お伊能後家
●お
「
呼び止めた僧体の若者に見覚えがあった。京で出会った薩摩の人だ。
「
悪戯心で薩弁で返す。
「なんと。姫
驚きの声で返す。
「で、何の御用と」
と尋ねると。他国者には判り難い薩摩言葉の利を考えて言葉を変えた。
「今良かか? 天狗ん
「トシ殿、島崎殿。所用が出来ました。
「わしは姫さんの護衛やき」
当然付いて来る。
案内されたのは、古道具屋の前だった。
「ここは彦根ん御用達。赤鬼
竜庵殿は声を潜めて耳元で、
「隣は、とあっ豪商ん隠居ん囲われ
と言った。
「囲われ者にございまするか? それと
すると竜庵殿は苦々しく。
「
「なるほど。好青年ですが、激しい御方なのですね」
すかさず言い換えると、
「ほんのこて、
前世のお国言葉だから知って居るだけなのだが、それを物知りだと感心されても当惑する。
さて。ここは元吉原の遊女・
お伊能は、とある豪商の隠居に身請けされたのだが、程無くご隠居は病を得て鬼籍に入ってしまった。
そこで隠居の
水府の者との繋がりは、遊女時代の馴染みの一人。身請けされた後、後家となって、誰に従う必要もない自由の身となったお伊能は、訪ねて来た昔馴染みの客と再会し、焼け
「そいでお伊能は、相手が
知らないようだと竜庵殿は溜息を吐く。
「天狗ん事じゃ。
良からぬ事を企んで居るのでしょうかと尋ねると。
「そんこっだ。姫
助けて貰いたいのはそのことだと竜庵殿は頭を下げた。
「姫様は一人ん
竜庵殿は先ず、わしの情に訴えて来た。
「こんままでは、天狗が大それたことをしでかした時、お伊能は連座を免れん。
連座で
にやりと笑う竜庵殿は
「姫
と切り込んで来た。
「ほんのこて、竜庵
本当に油断ならない男だ。どこから仕入れて来たのだろう。あれは無かったことに為った筈。
ともあれわしは、
「判った。悪か
お伊能次第ですがと釘を刺して置く。
加えて、
「勿論、竜庵
と付け添えると。
「おいどんに、しきっこっであれば」
出来る事であれば。と余計な言質を与えない竜庵殿。
視線を宣振に移すと、
「姫さん。おんしゃあ、町方と
任せちょけ。みんなわしが斬って遣る。わしゃあ姫さんの
お国言葉で解りづらかったことだろうが、概ね理解した宣振が胸を叩いて請け合った。
わし一人の力ではないが、今のわしには少しばかりの
あくまでも出来る限りではあるが、お伊能と言う女を助けてやろうとわしは思った。
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