部隊到着2 本隊

●部隊到着2 本隊


 土州としゅうに呼び寄せた御親兵ごしんぺいは二百余り。輸卒として雇った馬子などを除けば、ことごとく女ばかりの集団であった。

 この為、本当に女ばかりとはと驚いた土州の政庁は、急ぎとして城下に近い井口いのくち村の永福寺えいふくじと、周囲の護国寺ごこくじ光徳寺こうとくじ観音寺かんのんじを当て、江ノ口川のなわて一帯に陣を敷くことを許した。

 因みに、中央に位置する永福寺から見て、護国寺は寅の方角に一町、光徳寺は牛の方角に三町、観音寺は戌の方角に三町の位置にある。



「やっと到着したのじゃ」

 リアカーに乗って遣って来たふゆ殿が、仔猫のように伸びをする。

「道中如何でしたか?」

「何度か泥濘ぬかるみに嵌ったのじゃが、板を噛ませれば何とかなった。

 戦に使うなら、予備の馬匹は不可欠なのじゃ。

 道の酷い所は、持参した六尺の板を敷きその上を進んで来たのじゃ」

 板を前に敷く・板をレールにリアカーを通す・後ろの板を前に敷く。この繰り返しで踏破して来たと言う。


 さて。前世の記憶を頼りに創らせたこの大砲だが、仁吉にきち殿が完成させたので通称・仁吉にきち砲と呼ばれている。

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・砲身

 材質:青銅(砲金ほうぎん

 方式:先込め式・多角形施条しじょう

    

 重量:約二十七貫(百キロ弱)

 仰角:マイナス六度から三十度

 射程:最大二十五町(二千七百メートル)

 初速:秒速八百二十尺(二百四十八メートル)


・砲車

 折り畳み式リアカー


・砲弾

 方式:筍翼じゅんよく式・椎の実型榴弾

 信管:遅延着火方式(発射後一秒から半秒単位で十三秒まで調整可能)

 重量:一貫(約四キログラム)

――――

 これは加農砲のような使い方を前提に創られた大砲である。

 欲を吸えば元込め砲が欲しかったのだが、確実性を取ると今のところは先込め式で我慢しなくてはならない。

 前世ではこの時代、後装砲としてはアームストロング砲が有名であるが、実はあまりにも事故が多かったので直ぐに廃れてしまったと聞いている。


 仁吉砲は、多角形施条の特徴的な正六角形の砲口から、前後二列六対(十二本)の亜鉛製の筍翼じゅんよくを持つ椎の実弾を込めて使用する。

 弾の前後の筍翼を結ぶ線が砲の施条に合わせてある為、噛み合って砲弾に回転を与えるのだ。


 因みに、ライフル方式と共に遅延着火の仕組みがこの砲弾の肝の一つである。

 発射の何秒後に爆発するのかは、弾先端の竜頭りゅうずを回して目盛り調整する。

 時間誤差四半秒以内だから距離にして前後におよそ半町強(六十メートル)の誤差が生じる。

 最も早く破裂した場合と最も遅く破裂した場合とでは、実に一町を超える誤差が出てしまうのだ。


 平成の基準では眉をひそめる誤差であるが、この時代ならばまあ問題は無い。

 信管が過敏過ぎて大砲内で爆発してしまう事故や、鈍感過ぎて不発弾となる事を考えれば。現在の技術レベルでは許容すべき誤差であろう。


 因みに今回の演習は、新式砲の遠征試験と、リアカーを砲車として連続発射した時の問題点を洗い出すことも目的の一つであった。

 既にリアカーでの試験発射を済ませており、一発二発では砲車として問題無い事は判っている。しかしその限界を確認しておく必要があるのである。



「急ぎ牛痘を届けねば為りませんので」

 良庵りょうあん先生は、一言挨拶を済ませると直ぐに土州ご政庁へと向かって行き、入れ替わるように遣って来たのは、

「小太鼓に寄る歩調合せについては、予想外の効果がおました」

 主計方しゅけいかたのお春であった。

「黙って歩くよりも、皆の疲れが少ないんどす。

 峠道も、少し早めの歩調も疲れ知らず。ひい様のおおせの通りどした」

 お春は頼んで置いたことを、わしの言葉通りに実行してくれた。


「確認大儀です。メリケンやエゲレスでは舞踏会と言うものがあり、八島で言えば公家や旗本・大名、それに豪商が一堂に会して舞踏をしながら、内々のまつりごとの話を致すそうにございます」

「へい。確か、茶の湯や歌会のようなものにおましたなぁ」

「華やかな舞踊も、音曲無くしては只の一刻いっときも踊り続ける事も敵わないでございましょう」

「音曲の力で、一晩中でも踊り続ける事が出来るのでおましたな」

「ええ。外国とつくにではそれを戦に応用致しました。奈翁オポレオンなる大将は日に二十五里も三十里も兵を動かしたそうにございます」


ひい様は外国とつくにの事にお精しゅうおますな」

 お春がこう言う誉め方をした時は、教えて欲しい事が有る時だ。果たして疑問をわしにぶつける。


ひい様が酒保しゅほ殿(お伊能いの殿)を召したのは、メリケン建国の父華盛頓ワシントンに倣いし事と伺うけど、わざわざ酒や甘味を用意するのんはなんでなのやろう?」

「彼は常々、兵隊には麦溜ばくりゅう(ウイスキー)が不可欠と申しておったと聞きます。

 一つには傷を洗い清める為。高い酒精を持つ麦溜は傷が膿むのを防ぎます」

「そら判る。そやけど、彼は兵隊に飲ましたとも聞くけど」

「人はメリケンでも八島でも代わりございませぬ。一口の酒が戦いを待つ者の心を癒し、一欠けの菓子が力を与えるのでございます。

 いくさに限らす、ピンと張り詰めた気を保つには、酒・煙草・甘味と言った本来ならば無くても構わない嗜好品が必要なのでございます。それ故、私のご先祖様は酒呑みには酒を勧め、そうで無い者には甘味を振舞ったのでございますよ」

「そう言うものにございますのん」

 頷きながら、木筆もくひつ(鉛筆)で小さな帳面に書き付けるお春。

 その様を見て、わしは得難い部下を持ったと口元が緩んだ。

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こちらもよろしくお願いいたします。



天廻の媛 ~廃棄皇子と世界を動かす八人の媛~

姫様の腹心にされた奴隷のボク天廻の媛八人と廃棄皇子の話

https://kakuyomu.jp/works/16816927859364331670


 気が付くと僕は小さな子供になって居た。この世界の奴隷であるモノビトだった僕は、同い年らしい気が強くておませな女の子に買い取られた。その子は弓の貴族と呼ばれる地方貴族の娘で、僕は将来の腹心としての教育を受けることとなった。どう見てもこの世界に遣って来た現代人が、色々遣らかしたとしか思えない異世界クオン。

 八種やくさの力の祝福を受け、天を廻すと言われる八人のひめ。天降ったと言われるシャッコウの秘密。僕が何者であるかを探すことが、世界の運命を変える事になるとは、その時少しも僕は思わなかった。

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