判っちゃいるが
●判っちゃいるが
宿に入り、それまで色々堪えていたらしき
近付けば火照りを感じさせる程真っ赤になる顔は、押し殺してはいるけれども明らかに憤怒の感情が見て取れた。
「先生のお言葉と、役人の情ある振舞いに
如何に
上は親王・太閤殿下から、下は町人に至るまで。公卿も僧侶も女もお構いなし。
ご公儀の要職に在りながら
あ奴は金毘羅さんに封じられた妖怪めの再来であります」
良く判らないが、物凄い言われようだ。
春風殿は余りにも息を荒くし過ぎて、ふらついている。
「東一殿。先生は、当世稀に見る
「それがどうした!
仁君? 僕は赤鬼の民では無い。当然何の御恩も受けた覚えも無い。
先生を
彼は激情の人のようだ。今ここで憤死せんばかりに雄叫びを上げる。
「春風殿! 憤りは尤もですが、怒りの余り回りが見えなくなってはいませんか?
仇を憎むにしても。自分に仇成す男を
「んぐ……」
春風殿は、必死で吐こうとした言葉を飲み込もうとしているようだ。
わしの言葉にむっとしながらも、なんとか気炎を鎮めようと抑えているのが見て取れる。
「子供が、小賢しい事を申して済みません」
一応は主筋のわしが頭を下げると。突然がっくりとした春風殿は憑き物が落ちたように穏やかな顔に戻った。
「なぁ春風殿」
わしが彼を呼ぶ名で
「わしは羽林殿のことは良く判らん。じゃがのう。
あんたらの先生がそこまで誉める人物だとしたら、羽林殿も必死なんじゃとわしは思う。
これは
この国が太平の眠りにある時に、
本邦では三代大樹公で
十一代大樹公・
戦国の加賀越前が如く、民が一揆を起こして国主・領主の首を斬ったり。
あちらはずっと戦国の世じゃ。
エゲレスもメリケンもオロシャも。
鉄砲も火縄要らずで、筒の中に
その弾の尻には窪みがあって、込める時は筒より細い。じゃが撃つ時は玉薬の爆発で尻が目一杯膨れ上がって筒の溝を噛むんじゃ。
矢羽根が矢を錐揉みさせるように、施条は弾を錐揉みさせる。矢でも弾でも錐揉みさせると真っ直ぐに飛ぶんじゃ。
武器の違いだけでは無い。
本邦は君臣関係で命ずるから、大将が
じゃが、あちらは君臣関係では無い序列で
本邦は大将が斃れたらそれで仕舞いじゃが、奴らは違う。
大将が倒れたら次将、それも倒れたら誰それ。呆れる事に足軽の端に至るまで、下知を下す序列がはっきりしておる。
だから兵が生き残って居れば、最後まで戦いを続けられると言う仕組みじゃ。
列士満だけではない。奴らには騎乗の士のみで作られた
それで集団で乗り崩しに突撃して来たり。九郎
ここまで戦う事に徹した奴らとわしらとでは、
そう理を説く宣振を、春風殿は睨み付けた。
何も言わないと言う事は、多分頭では理解しているのだろう。
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