
「
なにより、ご府中界隈で堂々と鉄砲担いでんのがその証拠だ」
目を剥く祐天に使者は言った。
「漸く収めた手打ちの場を、祐天殿が手の者に台無しにされました。
そちらにも
清水の親分殿が書かれた喧嘩状。素直にお返事を頂ければ善し。届けた私を討つとあらば、これより
音を吸い取る様な
「卑怯者!」
との誹りの声。
主は祐天の子分の一人であった。
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