暴走
●暴走
陣に拠っての小競り合いでの勝利。
この小さな勝利は、清国の噂や黒船・大砲に怯えていた公家にとって、舞い上がるに足る報せであった。
「三条殿が江家に、攘夷の勅諚を流されたぁ?」
「す、済まぬ。
勅諚は
「三条殿は異人と言うだけで払えと仰るのか? お上の徳を慕って罷り越す者まで払えと。
紫の絹の存在が明らかになり、その紫に勅許が居るとなれば、貢物を携えて遣って来る異人も増えましょう。
三条殿はそれら全てを払えと仰せになるのですか。
しかも、本気を出した異国の力は、この前のような遊びではございませぬぞ。
文武百官殺す覚悟を据え、然るべき将を立て送り出さねば闘いにすら成れませぬ」
「それは麿からもよーく言った。そうしたら
「万犬の
言うなれば、臆病な犬が吠え捲った結果がこれである。
さて。勅命を受けたと認識した
無辜の者を撃たぬ様、先ずは馬関海峡を行く船を止め、時を提示してそれ以降の外国船を無差別に砲撃するとオランダ語の戦書を渡すことにしたと言う。
如何にも江家の侍らしい有様に、わしは頭が痛くなるのを覚えた。
未だ砲撃が始まっていないが、諸外国がどう動くかは知れている。
「どうにも成らぬのか?」
岩倉卿は当然のようにわしに縋って来る。
「私にはどうしようも出来ません。銭金も権限もありませぬ。
よし勝利しても、勝っている内に事を納める権限が無ければ、負けたも同じ事にございます。
兵を募るにあたり然るべき公職が必要で、和約を結ぶのに関白以上の権が不可欠です。
こればかりは登茂恵がどう足掻いても
だから無理だと申し上げます」
わしの回答に岩倉殿は、
「それがなんとかなれば、出来るのか?」
と聞いて来た。
「少なくとも試みることくらいは可能かと」
「判った。出来る限りの条件は、麿が整えて進ぜよう。
登茂恵殿は対策を頼む」
岩倉殿は胸を叩いて請け負った。
まさかそれがこんなことに成ろうとは……。
流石あの岩倉卿である。わしの想像の外にある力技を使ってくれたのだ。
――――
従四位下
――――
典侍は給与水準とする為の准位では従四位。中々に重たい地位である。
権が付くのは、付かないと妃化している役職だからであった。
合わせて、あくまでも和約の為の借位として准中宮を叩きつけられたのである。
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