辻斬り事件
●辻斬り事件
それは許可した外泊の夜であった。子の刻までには戻る積りだが念の為に外泊許可を取った、水府派に属する
当然反撃せんと致したが、賊は一太刀浴びせると同時に、闇の中に消え去ったと言う。
「また面倒なことを……」
報告を持って来たお春に言っても
被害者である月海の親分とも言える
あるいは月海が水府派である事も主張の心根に有ったのかも知れない。しかし、それよりも圧倒的に大きな理由は、藤崎殿の出自にあった。
彼は郷士扱いされては居るものの、多摩の農民出身である。この為、殊更武士の在り方について厳しかったのである。
対して芹沢殿は一歩も引かず。
「月海は賊に襲われだ。藤崎殿の道理に照らすと。怪しきは斬りかっぽっぺぎで(斬り捨てて)いいが?
と物騒な発言をしていると言う。
「折角落ち着いてきなはったのに。また荒れそうどすなぁ」
お春は憂鬱な顔になる。
開始より
「ええ。そうでございますね」
まだパチっと爆ぜた火花であったが、わしはややこしく為りそうな火種の発生に怒りを覚えた。
周りには、水府派と試衛派が入り混じった、新撰組と言う
参考までに、爆鳴気とは酸素と可燃性気体が適切な比率で混合された物を言う。例えば酸素に対して二倍の水素を混合した気体である。戦後以降の小学校では、酸素と水素との爆鳴気を扱って居る。極僅かな水素なのに、とても大きな音を立てるので印象深い者も多いだろう。
危うき事を
しかしわしが見るに、水府派と試衛派は彼らだけの闘争に治まらぬ。例えるならば、一発にして周囲を更地にする強力な爆弾であった。
そんな危うい状態であるのに、更に。
「
「領事殿の忠告を無視して、異人が
それは大樹公様を通じて、エゲレス総領事であるオールコック殿から齎された一報であった。
日付から見て早馬は、僅か三日で東海道を走破していた。未だ京師ご府中間を結ぶ通信網が整っていない現在。これは最速の通信手段である。つまり、それ程の緊急性を持って運ばれて来た手紙なのだ。
とてつもなく嫌な予感が浮かび、わしの背を凍らせる。読み進めると、彼らがエゲレス国外交官から見てもトラブルメーカーである事が記されていた。
曰く、
――――
・リチャードソンと言う男は、尊大で東洋人を人として見て居ない。
・八島に来る前に居た清国では、エゲレス軍の威を嵩に着て遣りたい放題。
自ら雇い入れた罪無き清国人の従僕を、乗馬鞭で鞭打った咎で罰金刑に処せられている。
・過去には遠乗りで清国人の婚礼の行列と出会った時に、
珍しい服であると花嫁を裸にひん剥いて、衣装を取り上げている。
・他にも代価を払わず清国人から物を奪ったり、
言い掛かりを付けて乗馬用鞭で清国人を殴り付ける事数えきれず。
(以下、彼らの悪行が続く)
――――
「ねぇ登茂恵。こいつら
わしに手紙を見せられた奈津殿もぼやく。傍若無人な彼らが、京師の治安を任された新撰組と衝突しない訳が無いからである。
そして、それはエゲレス人を護る責務を負う、エゲレス国との関係に多大な影響を与えずには済まされない事を意味していた。
手紙にはオールコック殿直々の発言として、「不本意ながら彼らを殺傷した者に責めを問わねば為らない」と記されていたからだ。
つまりこれは、オールコック殿個人の意思とは関わらず、事が起これば本国の意に沿わねば為らぬと言う事なので事であろう。
「奈津殿。
わしは対応策を相談。もしくは問題解決の為の行動を承認して貰う為に手を配り始めた。
しかし、ここで思わぬ情報が割り込んだ。
辻斬り被害者である新撰組隊士・
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