お家の宝
●お家の宝
上士も郷士も飲めそうな解決案を胸にして、退助殿は帰って行った。
建前としては、郷士に重く上士に軽いお沙汰とし、実際に於いては、上士である
なお。
このようにして話は付いたが、未だ上士と郷士の双方が苛立って居る。それでわしらは、最終決着が付き落ち着くまで、続けて池田家周囲の陣を維持し続けている。
無論。
「
「通して下さい」
池田家前の
刀の手入れをしている
予定通りの時刻に乙女殿が訪ねて来た。
「邪魔したか」
「いえ。大丈夫にございます。今日は」
「僅かでも禄が出る言うき、全部家に入れる言うたら
「それは良うございました」
「口利いてくれた猿播の事もあって、旦那も承知してくれたぜよ。傷を
あれから駆けずり回って、他家の事まで解決してくれたぜよ」
「
「ああ。纏めて登茂恵の家来筋やき。宜しゅうな」
坂本家を通し、平時には訓練以外お役目の無い予備隊士として土州郷士の子女を募ったわしに、乙女殿は答えてくれた。
しかし。家来筋とは……。勘違いをしているようなので今の内に正しておかねば。
「皆様が、予備隊士と
確かに禄は私が出す事に為りまするが、家来筋と言うよりは同志にございます。断じて私を
無論
「それは当然やろう。戦で兵が大将の命に服するがは当たり前や」
「差し当たって、軍務として兵事訓練を申し付けます。
土州に教官を置いて帰りますので、
加えて隊として、進んで道普請・川浚え等の
「前のは判る。その為の禄やきね。やけんど普請やか……」
だけど土木工事ですかと乙女殿は首を捻る。
「土州で御親兵予備隊が浮き上がってはなりませぬ。普請は
「そうじゃのぉ。確かにそうや」
地域住民の支持が有れば、情報や
「それに普請の腕前は、いざ陣を築くとなれば味方の流す血を減らし敵の流血を増やします。拠って立つ堅陣があれば、兵の力は三倍以上に揮えるものにございますよ」
「なるほど」
こうして質疑を繰り返し、わしの意図を乙女殿に
「では、皆に予備隊士装備として、
教練に必要な一式を受け取りに来るよう乙女殿に
彼女らに引き渡す品々には鉄砲や弾薬は無い。高価な上、全員分を支給すれば土州を刺激し過ぎるからだ。
「禄は約束通り三両一人扶持。所謂サンピンの微禄にございまするが、全て前払いの銭のみで支払いまする」
かつては軍役時の従卒であった武家奉公人も、太平の眠りの中で単なる下働きになってしまったし、家伝の鎧兜を売り払ってしまった家も多い。
そんな家々にとっては、最低限の微禄と言えども
郷士には坂本家のように財を成した町人上がりや、豪農上がりの家も多い。しかし、それでも坂本家のような余裕
「それで乙女殿。……乙女殿?」
気が付けば、黙り込んだ乙女殿の視線はわしでは無く、宣振に注がれている。
「以蔵ぉ。それはどいた」
乙女殿は低い声。ぴくんと反応した宣振に向かって、
「見紛いもせん。坂本家の
以蔵ぉ、どこで手に入れた」
底冷えする殺気と共に吐き出した。
「りょ龍馬じゃ。龍馬から餞別として
「……」
絶句する乙女殿。
ああ。だんだんと目が据わって行く。
「あん、べこんかぁ!」
乙女殿は、雄叫びを上げて飛び出して行った。
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こちらもよろしくお願いいたします。
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天廻の媛 ~廃棄皇子と世界を動かす八人の媛~
姫様の腹心にされた奴隷のボク天廻の媛八人と廃棄皇子の話
https://kakuyomu.jp/works/16816927859364331670
気が付くと僕は小さな子供になって居た。この世界の奴隷であるモノビトだった僕は、同い年らしい気が強くておませな女の子に買い取られた。その子は弓の貴族と呼ばれる地方貴族の娘で、僕は将来の腹心としての教育を受けることとなった。どう見てもこの世界に遣って来た現代人が、色々遣らかしたとしか思えない異世界クオン。
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