必殺術
●必殺
やるな。だがこ奴、道場剣術の癖が強い。駆け引きでわしの体を崩して打とうとしているのが見え見えだ。
打突で勝負が決まる道場剣術特有の、低い位置で斬り結んで来たのがその証拠。
だから鍔迫りの入った瞬間、
「きぇぇぇ!」
わしは気合と共に、押すと見せ掛け自分の腕を極めたまま右足を半歩進め、右腕を引き付けるように鍔迫り合いの体制のまま、肩で押し込むように鍔を軸に小さく回る。
すると自ずから
今の一手は、道場剣術ならば無効どころか反則の禁じ手である。
しかし今は道場の試合ではない。道場で反則とされるのは、それが殺しの術だからだ。
実戦の今ならば、真剣であれば首の血脈を断ち切る恐るべき必殺の
だからあ奴めの正解は、胸の高さで受ける事だった。しかしそれは彼我の背が釣り合っている場合の話。
背の低いわし相手に鍔迫りとなった時、本来有利な上背が逆に命取り。わしが上から押し込まれるように引き付ければ、自然とあ奴の胸の高さから下り、わしの切っ先は届くがあ奴の刃は届くことが無くなってしまうのだ。
生憎わしは躾刀ではあるが、今ので鍛えられない首の急所に激痛が走って居る事だろう。今暫くは動けまい。顔が歪み藻掻いているのが見える。
「こなクソ!」
いきり立った新手が、触れても切れぬ躾刀と見くびって斬りつけて来た。
再びわしは鍔迫りに持ち込むと、上背を利して嵩に掛かって押し込んで来るのを、手首をくいっと往なして
自ら柄に突き刺ささって来た敵は、気道を潰さんばかりに
そこへ止めの、
「きぃえーい!」
トンボからの渾身の一撃を脳天に。
崩れるように二人目が
「ちええ~いぁ!」
足捌きで右に刃を外しつつ、敵と同時に振り下ろして小手を押える。それで死に体となった所に、突進して喉に突きを見舞うと敵は咽喉を掻き毟って悶絶し、もう戦えなくなった。
そうこうする内に、軍次殿が対峙していた二人を斃し自由になると、わしの左に寄り添った。
「
苦言を呈する軍次殿。
「真剣でなら、あんな真似はしておりませぬ」
刃を傷める事のない木刀の利を使ったまでのこと。
「なるほど。ともあれ既に
改めて部屋全体に目を配ると、残りの襲撃者を三対一で押していた。
入って来た賊は数えて六人。わしと軍次殿とで都合四人を斃したから、三対一でもこちらには新手が控えている。
一番の難所は越えたのだ。後は油断無く応じて行くのみ。手の空いたわしと軍次殿は、あるかも知れない新手に備えた。
残らず賊を叩き伏せて小一時間。漸く駆け付けたのは奉行所の定町廻り。
不憫にも彼らは、重大なお役目を
だからこれからやる事は、内心心苦しい。だが、まよよと迷いを断ち切ってわしは、
「
堂々と名乗りを上げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます