ミカドの都2
●ミカドの都2
「なんだ。城壁は無いと言うが、粗末ながらあるじゃないか」
馬を進める俺達の前に川が流れ、その向こうに如何にも野蛮人らしい、土で出来た城壁が見える。
土手のような城壁はあまり手入れされておらず、竹の林となって居る為。それと知らなかったら都を囲む丘陵に思えただろう。
水量の多い手前の川には、ここより川下に進んだ所に大きな橋がある。少し変わった作りで、石造りの橋脚の上に木造の橋が架け渡されていた。
少し川上はと見れば、橋よりも近くに渡し場が有って、俺達の姿を見かけると渡し舟が近づいて来た。
船頭。つまり下は褌を丸出しにして、上に粗末な布のベストを羽織った男に俺は尋ねる。
「渡りたい。幾らだ」
言葉は通じぬものの、財布から硬貨を取り出して見せ付ければ、渡し賃はいくらかと聞いていることは伝わったようで、
「ゴモン!」
船頭は自分の財布からイチモンと呼ばれる硬貨を出して、片手をぱっと開いて見せた。
俺は同じ硬貨を取り出して、指の数だけ掌に載せ船頭に見せると、指を一本立てて「ヒトリ」と言い、手を広げて「ゴモン」と繰り返す。そして、指を二本立て「フタリ」と言い。両手を広げて突き出して「ジューモン」と繰り返した。
「チャック。一人が五イチモンで、二人だと十イチモンと言っているのではないですか?」
連れのウッドソープ・クラークが言って来た。恐らくそう言う意味だろう。
「廉いな。橋まで回るのも面倒だ。こいつを使おう」
俺がイチモン硬貨を十枚数えて渡すと、
「ボ・ン・サ・ン・ガ・ヘ・エ・コ・イ・タ」
俺達聖公会の信徒が詩編を唱えるかのように、船頭は呪文を唱えながら受け取った。
この仕事は長いのだろう。竿差す船頭の腕は良い。歌いながら、流れの速い川をあまり川下に流される事無く中州に着いた。そこから船を曳いて中州の上流側を回り、再び竿差しながら対岸に着ける。
実に手際の良いものだ。
「ほう。上手いもんだ」
おれは船頭の歌に感心したので、少し褒美をくれてやろうと思い立つ。
犬でも芸をすれば余分に餌を貰えるものだ。この俺を楽しませたのだ。これでチップを支払わぬようでは英国紳士の名に
それで財布を取り出し、もう五イチモンを彼の手に握らせようと突き出したのだが。
男は手を立ててこちらに押し返す仕儀さをした後。横に首を振り、
「フタリ。ジューモン」
と言って受け取らない。
「変な奴だ」
今までもそうだったが、この国の連中はチップと言う物を受け取らない。こんな半裸の野蛮な男でも同じだとは驚いた。
「確かに、ちぐはぐですね」
と連れのウッドが言う。
川底の浅い運河を越えると、土手のような土の城壁に突き当たる。
城壁に沿って移動すると、都への入口が見えて来た。
しかしやはり野蛮人の遣る事だ。都だと言うのに、想像したような城門のようなものは無く門番も居ない。
但し、流石に道や区画は整理され、舗装はされていないものの、チェス盤のように東西と南北の道が交差している。
野蛮人の都は蜂の巣箱の様にびっしりと、狭い入口の家屋が連なっていた。
馬を進め建物の並ぶ場所に出ても清潔なさまは変わらず。地面に藁を編んだ粗末な敷物を布いて、人が通ると神に
顔の出っ張り。頬や鼻の頭に煤を塗りつけたような者は居ても、窪みの部分は綺麗なままであった。
「この先がミカドの住まいらしいぞ」
まっすぐな大通りを馬を進めると、我らが女王陛下の御威光がこの地にも行き届いているのだろう。住民達が左右に道を開けてくれる。建物までの一本道が開かれた。
実に関心な原住民に気持ちを良くした俺は、拍車を掛けて
その時だった。
「きゃあ!」
ボールが転がって来たかと思うと。
突然横の路より飛び出した子供が、足を
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入院の一時帰宅。
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