醜の傾国
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彦根屋敷へ見舞いの後。そのままわしは
耳目を嫌い、大奥の一間に通されたわしが一礼すると。
「これも功労者であるそなた故、伝え置くのだが」
大樹公様は、わしにそう断ってお話になられる。
「過ぐる三月三日
手続き上、あくまでも致仕した者であり、襲いし時は水府と何ら関わり無き浪人。と言う体裁には成ってはおる。
腐っても水府は御三家なのだ。外様のように簡単に
精々が彦根中将が下した沙汰を長く保ち、水府
老公は
あの
解り易い勧善懲悪や義理人情にご府中の者は弱い。今や市井に
さて。大樹公家が
権現様が定めし
されどそれ故に、継げぬからこそ大樹公選定に於いて重きを成す家なのだ。
なあ
大樹を継げる家に
愚痴る大樹公様は、わしに振った。
ここだけの話とは言え、わしの発言で
「登茂恵は
されど
にも拘わらず。
軍事の事なら専門家なので、幾らでもアドバイスできるが、政治は門外漢だから判らない。
それにも関わらず上様に入れ知恵などしては、国を亡ぼすことになるでしょう。
わしはそう
「謙遜しておるのか、驕っておるのか判らぬ物言いよのう」
言葉遊びであるが、日本語に於いて
勿論、傾国とは文字通りの意味に加えて、美人と言う意味があるのは皆様ご承知の通り。
実際問題。わしの能力は
前世を省みれば、軍人としても技師としても視点の高さは精々中隊長。会社員としても課長が務まるか務まらぬか。その程度が関の山なので、間違っても国家の安危を左右する訳には行かないのだ。
余談になるが。当然の事として、文民は軍事を武人は政治を学ばねばならない。なぜならば何の為にそれを為すのか解って居らねば、いつか手段が目的と化してしまうからだ。
とは言えそれだけでは足りぬ。軍人が政治を識り、文民が軍事を学ぶ。それでいて各々がその
軍に於いて。前線が任務の為に与えられた独断専行権を超え、政治が行なうべき領域まで遣らかすのは国を亡ぼすレベルの害毒となる。その悪しき実例として昭和の関東軍が挙げられよう。
逆もまた然り。
ようは孔子の言う如く文武は対の車輪にしあれば、互いを良く
「ならば明言しよう。これは
まだ十五の若い身空で、疲れ果てたおっさんの雰囲気を醸し出す大樹公様に、
「だけのと仰られるのは、取り入れる事もあるとの仰せにございまするか?」
わしはわざわざ釘を刺す。
「良き事を聞き捨てにするのは
何よりそちは
「はい。些かは」
「構わぬ。そこでだ……」
ここに至り大樹公様は威儀を正し、わしを呼び付けた用件を口にした。
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