名刺
●名刺
床の間の柱を挟んで、柱に向かって右側の座を勧め、自らは左側に座る安五郎親分。
「若様。どうか堪忍してくれんけ。
柱を
敵味方も定かでねえこの場では、逃しはせんとの威圧の構えにまっちゃう。
ほれでは纏まるものも纏まらんずら」
安五郎親分は、わしに軽く詫びる。そして、
「
こっちの白いのが隣村に縄張りを持つ
どちらも俺の兄弟だ」
わし達に二人の弟分を紹介した後、少し顔を曇らせて言う事には、
「ここを訪ねて来たんなら知ってるて思うが、俺ぁ兇状持ちだ。
しかも島を抜ける時、島の名主を殺してる。名主の孫にも怪我を……」
関りを持とうとするわしらに隠さず、述べようとする。
悔いる安五郎親分の言葉を
「兄貴!」
勝蔵が遮った。
「ほれは兄貴が遣った事じゃねえ。全部あいつらが……」
「いいや兄弟。ほれはとんでもねえ考え違いだ。
島抜けの相談を受け、こうして俺も抜けただ」
「ふんだからって何も兄貴が。
そもそも兄貴が相談受けたのは、名主が死いだ後だったじゃんけ」
「
いったい、子の不始末の尻を持たんで親が務まるものかね」
前世、昭和も末のリクルート疑獄の時。まだ子供だった孫や
出始めの家庭用ビデオからの複写で相当劣化していたが、質疑の有様は問題無く映っていた。
子供達は皆一様に、彫像のように成ってじーっとその様を眺めていたが。終わるとふぅーと息を吐き出した。
そして田中元総理や児玉氏を尊敬の眼差しで見て、
「凄ぇ!」
と感嘆の声を漏らした。
曰く、
「秘書のせいにして居ない」
田中元総理も児玉氏も、誰が誰なのか全く知らない世代で有ったのだが。これだけで子供達には、無条件で尊敬出来る
その時の彼らの気持ちが今、漸くにして理解した。
「感服仕りました。
親分が鉄砲撃ちで、共に島を抜けた者達が鉄砲。
わしはそっと半直角に頭を下げる。
「あ、あああ、頭を上げてくれんけ。わ、わわ若様っに、こここ、こんなこん ささ、させたら……」
恐縮して吃音が出る安五郎親分にわしは、
「身分に頭を下げるのではございませぬ。親分の
と
すると、ゆっくりと顔を左右に振った安五郎親分は、
「いいや。俺みてーな半端者に頭を下げるものではねえ。
こんな
一家の親が黒い
ほれは
「なるほど。武家の御恩奉公の関係にございますか」
武士も起こりはこうだった。
「ほんな
恐縮する安五郎親分にわしは、
「大変申し遅れましたが」
と 懐紙に書き付けて、
「私は、はつがしらに
口で説明しながら、名刺の如く読み易い様返して手渡すと、
「はは。拝見致します」
安五郎親分は宴会でお流れを頂戴する家臣のように、両手で押し戴いて一礼した。
ついでに、先程から怖い顔で安五郎親分達三人を睨みつけているトシ殿の事を紹介すると。
柄に手を掛けたまま、トシ殿は無言で軽く会釈する。
「そちらはまた、うんとおっかないお人じゃん」
切った張ったの世界に生きて、数えきれない修羅場を潜り抜けた安五郎親分が軽口を叩く。
確かに。
「ほんねんおっかねえ顔をしんでも、若様には刃を向けんよ」
トシ殿とは
こうして挨拶を交わし、軽く世間話をした後。
わしは本題を切り出した。
「最近、親分さん達の威名を使い、大それた企てを試みようとする者が居ります」
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