士道不覚悟
●士道不覚悟
「辻斬りでは無く女の家で斬られたとあっては、
只でさえ、
試衛派だけではない。以前は、被害者であり賊の太刀から急所を躱していることもあって
「何もそこまでしなくとも」
と言っていた者達までもが、これに倣ったのである。
ここまで来ると流石の
「襲われで怪我して、
と確認し、藤崎殿を始めとする試衛派に「そうだそうだ」と言う言葉を吐かせることしか出来なかった。
「
不機嫌そうに言った芹沢殿は、衆議と運命に月海を委ねた。
この事が大きな遺恨となるであろうことは判ってはいたが。
月海
但し切腹と言いつつも、その実は斬首であったと言う噂が洛中に流れている。
月海が最後まで抵抗したためである。
ともあれ。この一罰百戒の月海切腹以来、新撰組の綱紀の乱れは正された。
めっきりと隊士の御役目以外の外出や、外泊届が減少したのだ。
但し水府派を中心に、月海の
常時戦場の心得は宜しいが、その巻き添えを食らった者達は大迷惑である。
事件から半月。事態が落ち着かぬ為、中々
「
「
斬り捨てないと切腹だから、相手が子供でも容赦なく斬るとか、勝手金策の時にも無かった話なのじゃ」
噂は、小さな子供にまで広がって居ると言う。
「そうだね。怖ろしいと言う意味では、凄みを増したんだ。
もしも投げた石が壬生狼に当たったら殺されるって言うんで、男の子達が石合戦をしなくなったそうだよ」
苦り顔の奈津殿。
「他には? 何かございましたか」
と尋ねると、
この半月余り、頻繁にこれらの苦情が会津松平や壬生鳥居の屋敷に持ち込まれたが、新撰組に対しては月海切腹の一件もあって、誰も強くは言えなかったのだ。
最たる原因を挙げれれば、新撰組をどこが治めるかが明確でなかったこともある。
一応、京都守護代である会津松平家ご支配と言う事に為ってはいるが、世話役に壬生鳥居家が居り、
一言で言うならば、責任の所在が明らかではないのだ。
因みにこのような有様は、何も新撰組だけではない。
勿論、大樹公家には非常時の解決手段として、独裁権限を持つ者を据える場合がある。例えばこの三月に難に
残念であるが現在。会津は手元不如意で本腰を入れられず、壬生は強制権を持たない。勿論今のわしらに新選組についての決定権はない。それでこの様なもどかしい事態と為っているのだ。
そして、当の新撰組はと言うと。
水府派は「京の者に
試衛派は「勝手を行う者が居なくなり、恐れを成した賊が鎮まって居るのだから問題は無い」と言う。
確かに新撰組の威で今の所、京師は上手く収まって居る。
しかし忘れてはならない。今この時も、厄介事が刻一刻と近づきつつあったのだ。
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