第四章 道理は死せず
撃ちてし已まん
●撃ちてし
わしは指揮を
近づいて行くと、外から丸解りの大声で話声が聞こえる。
「
「他所ならその通りや。誉められこそすれ重い罪になる事は無いろう。
だけんど、ここは
偉い手から見るやったら白札のわしも、まっことたすいながよ」
本当に無力なんだよとぼやく声。同じ声が言う。
「寅は敵討ちを成し遂げ、武士の本望を全うしたんやき。上士に討ち取られるくらいやったら、潔う切腹し責任も全うすべきや」
おいおい。切腹を強要されたらわしが困る。わしは拳で戸をドンドンと叩き。
「頼もう! 才谷屋の客人
呼ばわると、直ぐに
「登茂恵殿。こんな所へ……」
戸を開いたのは
わしは会釈し、奥に居る寅之進殿に礼を述べる。
「寅之進殿。配下があわや手籠めにされるところを、ご
通例、刃傷の類が起こった場合。刃傷に及んだものは勿論、その場に居合わせた者も止められなかった咎で断罪されることが良くございます。されど
わしは辺りに響く大きな声で言い切った。
辺りの様子を伺いつつ。わしは先日の大樹公様の言葉を思い浮かべる。
「勤皇大いに結構。
例えば
天狗の一派は、手段を択ばず事を成そうとしている。阻め。と密命を承ったのだ。
それを成す為の道具が、如何なる手立てを用いても構わぬと言う大樹公様の御免状であり、演習名目で呼び寄せた御親兵なのだ。
「お手前は」
訝しむその声は、寅之進殿に切腹を迫った男の声。
「大樹公様御親兵差配の登茂恵にございます。そう言う
名乗ったその直後、彼のこめかみがぴくりと動く様が見えた。
「……こほん。申し遅れました。
彼一人だけ、辺りの郷士達とは異質の気配がする。何と言うか、回りとは明らかに放つ熱の色が違うのだ。
他の者から発せられる熱は激情や哀しみの色。ところが瑞山殿から放たれる熱は、使命とか理想と言った前世に例えるなら
「お命は二つと無き物なれば、早まって
事は、慮外者が私の配下を女と侮り、手籠めにせんとしたのが発端にございます。
良いですか。我が御親兵にも、
「そが事!」
返る怒りを載せた驚きの声。
「ここ土州では、上士の言う事は殿様の言う事じゃ」
その言を承けて、わしは冷え行く心に
「もう一度申します。
良いですか? 万が
断じて
上士の言葉が
切腹、あるいは御成敗などと申す道理の通らぬ申し渡しは、他ならぬ土州侯様のご下命と断じ、我ら御親兵と土州上士の
いざ
瑞山殿を見据えて、撃ちてし已まん(討ち果たしてこそ
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