惣領権
●
「所で
彦根中将様の視線が、わしの顔に向かう。
「額は如何なされた」
善き先例があると聞いて、彦根中将様の重荷の
切羽詰まると、彼ほどの人物でも動顛するもの。それが漸く落ち着いて、初めてわしの怪我に気が付いた。
「賊の一人、
さっと顔色を変えた中将様は、慌てて身体を起こそうとした。しかし、弾は腰を貫いている。気は焦れどもままに為る筈もない。
「済まぬ。女の
手で謝罪を押し返し、
「手傷を負いしは、登茂恵一人にございませぬ。短筒の弾を
「そうか」
鷹揚に中将様は頷かれた。
「そもそも
もし鉄砲を放つ事が罷りなりませんでしたのならば、中将様をお助け致す事は適いませんでした。
即ち殆どが
聞いて益々色を無くす中将様。
「なんと!
「勿論。ご家中の勇士も獅子奮迅のお働きを為されました。しかし中間の者が為、裏崩れが起きたのでございます。
前にも
黙ってしまった中将様は、
「傷を負いし者達にどう報いればよい」
とわしに聞いた。
「御親兵は、
わしは申し出を道理に合わぬと一蹴したが、
「彦根への助太刀は、彦根から見れば賊との
と詰め寄って来た。
「それも、上様から頂いております。お気持ちは解りまするが、それでは鎌倉殿に断りなく官位を受けた
主君である
惣領権と言う言葉こそ、武士の世の
「固いのう」
中将様は初めて口元に笑みを浮かべた。
「外様にございます。この程度の
差し詰め今のは、真に上様に対し
「ふぅ~」
中将様は大きく息を吐き出した。
「そうそう。
傷を受けし者の内、上様の
わしはわざわざ
「誰か?」
当然のことながら中将様は聞く。
「
上様から定まった
「ならば、お伊能に感状を下そう。如何なる者で。如何なる手傷を負ったのだ?」
「はい。柳屋隠居の後家で、桜田門外にて短筒の弾を足に受けし者にございます」
選りにも選って襲われた中将様その人からの、先の変に於ける働きに対する感状なのだから。
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