五月の風船3
●五月の風船3
返事を受けてわしは脱出テストに入った。
先ずは
これは無事開いて回収の電信を待つ。
「イイ イイ」「ムムムム ムムムム」
「トトク イナ」(届く。どうぞ)
「ナ」(了解)
良し。わしはレシーバーを外し降下する。
いいぞ。背中の落下傘の
藍より
集まって来る仲間達。
教本通り。地面に爪先が触れた瞬間、そのまま体を丸め地面に転がりながらすねの外側、お尻、背中、肩の順に着地出来た。
上首尾だ。訓練はしていたが、今世に於いて実際に行うのはこれが初めてであった。
「物料箱は?」
宣振に訪ねると、
「おう。詰めた綿に護られて、中の酒徳利は全て無事だったぞ」
と返って来る。
「それでは祝杯を上げましょう」
酒徳利が無事ならば砲弾の類も安全に降下出来よう。
色々夢は広がるが、当面の現実的運用としては鋼線の紐付きで浮かべて、遠距離からの空中観測をするのが一番効率良さそうだ。
ここで招いた外国人の写真師に、落下傘降下したわしのまわりに人が集まる様を再現して映させる。
「あの高さから舞い降りるとは……。トモエ。君は天使に見えたぞ」
通詞を介してオールコック殿の祝辞を貰う。
彼の立ち位置は、真っ先に駆け付けて祝福する外国人の代表だ。
これら一部始終を、招いた外国の者や瓦版屋が目を丸くして見詰めていた。
招かれたものの、東洋人に出来るものかとバカにしていたハリス殿は、目を丸くしている連中の中でぽかんと口を開けて呆けて居た。
その後の騒ぎはどう綴ろう。
本邦初の気球飛行と落下傘降下の成功に、ご府中はお祭り騒ぎになった。
驚きの余りメリケンのハリス殿が目を回したと、挿絵の入った瓦版が売れに売れ、エゲレス人の手によって撮影された写真を元に、オールコック殿がわしを祝福の抱擁をしている銅版画まで作られた。
『東洋のウォルフ将軍、大空を征す』とは、オールコック殿が本国に送った第一報である。
何故知って居るのか? それは送る前に、律儀にこれで良いかと通詞の前で読み上げてくれたからだ。
報告書には、今回の落下傘降下をヨーロッパ人が人類初の降下を成功させて僅か六十三年目の快挙と持ち上げてある。余りの賛辞に、東洋人の能力を低く見積もり過ぎではないかと思ったが、この時代の白人至上主義ならば致し方ない。
それよりも注目すべきは、今回の実験で気球を使った高所偵察や着弾修正の実験の詳細だ。
わしが格子を入れた紙に描いたスケッチの写真や、運用方法についての詳細が記され。
――――
大君の国は、気球を用いた山越え砲撃の方法を編み出した。
電信で絵画のデカルト座標を用いて位置を正確に伝える発想は我が国も見習うべきである。
諸外国もこれを目撃し有用かもしれないとの感想を抱いた。至急研究開始を乞う。
――――
と結ばれている。
半月程経ち、お祭り騒ぎが一段落した頃。
わしは
風船の功により、褒美を取らすと。
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